21・ボス戦継続中です
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リンドヴルムの、如何にも軽ーくやりましたと言わんばかりの『焔の吐息』によって、目の前が紅蓮に染め上げられる俺達六人。
距離と勢いから鑑みても、流石に純後衛たる先生と、初手は後衛を務めていたレオの居る処までは届かないとは思われる為、向こうの四人(乾と桜木さんは先生の護衛として後ろに居る)はフォローしなくても大丈夫だと思われるが、あくまでも安全だと思われるのは彼ら『後衛』であり、それよりも前に出て刃を振るっていた俺達『前衛』担当には十二分に当たるであろうだけの射程は有ると見るべきだろう。
……もっとも、それだけの射程が無ければ、そもそも使っては来ないだろうけど。
左右への逃走はやって出来ない事は無さそうだが、それを選択するとなるとほぼ直結でタツ以外の面子を見捨てる事になるだろう。
何せ、即座に立ち上がって行動可能になっているのはタツだけであり、他の面子は立ち上がれていたとしても足が震えていたりだとかで行動に制限が掛かっているし、中にはまだ立ち上がれていない者すら居る。
……よって、行動選択肢として『回避』を選択する事は出来ない。
ではどうするのか、と思考を回そうとしたのだが、そうしていた間にもリンドヴルムの放った焔は結構な速度で迫って来ており、最早俺達が消し炭にされるのはそう遠くない処まで迫ってきている。
……仕方がない。やるしかない、か……。
俺と同じく苦い顔をして隣にたっているタツに軽く視線を向けてから、会話する時間も惜しいとばかりに本題を切り出す。
「……回避は出来ない以上、迎撃するしかない。アレをやるぞ。最早それしか手が無さそうだ」
「……正気か?幾ら俺達とは言え、なんの準備も無しにいきなりアレをやるのは無謀だぞ?それに、やった後の反動もきつ過ぎる。正直、あまりやりたくは無いのだが?」
「なら、やらずに大人しく消し炭に成るか?どの道やらねば死ぬ公算が高いのだから、やるしか無かろう。……それに、やりたくなかったのは俺も同じなんだから、あまり言ってくれるな……」
そう、些か『うんざり』した様なやり取りをした後、互いに覚悟を決めて意識を切り替え、それと同時に呼吸を常たるソレとは別のモノへと切り換えて行く。
……些か唐突では有るが、武術の世界には『気』と言われる概念が有ることを知っているだろうか?
そう、大陸の拳法等で良く出て来る『力』の運用法だったり、生物の体内を駆け巡る一種の生命力として表現されたりするモノとして、一度は耳にしたことが有ると思われる『アレ』だ。
その『気』の概念を俺達の流派では割合と早期に取り入れており、自身の『気』を操る方法から、その『気』を運用する事を前提とした技(タツの使った『勁』もこれに当たる)や技法が当然の様に存在する。
そして、その効果は割合とバカに出来ない。
具体例を挙げるとすると、呼吸を通して練った『気』を足に通せば走る速度や蹴りの威力が普段の数倍まで跳ね上がったり、特定の場所に流さずに身体の表面等に回すとダメージの類いを受けにくく(物理的・痛覚的の両方)なったり、と言った具合だ。
その『気』を練る(『飛鷹流』では『気』を生み出す事を『練る』と表現している。タツとレオの処は知らね)為に、常に行っている通常の呼吸、ただの酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出す事を目的としたソレとは別の意味合いを持つ別の呼吸法が存在している。そして、この眼前に迫る窮地を切り抜けるのに必要な『気』を練る為の呼吸法へと切り換える。
それまでの浅く・軽い、通常無意識的に行っている呼吸から、深く・重く、身体の底の底まで呼吸を届かせる。
イメージとしては臍の下、下腹部の『丹田』まで深く深く呼吸によって外から『気』を取り込み、そこで『気』だけを濾し取り、取り込んでまた口や鼻から放出するサイクルを作り上げ、その円環に乗せて『気』を練って行く。
本来であればこれを数分間繰り返し行い、取り込んだ『気』を丁寧に練り上げて少しずつ身体に馴らして行くのだが、今は緊急事態につき最低限必要な質と量のモノだけを数秒で練り上げ、練れた側から左腕へと回して行く。
取り敢えず眼前の脅威をどうにか出来そうな分を回せたので、スキルを使って左手に適当な槍を発生させ、上体を反らせながら腕を引き絞って投擲の構えに移行する。
チラリと隣に視線を向ければ、どうやらタツの方も準備が終わったらしく、腰を落としながら上体を真後ろ近くまで右側に捻って構えている。
「取り敢えず俺から行くぞ!タイミングを合わせろよ!!喰らえ、『風切り』!!!」
『気』によって強化した左腕による全力投擲。
それが『飛鷹流』唯一の遠距離攻撃技である『風切り』の正体。
そして、その『風切り』に続く形でタツも攻撃を放つ。
「ぬぅうん!『空撃』!!」
こちらも、『気』によって強化された腕力で発生される拳圧による遠隔攻撃。
この二つを順にぶつけ、俺の『風切り』の勢いによってある程度弱められた焔であれば、タツの『空撃』によって散らす事も出来る!……多分。
まぁ、向こうの世界に居た時ではどうあがいても無理だったであろうが、こちらの世界に来てからの身体能力を持ってすれば、『気』の強化込みであればどうにかなるだろう、との希望的観測も込み込みではあるのだけどね?
