165・調査再開です
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スコルとカンタレラに護衛され、今回の件の原因と思われる場所まで案内されながら進むこと一時間強。
俺達は、地面へとポッカリと口を開けた洞窟と思わしき孔を、遠巻きにして眺めていた。
幸いな事に、道中にて発生した戦闘は、基本的に案内役の二頭が速攻で片を付けてくれたので、然したる時間も労力も掛ける事無くこの場に来る事が出来ているので、休憩や回復の為にこうしている、と言う訳ではない。
「……それで?これから、自分達では解決出来なかった理由を見せてやる、との話でしたが、一体どう言う事ですか?」
「……説明する、ならともかく、見せる、と言う事は、見れば解る状態と言う事なのか……?」
「無いとは思うけど~、ただ単に面倒だったから放置していた、とかじゃないんだよね~?もしそうだったら~、流石に怒るよ~?」
『うむ、まぁ、そうなるよなぁ……。しかし、ワシらとしても完全に理解出来ておるとは言い難いのも事実なのよなぁ……』
『まぁ、これから案内役がウチらで無いと駄目だった理由も見せますさかい、それで堪忍しておくれやすえ?』
『ふむ?何かする気かのぅ?取り敢えず、見学だけでもしておくとするかのぅ、主殿よ?』
俺達からの言葉を受けてか、それとも最初からそのつもりだったのかは定かでは無いが、俺達と同じ様に遠巻きにその孔を眺めていたスコルとカンタレラが腰を上げ、無造作な足取りにて孔の方へと近寄って行く。
しかし、その様子からは特に緊張している様子は見られずに、普段のソレと大した違いは無い様に見られるが、そうであるハズが無い、と言うのがこの場に居る全員の共通認識だ。
何故ならば、あの二頭が向かっている孔。
あれが恐らく……処かほぼ確実に、今回の騒動の原因かつ元凶であるからだ。
まだ碌に調べてもいないのに何故解る?
そんなモノ決まっている。
この場に居る全員が、あの孔は『ヤバい』と確信しているから、と言うのも理由の一つだが、決定的な理由としては、タツやレオの様に、魔力に対する感受性が低い面子でも察知できる程、濃厚かつ重苦しい程の圧力を持った魔力があの孔から感じる事が出来ているから、である。
俺やアストさん、ルィンヘン女王の様に、直接的に魔力を視る事が出来る様な人はご察しである。マジで目が潰れるかと思ったぜぃ……。
更に言えば、この手の事柄には、普段であれば鈍感も良い処である『獣人族』の三人も、本能的な部分にて何かを感じ取っているのか、到着した頃から付近をウロウロと歩き回っており、どうにも落ち着かない様子を見せている程である。
それほどに魔力濃度の高まっている場所が、ただの孔で在るハズもなく、またそこに近付いても何もない、なんて事がある訳もないと言うのが俺達の共通認識である。
それ故に、何の対策も無く、文字通りに無防備に近付いて行くスコルの身を案じると同時に、一体これから何が起きるのかを観察するべく固唾を飲んで見守っている、と言う訳だ。
……別に、あの祭壇よりも更にヤバい魔力濃度と、不用意に見てしまった魔力量にビビっている訳ではない。訳では無いのだ。……本当だよ?ウソジャナイヨ?
俺の内心での呟きを知ってか知らずか、そのまま例の孔へと近寄って行くスコル。
流石は『古代種』として畏れられているフェンリルだけは在るらしく、俺達では生身のままでは近付くこともままならない様な環境だと予測される場所をスイスイと進んで行き、あっと言う間に孔の付近数m圏内まで接近して行く。
そして、そこで一旦立ち止まってからこちらへと振り向くと、視線で軽く合図を送る様な仕草をしてから孔へと向き直り、その場から一歩孔の方へと足を踏み出す。
……すると、それまでは異様な雰囲気と存在感を放つだけであった孔が、突然その漆黒の口から幾条もの細長い何かを高速で吐き出し、ほぼ至近距離と言っても良いであろう位置に居たスコル目掛けて殺到させる!
突然目標とされたスコルも、それを予め予想していたのか軽い足取りで回避を試みるも、どうやらソレらには追尾の機能までもが備わっているらしく、右に左にとスコルの動きに合わせて追い掛けて行く。
しばらくの間、そうして回避を続けていたスコルだが、突然その足を止めて回避行動を止めてしまう。
一体何を!?
