240・魔王城奪還作戦 4
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俺の提案に乗る形にて、一丸となって俺達へと挑んでくる乾達。
その先鋒を務めるのは、身に纏った重装甲にて攻撃を無効化しつつ、自身の超重量武器にて相手を叩き潰す生粋のパワーファイターである阿谷と、無数に分裂しながらもその全てを統率し、自身の持ちうる技術と俊敏さにて理詰めの追い込みをする音澄の二人だ。
「ぶっちゃけ、何がどうなってるのかなんて、オレにはイマイチ理解出来ねぇ!だが、小鳥遊が言い出した事だ、何をしてでも勝たせて貰うぞ!なに、手足の一本や二本無くなっても、オレがキチンと世話してやるからよぉ!!」
「……ん。私としては、情報は知りたいけど、割りと師匠の身柄はどうでも良い。でも、向こうでの修練で得た成果は見て貰う!」
片や阿谷の方は、是が非でも俺達に勝って俺を手に入れようと目を血走らせてながら鼻息を荒くしている。
片や音澄の方は、俺の知っていたかつての彼女と同じ様にその目を眠たげに細めてはいるものの、その奥の瞳には熱く闘志が燃えている。
動機は異なり、今では相容れぬ思考の元に動いているのだろうが、二人共に不退転の覚悟を持って挑んでいるのであろう事が見て取れた。
……それだけに、二人共に俺が相手をしてやれたのなら良かったのだろうが、流石に他に仲間がいるのだからそうする必要も無い。
そんな俺の考えを読んでか、俺の左右から影が飛び出し、駆け寄る勢いのままに斬り付けようとしていた二人を抑え、それぞれ別の方向へと弾き飛ばしてしまう。
「……テメェ、邪魔するんじゃねぇ!!?」
「……残念だろうが、お前の相手は俺だ。それが嫌なら、俺を倒してからあいつに挑め……」
「なら、そうさせて貰おうじゃねぇか!!!」
「……言葉は不要。欲するならば押し通れ……!」
「……ん。流石に、これは不粋。作法としてもどうかと思う……!」
「あはは~、何を言っているのかなぁ~?これは闘い、命のやり取りなんだよ~?それに『作法』も『不粋』も無いでしょ~?」
「……ん。だとしても、これはやり過ぎ。貴方を倒して、師匠と決着を付けさせて貰う……!」
「……何か勘違いしてるみたいだから教えてやるけど、あまり俺を嘗めてくれるなよ?うっかり殺しちまうかも知れないから、さ!」
それぞれの組が鍔迫り合いの甲高い金属音や、鈍器と鈍器がぶつかり合った様な轟音を轟かせながら激突する。
そんな最中、こうして戦力を分散させる事を知っていたかの様なタイミングにて、二人に続く次鋒が飛び出して来る。
「……拙は、拙はもうどうすれば良いのか、分かりません。この恋心が、実は貴方に対するただの『妄執』なのか、それとも『恋慕』なのかすらの判断ももう付きません……。
……ですが、それでも拙は貴方が、小鳥遊殿が欲しいのです!小鳥遊殿だから欲しいのです!故に拙は、貴方を殺してでも貴方を手に入れる!それが、それこそが拙の望みだから!!」
「……私は、もう若くない。それは分かってる。乾さん達と比べられたら、勝てないなんてとっくに分かってる!
でも、でも!そんな私だって、先生だって、小鳥遊が欲しいん気持ちは変わらない!向こうに送り帰されて、恨んだりもした事もあったけど、それでも小鳥遊君しか欲しくない!だから、ここで諦めるなんて出来ないかな!!」
片や久地縄は、初めてその胸の内側に抱えていた苦しみごと吐露し、それでも俺を求めているのだと告白しながら、手にした太刀の動きと連動しているようで若干のラグが在る為に読み切れない不可視の斬撃を幾つも放って来る。
片や佐藤は、自らのみが歳上として大人として立たなければならなかった事へのストレスとコンプレックスに蟠らせていた内心を吐き出しながら、それでも俺を諦められないと殺意すらも抱きつつ、手元にて射掛けた幾本もの矢を何条もの彗星として分裂させ、圧倒的な手数にてこちらへと迫る。
こちらは、動機も心情の根幹も、同じ感情に由来している者同士故か、非常に調和の取れた連携を披露してくれている。
二人が向こうで積んだ修練の後が垣間見える、素晴らしい組み立てだ。
しかし、先程と同じ様に、俺には頼るべきで存在あり、頼っても良い仲間であり、同時に頼られる事を良しとする間柄に在る者達が居る以上、俺が直接相手をする必要性は無い。
こちらも、先程の焼き増しの様にして、俺の背後から飛び出して来た人影により、片や不可視の斬撃は全て防がれ、片や無数の矢は全て糸によって絡め取られてその役割を十全に果たす事は出来ずに終わる。
それと同時に、久地縄と佐藤との周囲を、複数の影が取り囲み、他の処へと向けられかねない攻撃へと睨みを効かせて行く。
「……退いて下さいませんか?顔見知りの貴女達も、何故かあの時もいた貴女も、斬りたくは無いのですが?」
「……流石に、それは聞けぬ願いだなクチナワよ。某は、主様から頼まれたのだ。なれば、ここで命を落としたとしても、そなたを止めるのが某の務め!
