231・おや?何やら不穏な雰囲気に……
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「「「…………オゥフ…………」」」
思わず溢れた呟きが、偶然重なって三重奏となる。
半ば反射で両隣にいるタツとレオの事を確認しようとするが、前方から発せられる殺気にも似た圧力により視線を逸らす事が出来ない。
そんな俺へと追い討ちを掛ける様にして、乾を除いた以前俺に好意を持っていると言ってくれていた他の三人が口を開く。
「……拙も、そこは気になっていたので、是非とも、詳しくお聞きしたいです、ね……。まさかとは思いますが、拙達が居ないからと新たに女性を増やした、なんて事は無いですよねぇ……?
拙と言うモノが居ながら、まだ新しく女性を増やしたと言う事でしょうか?拙の何がお気に召しませんでしたか?胸ですか?これでも向こうでサイズ二つは大きくなったのですよ?まだ足りませんか?これ以上を求められるのでしたら拙の事を孕ませて頂ければもっと大きくなる上に母乳も出る様になりますよそうだソレが良いソレこそが貴方の望みと言う訳ですねでは早速致しましょう今すぐに!!!」
「……ふふふっ、もう、小鳥遊君たら、先生が居なかったのがそんなに寂しかったのかな?新しく入ったお二人、私と年頃がそっくりだし、やっぱり歳上が好みだったのかな?そうなんだったら、もっと早く言ってくれれば先生が手取り足取り色々と『お勉強』を教えてあげたのに……!
あ、でも、ここは生徒と先生の役を逆転させて、小鳥遊君に色々と教えて貰うのもよいかも!?不本意だけど、先生はまだ経験無いし、悔しくて仕方無いけど小鳥遊君は経験在るんでしょう?だったら、先生を小鳥遊君の好きな様に『教育』して、小鳥遊君色に染めて欲しいかも!そうしたら、小鳥遊君も先生を一番に愛してくれるかな?かな!??」
「……まぁ、オレとしては、今更お前の女が一人や二人増えてた程度でどうこう言うつもりは無いよ?流石に、戻ってくるのに時間が掛かり過ぎたし、どうせお前の事だから無自覚にそこら辺でホイホイ助けてるんだろうなぁ、位には思ってたから。ぶっちゃけ、最初から唯一の女になるつもりも、なれるとも思ってなかったから、さ。だから、オレとしては、オレの事を忘れずに定期的に構ってくれて、それでいて世話させてくれるんなら、別に女増えていようが構わないよ?
……構わないつもりだったけどさ?そこの新入り二人。万が一にも、お前の方から誘って入れた、なんて事は無いよな?オレ達が居ない事を良いことに、節操無く手当たり次第に手を出した、なんて事は無いよな?流石にそんなだと、オレも許容出来ないからちょっと躾させて貰う事になるけど、別に良いよな?オレとお前の仲だもの、な……?」
そんな事を、白目を血走らせ、その上で瞳から光を消してドロリと濁らせながら、鬼気迫る様子にて早口に伝えて来ようとするお三方。
その雰囲気は最早俺達の記憶に在るソレとは程遠く、ある種の狂気すらも感じさせる程の気迫に満ちていた。
元よりそう言う気質を見え隠れさせていた久地縄さんや、何となく独占欲が強そうな感じのしていた乾ならばまだ理解出来なくはない(したくは無いけど)が、あまりそう言う気質の見られなかった阿谷さんや、ある種の『余裕』を見せてもいた先生がこう言う状態に陥ると言うのは、ハッキリ言って予想外に過ぎる状態だ。
ぶっちゃけ言ってしまえば、俺の手には負えない案件である臭いがプンプンする。
殆ど直感による判断だが、そこまで大きく外してはいないハズだ、との認識により、視線を乾達からは少し離れた処へと向ける。
その先には、彼女らに何が在ったのかを知っているハズの、この世界へと一緒に戻ってきた亜利砂さん、音澄さん、桜木さんの三人の姿が在った。
俺は、乾達がどうしてこんなに暴走しているのか、と向こうで何が在ったのか、を問い掛けると同時に、どうにかしてこちらの四人を止めてはくれないか?と言う意味合いを込めて三人へと視線を送る。
すると、三人はその表情を若干苦々しいモノへと変化させ、視線にて『自分達からは言えない』と示し、首を横に振ってくる。
が、取り敢えずこれ以上この場が混沌に沈むのは避けたかったらしく、乾達四人へと向かって言葉を掛ける。
「……まったく、貴女達!一旦そこまでにしておきなさいな!この人がこう言う反応をするだろう、とは事前の打ち合わせの時で既に分かっていたことでしょう?なら、今は先に『この後どうするのか』と『彼に対する要求』それと『向こうでの出来事』等を説明して差し上げるのが先ではなくて?
