183・手続きを終えたので手解きします
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仲間内全員分(俺、タツ、レオ、アストさん、サーラさん、シンシアさん、サーフェスさん、ネフリアさんの八人分)の参加申し込みを済ませた後、フォリアさんと幾つかのやり取りを挟んでから冒険者ギルドから退出する。
ついでに幾つか依頼を受けても良かったのだが、そこは現地の冒険者に任せる(丸投げするとも言う)方が良いだろうし、一応予定も入っていた為に何も受けずに移動する。
意気揚々と先頭を行く野郎三人と、何処か青ざめた表情にて足取りも重く歩いて行く女性陣四人。そして、何故かテンション高めに愉しそうにしている、最近比較的良く見掛ける様になった『蜘蛛人族』に、先頭と最後尾をチョロチョロと行ったり来たりを繰り返す従魔と思わしき魔物達、と言う俺達一行に対し、周囲から好奇と同情の視線(どちらがどちらかにはご察し)が向けられて来るが、各自の理由から特に気にする事もせずに目的地を目指して進んで行く。
そして、暫く歩いて行った先にて、今回の目的地である、冒険者ギルドとレオルティアとの共同出資によって作られた闘技場へと到着した。
「……ふむ。以前はまともに見る時間が無かったからみれていなかったけど、結構立派な造りをしていたんだな?」
「……まぁ、あまり安普請で崩れられても困るだろうしな……」
「一応~、このレオルティアで獣王祭の本選が開催される事になったりすると~、ここでやる程度には由緒も格も在るみたいだよ~?まぁ~、シンシアさんが言っていただけだから~、本当なのかは知らないけどね~?」
「流石にそこは盛らないんじゃないか?」
「……分からんぞ?あれでも一応は『お貴族様』だから、な……」
「あはは~、どうなんだろうねぇ~?」
概念的には、世界遺産にもなっていた例のコロッセオの復元図と良く似ているソレは、今の処俺にとってはあまり愉快な記憶の無い場所でもあった。
……そう、実はこここそが、例のクソライオンとの決闘モドキをやらされた際に会場となっていた、あの時の闘技場だったりするのだ。
俺個人としては、過去の出来事の不愉快さからあまり足を向けたくは無い場所では在ったのだが、俺達のやりたいことをすようとすると、どうやらこのレオルティアではここしか無いみたいなので、内心での不快感を飲み下してこうしてここまで来ている、と言う訳なのである。
まぁ、もっとも?俺達としては適当に街の外にでも出て、人の居ない草原ででもやろうか?もしくはレオルティア家の裏庭でも良いんじゃない?程度に考えていた処、予定を聞いてきたネメアーさんから『やるなら闘技場でお願いします』と半ば土下座する勢いにてお願いされたから、こうしてここに来ている、と言う訳でもあるのだけど。
そんなこんなで無事に受け付けを済ませ(受け付けの人間は俺達の顔を見て滝の様に冷や汗を流していたけど)、使用許可を取って門を潜り抜けて中へと入って行く。
幸いな事に、今日は他に誰も使用してはいなかったらしく、かなり広々とした空間を好きに使っても大丈夫な様だ。
なので俺達は、各自で適当に身体を解すための準備運動を行ったり、動きの確認の為の素振りを行ったりをする為に一度散会し、そして少ししてから今度は中央付近に再度集合して、未だに顔色の悪い女性陣(ネフリアさん除く)へと俺達野郎三人が笑いかけながら口を開くのであった。
「さて、魔王からも獣王陛下からも、やる以上は優勝を目指して、どうせなら全員参加で、と言われている以上、皆にも参加して貰う流れになりました」
「……アシュタルトさんは当然として、『獣人族』の三人も、あの『大森林』を経て確実に強くはなった。だが、それ故に乱れてもいる……」
「そう言う点は~、急速に強くなれるこの世界の弱点でもあるよね~。急激に高まった身体能力に~、思考と感覚が追い付いていないから~、技も乱れるし高まった身体能力にも無意識にブレーキを掛けているみたいなんだよね~。だから~、これからそこら辺の調律も兼ねて手合わせするけど~、心配はいらないよ~?僕達は師匠とは違って~、基本的に殺す気ではやらないから、ね~」
