204・獣王祭決勝戦と報酬
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俺が諸々を強制的にリンドヴルムから聞き出し、深夜帯に案の定強襲を受けた次の日。
俺は、獣王祭決勝の舞台にて、同じく勝ち上がって来ていたレオと相対していた。
一応、襲撃者相手に実験してみた限りでは、戦闘中に極限まで高揚したり、行動と目的を矛盾させる(『戦っている』のに『殺さない様にしなければならない』等)様な事をしなければ暴走はしないらしいと言う事も判明したし、暴走しても昨日と同じ方法で身体を取り戻せる事も解っている。
やっぱり、暴走の起点?となっている左腕と左目から離れた場所程、取り返す際の抵抗は少なくなっているみたいに感じられたから、多分間違いではないと思う。
しかし、実験の結果として、ある程度手加減して戦うならばともかくとして、全力を持って戦わなくてはならない場合、『『戦う』なら『殺す』』位の心構えと行動でないと暴走してしまうので、現状『殺す』か『何もしないで見ているか』の実に極端な二択となってしまっている。
そしてそれは、この獣王祭に於いて、致命的な迄に相性の悪い状態に在ったと言っても良い。
それ故に俺は、最初開始と同時に棄権するか、もしくは開始前に棄権出来ないか、と考えていた。
相手がレオなので、暴走してもどうにでもなる、と言えはするが、それでも試合のルール上『殺してでも止める』なんて事は出来ない以上、どうしても殺さない様に手加減して当たる必要に駆られるだろう。
しかし、暴走状態の俺にはそんな気遣いは出来ないし、そもそも全力で相手を殺しに掛かるだろう事は、これまでのケースで証明されてしまっている。
流石の俺でも、全力で殺しに掛かっている相手を、殺さない様に細心の注意を持って無力化しろ、なんて無茶振りはそうそう出来る事ではない。
実力の拮抗している、むしろ若干ながらも上の相手に対してそうしろなんて、難易度が高過ぎて口が裂けても言えないだろう。
現に、土壇場で仕方無くソレをやる羽目になったタツは、出血が多過ぎた事と、極限状態での戦闘を長時間に渡って強要された精神的疲労により、『回復薬』にて回復してはいるものの、まだ疲労が抜けていないが為に拠点にてお留守番する事になっている位なのだから、とても俺の口からは言えた事ではない。
……ないのだが、何故かレオとしては割合と乗り気であるらしく、むしろ俺が棄権しようとするのを押し留め、ちゃんと出場する様にと説得まで仕掛けて来た位だ。
……まぁ、元より格上狩りが好きなレオの事だから、特に深い考えが在る訳でも無く、ただ単に暴走状態の俺と戦いたかっただけ、とも考えられなくも無いけれど。
そんな訳で、こうして俺とレオとが、決勝の舞台にて相対している、と言う事になっている。
「……さて、何処までやれるか解らんが、精々足掻かせて貰うかね。満足させてやれなかったら、その時は勘弁してくれよ?こちとら、決して絶好調とは言い難い状態なんだから、あまり無茶言うなよ?」
「さぁ~?そこは~、タカ次第じゃないの~?僕としては~、少なくとも今の状態なら~、ある程度はまともに正面から戦えるんじゃないかと期待しているんだけど~?それに~、幾らかは演出してあげないと~、観客の皆はガッカリしちゃうんじゃないのかなぁ~?この催しがエンターテイメントである以上~、その辺に気配りする必要は有るんじゃないの~?」
「……それも一理有ると言えば有る、か……?
まぁ、どうでも良いか。取り敢えず、やるだけやってみるが、満足出来なかったとしても恨むなよ!」
「……ハッ!だったら、精々頑張って俺を楽しませてくれよな!!」
短いやり取りの後、審判の下した試合開始の合図により、俺達の戦いが始められるのであった。
******
「試合、そこまで!勝者、【闇へと誘う双刃】レオ!!」
審判の掛け声により、取ろうとしていた動作を取り止める俺。
ゆっくりと視線のみを移動させ、俺自身の首もとを確認すると、そこには俺の背後から差し込まれた白刃が存在しており、俺の動き如何によっては即座に喉元を掻き切るとでも言わんばかりの迫力が込められていた。
流石に審判が勝敗の判定を出している為、これ以上戦闘を続行するつもりは無いので、レオの腕を狙って跳ね上げようとしていた穂先を返し、大人しく戦闘態勢を解除する。
一応、これが実戦なら、まだ動作に支障の出る様な負傷はしていないし、薄皮一枚切られる程度のモノが幾つか有る程度でしかない上に、その気になればこの状態から首もとを掻き切られるよりも前に反撃・脱出する事も可能ではあるの。
あるのだが、これは試合であり、キチンとルールが定められた演習だ。ルール無用の殺し合いでない以上、審判の判断には従わない方が無法だと言える。
故に得物の切っ先を下げ、軽く手を挙げて降参の意を表明した俺に対し、勝った方の立場であるレオが添えていた刃を引きながら、明らかに不満そうにしながら鼻を鳴らす。
改めて視線を向けてみれば、そこには数こそ多くは無いものの、それでも大小様々な傷を作り、一際目立つ額の傷から流れ出た血によって片目が塞がれていながらも、何処かつまらなさそうな表情を浮かべて不貞腐れていた。
……まぁ、そうなるのも、理解出来ない事でも無い。
久方ぶりに手合わせした相手が本調子では無く、その上で全力で当たる事もとある事情にて出来ないが為に自身もある程度抑えて戦っていたら、いざこれから!と言う処で横槍を入れられて中断させられた様なモノなのだ。それは、不貞腐れもすると言うモノだろう。
現に、レオの方も、俺が審判の掛け声で止められなければ、拘束を振り払って反撃してきたであろう事を理解しているし、実際に今までの手合わせで何度も見せている以上、出来なかったとは思っていないだろうから、余計にそう感じるのかも知れない。
もっとも、仮に審判が止めに入っていなかったとしても、多分『試合』である以上勝てなかったとは思うけどね?
