202・準決勝決着
二人の激突に決着が!?
果たして、どうなる!?
注※今回は第三者視点での提供となっております
ブックマークにて応援した下さった方々に感謝ですm(_ _)m
『……これは、少々不味い事になったやも知れぬ、のぅ……』
「……それは、タカ殿の異変に関係が在ると、そう見てもよろしいのですよね?」
『……まぁ、のぅ……』
観客席にてアシュタルトの腕に偽装の為に抱かれ、小鳥遊と辰郎の二人の試合を観戦していたリンドヴルムが溢した呟きに、同じく試合を見守っていたアシュタルトが相槌を打つ。
既に小鳥遊が仮面を脱ぎ去っている以上着ける必要は無いと判断してか、素顔を周囲へと晒している彼女らの表情は平素と変わらぬモノであったが、彼女らを良く知る者達であれば、そこに焦燥の色を見出だす事も出来たであろう。
……だが、そんな彼女らの事情を察する事の出来る人物は他に無く、また他の観客達の大部分もまだ試合を行っている二人の異変には気付いていない為、試合運びは理解出来ないながらも、その激しい戦い振りを目の当たりにして歓声を挙げながら熱中していた。
そんな中、彼女らは主に愛しい男を見守りながら、激しい剣擊の音の響き渡る中で、互いにギリギリ聞き取れる程度の声量にて会話を再開させる。
「……それで、何が不味いのでしょうか?何やら心当たりの在る様子ですが、貴女がタカ殿に何か仕掛けた、と言う事だと見ても良いのですか?」
『そう、とも言えるし、そうでない、とも言えるのぅ……』
「……そこは、ハッキリとして頂けませんか?彼を知る者であれば、あそこまで動きの乱れているタカ殿を目の当たりにして、何も感付かないでいられる者はいないのですよ?彼の目的を果たす為にも、この試合を中断させる事は出来ない以上、有耶無耶にする事は許可出来ませんからね……?」
『……えぇい、そう威圧するでないわ!妾とて、故意にこうなる様に仕込んだ訳では無い!じゃが、あの時主殿の命を救う為にはそうせざるを得なかったのじゃよ!
……一応、以前にも、主殿には『こうなる』可能性を説明してはおいたが、よもやここまで早々と起きるとは思わなんだ……』
「……では、これは、以前仰られていた【龍の因子】の侵食による……?」
『うむ。これまでの発動の代償による侵食か、もしくは主殿も気付いておらなんだ某かの要素の蓄積によるモノかは分からぬが、それが進んだ事による暴走と言っても良いかも知れぬのぅ……』
「……やっぱり……」
リンドヴルムの口から飛び出た衝撃の一言に、思わず呟きを漏らすアシュタルト。
以前に聞いた話で覚悟は決めてはいたものの、それでも『ソレ』が起こるのはまだまだ先だろう、と勝手に思い込んでいただけに、早過ぎると多少なりともショックを受けてはいるが、それでもやはり彼の安否は気になる以上、この場で唯一情報を持っている相手へと問い掛ける事を止める事は出来なかった。
「……では、貴女を責めるのは止めておきます。流石に、お門違いだと言う事位は理解出来ますから。ですが、タカ殿の現状に於いて把握されている事が在るのでしたら、早々に吐いて頂けますか?でないと、勝てないと解っていても、貴女に挑まざるを得ませんので」
『……じゃから、一々そう圧を掛けて来るで無いわ!妾とて、主殿の現状を完璧に把握出来ておるとは言えぬし、そもそもからして既に状況は妾の手から離れておる。それでも、聞くと言うつもりかのぅ?』
「当然です。さぁ、キリキリと吐いて下さいね?」
『……えぇい、まったく。イヌイの奴と言いこやつと言い、何故に主殿は厄介な性質の女子ばかりを引っ掛けるのか……。
以前にも言ったとは思うが、妾と主殿にはある種の『共感覚』的なモノが在る。そこまでは良いかのぅ?』
「えぇ、私も以前聞きました。タカ殿を蘇生させた際に、貴女の血肉を代償として使った事によって、擬似的な繋がりが発生した、との事でしたよね?」
