198・お見舞いついでに事情を聞いてみます
ブックマークにて応援して下さった方々に感謝ですm(_ _)m
決勝の第一試合を勝利で終えた俺は、現在会場内の廊下をとある人物と共に歩いていた。
本来であれば、次の試合にて行われるタツとネフリアさんの試合でも観戦しようと思っていたのだが、あいつらもそろそろ暴露する予定だと言う話だし、流石に相手が相手故に奴も『本気』を出すだろうから、多分負けはしないハズだから大丈夫だろう。
レオの方も、勝ち残っていた十二獣将の二人と、残りの黒ローブとが同じ枠での割り振りになっていたが、どうせ勝ち残って来るだろうからあっちも大丈夫だろう。むしろ、あいつとかち合う羽目になった十二獣将の方々には『御愁傷様です』と言わざるを得ないだろう。何気に、レオの奴が俺達の中で一番手加減を知らないからね。
……重傷者が出ないと良いのだけど……。
あ、因みに、決勝での組み合わせに明言していなかったと思うからついでに触れておくと
第一試合・『俺』対『ラプス』
第二試合・『タツ』対『ネフリア』
第三試合・『十二獣将その一』対『黒ローブ』
第四試合・『レオ』対『十二獣将その二』
と言った感じになっていたハズだ。
なので、俺が次に当たるのはタツかネフリアさんの勝った方で、その次に当たるとしたら第三・第四試合の出場者の中で勝ち残った一人となる予定だ。
もっとも、そうしようとすると、俺が次の試合にも勝たなくちゃならないが、相手がどっちになったとしても容易ならざる相手である事に変わりはないのだから、欠片も油断は出来ないんだけどね?
と、そんな事を内心で考えてながら、時折見掛ける案内の通りに通路を進んでいると、目的としていた部屋へと到着する。
俺の我が儘でこうして着いて来て貰っているので心苦しいのだが、まだ出番をお願いする場面になるかは不明だったので、取り敢えず中の会話が聞こえるであろう程度の位置にて待機していてもらい、扉を軽くノックしてから『救護室』と書かれた札の下がっている部屋の中へと歩み入る。
部屋の中には手前側に普通のサイズのベッドが等間隔に幾つも並んでおり、奥側に行くに連れて大型の『獣人族』でも対応出来る様に大きなサイズのモノが並べられている様に見える。
『回復薬』や回復魔法の存在するこの世界でも、この手の治療室は似た様な匂いになるのか、何処か消毒液の様なモノの混じった薬臭さの立ち込める部屋の中をグルリと見回す。
普段であれば、闘技場の闘士や挑戦者等にて満員御礼のごった煮状態であったのだろうが、現在獣王祭の、しかも決勝の真っ只中と言う事もあってか、埋まっているベッドは一つだけで、しかもそのベッドの住人は身体を起こしてこちらへと驚いた様な表情と視線を向けて来ていた。
「よぅ、さっきぶり。大丈夫……じゃ無さそうだし、あんまり元気そうでも無いな」
「……当然でしょ?ついさっき、君に散々やられちゃったんだからボロボロだよ。
それで?私をズタボロにしてくれた『英雄サマ』は、こんな負け犬相手に一体何の用が在るって言うのさ?こうしてベッドの住人になっている様を笑いにでも来たって訳?」
呆れた様なジト目を向けながら、やや攻撃的な口調にて言葉を投げ掛けて来たのは、大方の予想を外していないと思われるが、当然の様に先程の試合にて俺に敗れたラプスその人であった。
何より力を重視する傾向に在る『獣人族』でありながら、自身を打倒しただけでなく、確かな実績(本人的には大変遺憾だが)がその実力を証明している俺に対し未だ攻撃的な態度を取ってきており、そんな彼女の姿勢にそこはかとない好感をえながら、改めて彼女の状態を確認する。
当然と言えば当然だが、やはり全身包帯でグルグル巻き状態。
特に負傷が酷かったのか、短剣で貫いた右膝とへし折った左脛。そして磔にした際に短剣で貫いた両腕には特に分厚く包帯が曲がれ、その上から簡易的な魔法を込められた魔力が尽きるまで特定の魔法を発動し続ける魔道具が装着されている。当たり前だが、指定されているのは低位の回復魔法だろう。それ以外に、使う意味は無いだろうしね。