何せ、昨日から残っている疲労に加え、レオの奴が刃に仕込んでいたらしい薬が回って来たのか、そろそろ足元が覚束無くなってきているし、正直眠くて死にそうだ。
いつぞやの強行軍の時よりも眠いくてキツいって、相当だからね?今までの修行で強制的に培われ、最早一滴で象が引っくり返るレベルのモノでも効き目が薄い程に高められている俺の薬剤耐性を、ここまで華麗にぶち抜いて強烈に影響を及ぼすなんて、一体どんな薬使ったんだ?レオの奴は。マジで危険物の類いじゃないんですかね……?
まぁ、戦えない程じゃないけどさ?
それにしても、ちとやり過ぎと違うかね?
内心にてそう溢しながら、審判の指示に従ってレオと握手し、盛大に響き渡るアナウンスによって歓声に包まれる観客席に対して手を振り、その後会場を後にするのであった。
******
決勝の試合が終わってから数十分後。
俺とレオの姿は、またしても会場に在った。
一応、軽くとは言え休憩した事により薬が抜け始め、一時期よりは意識が確りして来はじめたものの、それでも諸々の理由(精神的・肉体的疲労、昨日の暴走の反動、受けた薬の影響等々)で未だに足元が覚束無い俺と、未だに不満そうな雰囲気ありありで不貞腐れているレオが、何故にまたしてもここにいるのかと言うと理由は単純。
全試合行程が終わったので、さっさと授与式までやってしまおう、と言う流れになっているから、だ。
元より武力を重んじる獣人国の風潮と、その中でも特に武辺者ばかりが必然的に集まる獣王祭に於いては、根本的に出場者達には礼儀の類いは期待されてはいない。
故に、あまり時間を掛けて長い間拘束するよりも、多少の無礼の類いには目を瞑り、さっさと渡すモノを渡してしまって早い処解散させた方が、治安的にも面倒が無くて良い、との判断から来るスピーディーな対応なのだとか。
……もっとも、一番盛り上がるハズの決勝戦が終わったばかりで、本来なら出場者はもっと傷だらけの状態になっているハズなのだから、せめて次の日位にしても良かったんじゃ有るまいか?とも思わないでも無いけどね?
まぁ、そもそもの文化圏が異なるのだから、わざわざ指摘して軋轢を作る様な事はしないけど。
なんて、霞掛かった頭にて考えている(まだ抜けないとかどんな薬使ったんだ……?)と、準備が終わったらしく、それまでボーッと突っ立っているだけだった俺達へと声が掛けられ、闘技場に後設されたステージへと誘導される。
そして、他の国ならば有り得ないのだろうが、先にステージに上がっていた獣王が直接優勝を祝う言葉を贈って来る。
「先ずは、優勝おめでとう、と言わせて貰おうか。儂として順当な結果かと思うが、こうしてこの優勝者・準優勝者が立つこの場所に『獣人族』以外の者が立つのはそうそう有る事ではないし、今回の様に両者共に異種族、と言うのは過去に数度、片手で数えられる程度在っただけだそうな。しかも、両方両方共に『人族』と言うのは、この獣王国の歴史に於いても初の事態。
故に、と言う訳ではないし、元よりそう言う規約になっておる事ではあるが、改めてお主らにはこう問わせて貰おうか?