そんな程度の軽い考えで行われた反抗だったが、思わぬ形で成功する事となった。
まず、俺の『風切り』だが、どうやら思っていたよりも身体能力が高まっていたらしく投擲した際の速度が異常に出ており、投げた本人の俺ですら追えない様な速さでかっ飛んで行ったのである。
そして、どうやら途中で音速の壁でも越えたのか、当初の目標だった焔に着弾する頃には衝撃波でも纏っていたらしく、焔の勢いを弱めた上にど真ん中を撃ち抜き、更には勢い余って焔の向こう側に居たリンドヴルムへと着弾。その強固な鱗の鎧を貫通し、今まで一筋の血すら流さなかった身体に深々と、それこそ、表面に辛うじて石突きの部分が見えている位に深く突き刺さったのである。
そして、タツの『空撃』なのだが、元々予定していた『焔の無効化』については、ほとんど俺の『風切り』がやってしまっていたが、それでもなお残っていた分の焔を完全に掻き消してしまった。
……掻き消してしまったのだが、どうやらその程度で収まってはくれなかったらしく、『風切り』によって負傷した事に驚いていたと思われるリンドヴルムへと、焔を掻き消した『空撃』の余波が(もしくは余波で焔の残りを掻き消した『空撃』が)直撃する事になったのである。
そして、直撃した『空撃』により、胸元からお尻までで十数m、首と尻尾の長さを合わせれば数十mをオーバーするであろう程の巨体を誇るリンドヴルムを数歩後退らせた上に、おそらく様子見の一撃で全力では無かったのだろうが、直接撃ち込んだ拳打でびくともしなかったリンドヴルムの鱗が、直接撃ち込んだ訳では無い『空撃』によって幾箇所も割れ砕け流血しているだけでなく、その鱗よりも貼るかに硬いであろうと予測される角や牙にも僅かに罅が入っているのが見てとれる。
……正直な話、こんな事になるとは思って無かったです。
当面の危機(焔の吐息)は処理する事に成功したが、それでも自身が起こした事なのかが今一自信が持てなかったので、思わず共同で事に当たっていたタツの方へと顔を向ける。
すると、タツの方も似たような事を考えていたのか、同じ様なタイミングでこちらへと顔を向けてきたので、合わせる事も無いままに視線が交わる。
(……お前、こうなるって分かってたか?)
