167・面倒な事実が発覚しました……
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「大変な事が発覚しました……」
表情や雰囲気に焦燥の感情を発露させているアストさんとルィンヘン女王の連絡にて、一ヶ所に集合した俺達へとアストさんが開口一番にそう告げる。
俺とリンドヴルムが突撃した事により、あの孔周辺は魔力濃度が高過ぎるだけで俺達にとっては安全……ではないが、少なくとも鎖に襲われる事は無い、と結論付けてから既に数日が経過していた。
そしてその事実に基づき、幾度かの実験を経て例の魔法を改良し、あの孔周辺でも問題なく活動出来る様になったのが今朝方であり、ソレを用いての調査に赴いたのがつい数時間程前の事だ。
俺で、ギリギリ活動出来る、と言う程度であり、俺以外ではそもそも活動すら碌に出来ない様な環境に在ったが為に、基本的に『調査?なにソレ美味しいの?』な状態か、もしくはそれに近しい状態に在る『獣人族』の三人と、俺を含めた野郎共は必然的に手空きになってしまうので、調査中は道中の護衛をするか、もしくは周辺にて活性化してしまっている魔物を狩る位しかやれる事が無いので、必然的に別行動になっていたので何が分かったのかは実はまだ知らなかったりするのだ。
そんな訳で、こうして集合の合図を出された為にノコノコと集まって来たのだが、その結果として開口一番冒頭のアレ、と言う訳だ。
当然、何も知らされていない俺達は、呆然とした表情を浮かべながら苦い顔をしている二人を交互に見るしか無くなってしまう。
大概、こう言う時は、アストさんが苦い顔をしていたとしても、ルィンヘン女王は『どうにかなる』または『どうにでも出来る』と言わんばかりの表情をしていた事が多かった為に、こうして二人共にまるで『お手上げ』とでも言わんばかりの表情をしているのは大変珍しいだけでなく、何処と無く不安を掻き抱かされる様な心持ちになってくるのも、仕方無いと言えば仕方無い事だろう。
何せ、俺達だって人間だもの。何も知らされずに不安そうな顔をされれば、こっちだって不安になってくる、って言うモノだ。
そんな俺の内心での呟きを知ってか知らずか、それまで口を開いていなかったルィンヘン女王が、重い口を開いて言葉を紡ぐ。
「……幾つかの調査並びに実験を行ってみた処、どうやらあの孔は一種の『迷宮』と化している事が判明致しました。しかも、かなりの高難易度であり、私の記憶に在る通りであれば、かの『試練の迷宮』にも匹敵しうるだけの難易度であると思われます」
……ルィンヘン女王が放った言葉による反応は、概ね三種類に分類出来たと思われる。
一つ目の反応としては、恐らくはこの世界の一般人であれば大多数がする普通の反応なのであろう、恐慌状態に陥ると言うモノ。これは、『獣人族』の三人が該当し、そこまで取り乱しては居ないものの、顔を恐怖で引き吊らせ、その四肢を震わせながら無意識的に一歩後退っている様に見える。
二つ目は、残りの極僅かな人間がするであろう、良く分からない、と言った反応。これは、ネフリアさんの様に、知識としても実物としてもソレに触れ合わなかった様な人であれば、そうせざるを得ないであろう反応である、と言っても良いだろう。
合っているかは分からないが、この世界の人間に『『迷宮』からスマホが出土した!』と言っても、多分似た様な反応が返ってくるハズだ。きっと。
そして、残りの三つ目。基本的には存在しないであろう、『試練の迷宮』クラスの『迷宮』が出現した、と言う事実を理解し、確りと受け止めながらも、それでいて取り乱す事をしないと言うモノ。つまりは、今の俺達の様な反応、と言う訳だ。
ぶっちゃけ、最後は割りとグダグダではあったけど、何だかんだ言って俺達は過去に踏破した経験が在るから、そこまで重大な事柄か?と言うのが正直に言えば心境である。
敢えて分類からは外していたが、アストさんとルィンヘン女王をそこに含めるとすれば、恐らくだがアストさんは一つ目の、ルィンヘン女王は俺達と同じく三つ目の分類に入ると予想される。
……それ故に、何故にこうまでして悲惨な顔をしているのかが、改めて理解出来なくなる。
……幾らリルやカーラが戦力外であり、『獣人族』組がどうにか一対一で近隣のS級相当に勝てる様になって来た程度であるとは言え、俺達三人に加えて正真正銘人外の域に居るルィンヘン女王まで居るのだから、どうにか出来なくは無いと思うのだが……?特に、対象が『迷宮』だと言うのであれば、余計に。
少なくとも、ルィンヘン女王はもう少し明るい表情をしていて然るべきだと思うのだが……?