「「「それは、死なない程度にはやるってことじゃないですかぁーーーー!!?」」」
「…………フフフッ、成る程、これはやはり、愛の試練、と言うモノですね陛下……。これを乗り越えてこそ、初めて私とタカナシ殿との間の絆が確立されると言う事なのですね……!!」
「……そうやって現実トウヒしているノハ良いケド、多分それはソレ、これはコレ、って言うと思うケド?あと、そこまで悲観スル必要は無いんじゃナイノ?自分の強さの確認モ出来るんダカラ、やる分にはベツニ良くナイ?ドウセ、死ぬ訳じゃ無いんダシ?」
「それはそうですが、それとこれとは別の話です!」
「そうだよ!勝てないって分かりきってる相手と本気でやり合うなんて、出来ればボクは遠慮したいんだけど!?」
「人によって変わるとは思うけどぉ、勝ち目の在る相手ならともかくぅ、絶対に勝てないと分かりきってる相手に玉砕する趣味は持っていないわよぉ!?」
「でも、出場すればドノミチ放って置いてもその内アタルのだから、今の内にナレテおいた方が良いんじゃナイノ?それとも、彼らに『弱者』として見られる方がオコノミ?」
「「「それはそれで嫌だ!?」」」
******
開始際に一悶着在りはしたものの、それでも予定の通りに手合わせ、と言う名目での訓練を開始して行く。
「……では、参ります!」
「はい、何処からでもどうぞ?」
今年の獣王祭は個人戦なので、エントリーしたが最後勝ち残って行けば必ず俺達の誰かに当たるのが分かっていたからか、最初はエントリー自体に抵抗を見せていた彼女らではあったが、魔王と獣王と言う己にとっての絶対者からの言葉も有り、こうして腹を括って参加を表明した、と言う経緯があったりする。
それ故に、途中で俺達以外と戦って脱落する様な事が在っては困る、と言う事も在り、魔王と獣王の両方からも頼まれてもいた為に、こうして皆の現時点での力量を測る事も兼ねて訓練を付けている、と言う訳なのだ。
もっとも、つい先日までの『大森林』戦での動きを見る限りでは、余程の大ポカをしない限りはそうそう敗れる事は無いとは思うけどね?
「……じゃあ、こっちも行くよ!」
「良いよ~?」
「ではぁ、私も参りますねぇ?」
「……うむ、来い……!」
そんな諸々の事情もコミコミにて開催された訓練だが、元より女性陣の動きの再確認と言う色合いの強いモノであったので、先ずは軽く流すだけに留めておく。当然、動きの再確認と言う事なので、先手は向こうに譲って仕掛けさせる。
「はぁ!」
「やぁ!」
「えぇい!」
それぞれ、サーラさんが助走を付けての突撃槍での突撃を、シンシアさんが地面スレスレの低空から短剣による突きを、サーフェスさんが重心の位置を感じさせない動きによる拳打を相対している俺達へと目掛けて放ってくる。
それらの動作は以前とは比べ物にならない程に素早く、踏み込みによって発生した足音からはそれに込められている威力が以前のソレとは比べ物にならない程のモノであると推測出来た。
やはり、伊達や酔狂であの『大森林』にて生き残れた訳もでは無い、と言う事なのだろう。
もし、万全の状態にて命のやり取りをした場合、万が一が有り得そうだ、と想像させるだけのポテンシャルを秘めていると言っても良いだろう。
良くぞここまで練り上げた、と称賛するのも吝かでは無い程に、だ。
……しかし、以前よりも高まったそれらと引き換えにするかの様に、彼女らの動きからはそれまで感じられていた『キレ』の様なモノが喪われてしまっており、容易に動線を予測する事が出来てしまう。
やはり、急速に増した身体能力に振り回される形となってしまい、それまで積んできた修練による動作が上手く取れない状態となっているのだろう。故に、全体重を掛けて突き込んで来ているサーラさんの突撃槍は、その場から一歩も動いていない俺が手首にて旋回させただけの相棒の一撃により、容易にその穂先をずらされてしまうだけでなく、勢いを殺しきれずにつんのめる形で転んでしまう。
「きゃあ!?」
思わず、と言った感じで、普段のアレコレからは考えられない程に可愛らしい悲鳴が聞こえて来るが、それを確認する事無く大雑把に狙いを付けて、旋回させた相棒の石突き部分に近い場所が当たる様に調整して軽く振るう。
パッシーーーン!!
