206・改めて皆に通知します
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今回から新章に突入します
獣王祭と、それに伴った諸々が終了したある日の早朝。
未だ朝靄も晴れきらぬ中俺達は、獣人国にて拠点として確保している建物の裏庭にて、久方ぶりに実戦形式での手合わせをしていた。
「……ふっ、はっ……!……ぜぇぇぇりゃあ……!!」
「は~い、ほ~い、もう一つ~、おまけしちゃおうかなぁ~!」
言葉少なく放たれた、タツによる拳打と蹴撃を複数放つ組み立てと、何時もの通りに何処か軽く、それでいて投擲された小柄の着弾点はどれも確殺の意図が込められた箇所のみが狙われている。
そんな二人の怒涛の攻めを、俺が一人で凌いでいる訳なのだが、二人の表情はあまり芳しくは無い。端から見れば、圧倒しているのは二人の方のハズなのに、だ。
……いや、むしろ、その動きの精密さや力強さ、言動の軽さからは想像も出来ない程に、真剣かつ追い詰められた表情にて必死に攻め立てている、と言った感じだろう。
常に笑みを浮かべているレオが口調をそのままに笑みを消し、基本糸目になっているタツがその眼光を鋭く尖らせ、一瞬たりとも見逃すまいとしながら額には冷や汗を浮かべているのだから、どれだけ真剣かつ必死に戦っているのかは容易に想像出来るかと思われる。
そして、何故に二人がそんなに必死になって攻め立てているのかと言うと、理由は簡単。
今現在、俺が暴走状態に在るからだ。
と、言っても、別段事故で暴走した訳でも、自然と暴走してしまった(?)訳でもない。
ただ単に、まだ戦った経験の無かったレオが、一度暴走状態の俺を見ておきたい、と希望していたからこうなっている、と言う訳だ。
一応、俺の企んでいる事に於いて、主だった人材として必要になるし、その際には実際に暴走状態の俺と戦って貰う事になるらしいので、予め経験を積んでおく、と言う点に於いては、まぁ有効な手段なのだろうとは思う。
……思うが、だからと言って面白半分で提案し、その上で『自分達が限界を迎える迄は暴走を停めるな』との指示を出してまで戦っていると言うのに、この体たらくは些かどうなのかと思うよ?
今現在、俺の方を思いっきり攻め立てているのだって、調子に乗って序盤に好き勝手されて追い詰められたから、態勢を立て直したいが為に攻め立てて攻められない様にしているだけで、別段俺の事を攻めきれると思ってやってないだろう?
装備等の面でも、二人がフル装備(相棒+迷宮産装備でガチガチ)に+して『技能』の使用に制限無しなのに比べて、俺は鎧無し・『技能』無し(ある程度は暴走状態でも行動を縛れる様子)・相棒無し(練習用の一振り)の無し無し状態であり、圧倒的に優位に立っていたハズなのに、精神的に追い詰められているのは二人の方であると断言出来る。
……だってこいつら、素の状態の俺と戦っているよりも、よっぽど追い詰められた顔してやがるもの。流石に、考えが読めなくても、それくらいは理解出来るさね。
そんな事を内心で呟きながら、俯瞰的視点にも慣れて来た事に我ながら呆れつつ、段階的に上昇して行く俺の身体能力を抑えきれなくなったらしいタツが吹き飛ばされたり、レオがとうとう普段の間延びした口調を取っ払ってマジモードに突入したりするのを眺めていたのだが、そろそろ止め時かね?との判断を下し、身体を取り戻すべく干渉を始めるのであった。
なお、この後タツからは
「……頼むから、もう少し早く制御してくれ……」
とボロボロになりながら愚痴られ、レオからは
「いや、あんなになるなんて聞いて無かったんだけど?」
とマジな口調で突っ込みを受ける事になるのだが、それはまた別のお話。
******
二人と手合わせ(と言う名の蹂躙)を済ませてから数時間後。
俺は、拠点の居間へと皆を集めていた。
基本的に獣王祭が終わってからは自由行動を推奨していただけに、タツとレオを除いた面子は呼ばれた当初は『何かやらかしたかな?』と言った感じでソワソワしていたが、特にそう言うモノに対しての言及が無かった事もあり、徐々にその緊張も解れて行った様に見てとれた。
……切り出すのならば、このタイミング、か……。
そう決断した俺は、軽く咳払いして皆の注目を集めてから口を開く。
「……さて、では本題に入るとしよう。俺達の次の行動指針だが、これは俺の独断と偏見によって決定させて貰っている。もちろん、これからキチンと説明させて貰うが、それでも不服であり、そんな事には従えない、と言うのであれば、最悪パーティーから抜けて貰う事になる。……それが、タツやレオ、お前らでも、だ」
いつになく真剣かつ強引な言葉選びに、思わず背筋が伸びて無言で皆が聞き入る。
反応を見る限り、俺が冗談の類いではなく本気で言っているのが理解出来ているのだろう。
これからする話を不服とするのであれば、親友かつ戦友でもあるタツやレオであれ、恋人であるアストさんであれ、容赦なく切り捨てて進むつもりである、と伝わっている様子だ。
……その、何処か怯えの含まれた空気に、僅かばかりの罪悪感を感じながらも、必要な事だから、と自らに言い聞かせ、気を取り直して再度口を開く。
「一応、以前にも説明したと思うけど、念のためにもう一度説明しておこう。
今現在の俺の状態は、極めて不安定だと言っても良い。日常生活を送る分には暴走はしないみたいだし、『全力』で死合う限りもまた暴走はしないらしい。……けど、言ってしまえばそのどちらか以外では暴走の危険性が常に在る、とも言える。
現状、試してみた限りでは、『本気』になったとしても『全力』を出さない限りは暴走しないみたいだけど、その程度に留めるのであれば、俺自身の戦闘能力は高が知れている。精々、魔物で言う処のA級の上位か、S級の下位程度までしか相手に出来ない」
「……某、それで十二分な気もするのですが……」
「……そこは、言ってはいけないのでしょうね、えぇ」
「マァ、デモ、その程度じゃ満足デキナイって事なんじゃナイノ?」
「……話を戻すぞ?
