239・魔王城奪還作戦 3
ブックマークにて応援して下さった方々に感謝ですm(_ _)m
何本か骨を蹴り砕いた感触と共にレイヴンクローを吹き飛ばし、無数に分裂した音澄を相手に最低限の手心を加えながら(どれが本物か分からないので殺してはいない。殺しては、ね?)大立回りを演じていると、俺の背後にて発生させていた黒紫色の光の柱が爆散し、内部へと閉じ込めていたハズの乾達四人が姿を露にする。
「おやおや、成長に期待してもうちょっと早く出て来るかと思ったけど、そうでも無かったな。正直、期待外れだよ」
若干挑発する様にして声を投げ掛ければ、敵意や怒りと言った感情の込められた視線を、俺の魔法によって若干煤けた顔にて返される。
乾が居る以上は、どのみち誰も戦闘不能には陥らないだろう、とは思っていたが、予想していたよりはダメージが通っていないらしく、戦意を手放している者はいなさそうだ。
しかし、それでもある程度はダメージを受けたのか、四人全員共に鎧やローブと言った防具や装備品の類いは皹が入ったり、所々で解れたり破けたりと言った様相を呈している。もっとも、武具の類いは基本的に無事だったらしく、特に庇ったり損傷を気にする様な素振りを見せずにこちらへと切っ先を向けて構えて見せて来た。
「皆、気を付けて!何で魔法が使えなかったハズの小鳥遊君が魔法を使ってきていたり、上半身裸なのに鱗だとかが無くなっているのかは分からないけど、彼は本気で私達を敵だと認識しているみたい!だから……だから!こっちも本気を出さないと、下手をしなくても殺されるから注意して!彼を説得するのはその後で良いから!
行くよ!!彼が丸腰でいる間に仕掛けて!!」
「「「「「…………了解!!」」」」」
乾の下した号令により、一旦下がった音澄や、俺に蹴り飛ばされて桜木による治療を受けていたレイヴンクローを含め、彼女らの戦闘要員全員の意識が戦闘時のソレへと変化する。
これまで戦意をぶつけて来るだけだったのが、途端に意識が切り替わって殺意の類いまで向けてられ始めるのだから、嫌でも認識を改めるさせられる。
……まぁ、それでもまだまだ及第点は上げられないけど、ね?
そんな事を考えながら、迫り来るレイヴンクローによる無数の攻撃を回避し、久地縄の不可視の斬撃を予測し、阿谷と素手のままで鍔迫り合いを披露しながら佐藤の矢を振り払い、相変わらず分裂して襲撃を繰り返す音澄をあしらい、乾が放ってくる魔法を相殺や破壊しながら凌いで行く。
「……クソッ!?何なんだよ、この出鱈目さは!?」
「……よもや、ココまで拙の刃筋が読みきられているとは……」
「ちょっと!なんで!これだけ射っても!一射も中らないのかな!?」
「流石に、これだけの密度で攻撃しても、一度もまともに当たらないとなると、自信が無くなりますわ、ね!!」
「……ん。流石に、これは異常。師匠、一体何をやらかした……?」
「ここまで来ちゃうと、もう『人間』相手じゃなくて『人型の魔物』と闘ってると認識改めて!それと、皆急いで!早く小鳥遊君を大人しくさせないと、他の人達がそろそろ……!?」
「……なんだ、気付いてたのか?でも、もう遅い。そんでもって、お前らも来るのが遅い!本当に間に合わなかったら、どうするつもりだったんだ?」
バァン!!!
唐突に、乾達が入ってきたのとは逆側の扉が轟音と共に押し開けられ、複数の影が飛び込んで来る。
それと同時に、一条の流星が俺目掛けて飛来するが、良く見知った気配を纏うソレを視線を向けずに空中にて掴み取り、飛来した勢いを殺す為にその場で軽く回転させながら構えを取り、その鋭い切っ先をピタリと乾達の方へと突き付ける。
そう、この場には持ってきていなかった、俺の唯一無二の相棒にして、『飛鷹流』の継承者に延々と伝わって来た得物である『濡烏』改め『朱烏』その物だ!
そして、俺がその相棒を手にするのとほぼ同時に突入してきた影達は、俺の背後や左右、ついでに乾達の背後に在った乾達が入ってきた扉を塞ぐ様にして展開すると、手にした得物や牙や嘴と言ったそれぞれの武器を構え、その切っ先を乾達へと目掛けて突き付ける。
「……流石に、道具で監視している以上、間に合わんなんて事は無いだろうが……」
「もうちょっと僕達を信用してくれても良いんじゃないの~?これだけ長い付き合いなんだからさぁ~?」
「信頼はしているが信用してないぞ?お前らの気紛れに、何度巻き込まれたと思ってやがるんだ?そう言う意味では、お前らは最も信用出来ない相手だからな?
