237・魔王城奪還作戦 1
後十話もしない内に完結させる予定ですので最後までお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m
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魔王城を占拠していて冒険者パーティー『戦乙女』達は、この時確かに『慢心』を抱いていた。
本人達に問い質せば即座に『否』と応えただろうが、この時確かに彼女達は、その心に『傲慢さ』を抱き『油断』していたのだ。
しかし、それも仕方の無い事だと言っても良いのかも知れない。
何故なら、彼女らは今回の暴挙が初陣であったからだ。
かつてこの世界に居た時には、対人戦は専ら小鳥遊、辰郎、礼於の仕事であり、彼女らには基本的には回ってくる事は無かった。
そして、数少ない対人戦闘に於いても、基本的には命を奪うまでは行かなかったし、ソレに近い状態になった時は小鳥遊達が速やかに割って入り、最期の作業を引き継いでしまったが為に彼女らは対魔物戦闘以外は基本的にそこまで経験豊富と言う訳では無かったし、何より本格的な戦闘は未経験のままであった。
それ故に、あの撤退が『一時態勢を整えたいが為のモノ』であるとは理解出来ず、『戦力的に劣勢なので退却した』のだとと勘違いした解釈をしてしまっていたのだ。
そしてその間違った解釈は、彼女らに更なる『慢心』をもたらしてしまう。
かつてこの世界に在った時には、総員に加えて他の面子を足したとしても、軽くあしらわれてしまっていた相手である小鳥遊達。
そんな小鳥遊達を討ち取る事は出来ず、目標であった捕縛する事すらも出来てはおらず、客観的に見れば何の成果も挙げられてはいないながらも、それでもほぼ半数程度の戦力にて彼らを『撤退』へと追い込む事が出来た。
その、一側面から見た場合には真実足り得る事実により、彼女らは自分達の実力に対して『過信』とも言える程の自信を付けてしまったのだ。
実際には、小鳥遊達は未だに様子見であり、一応手加減はしていなかったものの、まだ『全力』と言うには出力が足りず、『本気』と言うには殺意や敵意の類いが足りない、言わば割りと中途半端な状態にて彼女らと闘っていた。
対して、流石に殺意は無かったし、未だに奥の手を隠していたままではあったものの、彼女らの方は『全力』や『本気』と表現しても間違ってはいない程度には力を振り絞っての戦闘を繰り広げていたつもりであった。
そんな状態の二者が闘えば、ある程度の被害を度外視したとしても、凡そは後者が押し切る事が出来るだろう。
現に、形の上ではそうなってしまっている。
しかし、彼女らは、小鳥遊達に誰一人として被害を出させる事も出来ず、こちらの情報だけを上手く持ち帰られたと言う事に気付いてもいないし、むしろ自分達が自力で戦力を上回ったから勝利出来たのだ、とすら誤解してしまっていたのだ。
故に、本来であれば『怪しさ』『不審さ』しか無いハズの外部からの呼び掛けにて行われた『敗北宣言』を疑う事は無く、同時に停戦協定の戦利品として魔王城の大広間へと運び込んだと伝えられたモノに関しても、そんな事が在るハズが無いのにも関わらず、特に疑う事無く受け入れてしまうのであった。
――――それが、敗北の切っ掛けとなるとは、欠片も考えずに。
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「…………さて、取り敢えず立案と立候補はしていないし、ほぼ俺とは関係無い処で進められた作戦である以上不安しか無いけど、上手いこと行ってくれると良いなぁ……。
でないと、良くても殺されるか拷問されるか位はされそうだし、下手すれば監禁されかねないんだよなぁ……。いや、本当に上手く行ってくれないと困るんだけどマジで!?」
思わず沸いてきた不安感から、俺自身を固定している鎖と椅子をガタガタと鳴らしながら、一人言にしては大きな声を魔王城の大広間へと響かせる俺の姿は、何処の誰が見ても『異様』の一言に尽きる事となっただろう。
何せ、上半身裸の状態にて、手摺付きの椅子へと鎖で拘束され、その上で首から『戦利品』と書かれたプレートを下げた状態にて、魔王城でも随一の広さを誇る大広間のど真ん中に安置(もとい放置)されていると言うのが俺の現状だ。
なんでそんなアホみたいな状況になっているのか、と言えば話は簡単。
あいつらをこの大広間へと誘き寄せる為だ。
ぶっちゃけた話をすれば、あの執務室に籠られたままだとしても、殲滅するだけならばどうにかならない事は無い。
多少心理的に面倒であると言う感情を追いやり、あの執務室へともたらされる被害に目を瞑り、その上であいつらの負傷を無視し、俺達へと出るであろう被害を勘定に入れなければ、比較的簡単に制圧する事は不可能では無い。
……まぁ、それらを無視出来ないからこうしている訳なのだけど。
なので、手っ取り早くそれらの悪条件をどうするか、と言う話になったのだが、その時にタツとレオの二人から出された
『あそこが不味いなら、他の部屋へと誘導すれば良いじゃないの』
と言う発言が、この間抜け極まりない作戦の発端となっているのだ。
俺達の心理的な抵抗感はどうしようも無いから諦めるとしても、その他の条件である『執務室への被害』と『向こうへの被害』並びに『俺達に対する被害』を軽減するだけでなく、こちらにとって不利益となっていた『閉所での戦闘』を回避しつつ、こちらの戦力も多く展開出来ると言う良いことずくめの作戦だ。