そんな内心から、不思議そうに二人を見ていると、どうやらそれが伝わったのか二人揃って苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべてから口を開く。
「……結局、あの祭壇がこの状況を意図的に創り出そうとして設置されたのか、そもそもあの『迷宮』自体も意図的に創り出されたモノなのか、それとも魔力が集中された副次的な効果によって偶然発生したモノなのかも何一つ解明する事は出来ませんでしたが、現時点で判明している事が二つ在ります。
……一つは、あの『迷宮』が氾濫寸前であるらしい、と言う事。これは、ほぼ確定事項です。何せ、元々魔力濃度が高い場所であったのに、それに追加する形で周囲から集められて注入され、その上で内部での間引きすらも行われていないのであれば、そう遠く無い内に内部から魔物が溢れだして来るでしょう。しかも、相当な強さを誇る高ランクの魔物、それこそここの周辺に出没する様な魔物が、かなりの数をもって、です。
……そして、もう一つは……」
そこで一旦言葉を切るアストさん。
アストさんの報告に対しても質問したい点が幾つか在るが、ソレよりもまだ聞いていない二つ目の方が気になるので、そちらを聞く事を優先して黙って待つ俺達。
しかし、その続きはアストさんの口から語られる事は無く、その代わりにルィンヘン女王が引き継ぐ形で口を開いた。
「……そして、もう一つ判明した事なのですが、今回『迷宮』へと挑める人数は『二人』が限度だと考えられます。
これは、あの『迷宮』の特性と思われるのですが、接近したモノが一定以上の内包魔力を持っている場合、フェンリルやカラドリウスの方々の様に攻撃・捕縛される様になっていると言う事が分かりました。そして、それは集団に対しても適応される様で、私とアシュタルトさんとでギリギリ反応しない限度、と言った処だと思われます。
……当然『迷宮』内部は外とは比べ物にならない程の魔力濃度である事が予想され、活動には私達の開発した魔力遮断の魔法を使い続ける必要が在ります。しかし、私達が魔力遮断の魔法を掛けられるのは、自身を除けば一人が限度であり、私とアシュタルトさんだけでは戦力に不安が残ります。なので、今回『迷宮』へと潜れるのは、私達のどちらかを含めて精々二人が限度、と言う事になります」
二人によってもたらされた情報により、一様に静まり返る俺達。
他の面子へのフォローは一先ず置いておくとして、取り敢えず情報を整理してみる事にしようかね?
まず、あの孔は『迷宮』である事が判明。ついでに、放置すれば確実に氾濫を起こす事も判明した。中身はこの『アンドレアルフス大森林』の深層に生息している魔物とどっこい程度の強さが在り、それが表層目掛けて溢れ出すとなるとかなりの被害が出ること間違いない、と。
それをどうにか阻止する為には、安全性なんて欠片も確認されていないあの孔に入って『迷宮』を潰す事。だけど、スコルが見せてくれた防御機構が在る為に、突入出来るのは二人まで。しかも、片方はアストさんかルィンヘン女王で固定。理由としては、内部で生きていようと思ったら必須になる魔法を使えるのが二人だけで、自身以外に掛けられるのは精々一人まで。更に言えば、アストさんとルィンヘン女王の二人で防御機構が発動しないギリギリのラインに到達してしまうらしいので、突入人員はこれ以上大久は出来ない。
……うん。これ、けっこうヤバない……?
少なくとも、軽く詰みかけてると違うか?
