171・魔物は消毒だぁーーーー!!
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俺達が『迷宮』(推定)に潜り始めて、約五日が経過した。
内部で出てくる魔物は依然として強く、最初の方は危ない場面も幾つか在りはしたものの、ここ最近は安定して戦える様になってきていると思う。
潜り始めた頃の課題として認定した連携も、初めは意識しなくては中々に難しい状態ではあったが、それでも最近はどうにか形になりつつある。多分。
『迷宮』内部の構造も、特に複雑になっていると言う事もなく、割合とサクサク進めていたとは思う。……途中までは。
……そう。途中までは、非常にスムーズかつスピーディーに攻略を進められていたのだ。割りとマジで。
だけど、三日目位から突然魔物が大量に湧き出す事となり、攻略が遅々として進まなくなってきてしまっているのだ。
突然の事態に、最初は誰か罠でも踏んだのか?とも思ったけど、何が切っ掛けとなってそうなったのかを解明する前に魔物との戦闘に突入してしまった為、結局の処としては何も分かってはいなかったりする。
当然、魔物との遭遇頻度が多くなると言う事は、必然的に戦っている時間が長くなる、と言う事にも繋がる。
そして、それはそうなるまでは辛うじて確保出来ていた睡眠時間や休息時間を、外的要因(魔物)によって削られる、と言う事に直結する。
もちろん、俺達三人も、それは不味いと言う事は最初から理解はしていた。
だから、その手の疲労に対しての耐性が高い俺とリンドヴルムとを中心として、出来るだけ遠距離攻撃役兼回復役であるルィンヘン女王を確りと休ませる様に予定も組み立ててはいたのだ。
……いたのだが、それも突然大量発生した魔物共のお陰で、すっかりとご破算と相成ってしまった訳だ。
だから、と言うのも少し違う様にも思えるが、ほぼ確実にそれが原因で、俺達はほぼ丸二日程を不眠不休無補給に近い状態にて戦い続ける事を余儀無くされていたりする。
……いや、何を言いたいのかは解るよ?俺だって、こんな阿保みたいな事はする予定じゃあ無かったし、正直な話をすればしたくなかった。
……したくは無かったのだが、いざ大量発生が始まってしまうと、魔物と遭遇してそれを殲滅、少し動いて休憩を取ろうとすると魔物からの襲撃を受ける。それをどうにかして凌ぐと、その頃には既に他の魔物の群れが殺到してきており、今度はそれに対しての対応を取る必要に駆られて……と言った具合に、まるで謀った様に魔物との戦闘が途切れてはくれず、必然的にずっと戦い続ける事になってしまった、と言う訳である。
そうなると、必然的に溜まってくるのは疲労とストレス。
必然的に永くなるその生に於いて、その手の感覚を感じ辛くしているリンドヴルムやルィンヘン女王とは違い、幾ら訓練や修行にてその手の蓄積物を溜め込みにくくしてあるとは言え、一応人間の括りに入らざるを得ない俺にとっては、疲労感はともかくとしてストレスだけは如何し難いモノであったらしい。
……まぁ、今回で俺自身も初めて知ったんだけどもね?
そんな訳で、ストレスを溜め込むだけ溜め込み、碌に発散する事も出来なかった俺は…………
「ヒャッハーーーーー!!魔物は消毒だぁーーーー!!」
…………こんな感じではっちゃけていたりする訳だったりします。はい。
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通路の奥に見えた曲がり角からこちらへと近付こうとしていた魔物へと気付いた俺は、先ず先制の『風切り』を放ち先頭の魔物の頭部を壁へと縫い付ける。
すると、まだこちらに気が付いていなかったらしい魔物共が、そこで漸く俺達へと気が付いたらしく、俄に騒々しくなり始める。
しかし、その時には既に俺は駆け出しており、最初に放った『風切り』が着弾した頃には既に他の魔物を間合いの内側へと納める事に成功してしまう。
そこで漸く魔物共の数を確認。
一つ、二つ、三つ四つ五六七!
素晴らしい!跳ねるべき首があと七つも在る!
高まるテンションに任せてそのまま加速を続け、見なくても解る程に目を血走らせて口角を吊り上げる。
すると、俺の気迫に気圧されたのか、それとも漏れ出た殺気によって威圧されたのかは定かではないが、その肩をビクリと震わせて一瞬固まる魔物の群れ。
次の瞬間には自由を取り戻し、それまでと変わらない動きにて再度距離を詰めようと足を動かし始めるが、双方共に距離を詰めようと動いていた場面に於いて、一瞬とは言え足を止めてしまっていた事実は重く、既に俺の間合いに入り込んでいた魔物共は、完全に絶死の間合いへと足を踏み入れてしまう。
その事実に更なる笑みを口元に浮かべた俺は、先頭にてその爪を振りかぶり、俺へと目掛けて振り下ろさんとしている熊の様なみためをした魔物に対し、それまでの加速を一切殺す事無くそのままの勢いを乗せた状態での飛び蹴りを叩き込む!
