222・その頃の小鳥遊 3
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ズズゥン!!
渇いた大地を踏み砕く一撃が、周囲を揺らす。
咄嗟に飛び退いた俺へも、砕かれた地面の欠片と共に衝撃波が飛来する。
「……くっ……!?」
防御を固めた上で受けたにも関わらず、思わず苦鳴が食い縛った歯の間から溢れ落ちる。
突然の事態に混乱しながらも、半ば反射で着地と同時に踏み込みを仕掛け、振り下ろされて地面へとめり込んでいる前足目掛けて相棒を振り抜く。
……が、甲高い金属音と共に弾かれ、俺の手に痺れを残すだけの結果に終わってしまう。
どうやら、リンドヴルムの金属をも越える強度の鱗や、その下に隠されている柔軟にして強固なゴムの様な筋肉も再現されているらしく、ソレによって俺の攻撃が弾き返されてしまったのだろう。
様子見の一撃だったのは否定しないが、それなり以上の威力は込められていたハズなのに鱗に傷の一つも入っていないとなると、若干ながら苛立ちが募ってくる様だ。
……と、いかんいかん。落ち着け。
こう言う時こそ冷静に、だ。
熱くなるのは悪くない事だが、こう言う不利な盤面では常に冷静でないと、折角勝ち筋を見付けられたとしてもそれを取り零す事になりかねない。
内心にて自身にそう言い聞かせ、無理矢理落ち着きを取り戻す。
それとほぼタイミングを同じくして、アイツからの追撃が放たれる。
物理的圧力として感じられる程の濃厚な殺意を纏った横凪ぎの一撃を、用意はしていた『練気』を発動させて迎え撃つ。
馬鹿正直に真っ正面から受け止められる様な柔な攻撃では無いだろうし、何より圧倒的に質量や重量に差が有り過ぎる。
それに、かなりの速度も出ているので、中途半端に回避しようとするのは返って危険だろう。
なので俺は、敢えて回避も防御も選択せず、その場から動かずに受け流す事を選択する。
「がぁぁぁぁああああああ!!!」
アイツの咆哮に対抗するように、俺も獣の様な絶叫を上げながら全身の筋力を強化し、アイツの攻撃を迎え撃つ。
振られて来た前足の動きに合わせて相棒を振るい、ほんの一瞬だけではあるが、アイツの攻撃を受け止める。
……メキッ!ミシッ、ミシミシミシッ!!
その一瞬だけの接触で、まるで全身の筋肉が断ち切られ、全ての関節でバラバラに分解されそうな程の衝撃が全身を駆け抜ける。
思わず意識を手放しそうになるが、奥歯を噛み砕く程に食い縛る事でどうにか回避し、わざわざ多大なダメージを負ってまで造り出した一瞬の拮抗を生かす為に、即座に行動へと移る。
一瞬だけとは言え両者の力が拮抗し静止した状態から、相棒で僅かに掬い上げる様に力を加えて軌道をずらし、極限まで相棒をしならせて上方へと受け流すと同時に姿勢を低くし、振り抜かれる前足の下を潜る様な形にて回避する事に成功する。
が、本当に僅かにしか軌道を変えられなかったので、こちらがギリギリまで姿勢を低くしたにも関わらず、鱗が掠めた事により髪が何房か千切り取られて行ったのが感じられる。
「この野郎!禿げたらどうしてくれるんだ!!?」
思わず頭に血が登り、少し前の己の言葉すら忘れ去って激昂しながらアイツの懐目指して距離を詰めて行く。
流石に、戦闘速度まではコピー出来ていないのか、それともまだ身体の使い方が馴染んでいないのかは定かではないが、それでもリンドヴルムと闘った時よりも大分遅めの反射速度にて俺の接近を阻もうとするが、それらの悉くを回避して懐へと潜り込む。
右から来た横凪ぎは跳躍する事で前足を飛び越え、左からのうち下ろしは飛び込み前転の応用で止まること無く回避する。
無数に展開された魔方陣から放たれた魔法は、左目にて魔法の『核』を見る事は出来ないながらも、放たれた状態のソレへと先に投擲した短剣を当てる事で誘爆させた。
虎の子であったのだろう、死角から振るわれて来た尻尾による一撃も、使用するのに様々な条件が在るが、その条件さえ満たせれば鉄だろうが何だろうが関係無く断てる『飛鷹流』の奥義に近しい位置付けに在る技を使用し、丸太程の太さを持っている尻尾の先端部分を切り飛ばしてやる事にも成功した。
当然、そこまで大暴れしながら距離を詰めようとしている以上、俺の方にも少なくない被害は出ている。
