191・予選を終えて
ブックマークにて応援して下さった方々に感謝ですm(_ _)m
「……取り敢えず、これで全員分予選での試合が終わった訳だが、正直どうだった?」
ここアルカントに於ける定宿と化している拠点にて、集まった皆を見回しながらそう問い掛ける。
自分達は完全に関係の無かった従魔達は、興味すら無いのか、それともあまり構ってやれなかった事で拗ねているのか、こちらに視線を送ろうともしていない。
……後で嫌と言う程モフッてから、お詫びに遊んでやるとするかな……。
予選を通過する事が出来ず、敗退してしまったシンシアさんとサーラさんは、どうやら俺の言葉でその事実を思い返してしまったらしく、またしても思い詰めた表情にて床へと沈み込んでいる。
「……そう言えば、この中で脱落したのってボク達だけだったよね……」
「……そう、であるな。某の、主様にご褒美を頂く素敵プランが、全て白紙に……。はぁ…………」
鬱々と沈み込む二人は、まぁ後でケアしておけば良いか、と見切りを付けて、残りの面子へと視線を向ける。
すると、その先には当然勝ち抜けた面子が居るのだが、その表情は俺も含めて二極化している、と言っても良い様子を晒していた。
「僕は~、あまり楽しくは無かったかなぁ~?結構弱かったし~」
「私も、特にこれと言った所感は」
「ワタシもカナァ~?」
「そうですかぁ?私はぁ、それなりに楽しかったですよぉ?」
まず、俺とタツ、そしてサーフェスさんが含まれる、何処か楽しそうな、それでいて期待している様な表情を浮かべている組。
そして、残りのレオとアストさん、ネフリアさんの、あまり期待はしていない、と表情にて語っている組だ。
前者は恐らく、俺と同じく予選にて『面白そうな相手』を見付けている面子で、後者は自身のみで出場者達を蹴散らした為に本選で当たったとしても、楽しくなりそうな相手を見付ける事が出来なかった面子、と言った処だろう。多分。
もっとも、タツの時の相手は、何やら別の意味でタツを狙っているみたいだし、サーフェスさんはサーフェスさんで、割りと消去法にて残された相手であったみたいだから、純粋に相手の技量を見るのが楽しみだ、と言うのは俺だけかも知れないが。
そんな風に考えていると、それまで腕を組んで黙っていたタツが、表情を厳しいモノへと変えながら、その重苦しい口を開く。
「……それで、結局どうする……?」
俺とレオを除いた他の面子は、皆一様にポカーンとした表情を浮かべる。
まぁ、タツの口数が少なく、単刀直入に目的へと入って行くその癖は、長年一緒にいる俺達でないと解読するのは難しいだろう。
以前にも、誤解されかねないんだからどうにかしろ、と言った事は在るのだが、現在に至るまで改善された事は無いので、恐らく本人も諦めている部分が大きいのだろう。多分だけど。
そんな理由から、俺とレオが苦笑いを浮かべながらタツの言葉を翻訳して行く。
「……多分、タツは黒ローブ達とのアレコレをどうするのか?って言いたかったんだと思いますよ?」
「全面的に敵対するのか~、それともある程度は見逃してやるのか~、もしくは積極的には関わりを持たないのか~、って言うそもそもの関わるかどうかの問題から~、関わるとすればどの程度まで、それこそ黒ローブの連中を壊滅・根絶まで目指すのか~、それとも一切合切を無視して降りかかって来た火の粉だけを払うのか、って処かなぁ~?」
俺達の呆れた様な、それでいて親しみも込められた表情と視線にて語られた内容に、ネフリアさん以外の面子が硬直する。
まぁ、それも仕方無い事なのかも知れない。
何せ、国が主催しているイベントに対して、ここまで大々的に仕掛けて来る様な組織に対し、壊滅・根絶する提案が在るのと同時に、それの存在を丸っと無視する提案も出されていると言う事に衝撃を受けたのだろう。
ネフリアさんも、一応は驚いている様子だが、彼女は国だとかの運営に関わる様な機会は無かったらしいので、恐らくはイマイチ実感が無いのだろう。俺も、急に言われたら『ふ~ん、それで?』ってなりそうだしね。
そうやって固まっている女性陣を尻目に、再度口を開くタツ。
「……最悪、俺達は不干渉を貫く、と言うのも一つの手だ……」
「……まぁ、確かに今回は、誰からも依頼された訳じゃないからな」
「僕達が放っておいたとしても~、誰から文句を言われる筋合いは無いしね~。だって~、最低限の義理として獣王には情報を既に渡してあるんだし~、その時に『手出し無用』って言われたんでしょ~?だったら~、それ以上僕達が何かしないといけない理由はもう無いよねぇ~?」
「頼まれてはいないし、寧ろ手出しするな、とも言われているからな」
「……ちょ、ちょっとお待ち下さい主様!?主様は、この獣王国をお見捨てになると言われるのですか!?」
「「「…………場合によっては……?」」」
「……なっ……!?」
あんまりと言えばあんまりな俺達の会話に、それまで硬直していたサーラさんが慌てて割り込んで来たが、その発言に対する俺達からの返答により、再度固まってしまう。
……まぁ、自国の事であり、尚且つ自身が高位の家の者である(サーラさんも実家は十二獣将を輩出する名門)自覚が在るのなら、確かに驚愕で固まりもする、か?
