176・あの野郎に引導を渡します
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流石に二次選考は通りませんでした。やはり、壁は高いですね。無念……。
「……これで、終わりだ……!!」
十二分に加速を乗せ、展開されていた結界も破壊した上での相棒の一撃を、ポッドの中に浮かぶケンドリックの生首目掛けて突き出して行く。
突きの繰り出し、踏み込みによる加速、体術による体捌きと言った、それぞれの要素を連動させてはいないので、『飛鷹流』の秘奥たる『天穿ち』にこそなりはしていないが、技のキレや威力の面だけを見るのであれば十分にその近似値まで到達している一撃であり、直撃さえすれば確実に相手の命を奪い去るであろう確信を持てる決殺の一撃だ。
元より機動力と言う意味では完全に死んでいるケンドリックでは、既に結界を破壊されている以上どうやっても身を守る術は他に無いハズであり、事実こうして俺の相棒の穂先が迫りつつある刹那の瞬間の間にも、事実を受け入れる事が出来ていない、とでも言いたげな間抜け面を晒すだけで何の対処も出来ていない様に見て取れた。
このまま行けば、まず間違い無くケンドリックの生首を貫き、絶命させ、今回の件に一先ずの終止符を打つには、十二分なはずだ。
……そのハズなのだが、何故か俺の『勘』は、第六感は、このままでは終わらないだろう確信と、有り得ない程の警鐘をおれの脳裏へと送り込んで来ていた。
だからだろうか。
突然、ケンドリックの生首が浮かんでいる治療用ポッド(の様なモノ)の手前の床が捲れ上がる様にして立ち上がり、俺の目と鼻の先へといきなり壁として立ちはだかった際に、特に動揺する事無くそのまま放とうとしていた突きを放ち、何だか変な手応えを感じながらも、何かを追加で仕掛けられるよりも先に破壊する事が出来たのは。
そうして、特に動揺する事も無く、反射的な行動にて瞬時に壁を破壊出来た事が功を奏したらしく、再度踏み込みを掛けようとした足元の床へと不自然に切れ込みが入り、それに従って分裂して先端の鋭い棘の様なモノとなって襲い掛かって来たが、大した負傷を負うことも無いままに切り払う事に成功する。
恐らく、あのまま対処に手間取っていれば、そのまま真下から突き上げられて穴だらけにされていた可能性が高いが、こうして気付いてしまっている以上食らってやらねばならない理由は特に無い為に、再度突き出て来た棘や槍の様に長いモノを、近い処から順に切り払って行く。
その際にも感じた不自然な手応えに内心首を傾げていたが、流石に一処に長居し過ぎたらしく、床だけでなく上空から再度弾幕が展開された気配を感じ取った為に急いでその場から退避する。
それを追撃する様に、時に魔方陣からの弾幕を集中運用されたり、時に足元の床が急に棘として身体を貫こうとしてきたりしたので、俺の方でも切り払ったり撃ち落としたりリンドヴルムを盾にしたりと様々な対処法にて凌ぎきろうと試みてはみたものの、どうしても頭上と足元との同時攻撃は対処が面倒に過ぎた為に、泣く泣く距離を詰める事を諦め、一際大きく後退して距離を取る。
スタート位置であるルィンヘン女王の処へと戻っても良かったのだが、またしても『迷宮』の機能にて加重拘束されては困るので合流はせずに、少し離れた場所まで下がって様子を伺う。
すると、流石にある程度まで距離を取れば床からの攻撃が発生しなくなるらしく、ルィンヘン女王が展開している弾幕を濃くしてくれたお陰もあり、追撃が魔法の掃射だけとなる。
それを、『技能』によって創り出した短剣の投擲や足捌きによる回避、相棒を直接振るう事によって魔法を破壊したりして凌いで行く。
ーーーやれやれ、あの状況でアレを回避するとはぁ、貴方本当に人間ですかぁ?確実に仕留められるタイミングを作り出す為にぃ、したくもない演技をして折角誘い込んだのだからキチンと殺られて下さいよねぇ?
