19・どうやらボス部屋っぽいです
「……なぁ、コレを見てどう思う?」
「「「……凄く……大きいです……」」」
ハイ、巨大なモノを前にした時の定番のアレです。
ちなみに、レスが三人分なのは、タツとレオだけでなく、先生まで俺のネタに乗ってきたからである。
……何やってんですかね?先生?
と言うよりも、何でもこのネタ知っているんですかね?
アレですか?『腐界』に足を踏み入れちゃった人ですかね?
……まぁ、これ以上『藪』をつついてるとエライものが飛び出して来そうだから、実際には言いはしないけど。
まぁ、そんなコントは置いておくとして、と意識を切り替えて、俺の発言の元となった目の前に鎮座する『ド』が付く程デカイ扉へと意識を向ける。
それまでの階層にも、似たようなモノとして通路の行き止まりだとか、通路の集合地みたいな感じでの部屋っぽいモノは有った。
まぁ、基本的にはそう言う所は魔物がすし詰めになっている『モンスターハウス』か、それとも罠がてんこ盛りにされている『トラップスペース』のどちらかだったけど。
だが、それらとはあからさまに違う点が一つ。
こいつには、『扉』が付いている事だ。
しかも、とてつもなく立派な装飾が施され、その上凄まじいまでの『オーラ』とでも呼ぶべきであろう雰囲気を放っており、特に鑑定眼など無くともコレが『逸品』と呼ぶべき品物であると同時に、その扉の奥にいるであろう何者かも、只者ではない『何か』であろう事が容易に感じ取れる。
……まぁ、ここが『ダンジョン』で、降っていった先で見つけた扉の中に居る奴って言えば……
「……十中八九中身はボスで、差し詰この部屋は『ボス部屋』って処かねぇ……?」
「……まぁ、恐らく、な 」
「ようやくゴールか~。え~っと~?ここで何階になるんだったっけ~?」
「うーん……四十階までは数えていたんだけど、そこから先は数えていなかったから、正確な数は分からないかな?でも、大体で良ければ感覚的には、十階層位は降りたと思うから、ここは大体五十階層辺りになるかな?」
「なら、ここが『五十階層』でどん詰まりのボス部屋、って事じゃあないですかね?今まで『~階層毎に中ボス』とかは無かったのだから、多分ここに居る奴がこのダンジョンのボスでしょうから、そいつを倒せば出られるんじゃないですかね?お決まり通りなら」
……もっとも、五十階層毎に中ボスが居て、数百階層下に居るラスボスを倒せばクリア、って事でなければ、って話だけど。
まぁ、流石にそれは無い……と思いたいモノだけど……。
……無いよね?
そんな俺の不安はともかくとして、この『ボス部屋』に進む以外に道が無い以上、入ってみる他に選択肢は無く、可能性として戦闘になるであろう確率が非常に高いと考えられる以上、装備の不具合は命の危機に直結するので、各自で己の装備品を確認し出しており、俺も自身の装備に目を落とす。
俺が手にしているのは、相も変わらず相棒たる『濡烏』だけだが、それ以外はそこそこ変わっている。
服装自体は変わってはいないが、その上に着けていた多目的胴衣を外し、その代わりにこのダンジョンで手に入れた防具を装備している。
見た目としては、騎士の着ける板金鎧から、兜と腹回りの部分とを取っ払って胸当てと腰回りの装甲だけにした上に、手足の装甲も腕は肘までの手甲だけ、足も膝下からの脚甲だけの、所謂半板金鎧と呼ばれるタイプのモノで、材料は不明な恐らく金属製。色は相棒と同じく艶の在る黒色をしているが、表面の光沢が時折まるで鼓動でもしているかの様に強弱したりする。
少々不気味ではあるが、流石に呪われている訳でも有るまいし、何か不調が有るわけでも無いので使用を続けている。……無いよね?
