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196・獣王祭決勝開始です

ブックマークにて応援して下さった方々に感謝ですm(_ _)m

 


『本選全試合が終了し、決勝進出者が全員集まった』



 その通知を俺達が受け取ってから早数日。


 俺達の姿は、毎度お決まりになりつつある、首都アルカントの闘技場に在った。


 と言っても、そこに居るのは俺達決勝進出者四人だけでなく、残りの進出者四人も居る。

 その為、俺達三人はそれなりの距離感で。

 ネフリアさんは、それよりも多少離れた感じで佇んでおり、同じパーティーとして活動している、とは容易には思えないだろう。


 この決勝にて俺達の正体を明かす予定ではあるが、今の段階でバレてしまっては些か盛り上がりに欠ける事になるし、何より面白く無いので出来る限り可能性は潰しておきたい。

 まぁ、ネフリアさんには悪いことをしているな、との認識は確り在るので、獣王祭が終わったら何かしらの穴埋めでもしておいた方が良いだろう。


 ……このタイミングで『何でも言う事を聞いてあげよう』、とか言えたら格好いいのだろうが、彼女の場合はそれで関係を迫って来る可能性が高いし、何よりそれが冗談なのか本気なのかが分かり難いのが一番の難点だと言っても良いだろう。

 マジで、たまにからかわれているのか、本気で言っているのか分からなくなるから困るんだよねぇ……。


 そんな事を、共に仮面を付けてこの場に来ている二人と、駄弁る様にしてダラダラと話していると、どうやら俺達と同じ様に本選を勝ち抜いて来たらしい、俺と同じ予選ブロックに居た兎耳の『獣人族(ベスタ)』の女性がこちらに向かって歩いて来る。


 可能性としては、これから戦うかも知れない実力者に挨拶を、とでも思っているのかも知れないが、本選の籤引きの際の会話から恐らくは俺目当てだろうと目星を付けて、取り敢えず対応しておく事にする。



「……おや、久し振り。名前も知らないが、元気ではあるみたいだな?」


「ハァイ、お久し振りね。名前も知らない、と言うのはお互い様じゃない?『97』番さん?それとも、『仮面を被った超剣士』さんって呼んだ方がお好みだった?」


「……それなら、『97』番の方で良い。もしくは、申請してある『ノーフェイス』でも好きな方で呼んでくれ……」



 ……突然、思ってもいなかった方向からジャブを浴びせられた様な感覚に、思わず溜め息を漏らしながら対応する。

 何やら、後ろの二人が『面白そうなモノを見付けた』とでも言いたげな雰囲気を放っているが、そこは可能な限り無視しておくに限るだろう。主に、俺の精神衛生的な問題で。



「……それで?結局、何用かね?相手の嫌がる事だけしてくれる、自分の名前も名乗らない兎さんや?」


「アハハッ!ちょっとからかい過ぎたかな?ゴメンゴメン。悪気は無かったんだ、本当だよ?ただ、一応顔見知りで、一緒に戦った事もある相手として、ここ(決勝)まで進めた事へのお祝いと、これからの戦いに関しての応援を一つしておこうかな、とね?」



 思わず、少々攻撃的な口調になっていた俺からの言葉に、苦笑いを浮かべながら謝罪を口にする兎さん。

 自身もこうしてこの場に来ている以上、これから戦い潰し合う事になるかも知れない相手に対してエールを送る、と言う行動に違和感を覚えながらも、その感情は仮面が上手く隠してくれたらしく、気付かれる事もなくそのまま会話が続けられる。



「……フフッ、そんなにおかしいかな?これから戦う相手を応援する、なんて事が」


「……種族が違う以上、風習や規範も異なって当然だろう。だから、不正解だとか不謹慎だとかは言うつもりは無いよ。

 でも、流石に不可解ではある、かな?」


「まぁ、外の人達にとってはそうかもね?

 私の部族では、こう言う戦いや試合に臨む時に、相手にも全力を出し切ってもらって、後に悔いが残らない様に互いに応援し合う、って習慣が在るんだ。

 だから、顔見知り程度の間柄であっても、一応声を掛けておこうかと、ね?それに、こうしてこう言う催しに参加している以上、何かしらの『叶えたい願い』が貴方にも在るんでしょ?だったら、誰か一人位はそれを応援してあげる敵がいても良いんじゃない?