「……こちとら、素直にテメェが追い詰められていた何て考えられる程純真でも無いし、テメェに以前痛い目を見せられ掛けてる以上、警戒しないハズが無いだろうが間抜けめ」
どうやら演技を止めたらしいケンドリックが、それまでの焦った様子をかなぐり捨てて余裕綽々な表情を見せて来る。
それに対して悪態と共に再度沸き上がってきた激情に任せて返答した俺だが、状況はあまり芳しくは無いのが正直な話と言うモノだろう。
何せ、予め用意や準備をしてあったのだろうとは言え、俺の攻撃速度に合わせて展開出来るだけの速度を持ち、普通の『迷宮』の壁や床よりも高い強度を誇る防壁を自在に操れるだけでなく、それを攻撃用にまで転用出来るのだ。
それはつまり、ケンドリックの野郎が、近接戦闘能力までも獲得している、と言う事を示している事に他ならない。
……それだけで済むのであれば、まだマシだったんだけど……。
内心でそう考えつつ、チラリと横方向へと視線を向ける。
するとその先には、俺達が飛び出した時よりも若干位置が今の俺達寄りの場所に変わってはいるものの、ほぼ変わらずに結界を多重展開して魔法戦を挑みながら、その額に軽く汗を浮かべているルィンヘン女王の姿が在り、その表情には僅かながらも苦いものが浮かべられていた。
「……これは、少し不味いですね……。術式構築の技術や威力では負ける気はしませんが、ここまで底無し振りを見せ付けられると、少々不安になって来てしまいますね……」
「俺も、正直少しやり辛いですね。あの壁、何が混ざっているのか知りませんけど、壊すのに変な抵抗を感じるんですよねぇ……」
思わず彼女とそんな会話を交わしてしまう。
互いに微妙に攻めきれず、かと言ってこのままでは確実に押しきられるのは目に見えている為にどうにかして挽回したいが、その糸口が掴めないが為に現状維持に徹する羽目になっているのが現実である以上、迂闊に動くことも出来ずに苛立ちが募って行く。
ーーーまったくぅ、これだけやってまだ諦めないとは、しぶといにも程があると言うモノですよぉ?先程も言った通りに、今の私の魔力に際限は在りません。まぁ、実際には在りますがぁ、実質的には無いも同然と言うモノでしょうねぇ。何故ならぁ、私が支配下に置いているこの核を通して、この『迷宮』に集まってくる魔力の全てを行使出来るのですよぉ!貴方達も知っての通りに、周辺の地脈から延々と汲み上げられ、次次と送り込まれている魔力の全てを、ねぇ!!
すると、そのやり取りが聞こえていたのか、こちらの絶望でも煽ろうとしているらしく、聞いてもいない秘密を暴露しながら、証拠のつもりかそれまではあまり使って来なかった上級魔法を弾幕に多く混ぜ始める。
それの対処にルィンヘン女王と共に追われていると、更に気を良くしたのか俺達だけに注視を強め、またしても聞いてもいない秘密を自慢するかの様に暴露し始める。
ーーーやれやれ、無駄な事を必死にやる様は滑稽ですねぇ。そちらのエルフ族の女王はともかくとして、基本的に遠距離攻撃の手段が無い貴方には、もう抗う術は残されていないと何故分からないのでしょうねぇ?どうやっているのかは未だに不明ですがぁ、魔法を無効化しても無意味なだけの数を弾幕として展開されぇ、その上で多層結界も展開して防御も万端。万が一、私がわざと通す事無くもう一度それらを抜けたとしてもぉ、『迷宮』の機能によって操作している、『不変鉱』を混ぜ込んだ床や壁の防備を抜けられない事は貴方本人が証明した事でしょう?
もっともぉ、操作性の関係から純『不変鉱』製にしていないとは言え、只でさえ頑丈な『迷宮』の床材との混合材をぉ、そうやって事も無げに斬れてしまうのは流石と言わざるを得ませんけどねぇ?
「……あぁ、そう言う事か。道理で、変な手応えがしていると思ってたんだが、それが原因か」
ーーー……おやおや、随分と余裕そうですねぇ?貴方は、自らが置かれている環境を、正しく理解する事が出来ていないのですかぁ?