一応、言い訳染みるかも知れないが、軽く説明だけでもしておくかね?
「まぁ、場合によっては、だからね?」
「……何も無ければ、それで良い。そうでなくても、当たれば倒すのに変わりは無い……」
「そもそも~、さっきも言った通りに~、僕達はあの連中をどうにかしろ、と依頼されている訳じゃないからね~。特に何かしらの被害を受けた訳でもないのに~、わざわざ積極的に動かなくちゃならない理由が無いのさ~。僕達だって~、何時も善意だけで動いている訳じゃないでしょ~?」
「……ぐっ……!?た、確かに、それはそうですが……!?」
「それに、依頼が在った訳でも無く、被害が在った訳でも無いのに嘴突っ込んで、万が一事態を悪化させたらどうするの?
それに、獣王の方でもう手を打っていて、俺達が介入したせいでそれが意味の無いモノになったりだとか、ほぼ関係の無かった処まで被害が伝播する事態になったりした場合、どう責任取るんよ?」
「……そ、それは……」
「……何も言われず勝手にやるのであれば、それらは全て俺達が負う事になる責だ。最悪、善意から動いて、全員がお尋ね者となりかねんだろう、な……」
「……でもぉ、それでも何を企んでいるのか、だけでも突き止めるのはダメなのですかぁ?その程度ならぁ、大した影響は出ないと思いますけどぉ?」
「やるならやるで構わないけど~、僕達にはそんなに自由になる時間が無いってことを忘れて無いよね~?明日から本選出場組は~、暫く試合予定で縛られる事になるんだからさ~」
「……それは、そうかも知れないけど……。でも、ボク達の国で起きてる事なんだから、黙って見てるのは性に合わないって言うか……」
それまで硬直していた『獣人族』の二人も参戦してきたが、どうやら俺達の方針が既に『関わらない』に固まっていると勘違いしているらしく、説得を試みて逆に落ち込んでしまっている。
俺達は、互いに顔を見合わせてから肩を竦めると、改めて口を開く。
「……さっきから言ってるけど、俺達は今『関わるかどうか』を話し合っているつもりなんだけど?」
「……関わらないのも一つの手だが、関わるのであればそれ相応の理由が必要だ。そして、どの程度関わるのか、もな……」
「がっつり関わるつもりなら~、獣王にも再度協力の打診をしておかないと色々と面倒な事になるし~、中途半端に手を出す位なら~、最初から関わらない方が余程被害も出ないし手間も掛からないけど~?それでも関わりたいの~?」
「「「お願い(します)(しますぅ)!!」」」
「獣王からの許可が得られなくても?」
「もちろん!」「例え罰せられたとしても!」「流石に見逃せないものぉ」
「……俺達は決勝まで行く予定だ。故に、脱落した面子がメインで活動する事になる。ハッキリ言って危険だろう。出来るか……?」
「「「やって見せる(さ)(のみです)(わぁ)!!」」」
そこまで三人から言質を引き出した俺達は、互いに顔を見合わせてから肩を竦め、レオは『仕方無いなぁ』とでも言いたげな、タツは『……一応は止めたぞ……?』と言わんばかりの表情にて頷いてきた為に、俺もため息を一つ溢してから三人へと向き直る。
「……じゃあ、俺達は積極的に介入して行く、って方針で決定ね。その場合、土地勘と地元基盤の在る三人に主に動いて貰う事になるけど、そこは覚悟しておくように!じゃあ、今後の予定でも一応詰めておくかね?」
俺からのそんな台詞を耳にした三人は、最初は信じられないモノを見た様な表情を浮かべていたが、次第に俺の言葉を咀嚼して理解して行ったらしく、最後には三人で抱き合いながら大はしゃぎするに至るのであった。
……嬉しいのは解ったから、そろそろ落ち着こうか?
まだ、色々と詰めねばならない事は山程あるんだからね?
なお、『獣人族』組の三人が落ち着きを取り戻し、獣王に対しての協力が受け入れられたと言う前提でのモノではあるが、ある程度の予定や場合によっては何処まで攻撃するか、等を詰め始められたのは、それから約一時間程経過してからになるのであった。
ちなみに、その間に俺は、リルとカーラをモフッていたので、割りと有意義な時間を過ごせたのだけどもね?