下手をしなくても突入戦力は足らなさそうだし、最悪氾濫してきた連中を抑える為に二方面作戦を展開する必要まで在るのだろうから、誰を送り込むのかがかなり重要になってくるのは間違い無いだろう。
少なくとも、俺達野郎共の内の誰かは突入させる必要が在ると見た方が良いだろう。今居る面子の中で考えた場合、前衛としての信頼度を鑑みた場合、あまり言いたくは無いけど絶対的に俺達へと軍配が上がる事になるだろうし。
だけど、前衛として後衛を守りながら魔物の群れに突っ込んで行け、と言われれば、どの道俺達であっても一人でソレをやり遂げるのはかなり難しいと言わざるを得ないだろう。
更に言うなら、物資の類いだとかの持ち込みも考えなくてはならなくなるだろうし、たったの二人きりでは碌に夜営をする事も出来はしないだろう。それらは詰まる処として、超が付く程の短期決戦を余儀無くされる、と言う事にも繋がると見て間違いは無いハズだ。
レオを突入させれば物資面での不安は一気に解決出来るが、レオの本質は暗殺者だし、最も得意とするのは撹乱からの遊撃だ。
当然、壁としての前衛もこなせなくはないだろうが、それでも不得手な事に間違いは無い以上、若干の不安が残る事は否めない。
……しかし、だからと言ってタツを放り込むのも頂けないだろう。何せ、奴は大食らいだ。幾ら節制を心掛けて食事量に気を配ったとしても、それでも戦闘時に於ける必要最低限の量としてそれなりのモノが必要とされてしまうだろう。それこそ、荷物の大半以上が食料で占拠され、その重量で動きが鈍りかねない程に、だ。
そうなると、必然的に突入するのは俺って事になるが、だからと言ってどうにか出来るなんて保証は欠片も無い。むしろ、あくまで消去法にて俺が勝手に選出しただけなのだから、実際には持久戦上等!なレオや、確実に適時殲滅が可能なタツの方が向いている可能性だって否定出来はしないのだ。
一層の事、閉所での戦闘が前提となるのだから、その手の戦闘が大得意で、輸送力にも定評の在るネフリアさんの方が向いているまで在る。
だから、これから全員で確りと話し合って突入する面子を選出しなければ……
「……まぁ、相方はタカで良かろう……」
「そうだね~。タカが適任だと思うよ~?」
……は……?
「……そうですね。某では確実に務まりませんので、主様が適任かと思います。それに、主様が赴かれるのであれば、リンドヴルム殿も同行されるでしょうから、戦力的にも申し分無いかと」
「うんうん。ボクもそう思う!」
「以前の出来事とぉ、持ち込める物資に制限が掛かるのが欠点ですがぁ、それを除けば最適解かと思いますよぉ?」
……ひ……?
「ソウダネ。あの言い方カラすれば、予め掛けてオケバ大丈夫、ッテ訳でも無いミタイダシ、本当に前衛トシテ一人だけ送り込むナラゴ主人サマが最適じゃないカナ?」
……ふ……?
「そうなると、私とルィンヘン陛下のどちらが共に突入するのか、と言う話になるのですが……如何なさいますか?」
「そうですね……。
通常の『迷宮』相手であれば、突入して核を破壊すればおしまい、となりますが、今回はその法則が当てはまるのかが分かりません。
最悪、核は見付からずに下層にて蓄えられた魔力が尽きるまで延々と魔物を倒し続けるはめになる、なんて事も考えられます。
それに、突入した後に内部の魔物が外側へと溢れ出して来ないとも限りません。
なので、出来るだけ戦力は平等になる様に別ける方が良いかと思いますが、アシュタルトさんはどうお考えですか?」
「……でしたら、突入する人員はルィンヘン陛下、となってしまいますが、よろしいのですか……?」
「えぇ、それが妥当かと。最悪、下層と表層とで同時に調査する必要にでも駆られる可能性も否定出来ませんし、何よりタカ様の負担を軽減して差し上げられるのは私の方だと見て良いでしょう。
少なくとも、この非常時にまで秘匿情報の価値云々を言うつもりは有りませんので、ご心配なさらず」
「……それで、本音の方は……?」
「それはもちろん、タカ様の中でやや下がり気味の私の株をこの辺にてググッと上向きに指せるのと、狭くて暗くて命の危機が溢れている場所にて、互いに命を預け合った男女が揃っていて何も起きない訳も無く……と言うのを期待していないとは言いませんけれども?
それに備えて、下着も可愛らしいのを幾つか忍ばせてありますので、いざと言う時の備えもバッチリでございますよ?」
……へ……!?
「……では、突入時の相方はタカで決定、だな……」
「「「「「「「「異議な~し!」」」」」」」」
ほーーーーー!!?
……こうして、俺の内心での叫びと意見は完全に無視され、いつの間にか突入時の面子が選出されてしまっていたのであった。
……本当に、この集団のリーダーって俺で良いんだろうか?
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