173・ボス部屋の中に居たのは……
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ーーーおやおやぁ?これは、中々に見覚えの在る顔ぶれですねぇ……。
ボス部屋へと設えられた重厚な扉を押し開き、何故か壁が発光せずに暗がりへと沈んでいる室内へと足を踏み入れた俺達に対し、唐突にそんな言葉が出迎えた為、思わず全員の足がその場で止まってしまう。
ルィンヘン女王とリンドヴルムは、恐らくは起きうるハズが無い現象が発生したが為の驚愕による硬直だと思われるが、俺の場合は別の意味での驚愕によって足が止まってしまっていた。
……そう、何故ならば、そこで聞こえて来ていたその声は、やけに粘着質でいてその癖相手を見下している様な響きを含んだその声には、個人的に因縁かつ聞き覚えの在るモノであり、同時にこうして聞こえて来るハズの無い声であった故に、だ。
……馬鹿な、有り得ない。ヤツは、確実にこの手で始末したハズだ。仮に生きていたとしても、何故こんな処に……?
内心でそう溢しつつ、もし仮に俺の予想通りであれば、何時何が起きたとしても不思議ではない、と周囲に対して極大の警戒を巡らせていると、俺達の居る扉の側から順に壁が発光を開始し、徐々に暗がりを明るみに出し始める。
そして、その発光が部屋の最奥まで至り、この『迷宮』の核とその隣に存在していた、俺達へと声を掛けて来たのであろう『何か』を照らし出した時、俺達は俺も含めて二度目の硬直を余儀無くされた。
……それは、この世界では類似品も含めて、一度も目にした事は無い存在。
……元の世界でも、一度も目にした事は無く、少なくとも実物としては存在していなかったハズのモノ。
……しかし、俺は、ソレが何なのかの予想は出来ていた。
何故ならばソレは、形や機能を問わなければ、元の世界では漫画やゲームやアニメ等では比較的良く登場する道具であり、それらの文化にそこまで深くは接して来なかった俺達ですら、ソレを目の当たりにすれば『何なのか』の予測が出来てしまう程には良く出てくる様な存在であったからだ。
そう、敢えて表現するのであれば、隣に安置されている『迷宮』の核へと妙に有機的なケーブル擬きにて繋がれた、何かの生体由来の素材にて造られているフルダイブ型の治療用ポッド、と言った処だろうか?
……いや、言いたい事は、分かっているつもりだ。
何でそんなモノが剣と魔法の世界であるハズのこの世界に存在しているのか、と言う疑問は当然の事だろう。
ぶっちゃけ、俺も現物を目の前にしてはいるが、同じ様な事を考えてはいる。コレってどうよ?って。
しかし、現に俺の目の前で確りと存在してしまっているのだから仕方無い。
おまけに、キッチリと見た目通りの効果にて稼働しているらしく、核へと繋がっているケーブルを淡く明滅させながら何かを吸い上げポッドの方へと送る度に、そのクリア素材にて造られている治療対象が入るべきであろう場所を満たしている液体に気泡が生じ、弾ける事によってボコボコと効果音を発している。
当然の様にその液体にて満たされている箇所には、治療を受けている真っ最中であろうモノが浮かんでおり、恐らく……と言うよりもほぼ確実にソイツが先程の声を発した張本人であろう事が予測出来た。
……そして、それは同時に最悪な事として、俺の悪い予想も的中してしまっていた事が判明した瞬間でもあった。
ーーー私を殺してくれた駒になる事も出来なかった異世界人に、何故か小型化していた古龍と、直接見た覚えは在りませんがこれはアルヴヘイムの女王ですかぁ。
異世界人と古龍の能力はあの戦いで見ていたので、後でどんな実験に使ってやろうかと考えていましたがぁ、これは思わぬ副産物が採れた、と言うヤツですかねぇ?あの女王がここまでの強大な魔力を秘めていたとは耳にした事は在りませんでしたが、これは僥倖と言うモノでしょうかぁ?国王陛下が居られてしまってはぁ、確実に『横取り』されてしまったでしょうからねぇ。