******
厳重に外部からの侵入や盗聴への対策が施され、その結果として窓すら喪った部屋の中に、影が二つ。
「……それで?状況はどうなっている?」
「……はっ。現在、予選を終えて本選へと出場を果たした手駒は、凡そ全体の四割強である五十名程となっております」
「……ちっ!予定より少ないな……」
「申し訳有りません。我々の操作しきれない領域でのランダム選出でしたので、思ったよりも後半への偏りが酷く、人員を無駄にする羽目になりました……」
「……まぁ、良い。最初に掲げていた、突破者に於ける占有率五割、と言うのは謂わば期待値でしか無い。最大限上手く行ったとしても、恐らくはそれよりも下回るだろうと思われていた位だ。四割を越えているのであれば、上出来と言わざるを得ないだろうよ」
「……有り難きお言葉、感謝致します」
「して、奴らは当然通ったのであろうな?我ら秘蔵の戦力であり、不当にも『獣王』の尊称を受けている彼の者を弑逆し、その喉元を喰い破る為の戦力たるあ奴らは?」
「……それが……」
部屋に備えられた唯一の椅子に座っていた影へと報告を上げていた影が、この日初めて言葉を詰まらせる。
その事に訝しむ様な視線を向けるが、手振りで『早く続けろ』と促し、気配に苛立ちや怒りを混ぜる事で半ば無理矢理報告を続けさせる。
「……失礼致しました。例の戦力なのですが……」
「うむ。当然、全員通過しておるのだろうな?」
「……いえ、本命として送り込んだ十名の内、通過出来たのは凡そ半数の六名となっております」
「馬鹿な!?」
思わず椅子から立ち上がり、怒声を挙げてしまう影。
しかし、それも無理は無いのかも知れない。
何故なら、先程影が口にしていた通りに、彼が本命として送り込んだ者達こそが彼にとっての切り札達であり、その実力は折り紙つきである。
常に裏側での活動に徹底させていた為に、冒険者ギルド等には登録させてはいないが、達成してきた依頼の難易度等を換算すれば『ミスリル級』に認定されて当然、と言う猛者ばかりだったのだから。
そして、そんな彼らは、その実力から考えれば予選は突破できて当然であり、他の手駒の様に『何割かが通れば御の字』ではなく『全員通って然るべき』と言うのが影にとっての『常識』であったのだ。驚かない方がおかしいと言うモノだろう。
「……彼らの損耗についてですが、まず一人は例の予選七日目にして、偶然十名の内の三名が固まってしまった時のモノです。
その時は、例のケンタウロスを片付ける際に消耗した、十名の内の下位の者を脱落させる事により、上位の二名を消耗の少ない状態にて本選へと送り込む事に成功しております」
「……あぁ、あの時の、か。確かに、あれは偶然にして発生した、避けられなかった悲劇、と言うヤツだろう。それで?他の三名はどうした?」
「……はっ。残りの三名ですが、一名は九日目の試合にて予選突破者の女に敗北、残りの二名も十一日目の試合にて例のアラネアに敗北致しました。
……そして、これは未確認情報であり、まだ不確定情報でもあるのですが、その予選突破者二名は顔見知りであり、例の『黒槍』と繋がりが在るのでは?と見られています」
「……クソッ!!またしても『黒槍』か!!何処までも邪魔してくれる!!!
…………えぇい、まぁ良い。なってしまったものは仕方在るまい。このまま、使える手駒にて事を為すしか在るまい。
それで?例の『黒槍』は見付かったのか?」
「……いえ、そちらはまだです。如何せん、素顔での参戦はしていないらしく、その上何を考えているのか自身の得物も使っていない様子で、特定するのに時間が懸かっております。また、自身のパーティーメンバーにも、同じ様に正体を隠させているらしく、そちらからの線で辿る事も困難だと言わざるを得ません」
「……チッ!猪口才な。何を考えてそんな事をしているのかは知らんが、どの道エントリーした以上は参戦しているハズだ!時間は掛けても構わんから、必ず見付け出せ!!
此度の作戦に於いて、獣王カニスを除けば唯一と言っても良い不確定要素だ!どうにかして発見し、立場を明らかなモノとさせろ!我らと敵対するにしろ、そうでないにしろ、だ!」
「はっ!!」
そして、報告していた影が去り、部屋の中に一人残された影が、誰に向けるでも無く呟きを漏らす。
「……これさえ、これさえ上手く行けば、我が名誉は回復される。私は、ヴァイツァーシュバインの二の舞にはならん。なって、堪るものか……!」
その呟きは誰にも聞かれる事はなく、そのまま部屋の空気へと溶けて行くのみであった。
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(_ _)m




