181・久方ぶりに獣人国へと向かいます
ブックマークにて応援して下さった方々に感謝ですm(_ _)m
予告通り、今回から新章に突入します
よろしくお願いしますm(_ _)m
先にリーダーとしての結論を俺が出してはいたが、一応皆にも確認を取った上での総意として、ある種の追求から逃れる為に獣人国の武闘大会へと出場する事を決めた次の日。
俺達は、またしても長期に渡って魔王国から居なくなる旨を知人やギルドの方へと報告したり(長く空ける際には行き先と大まかな出向期間の報告が必要とされている)、『アンドレアルフス大森林』への遠征を行った為に大分目減りしていた物資を補給するために、魔王国の首都であるクラニアムを奔走していた。
「……それで、俺達の処にも顔を出しに来た、って訳かよ?」
「まぁ、それだけのつもりは無いけどね?」
その途中で俺が訪れたのは、俺達の共通の知人でもあり、この世界に於いては古株の友人でもあるベリスのおっちゃんの処であった。
実は、こうしておっちゃんと直に顔を合わせるのは、俺はそれなりに久し振りだったりする。
何せ、乾達を強制送還してから、恥ずかしながら暫くの間引きこもりの様な状態に在ったし、その後に例の『大森林』への遠征が入ってしまった事もあり、一応顔馴染みとなっていた俺達の中では俺だけが顔を合わせていなかったりする訳なのである。
「……はぁ、あいつらから話は聞いた。あの嬢ちゃん達が居なかったりだとか、こうしてまだここにお前らが居る事だとかも当然として、お前が直接説明に来なかった事も含めて、だ。
……確かに、俺にももう喪え無い大切なもんが出来ちまった手前、お前のやらかした事が理解出来ねぇなんて言うつもりは無ぇが、そうやって気落ちして引きこもる位ならキチンと手元に置いときゃ良かったじゃねぇかよ。あの嬢ちゃん達も、それを望んでたんだろうがよ?」
「……まったく、痛い所を突いてくれるよ、このおっさんは……」
……確かに、明確には言葉に出されてはいなかった。
そして、元の世界に帰れる、と言う前提が在る以上、彼女らもそれを当たり前のモノとして認識し、俺達も共に帰るのだと思い込んでいたのも事実だろう。
何せ、何だかんだと言った処で、日常生活の点に於いては向こうの世界の方が清潔で便利ではあったし、何より生きるために命のやり取りをしなくて良いのだから、当然選べるのならば向こうの世界を選ぶのは、至極当然の話と言うモノだろうしね。
そして、俺としても、彼女らと『そう言った方面』での話し合いをした事は無かった為に、ああして認識の乖離が起きるのと同時に、こうして離れ離れになったのは必然的と言っても良いのだろう。
だが、今更そんな事を言った処でどうこうなるモノでも無いし、そもそも俺には元の世界に戻って活きて行くと言う選択肢は、あの『試練の迷宮』に堕ちた段階で既に無くなっていたのだから、やはりあの別離は必然だったと言う他には無い。
それに、何だかんだ言っても、土壇場で明かした際に目の中に嫌悪の色が見えていたから、予め明かしていたとしても残りはしなかったんじゃないのかね?多分だけど。
そんな事をつらつらと考えていると、奥から何かを抱えた人影がこちらへと歩み出て来る。
「……まったく、あなた少し言い過ぎよ?仮にも、こうして私達が安全にこの子を育てられる場を提供してくれた友人に、そこまで詰る様な事を言うモノでは無いでしょう?あなたも父親になったんだから、少しは大きく構える事も覚えなさいな!