俺の視線に気付いたのか、何処か達観した様な表情にて軽く腕を動かし、魔道具の装着された部分を翳す様にして見せて来る。
「これ?両腕、両足、その他諸々合わせて全治半年だって。しかも、誰かさんが滅茶苦茶に壊してくれた足は、このままだと元通りには回復しないってさ。骨系の回復に特化させた『特殊回復薬』か、もしくは『神の水』でも使えば話は別だけど、回復魔法に頼るとなると余程腕の良い術者にでも当たらないと日常生活がやっとだろう、ってさ」
「……そうか」
俺の、淡白過ぎる程に淡白な返答を受け取ったラプスだったが、他の種族の者であればその顔に浮かべていたであろう『憎悪』や『憤怒』や『恨み嫉み』と言ったモノは不思議と欠片も存在せず、ただ単に苦笑いが浮かべられていただけであった。
「……アハハッ、まぁ、気にするな、って言っても無駄だとは思うけど、本当に気にしないでよ?私達『獣人族』としては、あれだけ実力差の在る相手と戦って、こうして生きていられるだけでも奇跡みたいなモノなんだから。日常生活程度なら支障無い程度までならキチンと回復するみたいだし、十分でしょう?
それに、それ以上を求めたくなったら、必要になるモノを気長に探すことにするよ!これでも、結構頼りになる知り合いだとか、独自の情報網だとかは持っているんだからね!多分どうにかなるでしょ!
……まぁ、これで願いは叶えられなくなっちゃったから、それだけが心残りではあるけど、さ……」
自身の事については、試合前の様に闊達とした様子を見せていた彼女だが、試合中にも何かにつけて口にしていた『願い』について言及する際には沈んだ雰囲気を纏っていた。
……まぁ、こうして聞く前から分かってはいたけど、やっぱり訳有り、しかも、獣王にたいして直訴する事が必要なレベル、か……。
一緒に連れてきている人物が人物故に、一応聞き出すだけは聞き出しておいてた方が良いだろう。
一応、本人も興味を持ったが故に着いてきていたのだから、余程しょうもない事でなければ聞けばどうにかしてくれるんじゃないかな?多分だけど。
そう結論付けた俺は、連れてきている人物を表に出せば一発で済む事ではあったのだが、取り敢えず聞き出すだけ聞き出してみるか、と決心して口を開く。
「……何があったのかは知らないし、あまり興味も無い。それに、自分達の力でどうにか出来ないか、を試さない内に他人に丸投げしようとしているなら、正直吐き気がする程下劣な心根なのだろうと唾棄するだろう」
「……突然何を言い出すかと思ったら、わざわざそんな事言わなくても良くない?それに、そうやって決め付けるのは止めて。
私達だって、誇りってモノが在る。だけど、もうどうしようも無かったから、こうして解決出来そうな人に頼りに来たんじゃないか!!それを叩きのめした君に、どうしてそんな事言われなきゃならないのさ!?」
「まぁ、だろうな。お前さんの今の様子からは、さっき俺が言った様な甘ったれた状態じゃなく、八方手を尽くした後に捧げる『祈り』に近い状態なんだろうよ。そこまでやった後にすがらざるを得ないなら、流石に否定はせんし多少の興味も持つさ」
「……興味を持たれた程度で、解決出来る様な簡単な問題じゃないんだよ……」
「そうかもしれんが、一応これでも『英雄』なんて言われている身ではあるからな。大抵の事はどうにか出来る……かも知れんぞ?今の今まで一度も我が儘言った事は無いからな。多分余程の事を言い出さない限りは、まともに聞いてもらえるハズだが?」
「……え?それは……そうかも知れないけど……。でも、でも私達の問題を解決して貰うのは筋違いだし、何よりそんな事して貰う義理でも無いし……」
「まぁ、無いと言えば無いが、さっきも言った通りにこれでも一応『英雄』なんでな。目の前でそうして絶望されてると、少々尻の座りが悪いんでな。それに、お前さんの願いを叶えるのを妨げた張本人でも在る。