(……分かる訳が無かろう)
(ですよね~)
そんな風に視線だけで会話していると、それまでは肩に深くめり込んだ槍の異物感と鱗を割られた事への不快感、そして俺達が負わせた負傷による僅かな痛みによって低く唸っていただけだったリンドヴルムが、突然に人間で言う処の『絶叫』に相当するであろう叫び声を上げる。
何かと思って視線を向けると、片方の眼から血涙を流しながら瞼を固く下ろし、そのまま痛みに耐えるかの様に長い首を左右に振り回すリンドヴルムの姿が有った。
もしかして、と思って振り返って見れば、そこには全力で投擲した直後の体勢のままに息を若干荒げているレオの姿が有った。
「……ふぅ。二人のを見ててわかってはいたけど~、『気』を乗せた攻撃の方が効きやすいみたいだね~」
……ふむ、レオはどうにか間に合ったみたいだね。
そんなことを考えていると、直前まで辺りに響いていた叫び声が止み、その代わりにとてもとても愉しそうな笑い声と共に、ガランッ!と何か金属を投げ捨てた様な音が響く。
振り返って見てみれば、丁度リンドヴルムが笑い声を響かせながら、その大きな前足で器用に眼に刺さった棒杭を挟み込み、そのまま無造作に引き抜いて、先に抜き去り放り捨てたと思われる槍の隣にカラン、と放り投げる。
『カッカッカッ!よもや妾の鱗を貫くだけでなく、ここまで痛手を負わされるとは思っておらなんだわ!良い!実に善いぞ、お主らは!!この穴蔵に囚われるまでの数千年、その間に妾に挑んで来た敵!この穴蔵に囚われてから訪れた、数多もの勇者!それらの何れよりも、お主らとの闘争は心地好い!!さぁ、もっとじゃ!!もっと妾を愉しませておくれ!!!』
そう、熱く俺達への宣戦布告が言い渡される。
もちろん、こちらとしても受けるのに否応は無いのだが、そうも言っていられない事情が少々有るのだ。
前方で吠え猛るリンドヴルムからチラリと視線を外し、先程『風切り』を行使した左腕へと向ける。
……ふむ、外見的には異常無し、か。
だが、中身はそうは行ってくれない、か。
試しに軽く力を入れてみるが、普段の様には力が入らず、むしろそうすることで発生する『痛み』が鬱陶しい。
そう、本来ならば、丁寧に練って少しずつ『馴らして』行かねばならない『気』を、無理やり即席で練って注ぎ込んだ反動、謂わば『代償』の様なモノである。
チラリと隣を見てみれば、同じくタツも表情をしかめながら『空撃』に使用した腕の調子を診ている。
そんな俺達の後ろでは、俺達が焔を止めてから漸く再起動を果たしたらしい女性陣が、多少よろけながらも立ち上がって来た。
それを目にしたリンドヴルムは、フッ、と鼻で軽く嘲笑いながら、彼女達にこう言い放つ。
『……しかし、お主らはともかくとして、そこで今の今まで転がっていた『メス』共は詰まらぬのぅ……。己の身すら録に守れもせずに、強き『男の子』に守って貰うしか出来ぬ様な矮小な輩が、何故に妾と其奴らとの闘争に嘴を突っ込むのかのぅ?
……『力』無きモノはそれを弁えて、強きモノの邪魔にならぬ様に隅で固まって居れば良かろうに……。その点、そこの『女』共は己を省みて、其奴らの邪魔をせぬように後ろで固まって居る事から、己の力量は弁えておるのであろう。
貴様らも、少しは己の力量と云うモノを考えてみてはどうかのぅ?』
それだけ言い放つと、もはや興味すら失ったと言わんばかりの態度で目を反らし、再び俺達だけを眼中に入れているかの様に話しかけてくる。
『さぁ、待たせたのぅ!では始めようではないか!『猛き者』達よ!妾はリンドヴルム!『黒龍女帝リンドヴルム』じゃ!!妾に挑みお主らよ!主らの名は何ぞ!!』
「小鳥遊 博雅。飛鷹流槍術伝承者。恨みは無いが、脱出するためだ。倒させて貰う!」
「……藤井 龍郎。蛟流組手術の継承。……以前から、『竜』と言うモノが実在するのであれば、一度闘ってみたいと思っていた!」
「僕は神埼 礼於!残念ながら、僕の流派に名前は無いし、二人と違って僕自身が武人って訳でもない。僕は只の……暗殺者さ。
それでも、二人のためにも、貴女の首を獲らせて頂くよ!」
『カッカッカッ!是非も無し!!では、存分に死合おうか!!!』
そう最後に大笑すると、今までの様に様子見では無く、己を害しうる対等な『敵』として俺達を認識し、全力で殺しに掛かってくるリンドヴルム。
一方俺達も、リンドヴルムとの会話の途中で呼吸を切り替え『気』を練り上げており、先程とは違ってリスクはそれほど気にしなくても良いままに、文字通りの全力が出せる状態に仕上げている。
そして、先程ボロクソに扱き下ろされていた女性陣だが、どうやらリンドヴルムからの忠告は逆効果だったらしく、全員が殺気や戦意に目をギラつかせている。……乾や桜木さんと言った待機組も含めて。
そして、両陣営の戦意が最高潮に高まった時、再度にして真の意味での『戦闘』の幕が切って落とされたのだった。
注※『気』についての記述ですが、皆さんも何処かにぶつかる際に、気付かずにぶつけた時よりも、「ぶつかる!」と思ってからぶつかった時の方が痛みが少なかったり、怪我が軽かったりしたことが有ると思いますが、この作品の中ではそんな感じのモノだと思っていただけると分かりやすいと思います。強化については、人体のリミッターを外している、みたいな感じです。
一応、次でボス戦は終了の予定です
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