「アヒィィィィィイン!?♥️」
すると、狙いの通りに比較的装甲が薄い臀部に直撃したらしく、気持ちの良い程に周囲へと響く打擲音と、何故か上げられた悲鳴の様でそうでない様な謎の声。(あくまでも『謎の声』だ、良いね?)
そこで漸く身体を半回転させ、打ち据えられたお尻を抱えてプルプル震えているサーラさんへと向き直る。
「今のは勢いは良かったけど、身体の軸が少しブレていたから、そこは意識しての矯正を。あと、踏み込みのタイミングと突き出しのタイミングが半拍ズレていたから、そこも調整しておいて下さいね?それと、蹄鉄(馬の蹄に付けるU字状の装具)を替えるのなら、本番までにある程度慣らす期間を設ける事をお忘れ無く」
「ふぁ、ふぁあい……」
取り敢えず、先程のやり取りにて分かった事を、まだプルプルと震えているサーラさんへと注意点として通達する。
その姿は、普段の比較的凛々しい姿(何も無ければ普段はそう)とも、時折発現する変態性が剥き出しになった姿とも異なっており、何だか『大森林』の隠れ里にて遊び倒した仔フェンリルや仔カラドリウスにも通じる『何か』が在る……様にも感じる、気がする。多分。
故に、何故か傷は付けずに痛みを与える方向で追撃を仕掛けたい気分が湧いて来るのも、恐らくは気のせいなのだろう。うん、気のせい気のせい。
そう、半ば無理矢理に自身の内心へと結論を付け、他の面子の方へと視線を向ける。
「……ふっ……!」
「ひゃあ!?だ、旦那様!?そこは、しょこはらめれすぅ!?♥️」
「そ~れ!」
「ふわぁ!?そ、そこは!そこはこんな処でトントンしたらダメェ♥️」
すると、それぞれタツがサーフェスさんの、レオがシンシアさんの攻撃を流して転がした処であり、それと同時にタツがサーフェスさんの尻尾の先端部分を鷲掴みにして指先で擽りだし、タツが転がっていたシンシアさんの腰に座って尻尾の付け根をトントンと細かく叩き始める処でもあった。
「……こう言う弱点は早めに克服しておかないと、中々に面倒な事になりかねんぞ……?」
「それでもぉ、それでもそこはらめぇ~♥️」
「ほらほら~、早く振り払わないともっとトントンしちゃうぞ~?」
「ふあぁぁぁああ……、ダメェ、そこはダメなのぉ……♥️お尻が、お尻が上がって力抜けちゃうからぁ……♥️」
……一応、この組み合わせはカップルとして成立しているので、細かい事でとやかく言うつもりは無いが、ここがオープンスペースだと言う事を忘れていやしないだろうか?俺の目も在るし、順番待ちの間に手合わせしていたアストさんとネフリアさんも、興味津々な様子でそっちを見ているのは気にしない事にしたんだろうか?
まぁ、本人達が良いならソレで良いけど。
そんな感じで、時折相手を変えたりしつつ、皆の動きの再確認をしながら調整を加えて行くのであった。
……なお、何か勘違いをしたらしい下衆な笑みを浮かべた野郎共が女性陣に手合わせを申し込んで来たりしたが、当然敗れる訳もなく、鼻息も荒く鎧袖一触に薙ぎ払って無双したりもしたが、それはまた別のお話である。
******
「……なに?例の『黒槍』が、滑り込みでエントリーしてきた、だと……?」
「ハッ……!カニスによる捩じ込みだけでなく、魔王による推薦状も携えていたとの報告も上がって来ております……!」
「……ちっ、厄介な。もしや、無いとは思うが『計画』が何処かから漏れだしたか……?」
「では、如何なさいますか?排除致しますか?尋常ならざる相手ではありますが、不意を突けば幾らでも……」
「……いや、辞めておけ。対カニス用の切り札を用いれば討ち取れもするだろうが、そうなると『計画』に大きな狂いが発生する。ならば、このまま行くしかあるまい」
「……それでは……?」
「『計画』に変更は無しだ。各員にも通達しろ。『『計画』の通りに獣王祭を蹂躙せよ』とな」
「ハッ!了解致しました!では、失礼致します!!」
「……まったく、このタイミングで厄介な連中を送り込んでくれるとは……。だが、我らの『計画』に穴は無い。どの様な横槍が入ろうと、彼の者の首は我らが頂く!これは、絶対に、だ!!」
おや?何やら不穏な会話が……
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