だったら、その願いを聞く程度はしてやらねばなるまいよ。もっとも、どんな問題でも解決してやれる、と確約は出来んから、今の処は聞くだけならば、と付く事になるがね?」
俺のその物言いに、最初はポカーンとした表情を見せていたラプスだったが、次第にその顔を呆れた様なモノへと変えて行き、最後にはクスクスと微かな笑い声すら漏らす程になっていた。
そして、何かしらの決心でも付いたのか、それまでの何処か糸の切れて生気を喪いつつ在る様な様子から一変し、新たな決意と共に瞳に光と力を漲らせながら、力強さすら感じさせる声色にて
「じゃあ、聞いて貰うだけ聞いて貰おうかな?」
と自身の方針を声に出して俺へと伝えると、改めて自身とその周辺に降り掛かった事柄について語り出すのであった。
******
「ーーーと言う訳で、私達としてはこの国を統べる獣王陛下ならどうにか出来るんじゃないか?と最後の希望を託して、私を今回の獣王祭へと送り込んだ、って言うのが、私が抱えている事情と、それに付随していた『叶えたかった願い』って奴なんだ。
……それで、どうにかなりそう……かな…………?」
一通り語り終えたラプスが、こちらの表情を窺う様な視線を向けて来る。
それに対し、俺の方からも何かしらのアクションを返してやるのが、今後のコミュニケーションを円滑にする上では重要なのだろうが、とてもではないがそこまで気を使ってやる心理的余裕は存在せず、顔をしかめながら右手で眉間に寄った皺を揉み解す様にして心を静めようと試みる。
……俺がそんな状態に陥っているのか、と言うと、答えは割合と単純。
彼女が聞かせてくれた身の上話が、俺が想像していた以上に胸糞悪い話だったから、と言うだけの事である。
彼女から聞いた話をそのままするには時間が掛かるので、ある程度俺が聞いた上で要約すると大体次の様な感じになる。
・彼女達『ウォーラビット』(『コボルト』だとか『ウェアウルフ』だとかの様な括り)は、この獣人国の中でも比較的環境の厳しいヴァーゴの街の更に国境寄りの辺境に住んでおり、周囲の環境はほぼ砂漠や荒野と言った処。
・それまでは点々と存在するオアシスや、季節毎に発生と消滅を繰り返す(雨期と乾期の差が激しいらしい)肥沃な土地を目指して放浪しながら、その時々にて魔物を狩ったり放牧や農耕をしたりしながら生計を立てていた。
・しかし、去年辺りからその周辺の土地を治める領主が代替わりし、それまでの徴税の方針(町に立ち寄って交易したりした際に一定割合で徴税)から大きく変更し、大まかに決まっている周回ルートのオアシスや肥沃な土地への移動の要衝上にて複数箇所課税地点を設置するだけでなく、全てのオアシスにて使用料を徴収する様に設定してしまう。
・当然ウォーラビットの皆は領主に対して抗議するが、それらの一切を聞き入れる事も無いだけでなく、抗議に出向いた部族の長達や長老達に対して、男性は決闘と称しての不平等な私刑(領主側は全身鎧で超武装、片やウォーラビット側は碌な防具すら与えられずに当然の様に素手、等々)を加えて拷問する様にして殺害し、御付きとして同行していた女性達は奴隷として領主の館に囚われ、夜毎に辱しめを受けさせられた。
・それらの扱いに激怒したウォーラビット達は、最初こそその領主をどうにかしようと様々な試みるをしてみたのだが、その悉くが失敗。最後の手段でもあり、狩猟民族でもあった為に絶対の自信が在った武力行使も、領主側の私兵の多さを前に、部族の存続を鑑みて敢えなく断念さぜるを得なくなってしまう。
・敗北の屈辱に震えながらも、それでも最近まではどうにか堪え忍び、課せられた税を血を吐く思いで捻出しながら放浪の生活を続けていたのだが、最近になって更に税を重くするとの御触れが出される事となる。しかも、ウォーラビットのみを狙った様な課税の仕方で。