タカさんも、ごめんなさいね?この人、友人だと思っていた貴方に隠し事されていた!だとか、何で相談の一つもしやがらねぇんだ!とか、少し荒れていた時も在って、その時の事が恥ずかしいのと中々会いに来てくれなかったのとで拗ねてるのよ。だから、少しばかり面倒臭くても構って上げて貰えないかしら?」
「ばっ!お前!何適当な事抜かしてやがる!俺が何時、そんな事言ったって言うんだよ!!?」
「あら?私がこの子をお腹に抱えて重たい思いをしている時、役に立たないで飲んだくれていたのは何処の誰だったかしら?それに、あんまり大きな声で怒鳴らないで貰える?この子が起きちゃうでしょう?」
「……ぐっ……!?」
一方的な事実かつ正論にて言い負かされ、おっちゃんが尻込みしながら沈黙させられる。
以前の寄り添う様な形から、既に尻に敷く形へと関係性を変化させ、この家の主導権を掌握しているその人物こそ、産まれたての赤子をその腕に抱いたウェパルさんその人であった。
相も変わらず年齢不肖なウェパルさんは、おっちゃんの奥さんであると同時に同じパーティーを組む冒険者仲間でもあったのだが、現在は妊娠を機に休業中らしい。
そんな彼女は微笑みを浮かべながら、その腕に抱いた赤子を俺へと見せる様に掲げて口を開く。
「あの人はああ言っていたけど、やっぱりこうして顔を見せに来てくれた事には喜んでいるのよ?それに、さっきも言ったけど、この子を無事に産めたのも、貴方達が手伝ってくれたお陰で手に入ったお金と、あの人を無事に連れ戻してくれた事と、あの時くれた色々な薬のお陰でもあるの。だから、少なくとも私達は貴方に感謝しているわ。
それに、確かに貴方の選択は、独善的で彼女達の想いまでは考慮していなかったかもしれない。でも、それでも彼女達の事を第一に考えての事なのだから、貴方は誰に何を言われたとしても、彼女達を血生臭い戦いの世界から、安全で明るい世界に戻せた事を胸を張って誇りなさい?でないと、彼女達が可哀想よ?」
「……ははっ、これは、おっちゃん以上に響く事を言ってくれる……」
思わず掠れた笑い声と共に涙が出そうになってくるが、そこは意思の力を総動員して無理矢理耐える。
……俺には、既に涙を流す理由も、その資格も自ら捨て去ってしまっているのだから、そんな事は赦されない。あの時を除けば、今も、昔も、これからも、だ。
しかし、そんな俺の精一杯の強がりも彼女にはお見通しだったらしく、座ったままの俺の頭へと手を伸ばされ、そのまま優しく、慈しむ様な手並みにて撫でられてしまう。
思わず反射で払い除けようそうになったが、何故かその動作を肉体と精神の両方が拒絶した事により、なされるがままに撫でられて行く事になってしまう。
……何故か懐かしさすら感じるその感触に、俺の目尻から一筋の涙が零れ落ちて行ったが、その場にいた人物の誰からも、それを指摘される事は無かったのであった……。
******
結局その後、ウェパルさんからは笑顔で
「また来て下さいね?今度は、この子が起きている時に、ね?」
と送り出され、おっちゃんからは
「……どうせ、あの御方が良い様にしてくださるハズだ。だから、お前はただ勝って、胸張って帰って来い!」
と激励されておっちゃん宅(あの戦争に参加する際の前金にて建てたらしい。それなりに広々とした二階建て)を後にした俺は、その後にも何件か挨拶廻りを済ませてから皆と合流した。
昔馴染みのタツとレオや、実際に身体を重ねる仲となっているアストさん、この後帰国する為にもうすぐ別行動となる予定であり、俺に対して好意を抱いてくれているらしいルィンヘン女王にも、全員から揃いも揃って『何か在ったのか?』と問われてしまったが、特になにが在った訳ではない、と全力で誤魔化して押し通す。
……もっとも、全員何かしら感付いていたらしいが、俺の細やかな変化が悪いモノでは無い、と判断したらしく、特に追求して来る事は無かったのだけれど。
そんな感じで諸々の準備を終えた俺達は、またしてもリルを馬車(もはや狼車?)に繋いでから乗れる面子全員で乗り込み、一路獣人国側の国境を目指して道を進んで行く。
本来であれば、距離的には懐かしの港街であるカーパルスからクラニアムに行くのと、クラニアムから国境まで行くのとは大体同じ位(国境に行く方が若干遠め)掛かるらしい。
だが、一番最初にカーパルスから来るのに掛かった時間を遥かに短縮した以前の道行きと同じ様に、こちらの方も俺が馭者台に座っていた事もあってリルがテンションを爆上げさせた為、僅か数時間程度にて国境を管理している関所まで到達する事に成功する。
「……はい、確かに。確認が取れました。どうぞ、お通り下さい、『黒槍』殿!御健闘を祈っております!」
一応、冒険者ギルドの発行しているタグだけでも通れるのだが、念のために、と魔王が持たせてくれていた通行許可証を関所の兵士さんに見せると、敬礼と共にそんな言葉が掛けられる。
「……あ、あぁ、ありがとう?……処で、ソレ(魔王直筆の通行許可証)にも書いてあったと思うけど、俺達の目的の武闘大会ってそんなに有名な催しなのかね?」
「……え?ご冗談ですよね……?まさか、ご存知無いのに参加なされる予定だったのですか……?」
「……?まぁ、そうなる、かな?」