実際に、魔王へと聞いてみた限りでは、丁度良さそうな広間まで在ると言う話であった為に、その時は真っ先に食い付いたモノだ。
しかし、そんな理想的な作戦ではあったのだが、重大な欠点が一つ。
それは、どうやってあいつらをそこまで誘導するのか?と言う事だ。
呼び出して出て来てくれるのであれば苦労はしないで済むのだが、流石にあいつらもそこまでアホでは無いだろう。
自ら設定し、実際に俺達を一度は撃退する事に成功している陣地から、わざわざ出て来る事は無いハズだ。
少なくとも、余程魅力的な『何か』で釣り出しでもしなければ、そうそうホイホイと出て来る事は無いだろう。
更に言うのであれば、あいつらが籠っている魔王の執務室へとどうやってその『何か』を設置した事を知らせるのか、と言う点や、そもそもそれを知ったからと言ってもそう無警戒に出て来る事も無いだろうから、その警戒心をどうやって解くのか、と言う点も大きな問題点であり、実際に立案してきた二人に対してその点を問い質す言葉が投げ掛けられた。
ソレに対して二人は
『……どうせ、今は『勝った』と思い込んで気が大きくなっているハズだ。なら、こちらから『敗北しました』と嘘で良いから奴等に発信し、実際に兵を引いて見せれば勝手に勘違いするだろうさ……』
『それと~、釣り出す為の『餌』だけど~、僕らはちゃんと持ってるじゃないの~。あの娘達なら食い付かずにはいられない~、『極上の釣り餌』って奴がさ~。まぁ~、扱い方を間違えると~、本当に『喰われる』かも知れないけどその時はその時って事で~!』
『『……なぁ、タカ……?』』
その言葉が放たれるよりも先に、背筋を貫く悪寒に従って逃亡しようとしたのだが、二人同時に肩を掴まれてしまいその場で拘束されてしまう。
そして、そのまま『釣り餌』として使う『何か』とは俺の事だ、と言う外道にも程がある作戦を通達され、皆の承認(アストさんとリンドヴルムは反対してくれた。感謝しか無い(涙がホロリ))によってこうして拘束された状態にて大広間に安置、もとい放置されている、と言う訳だ。
一応、あいつらにもこの大広間に『戦利品』が置いてあって、その『戦利品』が何なのか、と言う事は外部からの呼び掛けで通達してあるらしいので、その内確認には来るだろう。
……来るだろうが、それは精々一人か多くて二人程度のハズだ。
わざわざ俺を囮にしてまでこんな事しても、その程度の人数しか引っ掛からないのであれば、あまり意味がないんじゃないのか?
ソレに、こんなにガチガチに拘束されてしまっては、いざと言う時にまともに動けないんだけど?
確かに、これ位の拘束はしておかないと、遠目に見ても罠っぽいって事は分からないでもないが、流石にどうなのよ?
万が一失敗したら、主に性的に蹂躙されるのが俺だけだからって、かなり手を抜いて適当にやってるんじゃないんだろうな?そん時は恨むぞマジで!?
おまけに、こんなにあからさまに怪しい状態になってる物体になんて、ノコノコ接近してくるなんて有り得るのか?
幾ら事前にそう言われていたとしても、実際に通達されていた通りのモノが在ったとしても、それが首から『戦利品』なんて書かれたプレートを下げていたとしても!普通は不審さの方が上回るんじゃないの?
少なくとも、俺だったら実際にそこにあったとしても、数時間から一日位はそのまま放置して安全性を確認してからじゃないと少なくとも怖くて触る事も出来ないぞ?
そんな風に、半ば無理矢理この作戦を成立させたタツとレオの二人に対する呪詛だとか、この作戦が上手く行く確率なんてどれだけ在ると思っているんだ?と言う不安等を内心にて吐露しつつ、あいつらが来ないなら来ないでそろそろ脱出しちゃおうかなぁ?との思い付きから手首や足首の動きによって拘束を緩めていたその時であった。
ドパァン!!!
「小鳥遊君がここに居るって本当!?」
「間違いありません!小鳥遊殿の気配と匂いがします!拙には分かります!!」
「いや、しぐの場合は『技能』で分かったとかじゃないのか?まぁ、オレもあいつが居るような気はしているけどな!なにせ、オレの世話焼きセンサーがビンビンに反応してヌルヌル動いているからよ!」
「阿谷さん、その表現はちょっとお下品かな?まぁ、でも、先生も少し分かる気がします。何となく小鳥遊君が近くにいると思うだけで、もう先生の子宮がキュンキュンしちゃって色々とタイヘンな事になっちゃうから、それも仕方の無い事なんじゃないかな?」
轟音と共に半ば吹き飛ばされる様にして開けられた扉から、少々聞いてはいけない事じゃないかな?と思わなくも無い様な会話を大声で交わしながら飛び込んで来る乾、久地縄、阿谷、佐藤の四人と、その後を焦った様子にて走りながら追い掛けて来ている残りの三人の姿が俺の目に映り込む。
そして、大広間のど真ん中にて、上半身裸の状態にて拘束されている俺を目にした途端、それなりに離れていても一目で分かる程に呼吸を荒げ、目を血走らせ、その手を気持ち悪くワキワキと動かしながらジリジリとこちらへと近寄って来ようとし始める奴らの姿を目にして、多少の身の危険から来る絶望感と多大なる残念感。
それと、こんな間抜けな作戦に引っ掛かったあいつらに対する失望感によって胸中の大部分を占拠されながら、気付かれない様に手首や足首の動きを細やかなモノへと変化させた俺は、奴らが近付いてくるのを待ち構えるのであった。
……へ、変態だぁーーーーーー!?(笑)
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