それに、久方ぶりに会えた意中の男性相手とは言え、流石にやり過ぎでしてよ?迫るのは悪くないですが、多少は加減もしないと相手に引かれてしまうのではなくて?少なくとも、私ならばその辺は多少なりとも調整致しますわよ?」
「……皆、落ち着く。取り敢えず、師匠達は要求に従ってここに来た。なら、今後魔王様に対しての私達の考えと、理想的な立ち位置の説明位はするべき。そうでないと、話が進まないよ……?」
「そ、そうですよ!小鳥遊君達も、い、イマイチ良く分かってないみたいなんですから、説明位はして上げないとき、嫌われちゃいますよ?」
「「「「……うっ、それは困る……」」」」
三人の突っ込みにより多少冷静さを取り戻したらしく、若干ソレまでの勢いにブレーキを掛けて来る。
しかし、完全に止まる訳でも、また止まるつもりも無いらしく、相も変わらず血走って狂気に満ちた瞳にてこちらを注視し続けている。
その様子に、何処からどう見ても『恐怖』と形容せざるを得ない感情にて背筋を凍えさせていると、どうやら説得を諦めたらしい亜利砂さんが溜め息を一つ吐いてから、手振りで音澄さんと桜木さんに四人を抑える様に指示を出してから、俺達の方へと向き直って『仕方の無い』と言いたいのがありありと分かる態度にて口を開く。
「……ふぅ。本来なら、私の口から申し上げる事ではありませんが、彼女達があの様子では話が碌に進みませんので、仕方無く私が代理でお話しさせて頂きます。
……ですが、その前に。お久しぶりですね?小鳥遊さん。あの日、貴方達の企みによって私達だけ強制送還されてから今日こうして再び会い見えるまで、向こうの世界では実に三年の歳月を費やす事になりましたの。そんな私達に対し、何か言う事が在るのではなくって?」
「……久し振り、と言う程度だな。そもそも、俺はこんな状況になってはいるが、あの時はああするのが最善の行動だった、と今でも思っている。だから、お前さん達に対して謝罪したりするつもりは、無い。これまでも、これからも、だ」
「…………まぁ、貴方はそう言う方でしたね。それに、私としてましても、ここで謝罪が出てくる事は期待していませんでしたし、何よりここで謝罪されていたら、逆に違和感を覚えていた事でしょうね。むしろ、安心しましたわ。
……さて、先程も言った通りに私達がこうして戻ってきた訳と、ソレまでに向こうで何が在ったのか、を説明させて頂きますが、何処から説明致しましょうか……」
そう、何処か呆れを含んだ視線にて、しかし納得はした様子にて大きく一つ頷くと、一旦言葉を切って腕を組み、何から話したモノか、と考え込んでしまう。
そして、暫し考え込むと、小さく頷いて顔を上げ、俺達へと視線を向けながら、再度その口を開く。
「そうね、では、まずは私達が向こうに戻されてからの話をしましょうか。端的に言えば、私達は迫害を受けましたの。犯罪者……の様な扱いとして、ね……」
「…………もしかして、他の連中の……?」
「えぇ、そうですの。私達を除いて、帰還しなかった貴方達を含めた他のクラスメイトの方々。その方々の行方を、私達が知っているのではないか?むしろ、私達が何かしたのだろう?と言うのが、送り返されてから少し経った頃に向けられた、世間からの評価でした」
「……しかし、同じ時間に戻ったのだろう?ならば、ほんの一瞬程度しかラグは無かったハズだ……」