 もっとも、私は私で叶えたい願いが在るから、途中で当たっても負けてあげるつもりは無いけどね?」


「……言う程大層な願いでは無いつもりだが、確かにこちらもわざと負けてやる予定も無い。

 恐らく、予選と違って手加減出来ないだろうが、もし当たったら負けても恨んでくれるなよ?」


「アハハッ!これは、中々言ってくれるね『ノーフェイス』君も!確かに、それはそうだろうね!他人(ひと)から見た願いの大小なんて、そんなの計り知れないだろうし、何より意味の在る事でも無いなんて結構覚った事を言うんだね、君は!年下かと思っていたけど、案外年上か同年代だったりするのかな?

 ……でも、私は私で叶えたい願いが在るんだから、手加減出来ないのは一緒だよ?その、腰に差してる『奥の手(とっておき)』を目論み通りに使えるとは思わない方が良いかもよ?それに、私は私で『切り札(とっておき)』を用意して無いとも限らない、とだけ覚えておいた方が良いかもね?

 じゃ、今回はこの辺で。またね!」



 笑顔で会話を切り上げて、他の出場者達の所へと歩んで行く彼女。

 結局自らの名を名乗る事をしなかった為に、未だ名称不明のままではあるが、その足運びや動作から察せられる筋肉の付き方等から判断すると、どうやらかなりの『遣り手』である事が推測出来た。

 恐らくは、最低でも十二獣将であるボアに匹敵するだろう程度の実力は持っていると見て間違いは無いだろう。


 もっとも、俺と戦った時の(ボア)は、あくまでも『試合』であると言う事もあってか、俺達で言う処の『全力』ではあっても『本気』では無かったみたいなので、まだまだ彼には上が在るだろうし、彼女もまだ奥の手を披露していない以上、このままでは欠片も油断は出来ないだろう。



 …………これは、そろそろ『良い』かも知れないな……。

 むしろ、タイミングとしては、割りと申し分無い、か……?



 そう決断した俺は、俺が何を決断したのかを察して戦意を向上させつつ在る二人に振り返ると、俺自身も口元を戦闘への期待からの高揚感にて吊り上げながら、二人に対して提案するのであった。





「……なぁ、俺が言うのもなんだけど、そろそろ『解禁』しても良いと思わないか?二人とも」



「「……応とも、さ……」」





 なお、それを比較的間近で眺めていたネフリアさん曰く



『口元ヲ隠してイタ(レオ)も含めて、全員ガ同じ様なカオをしているノガ簡単に想像出来る様な声色と表情ダッタヨ?ヤッパリ『男の子』なんだネ』



 との事であった。

 ……そんなに、無邪気な表情をしていたのだろうか……?(注※違います)





 ******





『さぁ、今年も始まりました獣王祭決勝!この国で最強に近しい位置にまで登り詰めた八名による、最強を決める為のトーナメントが幕を上げます!果たして、この内の誰が最後まで勝ち残り、真の最強の一角である獣王陛下と相対するのでしょうか!?

 まずは第一試合!出場者番号『97』!!【仮面を被った超剣士】『ノーフェイス』と!出場者番号『29』!!【駿足の連撃兎】『ラプス・クルークニス』の入場です!!』



 会場に響き渡るアナウンスにより、観客席からの歓声が一回り大きくなる。

 思わず耳を塞ぎそうになるが、既に一部の観客席からは入場口にて待機している俺の姿が確認出来る様になっているが故に、敢えて反射を圧し殺して変わらずに待機の体勢をキープする。


 厳正なる籤引きの結果、こうして彼女と初戦から当たる事となってしまったが、悪いことばかりでも無いだろう。


 何せ、彼女が他の出場者に敗れて脱落するよりも早く、彼女と手合わせする事が出来るのだから、むしろ俺としてはついていた、と言う方が正しいかも知れないが。




『まず入場するのは東側!予選第一試合の突破者であり、常に最初の試合を担って来た『最初の女(ファーストレディ)』!数々の難敵を、その軽快な動きと無数の手数で沈めてきたスピードファイター!!果たして、彼女の『速さ』は決勝でも通用するのか!?【駿足の連撃兎】『ラプス・クルークニス』!!』




 会場から沸き上がる歓声と共に、俺の居る入場口の反対側に在る入場口から例の彼女が入場してくる。


 愛想良く周囲の観客席に手を振りながら会場の中央へと足を運んでいるが、その視線は油断なく会場の床の状態をチェックしているし、注意力を拡散させているのにも関わらず上体が揺れる事もブレる事も無いままに歩き続けている。

 遠目に見ても、予選で居合わせた時とは装備のランクが段違いである事が見てとれる。

 何より、その腰に下げている短剣は何処ぞの迷宮から産出された業物であろう事が、纏っている雰囲気から察せられる。


 それらだけでも『本気』であると判断するのに十二分ではあったが、何よりまだ試合が始まった訳でも、ましてや俺が会場に入っている訳でも無いのにこちらに対して極大の注意を払っている事から、やはり彼女が『本気』でこの試合に挑んでいるのであろう事が察せられた。