お主らの望みは何ぞ?儂に叶えられる事柄であるのなら、この獣王カニス・ルプス・ファミリアリスの名に於いて、必ずや叶えてみせようぞ」
その言葉に従い、跪く事もしないで立ったまま、獣王たるカニスへと答えを返す。
「なら~、僕の所属する冒険者パーティーである『名無し』への自由行動許可証をお願いしたいです~。それと~、無闇矢鱈と集まって来られるのにも~、メンバーの大半が少しばかり辟易しているので~、その辺の調整もお願いしたいです~」
「……ふむ、良かろう。なんとも無欲な願いであるが、儂の名に於いて発行する事を保証しよう。許可する範囲は、この獣王国に在る『迷宮』と立ち入り制限を掛けてある危険地帯への侵入、並びに国が認めておる重要地点への立ち入り、で構わぬか?流石に、国防上の関係で国境付近の軍事拠点や城の重要書庫等は許可してやれぬが、それ以外であれば事前の申請さえ在れば行ける様に手配しよう」
「じゃあ~、それでお願いしますね~」
軽い感じで頼むレオと、同じく軽く応える獣王カニス。
周囲の観客達の大半も、望みはそんなモノで良いのか?と軽い反応を示しているが、流石に十二獣将や宰相と言った一部の高位の者達はこの願いの『破壊力』を理解しているらしく、皆一様に苦笑いを浮かべて頬を掻いている。
そう、この願いは、一見何の変哲も無い通行許可を求めているだけに聞こえるが、その実態としては全くもって別物と言っても良い代物だ。
何せ、この国のトップである獣王本人が、事前の申請さえ出せば、基本的に何処にでも自由に出入りしても良いと許可を出したに等しいのだ。
つまり、獣王にさえ事前の申請を出しておけば、極一部の機密区画以外であれば、そこが領主の館であれ、十二獣将の執務室であれ、獣王の寝室であれ基本的に入っても構わない、と言っているのにも等しい。
もちろん、事前に申請する必要が在る以上、それなりに正当な理由付けが必要にはなるだろうし、余程の事情が無ければ基本的に二つ目以降は許可は降りて来ないだろう。むしろ、降りて来られてもこちらが困る。特に三つ目は。
それに、俺達としても、そっちの変則的な用途に使うつもりはあまり無い。
……が、今、この状況に於いては、その免罪符である許可証が存在する事が、何よりも強烈な一撃を繰り出す事に繋がる。
打ち合わせ通りの展開に、内心で黒い笑みを浮かべていると、やり取りを終えた二人が、最早隠そうともせずに真っ黒な笑みを浮かべながらこちらへと向き直って来る。
「では、次に準優勝者の願いに移ろうかの。因みに、優勝者程に何でも叶えてやれる訳では無いし、先に出ている願いとぶつかる様な内容だった場合には、より順位の高い願いが優先される故に、その点は留意しておくようにの?これは、決勝まで上がってきた他全ての出場者達にも言える事故に、間違えるでないぞ?
それで?お主は何を儂に願うのか?」
「……では、自分の知り合いの窮状を救って頂きたく。ウォーラビット族の彼女は、悪徳領主に虐げられし自らの部族を救わんとしてこの獣王祭へと参加しました。しかし、自分と途中で相対してしまい、自分に願いを託して敗れてしまいました。
自分自身の願いは然したるモノが在りませんので、どうか代わりに彼女の願いを叶えて頂きたく……」
「……ふむ?では、己に与えられる褒美は要らぬ、と?」
「願いの権利を除いた準優勝者への報酬で十分です。それすらも、彼女の願いを叶えるのに不足と言うのでしたら不要です」
「……ふん、そこまで言われてしまっては、叶えぬ訳にも行かぬわい。この国は強者こそ尊ばれる。故に、その強者を決める獣王祭の準優勝者が乞い願うのであれば、ソレが余程の内容で無ければ、の。
……じゃが、その娘とやらが、お主が言ったモノとは異なる願いを口にした場合、咎はお主にも及ぶ事だけは努々忘れる事無き様に。なれば、儂はこの国の王として、お主を裁かねばならぬからの」
「……彼女であれば、その様な事はないと、信じていますので」
「なら、良かろう。お主の願い、叶えてしんぜよう。
では、これにて獣王祭を閉幕とする!まだ見ぬ強者よ!来年また合いまみえようぞ!!」
獣王の閉幕を告げる宣言により、観客席から観戦していた観客達は、より大きな歓声を挙げる。
その中には、今しがた起きた事を興奮ぎみに隣の者と話し合う観客も少なくは無く、その中でも先程『英雄』が己の願いを辞退してまで他人の願いを叶えて欲しい、と言っていた事が、早くも『美談』として広がりつつ在る様に聞き取れた。
そんな周囲の様子を、獣王を始めとした獣人国上層部と俺の仲間達は黒い笑顔を浮かべながら、俺は
「…………やっちまった~~~…………」
と赤面した顔を両手で覆って踞りながら、そして、約一名の自称『獣人国を真に統べるべき大人物』は顔面を青ざめさせながら、意識的・無意識的の差は在れども、等しく耳にしているのであった。
……こうやって、掻かなくても良い恥を掻いたのは全部『自称大人物』のせいだ!
絶対に許さねぇ!!(注※只のとばっちりです)
一応、これにて諸々の騒動は終息
次回で報告みたいな流れになる予定です
あと、予定を早めて次回でこの章を終わりにし、その次の話から新しい章が始まる予定です
もう暫く続く予定ですので、終わりまでお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m
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