取り敢えず、このまま暴走の危険性を抱え、仲間に対して被害を出す可能性を持ったままでは最悪戦闘要員から退く必要すら在ると考えた俺は、リンドヴルムから色々と話を聞いてみた訳だ。
そして、その結果として、恐らくは、と付く事になるが、大雑把な暴走の原因が特定される事になった」
『……あれらを『色々聞いた』で済ませるのは、ちぃとばっかり無理が無いかのぅ?のぅ??』
「……で、その原因だが、恐らくは俺が中途半端に龍に成り掛けているから、だと思われる。多分」
「……また、随分とアバウトな……」
「前に聞いた時も~、それ本当~?って疑っちゃったよねぇ~」
「仕方在るまい。そう予測を立てた張本人ですら、それ以外に要因が見当たらないから『そう、なんじゃ……ない、かなぁ~?多分、きっと』って程度の推論だが、他にそれっぽい説も無い以上は『そうである』と見て行動する他あるまいて。
それで、具体的な対処法だが、暴走するのが嫌なら思いきって完全に龍になってしまえば良いんじゃないの?と、ふざけているのか正気を喪ったのか定かでは無いが、それしか方法が無いのも確かだ。本人の話によれば、完全な龍になれば、人化する術も比較的簡単に習得出来るらしいから、成った後の事はあまり心配しなくても良いみたいだがね」
「……流石に、思いきった決断過ぎない?人間辞めるんだよね?ボクならもっと躊躇うと思うんだけど……」
「そこはぁ、彼の精神性じゃないかしらぁ?『自己の存在』よろもぉ、『闘争の継続』の方に重きを置いている感じかしらぁ……?」
「……なんだか、散々に言われているみたいだけど続けるぞ?
それで、完全な龍に成ると決めはしたが、他の種族のモノが俺みたいな要因にて龍に成る場合、その因子を埋め込んだ帝龍か、もしくは他の帝龍が立ち会って何かする必要が在るんだと。
リンドヴルムは一応帝龍だけど、現状としてはその力を喪っているから不可能なんで、他の帝龍に頼んでやって貰う必要が在る訳だ。
……ここまでは、前回も説明したから大丈夫だよな?」
途中途中で突っ込みを入れながらも、キチンと聞いてはいたらしい皆が頷きを返して来る。
おまけに、そこまで分かった上で、さっき挙げた条件は一体何なのか?と視線で問うて来てもいた。
であれば、納得はしなくとも一応の理解はして貰えるかな?との期待と共に説明を続ける。
「前提条件の確認が終わったから、これから今回の主題に入らせて貰うが、これはリンドヴルムが提案してきたモノだ。
さっきも言った通りに、俺の現状を打開するには、他の帝龍の協力が不可欠だ。しかし、基本的に帝龍には会いに行ったからと言って、普通に会える様なモノでも無いらしい。故に、直接塒を目指して行軍、と言う訳にも行かないんだそうだ。普通なら、な。
だが、リンドヴルム曰く、そろそろ帝龍が集まって今後の事を話し合う会議的なモノが開かれるんだそうだ。だから、そこに突撃をかます。
一応、リンドヴルムが場所は覚えているみたいなんだが、その場所は道中を含めてかなりヤバめな魔物がゴロゴロ出てくるんだそうだ。ぶっちゃけ、今の俺だとギリギリ位の処で拮抗するので精一杯になる程度には、強いらしい。仲間を庇う様な余裕は無いと見た方が良いだろう。だから、死にたくない者は抜けちまって構わん。所詮は俺個人での我儘だから、特にペナルティをかすつもりも無い。さぁ、選んでくれ」
そんな俺の言葉に、皆一度は互いに顔を見合せたりもしたが、結局全員誰一人抜ける事もなく、全員が揃って参加の意を表明する事になるのであった。
今回から、以前とはペースを変えてお送り致します
また、それに伴い一章当たりの話数を減らす予定です
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