244・事後処理の時間です
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「「「「「「「…………大変な事を仕出かしてしまい、誠に申し訳ございませんでした……」」」」」」」
そんな風に綺麗に台詞を揃えて、俺達と魔王に向かって旋毛を見せる頭が七つ。
その動作は無駄に洗練されたモノであり、先の謝罪の揃った言葉と共に、確実に予め練習していたよね?と突っ込みを入れたくなる程には綺麗に揃えられていた。
そんな彼女らの頭頂部を冷ややかに見下ろす俺達がいるのは、魔王城の執務室……では無く、魔王城の奪還作戦が開始された時に建てられていた、魔王用のテントの中だ。
既に奪還自体は済んでいるので、魔王城で尋問……もとい『お説教』をするモノだと俺も思っていたのだが、流石に色々と都合が悪いらしく、まだこちらの方に留まっている、と言う事だ。
あの後、俺特製の回復薬(最初は『命の水』を使おうとしたが全力で止められた)ですっかり回復したアストさん曰く
『短期間とは言え戦乱の埃にまみれた場所に、流石に掃除もせずに陛下に入って頂く事は出来ませんので』
との事だったので、恐らくは今使用人総出で清掃でもしていんじゃあるまいか?多分だけど。
そんな理由から、未だにこの難民キャンプ染みた陣地にて乾達実行犯を正座させて尋問している、と言う訳なのだ。
なんて回想を挟んで未だに下げられたままでいる頭頂部を眺めていると、この場で一番の被害者である魔王から阿呆達に対して声が掛けられる。
「……取り敢えず、面を上げよ。この様な愚行に走り、かつての仲間達を危険に晒した理由、全て吐いて貰おうか?一度は退けられたとは言え、余は余の敵に対し、顔見知りだからとタカナシ程に甘い対応をしてやるつもりは無いぞ……?」
それは、普段俺達と接する時に見せる『バアル』としての顔ではなく、王としての『魔王バアル=ゼブス・ヴェルゼビュート』の顔と威厳と覇気を放っての言葉であった。
直接浴びせられた訳でも、そうして詰問される立場に在る訳でもない俺達ですら思わず背筋が伸び、上位者としての扱いを自然としそうになってしまう。
そのどちらも当てはまる乾達は言わずもがなな状態であり、先の闘いで龍形態の俺と相対した時の様に、小刻みにその身体を震わせていた。もっとも、その際に抱いた感情は、俺の時と同じく『恐怖』であったかは定かではないけど。
促されるままに顔を上げ、その表情に『畏怖』を刻み込みながら代表して震えながら口を開く乾。
その口調は、これから下される懲罰に対しての恐怖か、もしくは自らの経験を語る事に対する羞恥心からかは不明だが、話し始めた当初は遅々として進んで行きはしなかった。
ソレを見かねた他の面子が時に横合いから補足し、時に乾の代わりに語って見せる事で徐々にペースが上がって行き、最終的には向こうに還ってから受けた迫害についての詳細や、当時の心境と共に万が一の為に送還用の魔方陣の術式を解析していた事。
向こうで俺達の師匠に頼った事と、付けられた修行についてのアレコレ。
最終的に実験も何も出来なかったのでぶっつけ本番でやる羽目になったが、どのみち向こうの世界にはもう未練は無かったので死んだら死んだでその時はその時、位の気持ちで組んだ魔方陣を発動させた事等を話して行った。
「―――――以上が、私達がこちらへと戻ってきた経緯の大筋となります。
陛下の温情により送還して頂いたにも関わらず、この様な形にて戻って来る事になったのは、大変申し訳ありませんが一重に私達の弱さが原因です。
彼の判断が間違っていたと言う事ではないのだけは、ご了承下さいませんでしょうか……?」
「…………成る程、な……。確かに、それが本当であれば、こうして戻って来たくもなる、か……。すまなんだな。
タカナシと共に良かれと思って行った事が、悉く裏目に出たと言う事か。そちらの世界、中々に腐っている様だな。全くもって度しがたい」
「……いえ、事実、互いに出会い頭であったとは言え、攻撃してしまったのはその通りなのですし……」
「そう言えば、何故にそなたらはこちらへと攻撃してきたのだ?衛兵達を殺さぬ様に、と加減していた事は既に割れておるが、だからと言って攻撃してきた事に対する説明は付いておらぬぞ?
余らが、そなた達を積極的に害するとでも思っておったと言う事か?」
「…………それは、大変申し訳ないのですが、私達の個人的な事情と言いますか……」
「良い。大勢の人間や、異性の前で口に出来ぬ様な事情で無ければ言うが良い。余は、それがどの様な理由であれ、聞き終えるまではそなた達を罰する事はせぬと約束しよう。それに、そなた達の口から話された事も、妄りに口にはしないと約束しよう。故に、安心して申してみよ。何があった?」
「……いえ、既に過ぎ去った事ですので、大した事は無いのです。
ただ、例の私達と敵対して小鳥遊君達に蹴散らされた獣達の親族に、彼らが行方不明になっている、と言う事を説明させられた際に襲われ掛けまして……。
その時は、全力で抵抗して事無きを得たのですが、ソレ以降、大人数の男性から敵意の類いを向けられると、どうしても精神状況が戦闘状態に移行してしまいまして……。
まぁ、落ち着いてからは、もう騒ぎを起こしてしまったのだから、ついでに夢にまで見た小鳥遊君との爛れた愛の日々を実現させる為の領地でもせびろうかなぁ、と……!」
前半の、思わず聞いているだけで殺意が溢れ出て来る様な内容と、後半の煩悩にまみれた本音の酷すぎるギャップに思わず頭痛を感じた額を押さえる。
チラリと視線を向けて見れば、魔王も似た様な反応と『どうしてくれようか……』と言った風な表情を浮かべながら、こちらも同じ様に額を押さえている。
俺から向けられている視線に気が付いたのか、何処か疲れを滲ませた目をこちらへと向けて来た魔王と、視線のみで一言、二言と会話して行く。
あいつら相手ならば、もっと長く詳しい会話も出来る(長く濃厚な付き合いの賜物。むしろそのくらい出来ないととっくに死んでた)のだが、まだ付き合いの浅い魔王とだとその程度が限界なのだ。まぁ、それで大体は事足りるんだけどね?