そう、俺達へと向けているのか、それとも自身に向けての独り言を呟いているのか定かではない言葉を溢していたのは、礼の治療用ポッドと思われるモノの中に浮かんでいるソレ。
より正確に描写するのであれば、ポッド満たされている薬液の中に浮かび、生前と同じく俺達へと実験動物へと向けるのと変わらない様な粘着質な視線を向けている、多大に見覚えの在る男の『生首』であった。
「……ヴァイツァーシュバイン王国宮廷魔導師長、ケンドリック。テメェ、何で生きてやがる。俺があの時殺してやったハズだろうが……!」
そう、その生首の持ち主こそ、俺達をこの世界へと拉致し、自分達の使い勝手の良い様に洗脳・改造して兵器へと仕立てようとしていた張本人であり、あの戦闘にて俺がこの手で止めを差したハズのケンドリックであった。
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「……意外ですね。タカ殿に、あの様な変わった知り合いがおられたとは、思ってもみませんでしたよ……?」
「……いやいや、あんなのと知り合い扱いされるのは、非常に不本意なのですけど……?」
俺の不自然な緊張感を感じ取ったのか、それとも先程の台詞から何かしらを読み取ったのから定かではないが、驚愕から来ていたであろう硬直の解けたルィンヘン女王が、半ば冗談めかして俺へと声を掛けて来る。
しかし、その視線はケンドリックから外される事は無く、全感覚を持ってして周囲の警戒に当たっているのが気配から感じられる。
俺も、ソレらを理解した上で返答するが、やはり視線をケンドリックから外す事は出来ない。
何故か、と問われれば、当然こう答えるだろう。
確実に自分の手で殺したハズの相手が、正確には『生きている』とは言い難い状況下に在るとは言え、実際に目の前にこうして現れているのに警戒せずにいられるハズが無いだろう?と。
事実、俺は目の前のケンドリックから不気味で得体の知れない、謎の『存在感』しか感じてはいない。
別段、現状ではどうこう出来る事は無いだろう。何せ、本人はポッドの中で薬液に浮かぶ生首でしかない。
身体が無い以上確たる事は言えないが、それでも以前殺り合った時のソレと比較しても『圧』の類いが強くなっている感じもしない。むしろ、以前よりも弱まっている様な感覚すら在る。
それに、この程度の距離で、こうして無防備に首を晒してくれているのであれば、万が一何かしらを仕掛けられたと仮定しても、ソレをされるよりも先に攻撃出来るであろう自信と確信も在る。
……しかし、それらの条件を加味した上で、未だに俺はケンドリックから感じている不気味な『存在感』による、嫌な空気感の様なモノを払拭出来ないでいるのだ。
恐らくは、現状自体がケンドリックにとっても、俺達にとっても不測の事態だと言っても良いだろう。
だが、だからと言って、あの野郎が自身を討ち取った俺達に対して、何の対抗策も用意してはいない、とは考え辛い。
もちろん、只の買い被りかも知れないが、俺本人がソレを否定出来ないだけの『底知れなさ』をヤツから感じているのも、事実ではあるのだ。
そんな思いから、決して視線をケンドリックから逸らす事はせず、かつ周囲への警戒を絶やす事無く、手にした相棒を油断無く構えながら、爪先のみの動きにて上体を揺らす事はせず、気取られない様にジリジリと距離を縮めて行く。
……何でケンドリックの野郎がまだ生きていて、こんな処に居るのかは分からない。また、この一件にどう言った立場で関わっているのかも、未だ不明だ。
それに、あの国にて様々な事柄に関与していたのであろうこいつには、まだまだ魔王も聞きたかった事が山程在った事だろう。
故に、生け捕りに出来るのが、この一件を解決する為の最短かつ最大効率の方法なのだろ事は、十二分に理解出来る。
……だが、こいつがこんな状態でこんな処に居るってことは、ほぼ間違いなくこの一件を引き起こした犯人はこいつだろうし、どうせ『どうやってこんな事を起こしたのか?』なんて問い質したとしても、まともに答えるとは思っちゃいない。