右からの横凪ぎを回避した時には、予期していたのかは定かではないが、巻き起こされた風に煽られて空中にて姿勢が崩れ、着地の際に足首を僅かながらに痛めてしまっている。
左のうち下ろしを対処した時も、後方から飛散してきた地面の破片にて米噛みの部分を切ってしまっているために、未だに流血の収まる気配が感じられない。
魔法にしても、流石に左目無しでは的確に処理しきる事は難しかったらしく、幾つも射ち漏らしが出てしまい、近くに着弾したモノによって幾ばくかのダメージを既に負ってしまっていた。
最後の尻尾は言わずもがな、先端部分を断ち斬る事には成功したが、それでも負傷としては大した事は無いし、何より俺が先端を斬り落としてやったと言うのに、攻撃自体は止まる事無く俺目掛けて続行されていた程だ。
そのお陰で、ギリギリの処での回避を余儀無くさせられてしまい、表面の刺によって引っ掛けられ、鎧を剥ぎ取られてしまっただけでなく、少なくないダメージを負ってしまう。
しかし、ソレによってもたらされる激痛にも、口元を伝う血筋にも特に頓着する事は無く、尻尾と擦れ違い様に更に強く踏み込みを掛け、より深くアイツの懐へと潜り込んで行く。
……たった一度接近するだけで、こっちは割りとボロボロ。
なのに、アイツの方は、今の処ほぼ無傷。
目を反らして直視したく無くなる現実を、無理矢理直視した結果、渇いた笑みしか出なくなる。
しかし、それでも直視しなくては勝てるモノも勝てなくなる故に、萎えそうになる心を無理矢理奮い立たせ、十二分に深く侵入した懐にて相棒たる『朱烏』を構え直す。
……が、流石に、自身の巨体では懐こそが一番の急所足りうる、と理解しているらしく、その巨体の大質量と重量による面攻撃にて俺の事を排除しようと試みて来る。
視界は奴の身体で埋め尽くされており、最早頭上から壁が迫って来ているのとほぼ変わらない状況だ。
今から脱出しようにも、懐に深く入り過ぎてしまっている事もあり、前後左右の何処へ逃げようとしても、恐らくはアイツの身体が落ちてくる方が早いだろう。
万が一どうにか脱出出来たとしても、ほぼ確実に飛び出した瞬間を狙って攻撃の準備をしているハズだ。少なくとも、俺ならばそうする。
……しかし、俺は、普通なら取るであろう『脱出する』と言う選択肢を取る事をせず。しようともせずに、その場に留まっていた。
普通はこう言う状況になれば絶望するか、もしくは必死に脱出しようと試みるのだろう。
だが、今の俺は、むしろこう言う状況を待ち望んでいたのだ。
何故なら、俺の間合いでは、アイツに対して致命傷を負わせる事が出来ないからだ。
何せ、アイツの身体は、常に巨木の如き四肢によって支えられ、常時俺の頭上十数mはあろうかと言う高さに在る。
そんな相手に、比較的広い間合いを持っているとは言え、たったの数m程度圏内にしか攻撃手段を持たない俺では、基本的に相手の命に届かせる程の攻撃を放つ事が出来ない。
もちろん、他に手段が無い訳ではない。
先に四肢を砕いて胴や頭を下に下げさせる。
投擲等で視界を奪ってから身体をよじ登り、急所へと攻撃する。
一撃での決着を諦めて、長期的な削り合いへと持ち込む。
パッと思い付くだけでもこれくらいは出てくるが、どれも現実的とは言い難いだろう。
四肢を砕くにしても、恐らくは再生能力すらも再現しているであろう相手に一人でやるのは、流石に手が足りない。
投擲で目を潰すのも、ソレをさせてくれる程に甘い相手ではないだろう。
長期的な削り合いなんて、一撃良いのを入れればそれで終わりに出来る超タフネスを誇る相手に対して仕掛けて良い作戦では無い。
だから、こうして自ら攻撃として身体を下げる様な状況へと持って行った、と言う訳だ。
まぁ、間合いに入った瞬間に、持てる限りの最大火力をぶちこんでどうにか出来なければこっちが終わる、って言うある種の賭けになっているけど、そこは仕方無いと割り切るしか在るまい。そうでもしないと勝てないんだから、仕方無いと思わねばやってられないから、ね。
……もっとも、こちらの事情を理解しているハズのアイツが、わざわざこっちを選んだのは解せないけど。
…………まさか、ねぇ…………?