「えぇ、そうでしょうね。ですが、世間や実際に子の居なくなった親と言うモノは、何かにつけて理由を求めたがるモノですの。例えそれが、送られた先で女性の尊厳を根刮ぎにし、男性は殺して喰らっていた様な存在であれ、ですの。そして、その世間からの無遠慮な非難の矛先は、子供であった私達ではなく、唯一の大人であった佐藤先生へと向けられました。ここまで言えば、何故私達が全員揃ってこちらに戻ってきたのかは、ご理解頂けますわよね?私達に余計な苦労を負わせてくれた、小鳥遊さんなら特に、ね……?」
……なるほど、なら、あれだけ先生が荒んだ空気を纏いながら、俺への依存度を深めている理由も理解出来なくはない、か……。
しかし、あいつらを還す事しか考えていなかったが、還した後にどうなるか、を考えていなかった俺のミスだと言って良いだろう。少し考えれば分かったハズなのに、一つの事に対して集中し過ぎて、そこら辺の事を考えられていなかった、と言う事なのだろう。
……そうやって考えると、やはり彼女らには悪いことした、か……。
「…………なら、こうして騒ぎを起こして俺達を誘き寄せたのは、俺達に復讐する為か?魔王城を占拠したり、魔王に手傷を負わせたりしたのも、その一環と言うことで良いのか?」
「……まぁ、そう仰られるとは思っていましたが、残念ながら違いますわよ。私としましては、幾分か恨みに思っていなくもないですが、向こうの世界にて迫害から逃れ、こうしてこちらに戻ってこれたのも、貴方のおかげでもありますから、功罪相殺、と言った処でしょうか?」
「……俺のおかげ……?」
「えぇ、正確に言えば、貴方のお祖父様のおかげ、と言う事になりますけどね?」
「師匠の?と言うか、訪ねて行ったのか?マジで??」
「マジもマジ、大マジですわよ?世間からの無遠慮な詮索と言う名目での迫害により、私達の居所は無くなりました。それは、私も含めた全員が、ですの。
佐藤先生は教職を追われ、私達も犯罪者紛いの扱いをされていて、家族を巻き込まない為に皆で家を出ていましたからね。
……もう、行く宛も、明日の希望も碌に無く、半ば自棄になり、向こうの世界でも振るう事の出来たこちらで得た力によって、無様に囀ずるだけのゴミ共を皆殺しにしてやろうかと、本気で考えていた時でしたの。乾さんが、駄目元で貴方達のお師匠様でもあるお祖父様方を訪ねてみては?と提案されたのは」
「……それで、本当に訪ねてみた、と……?」
「こう言っちゃなんだけど~、大分クレイジーな選択をしたんじゃないの~?あの人達を自ら訪ねるなんて~、まだマグマ煮えたぎる火口に飛び込む方がまともな行動だったって言えると思うんだけど~?」
「…………えぇ、それは、体験した今となっては、私達全員が実感しておりますが、あの時はそれだけ追い詰められていた、と思ってくださいな。まぁ、もっとも?あの時にその選択をしたおかげで、私達は更なる力を手にする事が出来ましたし、こうしてこちらへと戻って来る事が叶った、と言う訳ですので、差し引きトントンと言った処でしょうか?
……あれ?受けた修行の数々を思い出して見ると、思い切りマイナスに振り切れている様な……?」
俺達との会話にて、思い出してはいけない所業を思い出してしまったらしく、唇の端から細く吐血しながらも、それに気付く事も無く瞳から光を消して小さく呟いて行く亜利砂さん。
そんな彼女を、同じ様に過去に受けた諸々の修行を思い出し、血涙や吐血を同じ様に流しながら、似たような経験の在る者として彼女の肩を優しく叩いたりして無言のままに慰めるのであった。
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