そう叫びそうになったが、俺達の近くに残っているカンタレラが何もしようとしていない事と、細長い何かが殺到する直前に、こちらへと意味有りげな視線を向けてきていた事から、ギリギリの処で堪えて叫びを飲み下す。
そうこうしている内に、孔から吐き出された何かがスコルの身体へと殺到し、その白銀色の美しい毛並みへと荒々しく巻き付いて行く。
そうしてスコルの身体へと巻き付き、動きが止まってようやく俺達の目にもソレの正体が見えてきた。
それは、鎖だった。
何で出来ているも、どうして伸びている様に見えるのかも不明だが、漆黒の地金に赤黒く光るラインが入っている見た目をしており、遠目に見る限りだとその明滅がまるで鼓動に合わせて収縮する血管の様にも見えた為、俺達へと不安になる様な不気味な印象を与えて来るのであった。
その禍々しい見た目からして、ヤバそうな雰囲気がムンムンにしているのだが、その鎖がスコルへと巻き付くと同時に纏い始めた暗色系のオーラの様なモノは、見るからに触れただけで何かしらの悪影響を与えて来そうな予感を、俺達へと感じ取らせるには十分な迫力を持っていた。
……しかし、そうしてスコルへと絡み付いて行く鎖を、俺は以前にも何処かで見ていた様な気がするのだ。
同じモノでは無かったのは確かだ。
もしそうであれば、あんなに外見的に特徴の在るモノを見て、何となく見た事が在る様な……?何て言う、曖昧な状況にはならないだろう。
当然、俺自身としても、あんなモノを見たり触ったりした覚えは欠片も無いのは間違いない。
……だが、似た様なモノならば、以前に目の当たりにした覚えが在る。これは、ほぼ間違いなく、と言える程度には自信が在る。
何せ、今目の前に広がっている光景と、結果的には同じ様なモノによって状態に在ったヤツを解放した事が在るのだから、間違いない。あの時は俺とリンドヴルムしかいなかったから、他の面子は知らないだろうけど。
ソレを踏まえて見てみれば、あの時破壊した鎖も、今現在スコルに絡み付いているソレと良く似たモノだった様にも思えて来るのだが、イマイチ良く覚えていない。まぁ、現物はレオに預けてあるから、後で確認しておくとするかね。
そんな事を考えながら現実逃避をしていると、スコルの全身へと鎖が絡み付き、ギリギリと軋みを上げながらその巨体を孔の方へと引きずり込もうと引っ張り始める。
……何だかんだで大丈夫そうだったから放っておいたけど、やっぱりヤバいんじゃあるまいか……?これ、いい加減手出しした方が良い様な気が……。
スコルからの『大丈夫』と言う視線や、カンタレラが動かない事から安全なのだろうと判断していたが、徐々に鎖によって孔の方へと引き摺られて行くスコルと、その全身に絡み付いて障気の様なモノを撒き散らしてスコルの白銀色の毛並みを汚している鎖の様子を見ていると、実はヤバい状況に在るんじゃないかと心配になってくる。
そして、鎖によって囚われたスコルが孔の縁へと到着し、流石に手を出さないとマズイ!と判断した俺が『練気』を全開にして飛び込もうとしたその時。
『まぁ、そろそろよろしゅおすえ?えぃ♪』
と、そんな軽い感じの掛け声と共に、鎖によって固定させられていたハズの右前足を軽く振り払い、絡み付いていた鎖を甲高い金属音と共に、特に抵抗を受けた素振りも無く引き千切ってしまう。
「………………は……?」
俺の口から、そんな間の抜けた声が漏れて来るが、事態はそこで収まる事はせず、勝手にどんどんと進んで行く。
『あぁ、もう。いい加減、鬱陶しいおすぇ?旦那はん達に見せたる為にわざわざ捕まりはったけど、これ以上好き勝手にさせてやるつもりは在りまへんえ?』
聞いているだけで鬱陶しがっているのが解る、心底苛立っているのであろう声色にて言葉を溢すスコルは、先に解放した右前足と同様に、他の四肢や身体に巻き付いている鎖を片っ端から力ずくで引き千切って行く。
そして、それが終わると同時にその場からバックステップにて大きく距離を取り、次の瞬間には追加で孔から吐き出され始めた鎖の増援を見事に回避して見せる。
追加でもう一回大きく飛び退くと、何て事は無かった、とでも言いたげなドヤ顔をしながら、俺達の隣へと帰還して見せた。
『ふふふのふ!ね?言いはった通りに、心配在らへんでしたやろ?まぁ、言うとらんかったかも知れへんけど、そこは堪忍え?』
「……まぁ、そうですね。聞いてないですね。
……それはそうとして、ソレ、大丈夫なんですか?まだ残ってるみたいですけど……?」
イタズラが成功した、とでも言いたげに笑っているスコルだったが、その身体にはまだ引き千切られた鎖の残骸が残っており、巻き付いていた時の跡にも、鎖の放っていた黒い障気が残っている様に見える。と言うよりも、確実に残っている。