むしろ、この中で無条件に信じている相手がいるとしたら、ソレは恋人であるアストさん位のモノだよ。後は、向こうで退路を断ってくれているリルとカーラ位かね?」
乾達敵対者を眼前にしながらも、そうやって気安い言葉の応酬が出来るのは、やはりタツとレオ相手だからこその話だろう。
そんな俺達の様子を、戦場にありながらもアストさんとネフリアさんは何処か微笑ましげで温かな視線を、リンドヴルムとアンフィスバエナさんは微妙に嫉妬心のカンジラレル視線を向けて来ている。
『獣人族』の三人は、それぞれが見ている相手が異なる故に断定は出来ないが、それでも悪感情を抱いている様子は無い。むしろ、時折クラスにて仲の良い男子グループに対して女子生徒から向けられていた、阿呆を見る様で何処か羨ましそうな視線が最も近いかも知れない。違うかもしれないけど。
そんな風に、久方ぶり……と言うには些か別れてからの時間が経ってはいないものの、それでも別行動をしていた皆と合流し、そのついでに手に良く馴染んだ相棒を得た事により、知らず知らずの内に溜め込んでいたらしい緊張を解きほぐして吐き出していると、前方から絶望感の滲み出ている様な声が響いて来た。
「……ねぇ、小鳥遊君……?今の、ウソだよね……?アシュタルトさんが、小鳥遊君の恋人……?それに、敗北宣言したのは、小鳥遊君達だよね……?なのに、なんで、皆がここに居るの?なんで、武器の矛先を私達に向けてるの?なんで、そんな事言うの……?アシュタルトさんが恋人なら、じゃあ私達はどうなるの!?ねぇ、教えてよ!!?」
血を吐く様な、身を切る様な、そんな必死さと切なさに身を焦がしている声色にて、まるですがり付く様な目をしながら懇願する様に言葉を紡ぐ乾。
その背後にて、それまで昂らせていた戦意の類いを萎ませ、得物すら取り落としながらも、ソレを拾おうともしないで立ち尽くす久地縄、阿谷、佐藤の三人は、やはり乾と同じくすがり付く様な目をこちらへと向けてくる。
それに釣られる様にして、まだ戦意の昂りを納めてはいないものの、それでも今仕掛けるのは得策ではない、と判断したのか、残りの三人も俺達へと向けていた切っ先を地面へと向けて沈黙してしまう。
……正直、こうして無抵抗になっているのであれば、このまま捕縛してしまってから、こっちでのアレコレや俺の現状を教えてやるのは吝かでは無いのだが、ソレをしてしまうとタツとレオ以外の面子から大顰蹙を買いそうだし、何よりアストさんが『ソレだけは止めて上げて下さい』と言わんばかりの目をしながら、俺へと向けてゆっくりと首を横に振っているから止めておいた方が良いだろう。
他の面子はともかくとして、アストさんに悲しい顔をされてしまうのは流石に避けたいからね。何故かまではまだ分からないけど、それでもアストさんには笑っていて貰いたいし、彼女が悲しんでいると胸が痛んで苦しくなる。幾ら苦痛に耐性があるとは言え、あの痛みは出来る事なら経験したくない類いのモノだと言う事くらいは理解出来るからね。
そう結論を出した俺は、左右にいるタツとレオへと視線を送り、『ソレで良いか?』と問い掛ける。
下手をすれば尻拭いをして貰う羽目になりかねないので、その確認の為に問い掛けたのだが、半ば呆れる様な視線にて『お前が良ければソレで良いだろう?』と返されてしまう。
そんな二人に対して、感謝半分苦笑半分にて返しながら、レオに対して手振りで鎧を求めつつ、相棒の穂先を床へと突き立てる。
そして、レオから手渡された鎧を、服や鎧下の類いを着ける事をせずに直接装着しながら、乾へと贈る『最後の手向け』として口を開く。
「……お前が聞きたい事は山程あるのだろう。そのくらいは、俺にだって理解出来る。
だが、既に敵になったお前に、わざわざ説明してやるつもりは無いし、その義務も義理も無い。
……だが、そうすると悲しむ女性がいるから、お前らにチャンスをくれてやる。もし、このまま闘って俺達に勝てたら、全てを説明した上で、大人しくお前らのオモチャにでもなってやるよ。但し、負けた場合は大人しくお縄に付いて、魔王からの裁きを受け入れろ。
もし、それらが不服だと抜かすのであれば、俺達はこのままお前らを殲滅するだけだ。あまり長く待ってやるつもりは無い。さっさと応えて貰おうか?」
俺のその言葉を受けた乾は、それまで絶望しか宿していなかった瞳に力強い光を取り戻し、即座に首肯する事で俺からの提案を受け入れた。
その後、俺が鎧を装着し終えるのとほぼ同時に、乾による鼓舞と俺からの提案が脳に染み渡った事によって再起動を果たしたらしい他の面子と共に戦闘態勢を整えた乾達は、俺が床から相棒を引き抜き構えを取ると、ソレを開戦の合図と取ったのか戦意の昂りを隠そうともせずに、俺達目掛けてがむしゃらに吶喊を仕掛けて来るのであった。
面白い、かも?続きが気になる、様な?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(_ _)m