『うむ。意識せねばそこまで色々と分かるモノでも無いのじゃが、今回はソレが在ってくれたお陰でそれなりに事態の把握には役立ってくれておるからのぅ。
結論から先に言おう。主殿は無事じゃよ。まだ、のぅ』
「……無事、ですか……?ですが、とてもそうは見えないのですが……」
互いの攻撃が掠め合い、徐々に傷と流血量を増やしながら戦い続ける二人へと視線を向け、訝しむ様な表情を見せるアシュタルト。
そもそもからして、小鳥遊の異変を感じ取っての現在のやり取りである故に、小鳥遊が『無事』と形容される様な状態では無い、と言うのが彼女の認識する処なのだろう。
そんな彼女に対して、何処か呆れた様な声色にてリンドヴルムが話を続ける。
『無事も無事よ、何せ主殿本人としての意識は確りと残っておるからのぅ。今も、身体の主導権を取り戻そうと、必死になって悪戦苦闘しておるわ』
「……!?それは、本当ですか!?」
『この状況で嘘を言ってどうするのかのぅ?まぁ、少し前までは【龍の因子】によって形成された疑似人格によって身体から弾き出されておったみたいじゃが、今は上手いこと身体の中に戻っておるようじゃぞ?もっとも、気付かれたらまた弾き出されると直感的に悟っておるのか、今は出来るだけ機を見る様にして大人しくしておるみたいじゃがのぅ』
「……では、タカ殿は無事なのですね!?」
『じゃから、さっきからそう言っておろうに……。
まぁ、とは言え、ソレをどうやってタツ殿に伝えるつもりなのかは知らぬが…………あ。ホレ、アシュタルトよ。良く見てみるが良いぞ。主殿が無事な証拠が見れるからのぅ』
「……え!?どこ!どこですか!!?」
慌てるアシュタルトを制する様に、手で示そうとするリンドヴルムであったが、現在の姿ではあまりに手が小さ過ぎた為に断念し、その尻尾の先にて二人が戦っている最中での部分部分を指し示す。
『……ホレ、あそこじゃ。あ、今もじゃな』
「……え……っと、右手の動き……でしょうか……?」
『ほっ、良く分かったの!どうやら、右手だけなのか右腕全てなのかは知らぬが、ある程度は意のままに動かせる状態であるのは間違い無かろう。
意味までは知らぬが、いつぞやも主殿が男子の間であの様な方法でのやり取りをしておった故に、恐らくは示し合わせの為のモノなのじゃろうのぅ』
「……えぇ、私も、意味までは解りかねますが、確かにあれはタカ殿が戦闘中に好んで使われる『はんどしぐなる』なるモノかと。
タツ殿も、反応から見るに、恐らくは気付かれたのでしょうね。今までとは空気が違う気がします。
……こう言う時、正直な話嫉妬してしまいますね。こうして情けを交わした間柄になったと言うのに、同性とは言えソレ以上に理解し合えている相手を見せ付けられると、自らの不甲斐なさと嫉妬心で泣きそうになってしまいます……」
『…………いや、敢えて断言させて貰うが、ソレはあやつらが異常なだけじゃからな?
妾とて、本気で見るつもりでなければ見逃してしまいそうな連擊の応酬の最中に在りながら、その僅かなサインを見逃さないタツ殿も大概じゃが、疑似人格に気付かれない様に、動かしてもわからないタイミングを見計らいつつ、それでいてタツ殿にも解る様にサインを出し続けておった主殿も主殿じゃからな?
あれらは最早、人の言う『信頼』だとか『結束』だとかを等の昔に通り過ぎた人害の連携が成せる業で在って、そこを基準にするのは流石に良くは無いのじゃぞ?端から見ている限りでは、お主も十二分に主殿と通じ合っておるからのぅ?』
何故か勝手に落ち込むアシュタルトと、ソレを呆れた様な声色にて慰めるリンドヴルムだったが、二人のそんなやり取りを尻目に試合は大きな場面の転換を迎えていた。
『おーっと!試合が開始されてから十分近く経った今になって、ようやく大きな動きが出て来たか!?
最初の一当てを除けば、今の今まで対照的だった二人の動きに変化が現れたぞ!!