そして、その鎧に追加して、これまでと同じ様に、腰回りに着けていたポーチ類を多少位置等を調整しながら移植したのが、現在の俺の装備品一式となっている。
元より攻生半可な攻撃なんて、食らってやるつもりは欠片もないが、それでもいざ近距離戦となった際に、防具が在るかどうかは割と相手の判断を左右させる要素でも有るので、動きを阻害しない程度の範囲で急所を守っており、なおかつデザインが気に入ったのでコレを装備している。
次に、軽く手足の関節を回したり伸ばしたりしながら、準備運動兼装備の調子を確かめているタツと、スキルで仕舞っていた投擲用の武器を、直ぐに使えるようにと予め出しておいて身体の各所に仕込んでいるレオに視線を向ける。
タツは基本的には変わっていないが、途中で出てきた脚甲を追加で装備している。
その追加で装備されている脚甲なのだが、実はコレを発見し、効果を確認した際に、タツとレオとの間で激しい争奪戦が勃発した過去が在ったりする。
その効果はなんと『任意の場所に足場を追加できる』のだそうな。
そのお陰で、相手の急所が高いところに合った場合攻め手が少なくなるタツと、ある程度地形に戦力が左右される事になるレオとの間で争奪戦が勃発したのだが、コレ以降でレオにとって有用な装備が発見された場合、それを優先的にレオに渡す事と、レオに対して『借り』+1で手打ちとなり、結果としてタツ所有となったと言う経緯が有る。
……殴り合い一歩手前まで発展しかけたのを仲裁するのに苦労したぜぃ……。
結果的に新しく使える手段を入手して、珍しくタツもはしゃいでいたが、その効果に慣れるまでが大変だった。
まず、足場を発生させると、どうやら著しく体力を消費するらしく、発生させた際のペース配分が乱れて、最初はエライ事になりかけた。
まぁ、俺達の中でも、元々馬鹿体力を誇っていたタツだけに、最初は思わぬ消費に戸惑っていたものの、何回か使う内に感覚を掴んだのか、それ以降は使っても普通な顔をしていたけれど。
そして、二つ目にして最大の問題点としては、効果で出した足場なのだが、実は無色透明で視認できない仕様になっていたので、出した本人も何処に足場が有るのか把握仕切れなかった為、頻繁に踏み外すと言ったアクシデントが発生したのだ。
一応、効果の内容の通りに、使用者の任意の場所に足場を発生させられらみたいなのだが、それでも慣れない内は『大体この辺り』程度にしか指定して出せず、足場が有ると思って踏み込んだらそこに無かったりだとか、まだ先に在るハズと思って進んだら爪先や脛をぶつけて悶絶したりだとかのハプニングが続出したのである。
まぁ、それも少し前までの話で、今となっては完全に使いこなしており、特に意識しなくても最適な場所に最適なタイミングで出現させられる様になったみたいである。
こんな状況では、有用な手札は多いに越したことは無いからね。
善き哉、善き哉。
そして、例の脚甲を入手する直前に、タツに『借り』を返されてしまい(死角から突然現れた魔物に襲われる直前に、タツが倒した)、『借り』の清算を盾に奪取する事叶わずタツに奪われてしまったレオだったが、今現在はそれを根に持つ訳でもなく只新装備の具合を確かめている。
もっとも、レオの装備も、タツのそれと同じ様に、大層に変化している訳では無い。
只単に、何時もの装備に加えて、一対の籠手が追加されただけだ。
その籠手とて、タツのそれの様に、近接戦・打撃戦を念頭に置いたソレではなく、あくまでも一般的な『防具』としての籠手である。
ただ、その肘までを覆う籠手の装甲の隙間や手首の間接部分、果てには肘そのものから指の間までの各所から、装着者の意思一つで『不可視』の刃が飛び出してくる、トンデモアイテムではあるのだけど。
如何にも『暗殺者御用達』みたいなソレの効果を知った際に、俺達はただの一人の反対も無く、コレをレオに流すことに決定した。
……まぁ、他に欲しいって人間が居たとしても、扱えないのは目に見えていたけどね?
以上が俺達の現行の装備になる。
……大して変わってない?
……否定は出来ん、かな?
もっとも、あんまり変わっていないのは俺達だけで、俺達以外の女性陣は結構変わっている。
亜利砂さんは途中で見つけた刺突剣と守護剣に持ち変えて、防具もドレスの各所に装甲をくっ付けた、所謂『ドレスアーマー』に変わっている。
先生と久地縄さん、音澄さんは総じて和拵えの鎧(何で有るのか?それはこっちが聞きたい)を纏っている。もっとも、先生は胴よりも胸当てに装甲が片寄っているし、音澄さんのそれは肩当ての部分が無くなり額に鉢金を巻いている。久地縄さんのソレに至っては、使用武器が刀だからか重装甲な胴丸具足になっている。
そして、阿谷さんに至っては、女性が使うってどうなんだろう?と言うよりも、女性に使えんのかソレ?と言いたくなる様な超を付けたくなる程の重装甲な総板金鎧を装備しており、実際に装備している訳でもないのに、見ているだけでこっちが潰れそうになるような見た目と化している。
……当の本人は、割かし平気で歩き回っており、戦闘になればそのままで走り出したりもするのである。
本当に人間か疑わしくなってくるわぃ。
乾と桜木さんは基本的に変更なし……いや、一応有ったか。
二人とも、武器を持ち始めたんだった。
乾は何故か戦棍を、桜木さんは杖(先端に宝石みたいな何かが付いてる。何だろうか?コレ)を手にし出し、それまで戦闘に参加していなかったのに、徐々に、徐々にではあるが、戦闘に混ざるようになってきたのである。
何か心境の変化でも有ったのかは分からないが、それでも自主的に戦闘に加わってくれるのであれば、こちらとしても助かるので有り難くはあるのだけど。
……もっとも、戦闘中に突然
「「ヒャッハーーーーー!!」」
とか叫び出すの辞めて頂けませんかね?
突然叫ばれると、流石に驚きます。
……それと、戦闘が終わった直後位に、乾が血走った肉食獣の目で俺を見ている事があるのだけど、背筋がゾクゾクするので、あまりしないでいただけると有難いのですが?
そんな感じでメンバーを眺めていると、大体確認が終わったらしく、皆が手を止めてこちらを見てくる。
それに俺は一言返して行動を起こす。
「では諸君、ボス戦と行こうか?」
「「「「「「「「「……応!!」」」」」」」」」
その心強い返事を背中に受けつつ、俺は無駄に荘厳な目の前の扉を蹴り開けながら、中に居るであろうボスへと宣戦を布告する。
「……ボス戦じゃあぁぁああああ!!!!!」
頭とったるわ!!!