233・流石に味方はしてやれないな……
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「……つまり、罪を償うつもりは無い、と……?」
乾の言葉を聞いた俺の口から、自分でも驚く程に平坦な声が零れ出る。
『立ち塞がるモノは全て敵。そして、敵に容赦はしてやらない』
そう口にした乾の目は狂気と欲望に染まっていたが、それでも何処までも真剣なモノであった。
……確かに、乾の言う事は真理に通じる道理では在る。
己の力を信じ、己の力のみを頼るのであれば、向こうの世界ならば兎も角として、こちらの世界でならばある程度には通用するだろう。
何せ、一応は法の元に統治されている場所ばかりではあるが、それでもソレを上回る程に『力の信奉』が蔓延しているのがこの世界だ。乾達ならば十二分に通用はするだろう。
実際に、俺も似た様な理屈にてゴリ押しした経験が何度も在る以上、それは確実だろう。
……だが、それはあくまでも『自身よりも強い『力』を持つ相手』に遭遇しない事が必要不可欠な大前提であり、同時に最低限のラインでもある事を認識しなくてはならないのだ。
何故なら、その理屈で物事を押し通す以上、同じ理屈にて道理を遠そうとする相手と必ずぶつかる事になる。
そうなった時、自身の方が相手よりも強ければ何の問題も無いのだろうが、問題はその相手が自身よりも強かった場合だ。
その時は、文字の通りに『何をされても文句を言えない』と言う事になる。間違いなく、だ。
何せ、それまではそれと同じ事を自らが相手に強要していた事なのだ。それが、たまたまその時は己が強要される番になった、と言うだけに過ぎない。
……そして、そんな道理を、彼女達はこの魔王国に対して通そうとしているのだ。
右も左も分からなかったこの世界に於いて、最初に手を差し伸べてくれた国であり、様々な方面にて散々世話にもなったこの国に対して、無理矢理己の道理を通させようとしているのだ。
……それは、流石に黙って見ている訳には行かないし、見過ごしてやる訳にも行かない。
確かに、乾達は同郷の親しい仲間だ。そこは、否定するつもりは無い。これまでも、これからも、だ。
だが、俺はこの魔王国が好きだ。魔王とも、親しい友人でいるつもりでもある。
俺の、俺達の事を初めて利用しようとはせず、全くの善意から手を貸してくれていたこの国の事を、嫌いになれる理由は無い。
……まぁ、アストさんに対する一部の連中からの不快かつ不当な扱いに関しては、多大に思う処は在るけど、そこについては今は置いておくとしよう。そうしよう。
そんな訳で、乾達が、例え俺の為に、と言うお題目を掲げようが、今回ばかりは俺は乾達の味方をしてやる事が出来ないし、味方をしてやるつもりも無い。
そんな俺の意思が伝わったのか、それとも先程の平坦で感情の込められていない声色に戸惑ったのか、驚きに満ちた視線にて俺の事を凝視してくる乾達四人。
「……え?小鳥遊、君?どうしたの、そんな顔して……?」
「……せ、拙達が、何か気に障る様な事でもしたでしょうか……?」
「なぁ、小鳥遊?どうしたよ?何時にも増して、怖い顔して。何か気に入らない事でも在ったか……?」
「ねぇ、何でそんなに怒ってるの?何が気に障ったのか、教えてくれないと先生も分からないかな?」
本当に理解出来ていないのか、それとも理解したくなくて理解出来ていないフリをしているのかは定かではないが、口々に俺の機嫌を窺う様な言葉を口にしてくる。
その姿にすら、僅かながらの不快感を感じてしまっている俺は、極力感情が籠らない様に気をつけながら口を開く。
「……お前らこそ、自分達が何を言っているのか分かってるのか?
この国が、魔王が、俺達を助けると決断してくれたお陰で、俺達は大神の野郎共みたいにケンドリックのクソヤロウにオモチャにされずに済んだし、こうして生きてもいられるんだぞ?