また、こいつを生かして捕らえた際に発生するリスクと、生け捕りにしなかった場合に発生するデメリットを比較した場合、圧倒的に前者の方が被害が大きくなるだろう事は、余程頭が悪く無い限りは自ずと理解出来るだろうしね。
何より、この少人数では捕らえたとしても持て余すだろうし、そもそも生かして捕らえたとしても、その後継続して生かしておく為の物資も何も手元には無いのだから、どの道ぶち殺してしまうしか在るまいて、うん。仕方無い、仕方無い。
そう結論を出した俺は、最早ミリ単位での間合い調整に入るまでに距離を詰めていた足運びを一旦中断し、最大加速による一撃決殺を謀るべく大きく足を開いて上体を沈み込ませる。
すると、そんな殺意を隠そうともしていない俺の行動を察知してか、ポッドの中のケンドリックの生首が、それなりに彼我の距離が在ると言うのに解る程にハッキリと呆れた様な表情を浮かべ、その上で同じ様に視線を俺へと向けて来る。
ーーーやれやれ、コレだから蛮族と言うヤツは、せっかちでいけませんねぇ。ここは、先ずは私の偉大なる発明について質問してくるべきでしょうにぃ。まぁ、このまま攻撃されてしまうのは少々頂けないのでぇ、少しばかり大人しくしていて頂きますよぉ?
「……そう言われて、はいそうですか、と止めるとでも思って……なっ!?」
ケンドリックから発せられた言葉を無視し、足へと溜め込んでいた力を解放して一足の元に距離を詰めようとした矢先、俺の身体が突然重くなった。
それまで忘れていた鎧の重さを思い出したとか、風邪で身体が気だるく感じるだとかとは大きく異なり、感覚としては物理的な重量が突然加算された様な感じが一番近いかも知れないが、その加算された重量と言うのも、俺の主観的な感覚からして十㎏や二十㎏では足りない程の重量が、突然かつ一気に発生した様にすら感じられた。
今更数十㎏程度の重さが突然加わった程度の事で、体勢を崩されたりだとか地面へと押し潰されたりだとかはしないが、踏み込みを掛けようとしていた時に急にそんな事をされてしまっては、流石に足を進める事は出来ずにその場に縫い付けられてしまう。
その事に苦虫を噛み潰した思いで体勢を戻しながら、何をされたのかを確かめる目的も兼ねて周囲へと視線を配ると、俺の隣に居たルィンヘン女王とリンドヴルムが揃って地面へと押し付けられている様な体勢にて踞っていた。
どうやら、さっき仕掛けられた何かは俺個人を標的としたモノでは無かったらしく、間近に居た二人も巻き込まれる形にて受けてしまったと見受けられた。
思わず一歩踏み出し掛けるが
ーーーやれやれ、この倍率でもまだ普通に動けるとはぁ、貴方一体何で出来ているんですかぁ?まぁ、動くと言うのであればぁ、もっと掛けてやれば良い話なのですけどねぇ?
との声がケンドリックから掛けられ、それと同時にそれまで以上の加重が俺の身体へと降り掛かり、思わずその場で膝を突いてしまう。
「……くっ……あ、ぎ……!」
『……ぬ、ぬぬぬぬぬ……!!』
気配からして、ルィンヘン女王とリンドヴルムも同じく追加で加重されているらしく、それから逃れようとしているのか、二人の溢す苦鳴が俺の耳へと届き、ケンドリックへのより一層の殺意を掻き立てる。
そんな俺の内心なんぞ知った事ではない、とでも言いたげに、自己陶酔に満ちた声色にてケンドリックは高らかに告げてくるのであった。
ーーーさてさて、集まったのは想定外の素材ばかりですが、最悪『次』へと繋げられるのが確定しただけマシと思っておきましょうかねぇ。喜びなさい、貴方達。ヒト擬きや下等種族であるエルフ程度の分際でぇ、この私の復活の材料となり、この世界に於ける最高種族の『人族』を超える為の礎と成れるのですからぁ、地に頭を擦り付けて感涙に咽ぶ事を許可してあげますよぉ!
何故か生きてた(?)ケンドリック。何をしたのか、何がしたかったのかは次回にて。
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