すると、後ろ足にて立ち上がり、重心が比較的不安定となっていた魔物は、重量で言えば装備品込みでも自身の半分以下でしか無いであろう俺の突撃を受けてバランスを大きく崩し、背中から地面(床?)へとかなりの勢いにて倒れ込み、その後頭部を強打する事による鈍い音を周囲へと響かせる。
先頭を走っていた魔物が突然倒れた事に驚いたらしく足を止める魔物共を尻目に、倒れた魔物へと飛び蹴りを食らわせはしたものの、それで勢いの全てが殺された訳ではない俺は、狙いの通りに魔物共の頭上をそのままかっ飛んで行き、通路の壁へと足から着地を果たす。
そして、両足だけでなく両手も使って衝撃を殺し、四足獣の状態となっていた俺は、魔物共がこちらへと振り返るよりも先に四肢へと力を込め、両手の中に小太刀を創り出して背後から襲い掛かる!
「まずは、一つ!!」
「クゲェッ!?」
一番後ろに居た、ダチョウに似た魔物の背中へと着地した俺は、右手を首の前へと回して左側の頸動脈から喉の右側までを一息に掻き切るのとほぼ同時に、左手に持っていた刃を頸骨の隙間へと滑り込ませて脊髄を切断する。
その際に、ほんの少し手間取ってしまったからか、意図しない形にて断末魔の叫び声を周囲へと漏らされてしまう。
流石にそこまで事が進めば、否応なしに敵である俺が何処に行ったのかを把握したらしく、瞬時に振り返って方向を転換すると、俺が掻き切った喉笛から周囲へと撒き散らされている血飛沫を浴びる事を厭ったのか、左右に別れる形で俺へと目掛けて飛び掛かって来る。
「……これで、三つ!!」
「「ギャン!?」」
しかし、当然それを俺が予想していないハズも無く、刺しっぱなしにしていた刃を両方とも引き抜くと、逆手に握っていたのを空中にて順手へと持ち替え、左右から飛び掛かって来た関係上、空中にて態勢を変える事もままならなくなっていた狼の様な魔物へと二振り共投擲し、それぞれの額から歪で銀光を反射するアンテナを生やさせてやる。
あっと言う間に仲間が三頭も倒されてしまったからか、残っていた魔物共が若干尻込みする様な動作を見せる中、それまで床に横たわってピクリともしていなかった、俺が飛び蹴りにて転倒させていた熊に似た見た目の魔物が、聞いただけで怒りに満ちているのであろう事が予測出来る咆哮と共に立ち上がる。
その瞳は俺に対する憤怒と殺意にて真っ赤に染まっており、最早周囲の事なぞ知った事ではない!と言わんばかりの勢いにて俺目掛けて突進を仕掛けてくる。
普通であれば、当然の様にその突撃へと対処しようとし、その圧力にて対応を誤ったりするのだろうが、俺は敢えてその『普通』から外れた行動を選択する。
……そう、敢えて、突然して来ている魔物を放置し、そちらへと対応をしようとした際に発生したであろう隙を突こうと構えていた他の魔物へと対処をするべく、新しく太刀を創り出し八相に構える。
もっと拓けた場所ならば普段の通りに槍を創るのだが、ここまで狭苦しい場所で接近してしまっていると、些か不得手ながらも存分に振り回せる太刀こそが最適だとの判断を下す。
とは言え、自身の巨体に比べれば、全くと言っても良い程に刃幅の足りていたいその刀身を目の当たりにし、自身の勝利とその後の蹂躙を予想したのか、その口元を歪めながら咆哮を挙げる魔物へと、俺は只侮蔑の視線を手向けてやりながら強く踏み込み加速する。
そんな俺の行動に驚いたのか、その目を大きく見開く熊型の魔物だったが、今度こそは叩き潰す!との気勢を上げ、大きく振りかぶった爪を俺目掛けて振り下ろす!
……が、それが俺の身体へと到着するよりも僅かに早く、魔物の背中へとその身の丈を越える程に大きな火球が着弾し、勢い良くなった爆裂する。
「ガッ……!?」
「「「ギャンッ!!?」」」
それが直撃した事により、事態を把握する暇もなく熊型の魔物は絶命し、その身を粒子へと分解しながら消滅する。
同じく爆裂を食らいながらも、直撃を受けた訳では無くあくまでも余波を受けるに留まっていた他の三頭は、少なくない量のダメージと多大なる混乱を受けながらも、直撃を受けて即死した熊型の魔物とは異なり未だに生存し続けていた。もっとも、その全身に爆裂の余波を浴びている為に軽くない火傷を負っており、幾ら回復力の高い魔物と言えども直ぐ様万全に、とは言い難い程度には重傷を負っているのだけど。
当然、いきなり攻撃を食らえば、周囲に立ち込める煙によって視界が遮られているとは言え、半ば反射的な行動にて攻撃された方向へと振り返ってしまうだろうし、その先にあからさまに攻撃を仕掛けて来ていたのであろう人影が在ったのであれば、そちらへと意識が集中してしまうのも仕方の無い事だろう。
……まぁ、俺がそれを考慮してやらなければならない理由は無いんだけどね?