そんな訳で、魔王と無言のままに意志疎通を済ませた俺は、今度はこちらの番だ、と言う事で、乾達を送り返してからこちらで俺達が体験した事を語って行く。
『アンドレアルフス大森林』での冒険と、そこでの思わぬ出会いと、何故かまだ生きていやがったあの野郎との決着を。
面倒な事を避けて行ったハズなのに、何故か余計に面倒な事に巻き込まれ、果てには仲間内にてガチバトルをする羽目になった『獣王祭』の顛末を。
暴走が発覚し、『人』として今後も歩んで行く為に下した決断と、ソレを果たす為の険しい道中。それと、目的地に到着してからの本当の試練と、ソレを成し遂げて手にした『帝龍』の地位についてのアレコレを。
……そして、それらの冒険を、信頼出来る仲間達と、今後も共に歩んで行きたいと願っている最愛の女性と共に潜り抜け、こうして無事にこの場に立っていると言う事を。
時に面白可笑しく笑い話風に、時に怒りや憤りの感情を掻き立てる様に嫌みたらしく、時に興奮を盛り立てる様に臨場感タップリに荒々しく、それらの体験談を、魔王を含めた上で乾達へと語り聞かせて行った。
「―――――って言うのが、お前らが知りたがってた俺達の此方側での主立った出来事だな。俺からだけの話じゃ信用出来ない、って言うのであれば他の連中に聞いてくれ。ただ、大した違いは出ないだろうから、ガッカリされても知らんけどな」
「……うぅん。それは大丈夫だよ、小鳥遊君。君の言葉を疑ったりなんてしないよ。少なくとも、私は」
そう言い切る俺の言葉に、誰よりも早く乾が反応する。
その姿は、闘っていた時の狂乱や、初めて再開した時の執着心、先程までの畏怖とも違う、共に冒険をしていた時の彼女の姿と重なって見えた。
その、あどけなく少女の様に柔らかく微笑みながらも、それでいて成熟した『女性』としての雰囲気を纏っている、初めて見る様で何処か懐かしい彼女の姿に、思わず見惚れると同時に鼓動が早まるのが感じられた。
そんな、俺自身としても判断の付きかねる突然の変化に戸惑っていると、それまでは黙って話を聞いていた魔王が徐に口を開く。
「……さて、互いの蟠りが解けたのならば良かった、と言いたい処だが、そうも行かぬのが余の辛い処だ。
流石に、アレだけ派手に周囲へと知らしめる形にて物事を起こされてしまっては、余の私的な知り合いだったから、と言う理由から何のお咎めも無し、と言う訳には行かぬのだ。
……まだ、余個人に対してのみ被害が出ていたのであれば、幾らでも誤魔化しは出来たであろうが、流石に事が広がり過ぎておる故に、ある程度の情報開示とそなた達への罰は必須だと言っても良いだろう」
そこで一旦言葉を切った魔王は、相変わらず正座状態に在った乾達を見回す。
……確かに、こうも事が明るみに出てしまっては、流石の魔王でも庇いきれないだろう。
多くの被害者を出しただけでなく、その上で魔王すらも直接襲撃し、更に首都において魔法による映像投影によって自ら事の規模を大きくすると同時に、バッチリ顔バレもしている以上、こっそり逃がしてやる、と言う手も使えないだろう。流石に、そこまで来てしまえば、魔王は権力者としての立場から彼女らに罰を与えなくてはならないのだ。
一見、厳しく情け容赦の無い政治的な判断と取られるかも知れないが、その実としてはそうするのが最小限の被害と苦役によって済ませられるから、と言う事であり、むしろ彼女らの事を思っていればこそ、と言う事が読み取れるだろう。
そんな結論に彼女らも至っていたのか、特に反抗したりする事もなく、神妙に魔王からの沙汰を待つ乾達。
状況からして、そこまで無体な罰は言い渡されないハズだとは思うが、何事にも絶対はあり得ないので、いざと言う時は助けに入るべく俺達も固唾を飲んで待機する。
そうして見守る中、溜めに溜めた魔王の口から、乾達へと向けられた罰が言い渡される。
「そなた達には罰として―――――!」
しかし、俺達の心配を余所に、魔王から彼女らへと下された罰の内容は、俺の想像を遥かに上回るモノとなるのであった……。
次回、最終回
面白い、かも?続きが気になる、様な?と思って頂けたのでしたら、どうか最終話までお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m