それだけじゃなく、この世界の事を何一つ知らなかった俺達に一通りのアレコレを教えてくれた上に、俺達の手で生計が立つまで支援を続けてくれていた事まで忘れたとか言ってはくれるなよ?流石に、そこまでふざけた事を抜かす様であれば、幾ら元クラスメイトで、極限状況下を共に切り抜けた間柄であり、同時に仲間であったお前さんらでも、反射的に殺さない自信が無いからな?言葉には気を付けろよ……?」
「……そ、そんな……!?」
余程俺の言葉が衝撃的だったのか、物理的に押された様によろけて後退りながら絶望感の漂う言葉を口にする乾。
その目には、それまで浮かべられていた狂気は鳴りを潜め、大部分を俺に拒絶された事による悲壮感が占めている様に見える。
……そんな様子の乾に、思わず胸の内がズキリと痛んだが、確実に必要な事だった為に漏れ出ない様に必死に抑えていた『殺気』と共に、彼女に対する慰めの言葉を飲み下してしまい込む。
「……お前らがしたのは、俺達にとって『大恩』と言っても良い程の恩が在る相手の顔に泥を塗っただけでなく、直接的に傷付けたのに等しい行いだ。そんな事を仕出かしておいて、全ては俺の為だと?あまり、ふざけ過ぎない方が良いぞ?お前らが仕出かしたのがどれだけ大それた事で、どれだけの被害を出した犯罪行為なのか、少しでも考えた事はあるんだろうな?」
「……で、でも、それは!?」
「『それは』何だ?何か、不可避にして絶対的な理由が在る、とでも言うつもりか?自分達を保護し、身分を保証してくれていた国へと弓を引くに足るだけの、絶対的なモノなんだろうな?」
「……流石に、そこまでのモノだとは言えませぬ。ですが拙達は、拙達と小鳥遊殿との今後を考えて……!」
「俺の為なら何しても構わない、と?例えそれが、俺の友人と友人の大切なモノを傷付ける事になったとしても、最終的には俺を納得させるのだから別に構いやしない、と言いたいのかね?
だとしたら、お前さん達が言う『俺の為の未来』にて、お前さん達が俺自身を何らかの目的の為に切り捨て、傷付け、使い捨てないと誰が保証出来るんだ?アレだけ感謝していた恩人を、平気で傷付けられるお前さん達の何処を信用しろと?」
「そんな!?お前は、オレ達が信じられないって言うのか!?」
「そうだ」
切り捨てる様に、断定形にてキッパリと言い捨てた俺の言葉に、思わず、と言った感じで乾達四人が固まる。
視界の端で、亜利砂さん達三人も驚きの表情にて固まっている処を見ると、余程俺の言葉が予想外なモノだったのだろうと思われる。
まぁ、確かに、そう思われていたとしても仕方の無い事なのかも知れない。
何せ、乾達を向こうに戻すよりも前は、何だかんだ言っても乾達には対応が甘かった様な記憶も在る。
何だかんだ言っても、最終的には女性陣の意見を通すか、もしくは女性陣の意見を取り入れたモノを採用したりだとか、報酬の割り当ても女性陣の方に多く割り振っていたりしたのは、間違いなく事実ではある。
だが、ぶっちゃけた話として、俺としては乾達の意見を無条件に受け入れてやるつもりなんて毛頭無い。
今までの経験上、俺の方が折れるとでも思っていたのだろうが、以前は俺達の庇護下に在った女性陣に不自由させない様に気を回していただけであり、別段何でも言う事を鵜呑みにして全肯定してやるつもりも欠片も無い。
むしろ、以前はソレを承知した上で、俺が突っぱねないギリギリのラインを探し出して要求を通していたのだから、当然承知していたハズだ。
そして、そのラインを一度越えてしまえば、俺がその要求を飲む事は無いと言うことも、当然理解していたハズだ。少なくとも、以前は理解していた。
それなのに、この体たらくなのは、一体どう言うつもりなのだろうか?