・流石にこれ以上は生活して行く事は出来ず、その上で支払いを迫られている税を納める事が出来なければ、女子供は当然として部族丸ごと奴隷に落とされる、と言う存続の瀬戸際まで追い込まれ、最早他の土地に移住するか、もしくは思いきって他の国へと亡命するか、と言う処まで部族内での話し合いが紛糾する。
・その際に、そう言えばそろそろ獣王祭の季節じゃないのか?と言う話題が出て、トントン拍子で出場を決定。結果的には当時の部族内での最強だったラプス(部族全盛期で見ると良くて『上の下』程度の位置だったらしい)を送り込む事となる。
・彼女の優勝した際に獣王へと告げる願いとしては、自身の部族の保護ないし救済、または領主の罷免を、無礼を承知の上で告げ、それが叶えられるのであれば自身の首一つ程度ならば幾らでも捧げるつもりであった。
……もう、ね。なんと言うか、ね。
この世界に来てからも、色々なゲスい連中を見て来はしたけど、その中でも中々に希に見るゲスさじゃないか?その野郎。
しかも、あのヴァイツァーシュバイン王国の貴族でした、とか言うならともかく、この獣人国でそんなクズがのさばっていた、と言う事にも、俺個人としては少なくないショックを受けてもいたりするのだ。
……まぁ、いつぞやのクソライオンの例が在るから、一概に民族性だけで評価する事は出来ないだろうが、それでもこの国の気風的に、あんまり多くは無いのだろう、と思っていただけその衝撃はひとしおである。
そうやって顔をしかめて黙り込んでしまった俺の姿を目の当たりにしたからか、彼女は悲しそうにしながらも、何処か当然の事を受け入れた様な表情をしながら微かに微笑む。
「……ゴメンね?こんな話聞かせちゃって。まぁ、でも、最初から分かってはいた話だしね?
君がどれだけ強かろうとも、どれだけ世間的な名声があろうと、それでも国の権力には逆らえないからね。
私も、こうして勝てなかった以上、諦めて故郷を捨てる覚悟を……」
「いや?どうにかならなくもないぞ?多分だけど」
「………………え……?」
「いや、だから、どうにも出来なくは無い、とは思うぞ?まぁ、今すぐにどうにかしろ、と言われても、俺にはどうにも出来ないけど、それをどうにかしてくれる……かも?って程度の知り合いなら、一応からね。頼めば、多分どうにかしてくれるんじゃないか?」
「……………………え……?」
凄絶な覚悟と共に放たれ掛けた言葉に対し、軽い調子で被せる様にして放たれた俺の言葉により、混乱したのか固まってしまうラプス。
もっとも、本人が希望を抱き、それを挫かれ、その後もしかしたらとの思いから事情を説明したら難しい顔をされ、最後に全てを諦めようとしたら軽く『いや、多分どうにか出来るけど?』とか言われれば、そうなってしまっても当然かも知れないけど。
そんな彼女の目の前でヒラヒラと手をふり、まともにこちら側へと戻ってきていない事を確認した俺は、以前試しに作った数種類の『回復薬』をサイドテーブルへと置き、その効能と飲む順番を指示したメモを残して部屋を出るのであった。
「…………あんたの事だから、どうせ聞こえていたんだろう?それで?どうするつもりだ?
もし、万が一、あんたが話に出てきたクズを庇うつもりなら、俺は一生あんたを軽蔑する事になるんだけど……?」
「……フンッ!馬鹿を言うでないわ。儂とて、彼の者達の現状を把握出来ておらなんだ事に腸が煮えておると言うのに、これ以上儂の許容量を図る様な真似はしてくれるなよ?儂としても、そなたに当たり散らす事はしたくないのでな」
「……なら、きっちり動いてくれよ?頼んだぜ?これ以上、俺にこの国に対しての失望を抱かせないでくれよ?」
「そなたこそ、確り勝ち残るのだぞ?流石に、優勝者の『願い』であれば儂が動かぬ訳には行かぬし、それを止める事こそ不敬と言うモノよ。故に、そなたもしくじるでないぞ?くれぐれも、な?」
約二名、激おこ中
首謀者、南無
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(_ _)m