今まで与えられていた怒濤の責めをひたすらに回避し、防御する事に専念しながらカウンターを当てる事を狙っていたと思われるタツ出場者が、相手を翻弄する様にして目にも止まらない様な速度で移動しながら、こちらも見切れない程に濃密かつ数多くの連擊を放っていたタカ出場者へと、今試合始まって以来初のクリーンヒットを叩き込んだ!?
倒れる事は無かったものの、現在も膝を突いてしまっているタカ出場者。案外と良い処に貰ってしまったのか、苦しそうに表情を歪めながら立ち上がろうとしているが、中々上手く行っていない様子だ!!
片やクリーンヒットを放ったタツ出場者。狙った通りにカウンターを浴びせる事には成功した様だが、防御に徹していた時に負ってしまったダメージが嵩んでいるのか、息を荒げながら立ち尽くすのみで追撃に移る事が出来ないでいる!!
未だに審判がジャッジに割り込む様な事態にはなっていない為に試合は続行されますが、どの様な結末を迎えるのか全く予想が付きません!!果たして、勝つのはどちらなのか!!?』
そのアナウンスに従って反らしていた視線を再び二人へと向けると、確かにアナウンスにあった通りの光景が目に飛び込んで来た。
片や、膝を突いて苦悶に表情を歪めつつ、戦意冷めやらぬ視線にて辰郎を睨み付ける小鳥遊。
片や、全身へと大小様々な傷を作り、少なくない量の出血を伴いながら小鳥遊を見下ろす辰郎。
互いに戦闘を続行させる意思は潰えていないながらも、両者共に蓄積したダメージと疲労によって追撃する事も、態勢を整える事も出来ずに互いに睨み合う事しか出来ないでいた。
暫しそうして睨み合いを続ける二人だったが、床へと膝を突いていた小鳥遊の方が、おもむろに立ち上がり構えを取る。
三人の内で最もタフな辰郎とは言え、根本的な回復手段を使えない状況に於いては失った体力を補う事は難しく、一撃で大きく体力を削られたとは言え、回復力に優れていた小鳥遊の方が先に態勢を整える事に成功した、と言う事だろう。
何処か悔しそうな色を見せる辰郎へと、普段であれば戦闘中には決して浮かべないであろう『嘲り』や『嗜虐心』と言ったモノを浮かべた小鳥遊が迫る。
足元をふらつかせながら辰郎も構えを取り直すが、遠目に見ても万全とは言い難い状態である事を見抜くのは、そう難しい事では無かっただろう。
ましてや、間近にいる小鳥遊にとっては余計に容易い事だったと言っても間違いでは無く、まるで獲物をなぶる様な、ゆっくりとした歩調にて辰郎へと近付いて行く。
それに今さらながら異変として感じ取ったらしいアナウンサーが騒ぎ始め、それに合わせて観客が悪い意味でざわめき始めるが、そんなモノは知った事では無い、とでも言いたげに、辰郎から少し離れた処で立ち止まった小鳥遊は、そこから一歩大きく踏み込んで加速すると、その手にしていた得物を辰郎の身体へと突き立てる為に鋭く突き出す!!