離れている時間が長過ぎて、記憶でも改竄したか?
それとも、思い出を美化し過ぎて、俺の事を『何でも肯定してくれる便利なお人形』とでも思い違えていたのだろうか?
その割には、異常に俺に対しての執着心を示している様だが、一体何を考えての行動だろうか?この世界で便利に利用する為に使い潰せる手足とでも言うつもりだったのだろうか?
……だとしたら、随分と甘く見られたモノだ。
だとするならば、また随分と舐めた真似をしてくれたモノだ!
「確かに俺は人非人だ、人殺しだ、獣の類いだ。それは、敢然たる事実として認めよう。否応なくな。そう言う意味合いでは、お前さん達に付いてこの国で好き勝手するのが妥当なんだろうよ。
……だが、だ。だが、そんな鬼畜・外道の類いであれ、むしろ外道の類いであればこそ、一度受けた恩には、余程の仕打ちで無い限りは牙を向けちゃならないって事位は、最後の通さなきゃならない『仁義』として残ってるのさ。
それを、言うに事欠いて『好き勝手するために国を切り取るから手を貸せ。これはお前の為の行いだ』と来るとは、こんな事言いたくは無いが、お前さんら堕ちる処まで堕ちたって事で良いんだろう?
外道以下の畜生にまで堕ちたお前さんらに、どうして恩人を傷付けてまで手を貸せるよ?それに……」
そこで言葉を切った俺は、視線を乾達から同行しているアストさんへと移動させる。
それだけで、俺への愛情を通り越した妄執を抱いているらしい四人は何かを察して顔色を青ざめさせ、魔王から『知られない方が良い』と言われていた時に同席していたアストさんはその表情に疑問を浮かべる。
そんな彼女の元へと歩み寄り、その繊手をそっと手に取ると、僅かながらもその新雪の様な肌を朱く染めながら若干嬉しそうに恥じらって見せる。
そのいじらしくも愛しい姿へと目をやりながら、顔色を青を通り越して白へと染めつつ在る四人へと向けて言い放つ。
「……それに、俺の唯一無二の愛しい女の母国と、敬愛する上司に対して牙を向け、なんて言われても、はいそうですか、なんて言える訳が無いし、言う訳が無いだろうがよ。それが、余程の極悪人なら考えもするが、そうでも無いのに手を貸す必要性が見当たらない以上、お前さん達に協力する事はあり得ない。
残念だが、俺達の事は諦めるんだな」
半ば勝手に決め付ける形となったが、どうやらタツとレオも俺の見解と同じ様な結論に至っていたらしく、俺が啖呵を切るのとほぼ同時に立ち上がり、魔王へと乾達の目的を伝えるべく出口へと向かおうとする。
……が、そうやって彼女らに背を向けようとした俺達の足を止め、俺達にとって正しい感覚にて背筋を凍えさせる様な声色にて、驚く程に平坦かつ光の消えた瞳にて乾が口を開いた。
「…………行かせない。小鳥遊君は私達のモノ。小鳥遊君の恋人は私達。なのに、何で私達に背を向けて、アシュタルトさんと出て行こうとしているの?ねぇ、なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!?
……認めない。認めないよ?小鳥遊君。きっと、小鳥遊君は何かされているだけなんだから、私が目を覚まさせてあげるね?大丈夫、私は怒ってないから、だから早く目覚めよう?そうすれば、私達の言う事を聞いてくれる、優しい小鳥遊君に戻ってくれるよね?そうだよね??」
そして、壁に立て掛けてあった、向こうの世界へと還した時に回収して保存していたハズの彼女の杖を手に取ると、明確な敵意や戦意と共に、俺達へとその先端を向けながら魔力を集め、極光と共に魔法を発動させて俺達へと向けて放ってきたのであった。
乾の奇襲&先制攻撃!
果たしてどうなる!?
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