「……尽きない魔力で弾幕制圧。多重展開した結界。近接用の床や壁の操作。加重による拘束。お前さんが言いたい『置かれている環境』って言うのは、こんな処か?」
ーーー……それが解っていて、何故貴方は余裕そうな振る舞いを続けられるのか、と言っているのが解らないのでしょうかねぇ?
「何故余裕そうな振る舞いを続けられるのか、ね。なに、理由は簡単さ。事実、俺は別段追い詰められたとは思ってないからさ。それに、状況証拠でしか無いが、お前さん自慢の『迷宮』の機能操作の弱点も見付けたからな。
……この程度の苦境、別段大した事は無い。まだまだ追い詰められた内に入りなんてしやしないさ」
ーーー……何ですって……?
若干の間の後に放たれた、珍しく硬いケンドリックの声と同時に、俺の足元の床が捲れ上がり、細分化されて棘や槍となって殺到してくる。
そして、俺は仕向けられたのがそれだけだと言う事を確認し、自説の正しさを再確認すると同時にそれらを薙ぎ払い、短剣を幾つか再度投擲して魔方陣を破壊して弾幕に隙間を作ると、再度ケンドリックへと向けて口を開く。
「……お前さん、本当に分かってないのか?お前さん、『迷宮』の機能を複数同時に行使出来て無いだろう?その証拠に、彼女の拘束は既に解けてるぞ?」
ーーー……なっ……!?
【踊れ、踊れ、森羅万象を巡りてなお在る者よ。謳え、謳え、天地開闢を高らかに告げし者よ。我は汝らを導きし者。我は汝らの後を追いし者】
俺が指摘して初めて気が付いたのか、直前まで苛立ちに満ちていた表情が一転して驚愕に染まると同時に、既に自由の身となっていたルィンヘン女王が呪文を詠唱する声が辺りへと響いて行く。
【其の身は風で在り、土で在り、火で在り、水で在る。同時に其れらの総てで在りはしない。汝は世界に満ちる者。汝は世界を創りし者なり!】
普段魔法を行使する際に詠唱を必要としない彼女が詠唱を行うだけでなく、発動の起点としてはではなく術式を補う為の役割を持った魔方陣を展開して漸く発動する事が出来る大魔法。
それを発動させる為に、その美声を響かせていたルィンヘン女王が、ケンドリックを指し示してから最後の鍵言を世界へと向けて高らかに宣言する。
『マナジメンタ・ルイン』!!!
その鍵言を聞いた瞬間に、元より血色の良くは無かった顔を青ざめさせ、『迷宮』の機能によってルィンヘン女王を拘束するでもなく、俺に向かって魔法を放ってくるでもなく、ただひたすらに自身の周囲に結界を幾重にも展開し、必死の形相にて防御を固めて行く。
恐らく、これから何が起こるのかを知っているが故の行動なのだろうが、ここでヤツの悪い癖が顔を出していた。
その証拠に、どうやらルィンヘン女王が放とうとしている魔法を相手にしても、十分に耐えきれるのであろうだけの強度と数の結界を揃える事が出来たからか、まだ耐えきってもいないのに、早くも安堵の表情と共に嘲りの笑みを浮かべ初めている。
そんなケンドリックに対し、俺は半ば呆れながら最期になるであろう指摘をヤツへとくれてやる事にする。
……そう、それは……
「……安心出来た処で悪いが、もう一つ教えておいてやるよ。お前さん、自分が予想外の事を相手にされて焦っていると、目の前の事しか目に入らなくなる性質だって知らなかっただろう?
だから、ホラ。そうやって、ガチガチに固めた防御の内側に、敵がいた場合の事なんて、欠片も考えてなかっただろう?」
『故に、こうして隠れ潜んでおった妾の事を忘れてしまうし、そんな妾に対する防御も疎かになると言う事よのぉ!!』
ーーーなっ、しまっ……!!?ぐぁぁああああ!!!