……が、突然つんのめる様にして小鳥遊が急停止した為に、その穂先は中途半端な距離までしか届かず、辰郎へと直撃する事は無かった。
どうやら、その動作自体が小鳥遊の意図したモノでは無かったらしく、突然自らの足が停止した事に驚愕して目を白黒させながら、身体をまさぐる様にして全身を手で触って確かめている。
ソレを不審そうに眺めていた辰郎だったが、突然何の前触れもなく小鳥遊の右腕が停止し、複雑な指の動きにて一瞬の内に複数のサインを辰郎へと向けて示唆し始める。
それに対して辰郎は、その一瞬こそ驚きによって目を見開きはしたものの、即座に表情を引き締めて拳を握り締めて渇を入れると、力強く小鳥遊目掛けて踏み込みを掛ける。
当然、小鳥遊も半ば反射的に迎撃の構えを取り、辰郎を迎え撃たんとするが、両者の激突の寸前にてまたしても小鳥遊の意に反するタイミングで手足が勝手に動いたらしく、中途半端な体勢のまま固まってしまう。
更に、その時初めて右腕全体が、まるで身体とは別の意図の元に動いているかの様な動作にて動き始め、無防備に辰郎の拳を浴びようとしていた小鳥遊の頬を、タイミングを同じにして殴り飛ばしてしまう。
同時に二発、しかも割合と手加減抜きでの攻撃を貰ってしまった小鳥遊は、その場から一歩、二歩と後退る。
その様子を警戒を顕にしながら見守っていた辰郎だったが、立ち止まった小鳥遊が首の調子を確かめる様にして『ゴキリッ!ベキバキッ!!』と音を響かせながら左右に振っている様子を見て警戒を解除する。
「……漸く戻ったか。手間を掛けさせるな、馬鹿者め……」
「……悪い悪い。まさか、こんな副作用が在ったとは思わなくてな。それに、ソレが今出てくるとも思ってなかったから、正直俺もビビったよ」
「……それで?完全に取り戻せたのか……?」
「まぁ、今の処?まだ入ってた奴は残ってるみたいだし、隙あらばまた奪おうとしているみたいだから、油断は出来ないけどな」
「……ならば、まぁ良かろう。では、決着と行こうか……?」
「応ともさ。久方振りのお前さんとの死合いを楽しめなかったのは心残りだが、この際贅沢は言えまいよ。一発勝負でよろしいか?」
「……是非も無し……!」
正気に戻ったらしい小鳥遊と、ハンドシグナルと視線や表情にて会話を終えた辰郎は、改めて互いに構えを取り直す。
互いの状態を考慮して、本気で殺し合いをするのでなければ、次の一撃にて決着としよう、との提案によって互いに構え、同時に踏み込みを掛ける。
辰郎によって繰り出された、螺旋を描く渾身の一撃は、同時に突き出された小鳥遊の神速の突きを弾く事に成功する。
が、流石にそれまで流した血の量が多過ぎたらしく、平素であれば半分眠っていても繰り出されたであろう二擊目を繰り出すのが、普段よりも半拍程遅れてしまう。
通常であれば、隙とも言えない様な、刹那の間隙。
しかし、辰郎と今まで幾度と無く手合わせしてきた小鳥遊にとっては、見逃す方が悪い、と言われても仕方無い程に、明確な隙が晒されていた。
当然の様に、その隙を突く小鳥遊。
自らの暴走により全身に傷を負い、そのせいで出来た隙であろうとも容赦無く貫くその姿勢は、他人から見れば決して誉められる様なモノでは無かったかも知れないが、小鳥遊達にとってはソレが普通であった為に、遠慮や良心の呵責も何のその、と言った感覚で手首を操作し、跳ね上げられる寸前だった得物の動きを調節すると、一切の無駄や時間差を生じさせる事無く石突き近くの柄にて、掬い上げる様にして辰郎の胴体を強かに打ち据える。
「……グフッ……!?」
流石の辰郎でも、それまでの疲労や出血によるそもそもの体力の減少に加え、人体急所の一つである脇腹に強烈な打撃を受けてしまっては耐えきれなかったらしく、苦鳴を漏らしてその場で踞り、打ち据えられた場所を抑えながら脂汗を滴らせている。
その様子を確認し、それで漸く構えを解いて得物を地面へと突き、持たれ掛ける様にして体重を預け始めた小鳥遊を見て、漸く正気に戻ったらしい審判が辰郎へと駆け寄る。
審判による試合続行の確認が行われるが、辰郎本人が首を横に振った事により『試合続行の意思無し』との判定が下り、審判によって試合の終了と共に小鳥遊の勝利が宣言される。
それにより、会場は観客とアナウンサーによる戸惑い声に満ちながらも勝者を称えると言う、獣王祭が開始されて以降初めての状態となるのであった。
……なお、アシュタルトとリンドヴルムが密かに胸を撫で下ろしていた事は、会場にいた誰にも見られる事は無かった様子である。
……正直、本人(作者)も『もうちょっとどうにかならんかったかな?(--;)』と思わなくもないですが、何故かこうなったのでご了承下さいませm(_ _)m
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