そして、そのあからさまにヤバい障気は、触れていた部分の美しい白銀色の毛並みを汚すだけでなく、徐々にその範囲を広げている様にも見えた。
『あら?まだ落としとらんかったなんて、恥ずかしいわぁ』
俺がソレを指摘すると、たった今気付いた、とでも言う様に自身の身体を見回し、何処か恥ずかしそうに目を細めると、その場でブルブルと身震いをし始める。
……そんな、犬が身体を乾かそうとしているんじゃないんだから……、何て考えながら見ていたのだが、一頻り身震いを終えたスコルの身体には、鎖の残骸も障気の跡も残ってはおらず、元の美しく大変モフり甲斐の在りそうな毛並みへと戻っていた。
呆気に取られてただただ阿保面を晒す俺達の頭上にて、スコルとカンタレラの言葉が交わされる。
『なんだ、えらく手間取っていたじゃないか。流石に耄碌し始めおったか?やはりババアに任せずに、ワシがやってやった方が良かったかも知れんよなぁ』
『あら、結局何もしいひんかったジジイが何か吠えとるみたいやわぁ。ほんに可笑しいなぁ。アレがウチらでないと容易に近付けん理由やって言うのに、アレから逃れるのが苦手なあんさんに任せられるハズ無いやろぅ?』
『ふん!若い連中ならともかく、幾ら苦手でもワシがあの程度でどうこうなるかよ!』
『なら、最初っからやっておくんなまし?ほんで、旦那はん達に失態晒して恥かいたらよろしおすなぁ?』
そうやって、半ば関係性な無さそうなやり取りを続ける二頭だったが、その一連の会話から零れ聞こえた情報を整理すると、次の様な事が見えて来た。
一つ。あの鎖は、普通のフェンリルやカラドリウスでは回避はおろか、スコルの様に暫く逃げ続けると言った事も厳しい程の速度と追尾性を誇る。
二つ。あの鎖自体がかなりの強度を誇っており、破壊するのに普通はかなりの手間が掛かる上に、そこで手間取っていると凄まじい力で孔の中へと引き摺り込まれるであろう事、が予測される。
三つ。あの鎖が絡み付くと、何やら『嫌な感じ』のする変なオーラ?(障気?)が発生し、ソレによってジワジワと身体が蝕まれる、様な気がする。
以上の三つが、二頭の会話から推測される、現段階でのあの孔の脅威の全てだ。
……いや、言いたいことは分かる。もちろん、分かっているとも当然。
『何で一つ目はともかくとして他が不確かなんだ』だとか『二つ目の『予測される』とさ三つ目の『様な気がする』ってふざけているのか?』だとかの意見はもっともだと思う。俺も思ってる。
……だけど、スコルとカンタレラの話を聞く限りだと、そもそもデータの提供元があの二頭であり、他には居ないらしい、と言う事なのだ。
どうやら、あの孔を発見したモノがすぐに『ヤバい』と感じたらしく、速攻で纏め役であるスコルとカンタレラに報告。
そして、何なのかを調べる為に二頭のみで接近した処、俺達が見た通りの現象が発生した、と言う訳なのだとか。
これはよろしくない、と判断した二頭により、その直後には既に接近禁止を発令していたのだが、ソレまでに接近してしまったモノが何頭かおり、あの孔へと引きずり込まれる寸前まで行ってしまったモノもいたらしい。
駆け付けた二頭によって救出されはしたのだが、例の鎖の障気?によって徐々に身体と精神を侵食されてしまう事態が発生もしたが、現在は二頭によってそちらも対処され、事なきを得たのだとか。
それにより、二頭によって本格的に接近禁止が発令された為、二頭を含めたフェンリルとカラドリウスは協力する事が出来ない、と言われた訳だ。
直接説明された訳では無いが、恐らくはそう大きくは外れていないだろう。多分。
尚、同じく漏れ聞こえた話によると、あの二頭にとってはあの程度の速度の鎖ならば、本気を出せばそもそも捕まる事は無いし、捕まったとしても、先程の様に力ずくで無理矢理拘束を解除する事も出来る。おまけに、例の障気?も、少し気合いを入れて掛かれば侵食を止められるだけでなく、軽く身体を払えば簡単に祓い落とせる程度のモノであるのだとか。
……本当に、この爺婆何なんだろうか?他の若い連中が必死になっても無理って事を軽くこなしてくれるとは、本当に年寄りか?それとも、実は他の生命体じゃあるまいかね?話半分で聞いていても、同じ生命の枠に居て出来るとは思えないんだけど?
俺の隣で同じく聞いていたリルに、半分冗談で
「今のって出来る?」
と聞いてみた処、涙目で全力否定されたからね?辛うじてリンドヴルムが『かつての全盛期なら多分イケた』と言う程の事を、茶飲み話での冗談みたいに言わないで頂きたいのだけどいやマジで!?
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