一度ケンドリックの至近まで行った時に俺と別れ、今の今までケンドリックの生首が浮かんでいる治療用ポッドの死角になる位置にへばりついて隠れていたリンドヴルムが飛び出し、ケンドリックが張った結界の中でポッドに向けて息吹を放つ。
俺とルィンヘン女王に注意のほぼ全てを向けていて、その上で集中力を必要とするのであろう『迷宮』の機能も行使していたケンドリックがリンドヴルムへの注意が欠けていたからか、驚く程に綺麗に息吹がポッドへと直撃し、その表面を溶かし始める。
流石に元々頑丈に造られていたからか、即座に溶解して直撃、とは行かなかったが、それでも少なくないダメージは発生しているらしく、周囲にケンドリックの苦鳴が鳴り響く。
すると、それに連動させる様な形にて、ルィンヘン女王が放とうとしていた魔法が発動し、全てを破壊する純粋な魔力の塊がケンドリックの張った多層結界へと着弾する!
……パンッ!!!
あまりの威力と消費魔力の多さ故に『禁術』指定を受けている儀式魔法であり、本来であれば一人で放てる様な規模でも制御難度でも無いのだが、それを単独でこなしたルィンヘン女王の一撃は、そのあまりの威力の高さにてケンドリックの多層結界を、破られた際の音が一つに重なって聞こえる程の一瞬にて全て破壊してしまい、何ら減衰させられる事も無いままにポッドへと直撃を果たす。
奇しくもそこはリンドヴルムの息吹にて焙られていた場所であり、ポッド本来の頑強さを既に損なっていたからか、比較的アッサリと表層を破壊して内部へと貫通し、その後急速に膨れ上がってポッドを内側から爆裂させる!
カッ!!!
その際に発生した爆風により、着弾の寸前にて脱出していたリンドヴルムが吹き飛ばされて来て俺へと直撃しただけでなく、それなりに離れた場所に居たハズの俺も思わずよろけ、一歩だけとは言え後退る羽目になってしまう。
『……やったか……!?』
余計なフラグを立てる様な事を抜かしてくれた阿呆に拳骨を落としながら、未だに白煙に包まれているケンドリックの居た場所から視線を反らさず固定し続ける。
辺りには、急激に魔力を消費した事によってルィンヘン女王が上げている、荒い息遣いだけが響いており、特に何かが聞こえて来る様な事は無い。
……無いが、その時俺は、間違い無く『まだ終わっていない』と確信しており、相棒を片手に白煙の中へと目指して踏み出し、数歩前へと進む中で加速して行く。
すると、案の定白煙の中に気配が発生し、何か無機的なモノを無理矢理取り込んでいる様な音すらも聞こえて来ると同時に、急速に気配を膨れ上がらせていた。
それに構う事無く俺は、発生した気配の中でも特に気配の濃厚な場所に向かって相棒を突き出し、ソコに居た『何か』を貫き通してしまう。
その際に発生した衝撃波により、未だに周辺に立ち込めていた白煙が吹き飛ばされ、俺が貫いたモノの正体を明るみにさらけ出す。
ーーー……バカな、何故……ここだと……!?
「……ハッ!さあね。知らんよ。強いて言うなら、勘だろうよ!」
それは、心臓の位置にケンドリックの生首と砕けかけていた『迷宮』の核が埋め込まれ、身体を『迷宮』の床や壁と同じ素材にて造られていたゴーレムであり、俺の突き出した相棒は、そのケンドリックの額を突き抜いていた。
最期に呟く様にして言葉を漏らしたケンドリックに対し、返答になっていない返答を返してから俺は、ケンドリックの額に突き立っていた刃を横に振り抜き、同じく埋め込まれていた『迷宮』の核と共に両断して完璧に破壊する。
すると、それまでは中途半端とは言え人に近い形をしていたゴーレムが崩壊し、周囲に満ちていた『迷宮』特有の空気が消えた事により、この戦闘が終了した、と言う事を実感したのであった。
この章での戦闘メイン回は一応これで最後になります。
あと何話か後処理的な話等を挟んで次章に移る予定です。
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