「……あの、失礼を承知でお聞きしますけど、お連れの『獣人族』の方々からは、何もお聞きで無いのですか?何一つ??」
そう言われてしまった俺は、左右に居たタツとレオに対して『何か聞いているか?』と言う旨の視線を送るが、その悉くは首を横に振られる事で否定されてしまう。
ならば、と身体を捻って振り返りながら、半ば訝しむ様な視線を後方にて乱れた呼吸を整えようとしていた『獣人族』組の三人へと向けて行く。
すると、些か息が乱れ気味ではあったものの、それらのやり取りは聞こえていたらしい三人が視線を上げるが、そこには戸惑いの色が強く現れていた。
そんな彼女らに対し、俺達三人は全くもって事情が把握出来なかった為に、首を傾げる事で更なる問い掛けとしたのだが、そこで何かしらに思い当たったらしく、三人で互いに視線を合わせてから、慌てた様子にて額を突き合わせて小声でなにかのやり取りを交わし始める。
さして、暫く話し合いを続けてから、何処か焦った様な様子と表情にて、身振り手振りを交えながら、必死の形相にて説明をし始めた。
「いや、その、他の二人が説明しているだろう、と思っていた訳でして、決して某は忘れていた訳では……!」
「そ、そうそう!ボク達だって、まさかそんな極一般的な事なら、何処かで耳にしているだろう、だとか、魔王様や獣王陛下から何かしらの説明は受けているんじゃないかなぁ、と思っていただけなんだよ!」
「そ、そうよぉ。まさかぁ、定期的に開催されていてぇ、中々の規模と人気を誇るあの武闘大会の事を知らないなんてぇ、思っていなかったなんて事は無いんだからねぇ?」
……そんな、取り様によらなくてもほぼ自滅している様な言い訳を聞いて行き、もたらされる情報を選別して行くと大体こんな感じのモノらしい事が判明した。
・俺達がこれから参加しに向かう獣王主催の武闘大会(通称獣王祭)は、大雑把な一年周期にて定期的に開催されており、その規模は獣人国内でも最大規模となっている。
・参加自体は誰でも可能だが、開催予定の一月前迄に申し込みを済ませておかないと参加出来ない仕組みとなっている(但し、例外有り)。
・大会は予選、本選、決勝に別れており、余程の事が無い限りは全員が予選から篩に掛けられる事となる。なお、十二獣将の地位に在る者は本選からの出場が認められているのだとか。
・参加形式は『単独』(一対一)、『二人組』(二対二)、『小隊』(五対五)を開催毎に順繰りに廻しており、去年は『小隊』での開催だった為に今年は『単独』での開催となる。
・一定数まで『予選』で絞り、その後『本選』にて数を減らして行き、残り八組(『単独』の場合は八人)になった段階で『決勝』となる。
・『決勝』まで進めれば報酬が出るが、優勝出来た者には『獣王に挑戦する権利』(勝てばそいつが新しい獣王となる)か『獣王が叶えられる範囲での褒美』のどちらかを選んで得る事が出来る。
他にも、本選に出場出来た時点で尊敬の的になる~、だとか、予選を勝ち抜くだけでも組み合わせ等に運の要素が絡むから大変だ~、だとかの情報も入って来てはいたが、俺達の心はそれらではなくとある情報に強く惹き付けられてしまっていた。
……そう、今年の武闘大会は『個人戦』であり、ここに居る面子は全員が『参加予定』であった、と言う事だ。
つまり、詳しいルール等は分からない為にまだ不確定だが、それらの不確定要素を考慮しなければ、全力でぶつかれる相手が確実に勝ち上がって来てくれる、と言う事に直結するのだ。
正直、あの『大森林』での一連の戦闘は、物量や膨大な質量に任せた様な連中ばかりであり、こちらが一瞬であれ出力の面で上回れればそれで勝ててしまった盤面ばかりであり、正直疲れるばかりでそこまで愉しめる様な戦闘は殆ど無かったと言っても良いだろう。
だが、今回はそうではない。
只の力押しではない、互いが互いの知り尽くした手の内を読み合い、どう出し抜いて相手の喉元へと喰らい付くか、どうやって相手の心臓へと己の刃を突き立てるのか、と言った読み合いや駆け引きの類いが存在する、人と人による血で血を洗う様な殺し合いこそが主なモノとなっているだろう。
そんな場であればこそ、俺達も自身の業の調律や先鋭化が進むと言うモノだし、何より仲間達の現時点での力量を把握するのには最適の場だと言う他に無いだろう。
どうやら、タツとレオの二人も、俺と同じ考えらしく、普段は無表情を貫いているタツの口元にも、普段から笑みを絶やさないレオの口元にも、まるで獰猛な肉食獣の様な笑みが浮かんでおり、確認はしていないながらも恐らくは俺の口元にも同様のソレが浮かべられている事だろう。
そんな俺達の雰囲気に何かを感じ取ったのか、従魔の三頭を除いた他の面子が一様に背筋を震わせるのを尻目に手続きを終えた俺達は、ほぼ一年振りに獣人国の地を踏むべく馬車(狼車?)を再度走らせるのであった。
……あぁ、愉しみだ。半ば強制にて参加させられる羽目になった大会なんて、やる気もあまり出るモノでも無かったが、それでも『負かされる目』を持つ相手が居るのであれば、退屈なだけのモノがこんなにも愉しく思えてきて仕方がない。
あぁ、本当に、愉しみで愉しみで仕方無い。
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(_ _)m