自らの考えを、頭を振って振り払いながら、慎重にタイミングを図る。
チャンスは一度きり。
ソレに加えて、俺の方は、間合いに入る直前を捉えなくてはならない関係上、否応なしに緊張が高まる。
そして
『……そこに入り込んで何をするのかと思っていたが、結局見ているだけか!?ならば、手も足も出せず、オレに敗れて惨めに死ね!!』
との、大音量でのアイツの声と共に、アイツの身体が急速に落下を開始し、驚く程の速度にて俺目掛けて迫って来る。
それに対して俺は、失敗を恐れる心や逸る気持ちを深呼吸一つで落ち着かせると、狙いの箇所へと誤らずに命中させる為の位置調整と同時に、必要な助走を行う為に先ずは大地を一歩踏み締める。
同時に『練気』を最大まで強め、二歩目の踏み込みにて最大速へと身体に掛かる負荷を無視して到達させ、最短で『縮地』の状態を再現する。
そして、三歩目の踏み込みにて急停止をし、腰の回転によって身体へと掛かっていた運動エネルギーを上半身、引いては手にしている相棒たる『朱烏』へと集約させる。
更に、槍術の技法である、手の中にて槍の柄を滑らせて穂先を加速させ、突きの威力を増大させる『抜き』の技法を追加し、『飛鷹流』に於ける理論上最速にて最強の一撃をこの場に再現させる!!
『天穿ち』!!!
俺が継承している『飛鷹流』の技の中でも、文句無しに最強だと言える、秘中の秘。秘奥の技だ。
これさえ決まれば、まず負ける事は有り得ない!
……が、ソレはアイツも承知の事でもある。何せ、アイツは俺なのだから。
キィィィィィィィィィィイイイイイイン!!!!
まるで、鋭利な刃物の先端で、巨大な金属塊を引っ掻いている様な不快音が周辺へと響き渡る。
俺の繰り出した『天穿ち』により、空気との摩擦熱で真っ赤に熱せられた穂先が、標的として設定し、穿ち貫くハズだったアイツの胸の前に突如として現れた、薄く黒色を帯びた壁の様な結界によって阻まれてしまっていた。
『はっ!オレが、お前でもあるこのオレが、その程度の事を予測出来なかったとでも思ったか!?もう、打つ手も無いのなら、このまま潰れて果てろ!!』
「……俺が、こうなると予測していなかったとでも……?」
『なんだと!!?』
『得意さ』の中に『苛立ち』を僅かに滲ませていたアイツが、そんなセリフと共に胴体での押し潰しを敢行しようとして来ていたその時に、未だに赤熱した穂先にて甲高い衝突音を奏でていた俺は、一歩だけ後退し、その直後にまたしても『縮地』を発動させ、まだ赤熱状態から復帰していないままの相棒にて、再度『天穿ち』を発動させる。
パキィィィィィィィイイイイイイン!!!
張られていた結界の、そっくりそのまま全く同じ場所へと再度『天穿ち』を叩き込んでやると、流石にコレは想定していなかったのか、相棒の穂先が結界を貫いて破壊し、その勢いのままに、いつぞやのリンドヴルム相手の様に、アイツの身体へと大穴を刻み込むのであった。
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