魔物共の背後から魔法を放って注意を惹いたルィンヘン女王へと振り返り、その四肢をたわめて跳躍しようとしている処を、先程まで生きていた熊型の魔物を盾にして爆裂から無傷で逃れていた俺が、まだ晴れていなかった煙を切り裂いて飛び出すと、近くに居たモノから順に撫で斬りに近い状態で次々に切り捨てて行く。
「……五つ」
「ギッ!?」
「……六つ!」
「シャッ……!!」
順当にカマキリの様な魔物と、蛇っぽい魔物を撫で斬りにする事は出来たが、最後に残った猿に似た魔物には反応するだけの時間を与えてしまったらしく、咄嗟の行動とは言え前方への逃走を許してしまう。
しかし、その選択は中々に合理的だと言わざるを得ないだろう。
何せ、至近にて殺気を振り撒き、直前まで行動を共にしていた魔物共を無慈悲に切り捨てていた俺と、直撃さえ貰わなければ今の処遠距離からの攻撃しかしてきていない、見るからに線の細い女一人を比べれば、あからさまに後者の方が与し易いと考えるのは当然と言うモノだろう。
何せ、パッと見ただけでは、外見からして非力な後衛が一人だけ、と言う状態なのだから、狙わないと言う選択肢はまず無いと言っても良いだろう。
それに、こうして互いに向き合う様な状況になってしまっている以上、下手に遠距離攻撃を繰り出せば、それが互いを傷付け合う事になりかねない為、俺達は互いに攻撃する事が出来ない、と言う事も加味しての判断だとしたら、大したモノだと言っても良いだろう。
……もっとも、それが魔物の、たかだか猿程度で考えられる浅知恵の限度、と言うモノかも知れないが、ね。
内心にてそう呟くのとほぼ同時に、一見無防備に立ち尽くしていただけであったルィンヘン女王の背後から小さな影が飛び出し、勢い良く猿に似た魔物を俺の方へと弾き飛ばして来る。
空中にて事態を把握出来ないながらも奇声を挙げながら暴れるソレを、俺は手にしていた太刀にて擦れ違い様に薙ぎ払い、ポツリと静かに一言溢す。
「……これで、七つ」
そして、振り返る事無く手にしていた太刀を振るい、その刃が壁を半ばまで切り裂いてへし折れる事を許容しながら、それまで投擲していた相棒にて壁へと磔にされていた魔物の首を撥ね飛ばす。
近辺にもう気配が無い事を確認し、壁に突き立ったままの相棒を引き抜いて回収すると、こちらへと早足に歩み寄って来るルィンヘン女王とリンドヴルムを尻目に目を瞑り、深く長く深呼吸を一つして意識を『戦闘優先』から『常時警戒』へと切り替えて行く。
ソレを目の当たりにした二人が、慌てた様な雰囲気のままに近寄ってくるが、ソレに構う事無く瞼を見開き、確認した訳ではない為に不確かだが、チラリと刃や魔物の瞳に写った際に異常なまでに血走って見えた眼をギョロリと動かし、新たに関知した気配目掛けて走り出しながら口角を鋭く吊り上げる。
「ヒャッハーーーーーー!!魔物は消毒だぁーーーーー!!!皆殺しにしてやるから、大人しくそこで待ってやがれよぉーーーーー!!?」
「あぁ!また間に合わなかった!?」
『えぇい、いい加減正気に戻られよ主殿よ!そうやって野性的になっておるのも中々にソソるのは否定せぬが、些かここでは危険に過ぎる!良いからこちらに戻ってくるのじゃ!!』
「そ、そうですよ!今のタカ殿も大変魅力的ですが、どちらかと言うと私は普段の穏やかなタカ殿の方が好ましいのですから、早くお戻りになって下さいまし!!二人きりでしたら、何時でもそうなって頂いても構いませんから!!」
……そんな二人の言葉が聞こえた様な気もしたが、それらを丸っと無視して疾走を続け、次なる獲物へと向かって行くのであった。
ヒャッハーーーーーー!!
動くヤツは魔物だ!動かないヤツは良く訓練された魔物だ!
良い魔物は、死んで素材になった魔物だけだ!そんな訳で、さっさと死に晒せやぁーーーーー!!!
なお、俺によるこの暴走は暫く続き、『迷宮』内部の殆どを踏破するまで止まる事は無かったのだと、リンドヴルムとルィンヘン女王の両名から後に聞かされる事となるのであった。……記憶に無いなぁ……。
一応、主人公がはっちゃけているのは今回だけの予定です。次からは元に戻る……かも?
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