以前の某と同じと思っていると、簡単に死ぬから気を付けろよ?」
「貴女の気持ちも解らなくはないけどぉ、私も旦那様にお願いされちゃってるからぁ、通して上げる事は出来ないのぉ。ごめんなさいねぇ?」
「ボクとしては、ご主人の所に参戦したかったけど、戦力のバランスを考えたらこうなっちゃったからね。でも、普段は頼られない相手にお願いされたら、聞いてあげたくなるモノでしょ!だから、残念だけど引いてあげる事は出来ないよ!ごめんね!!」
「まぁ、吾としては、別に聞いてあげなくちゃならない理由は特に無かったけど、それでも宣言通りに彼を持っていかれると、吾の目的が果たせなくなってしまうからねぇ。流石に、それは面白く無いから邪魔させて貰うよ?幸い、吾と君とは相性が良いみたいだから、そこまで苦労はしないだろうさ。彼とは違ってね」
「……ならば、押し通る!その言葉、既に飲めぬモノと知れ!!」
「……正直、私は貴女とアシュタルトさんとは闘いたく無かったの。幾ら同じ男性を狙っていた相手であり、実際に私達から彼を横取りした相手であっても、こっちで私の趣味を理解してくれた数少ない友人だったから。だから、だからね?大人しくそこを退いてくれない?ねぇ、ネフリアさん」
「……ン~、ソレはちょっと難しいカナ?だって、ここを通しタラゴ主人様の邪魔をしに行くンデショウ?だったら、通してハ上げられないカナ?まだワタシも種付けして貰ってないカラ、連れて行かれると困るンダヨネ~。ソレに、この子達モ、ゴ主人様を連れて行くツモリだと解ってイルカラ、ゼッタイに通してハ貰えないと思うケド?」
『グルルルルルルルルルルルルルル!!!』
「……!!…………!!」
「……そう。なら、私は私の為に、ここを押し通る!例え道を抉じ開ける為に友人を傷付ける事になったとしても、私は構わず押し通る!だから、怪我しても恨まないで欲しいかな!?」
こちらの二組も、互いが互いに譲れない立場に在る為に、それぞれが咆哮や疾走音を周囲へと響き渡らせながら、それぞれで闘いを繰り広げて行く。
こうして手を貸してくれている事に有り難く思いながら、残った面子と共に自ら進み、先鋒・次鋒に続いての本丸へと目掛けて歩み寄る。
「……さて、残っているのはお前らだけだ。今なら、まだ投降するのを許してやるが、どうするかね?」
そんな、俺からの最後の警告に対し、それまでの狂気を押さえ込んで強い意思の光を宿した瞳にて彼女は言葉を返してくる。
「……それは、出来ないお願いだよ、小鳥遊君。そうしちゃえば、小鳥遊君は絶対に私達の手には入らなくなるんでしょ?それに、私達に付き合ってくれている皆に悪いから、やっぱり断らせて貰うね?」
そうして言葉を交わした俺と乾との間に、緊迫した雰囲気が漂い始めるが、その空気をぶち壊しにする様にして他の面子が次々に口を開き始める。
「あら?その、悪いと思っている『皆』の中に、私も入っているのかしら?でしたら、平素からの行いを少しで良いから思い返し、自重しては頂けませんこと?」
「そ、そうですよ!わ、私達の事を、そんな風に『部外者』みたいな括りで見ていたなら、す、少しは遠慮して下さいよ!い、今まで、どれだけ私達が振り回されていたと思っているんですか?
そ、ソレに比べたら大した事は無いですし、それに、い、今更そんな事言われても困ります!わ、私達仲間でしょう?」
「……亜利砂さん、桜木さん……!」
「主殿よ。流石に、この盤面にて仏心を出すのは感心せぬぞ?叩くならばキチンと叩く。そうでないならさっさと和解するなりなんなりとする。己の内にて引いた線と、己に課したルールに従って動くのであれば、白黒ハッキリと付ける事こそが肝要じゃぞ?情けを掛けるな、とは言わぬが、中途半端な情けは時に侮辱になるでのぅ。
もっとも、そんな事妾に言われるまでも無いじゃろうがの?」
「タカ殿。私としても、彼女達を傷付けなくないのは理解出来ます。結果的に見れば、信頼してくれていた彼女達を裏切り、貴方を貰った横取りする形となってしまってはいますが、それでも彼女達は一時を共に過ごした仲間である事に変わりは在りません。
……ですが、彼女達が貴方を奪うと宣言し、ソレを貴方が条件付きとは言え承認する様な事を口にしているのであれば話は別です。貴方は私を『最愛』と呼んで下さいました。私も、貴方だけを愛しています。なので、私は貴方が誰かに奪われる事だけは、何を差し置いても我慢なりません。ですので、私は彼女達と本気で闘い、貴方の隣に在り続ける権利を掴み取ります!ですので、タカナシ殿。貴方の隣に私を置き続けて下さるつもりが在るのでしたら、貴方も全力で勝ちに行って下さいませ。それが、貴方に惚れている私からの、唯一お願いです」
「……すみません。腑抜けた事を言っていたのは、俺の方でしたね。惚れた相手からのお願いでしたら、叶えて見せるのが男と言うモノでしょう。なら、貴女の願い、叶えて見せましょう。今、ここで!」
形や言葉は違えども、同じ様に励まされ、背中を押された俺と乾は向かい合い、俺は相棒を、乾は手にしていた杖を強く握り締め、互いに戦意を高め合いながら共に宣戦布告を口にするのであった。
「負けられない理由が出来た」「それは、私も同じだよ」
「だから、是が非でも勝たせて貰う」「私も、全力で行かせて貰うね」
「死んでも、恨むなよ?」「それが戦場での習い、だものね?」
「ならば」「えぇ」
「「いざ、尋常に、勝負!!!」」
そして、俺は『練気』を発動させ、彼女は魔力を瞬時に練り上げて魔法を発動させる事により、俺達の最終決戦は幕を上げるのであった。
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