 ……やはり、今回から『解禁』する方向に切り換えて、正解だったかねぇ……。



 戦いを目前にした高揚感と、遠くからでも判別出来る程の戦意を向けられ事によるゾクゾクとした期待感から、思わず口元が喜悦に歪んで吊り上がる。


 突然の俺の反応や、それまで聞いていた(・・・・・)のとは根本から異なる俺の装備に怪訝そうな視線を送ってきていた係員に、予め用意していた紙切れを渡す。


 最早困惑に近しい表情を浮かべていたその係員に対し、俺が入場したらその紙切れをアナウンサーの処まで持って行って欲しい、と告げると同時に、俺の入場を促すアナウンスが会場へと響いて行く。




『対するはあの男!彼女と同じく予選第一試合に出場し、参加者の過半数を単独で撃破しただけでなく、その後も数多くの優勝候補達を薙ぎ払い、その上で十二獣将のボア・フェルスおも下した猛者!!真の強敵を前にした時のみ抜かれる二振り目の刃は、今日も抜かれる事になるのか!?【仮面を被った超剣士】『ノーフェイス』!西側から入場です!!』




 アナウンスに従って会場へと歩み出る。


 俺の姿に反応し、即座に先程と同じ様な歓声が沸き起こるが、次の瞬間には困惑のどよめきがそこに混ざり始め、徐々に歓声を浸食し駆逐して行く。


 それもそのハズ。

 何せ、それまで出回っていた情報とも、先程アナウンスにて紹介されたのとも根本的に装備が異なるのだから、困惑の声が挙がって当然と言うモノだろう。


 これから戦う事になる彼女も、驚愕を通り越して愕然とした表情を強張らせ、普段使っている装備のままに会場を歩いて来る俺の姿を凝視していた。


 そんな中、困惑して『これどうなってんだ!?』だとか『俺は何も聞いてないぞ!?』だとかの声が漏れ聞こえていたアナウンサーが、俺の渡した紙片を受け取ったらしく驚愕の叫びを会場に響かせてから再度会場へとアナウンスを開始する。




『……コレ、マジなのか……?本人から渡されたモノ……?なら、そうなんだろうが……。……えぇい、ままよ!!

 ……えー、只今入りました情報によりますと、現在西側から入場したのは『ノーフェイス』選手で間違いないそうです。

 そして、その本人から寄せられた情報を開示する許可も同時に頂いておりますので、改めてまして紹介させて頂きます!


 我らはその名を知っている!我らはその姿を知っている!我らはその声を知っている!!

 それは何故か?それは、彼が我らにとっての英雄だからだ!!

 半年前に発生した彼の国との小競り合い、その際に氾濫しそうになっていた『迷宮』を、たった一つのレイドパーティーが静めた事を覚えているか?

 先の大戦にて、彼に救われた事を知らぬ者は?彼の挙げた武功を忘れた者は、この会場に存在するのか!?

 彼こそは英雄!獣王陛下の友にして、この国を直接的に、間接的に二度も救った救国の人!!

 その槍捌きの前には貫かれない者は無く、決してかの『黒槍』からは逃れられない!!

『黒槍』の二つ名を持つ冒険者、【救国の英雄】『タカ』!!!』




 そのアナウンスに合わせて仮面に手を掛け、外す事無くそのまま握り潰すと、その下に仕込んでいたほぼ仮面と化している眼帯と共に俺の素顔が露になる。


 軽く首を振って残っていた仮面の欠片を振り落とすと、漸くアナウンスと眼前の事実が脳内に浸透したのか、突如として爆発的な歓声が会場内を満たして行く。


 様々な声援に背中を押される形で会場の中央へと歩み出た俺は、肩に担いでいた相棒たる『朱烏(あけからす)』を久方ぶりに一振りして感覚を馴染ませると軽く構えを取り、驚愕に固まる審判と、早くも血の気が引いている様な対戦相手たるラプスへと向けて目配せし、試合の開始を促すのであった。

面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(_ _)m

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新作始めてみました 『血塗れの殺し合いはもうお腹いっぱいだったので、テンプレ展開を期待して追放される為にわざと非戦闘系スキルばかり選んだら、何故か戦闘系スキルの連中を差し置いて『救世主』扱いされる様になりました』 珍しく戦闘少なめなコメディよりの作品になってます ……なってるハズです 良かったら読んでみて下さいm(_ _)m
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