17・壮大な落とし穴に引っ掛かりました
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ここら辺から、少しずつファンタジー感が出てくる……ハズ!
「「「……な!!!」」」
それまで確固として存在していたハズの足場が突然崩れた事によって、図らずとも俺達の上げた驚きの声が重なる。
足場が崩れると同時に感じる一瞬の浮遊感の直後には、万物を分け隔てなく引き寄せる重力に再度囚われ、現在は奈落の底もかくやと言った様相を見せている、底の見えない穴の中へと引き寄せられる。
空中に投げ出される形となった俺達は、崩れた体勢を立て直す為に、今だ空中に有った元足場の岩を蹴ったり、自身の手足を強制的に振り回して無理矢理バランスを取ったりをしていたが、落下が始まる頃には、全員が体勢を取り戻す事に成功はしていた。
……それでも、落ちるものは落ちるのだが。
「おい!タツ!この野郎!!こんな物理的に嫌なことになりそうな予感だったんなら、もっと早いとこ言いやがれ!!!」
「うるせえ!!!そっち系の『嫌な予感』だったから戻ろう、って言っただろうが!!それをお前が『ここだけ調べよう』とか言い出したから、こうなっているんだろうが!!!」
落下が開始された直後から、手が届く位置に居たのなら、確実に取っ組み合いになっていたであろう剣幕で言い合う俺達に、横からレオが切羽詰まった様子で言葉を掛けてくる。
「タカも!タツも!今はそんなことを言い合っている場合じゃ無い!!今こうなっているのは、僕達だけじゃ無いんだぞ!!!」
その一言で、沸騰しかけていた頭から血が下りると同時に、それぞれ俺達の後ろにいたハズの彼女達の悲鳴が耳に届き出す。
「僕達ならば、このまま落ちてもどうにかなる公算が高いけど、彼女達はどうなるか分からないんだぞ!誰のせいかはこの際どうでも良いけど、早くこの状況をどうにかしないと大変な事になりかねないよ!!」
……確かにそうだ。
俺達ならば、ある程度の高さから落ちたとしても、ある程度は軽減する方法を身に付けているから、最悪でも死ぬ事は無いだろう。
だが、彼女達は別だ。
いくらこちらの世界に跳ばされてから、様々な面で身体が強化されていると言っても、元々が糸無しバンジーしても掠り傷程度で済ませられた訳が無いのだから、このまま落ちることになったら、良くても重症。最悪の場合、命を失いかねない。
「……こんなことなら、無理矢理にでも置いてくれば良かったぜ!タツ!レオ!彼女達の救助を最優先!どうにか無傷で助けるぞ!!」
「……言われなくても!!!」
「やる気になってくれたのはありがたいけど!流石に僕の所の負担が大きいと思うんだけど!どっちか手伝ってくれないかな!?」
「なら、タツの方に回してくれ!こっちは既に三人居るから、手一杯だ!!」
そう半ば叫びながらレオに返しつつ、今だ落ちきらず周囲に点在している岩々を足場として利用して空中での起動を確保し、俺の後ろで待機していた三人を助けるべく、そちらへと移動して行く。
……まぁ、ぶっちゃけた話をすれば、この場で彼女達を見捨てて、俺達の負傷や損害等を最小限にする事に注力する事が最善だろう。
こんなトラップが仕込まれていた事は想定外では有ったけど、元より『危険が有りそうだから付いてくるな』と言っていたのに、自己責任で無理矢理付いてきたのだから、ここで見捨てられても仕方がない事では有るし、そもそも俺達が助けなければいけない理由は実は特には無い。
……無いのだが、そもそも俺達があのグループから離脱する際に連れてこなければ、こんな危険な目に会う事は無かったのだろう。それに、今日までの僅か10日程度とは言え、共同生活をしていた身としては、ここで見捨てるのは忍びないし、流石に後味が悪すぎる。
それに、人間としてもどうなの?って話になりかねないからね。
……初っぱなから、クラスメイトの大半を見捨てた奴が何を言う、って?
ほら、あいつらは言葉や理屈の通じない獣だから。
あの場は理性有る『人間』ならば、彼女達みたいに俺達に付いてくる事を選ぶだろうけど、それをしなかった、出来なかった奴らはぶっちゃけた話、理性で生き残る事を選ばなかった、只の『獣』でしか無い。
流石に、そんな奴らを『人間』として扱ってやらなければいけない道理は無いし、そんな奴らをわざわざ相手にしてやらなければいけない理由も無いからね。
そんな事を考えながら空中を移動していると、どうにかまだ周囲に足場として利用できる岩が舞っている間に、俺の担当の三人の元へと移動する事に成功する。
流石にここまで近付けば、ただただ悲鳴を上げている様にしか聞こえていなかったそれまでとは違い、各個人が何を叫んでいるのかすら聞き取れる様になる。
……聞き取れてしまう様になる、のだ。
「……父上……母上……この、遠い異界の地にて、一人果てる事となる拙を、どうかお許し下さい……。嗚呼……叶うのであれば、もう一度家族に逢いたかった……」
と、望郷の念を涙ながらに呟く久地縄さんや
「……思えば人生24年……。ただただ生きていただけで、何かを後世に残す事すら出来なかったなぁ……。社会人二年目で、偶々赴任した学校で担任を押し付けられたり、教頭や学年主任からは不倫のお誘いをしつこく迫られたり、色々と有ったなぁ……。おまけに、クラス委員の大神君も、何を勘違いしたのか、私を自分のハーレムメンバーの一人だと思っていたみたいだし、あんまり良い事無かったなぁ……。……でも、ここ数日は案外と楽しかったから、そこまで悪い人生じゃあ無かったかな?小鳥遊君達に付いて来たことで、他の生徒達は見捨てる形になっちゃったけど、それは彼らが自分で選んだ結果だし、私が向こうに残っていたとしても、碌な目に遭わなかっただろうから、後悔はしてないし、大神君とは違って意外と小鳥遊君達は紳士的だったし、彼自体は案外とタイプだったしなぁ……」
なんて、『お疲れ様です』と慰めれば良いのか、『ありがとうございます』と感謝すれば良いのか、返答に困るような呟きを溢しつつ、死んだ魚の目をしながら泣き笑いの表情を浮かべる先生。そして……
「あぁ、こんなことになるんだったら、少々強引にでも『既成事実』を作っておくんだったかなぁ……。確かに、私の理想のシチュエーションとしては、彼の方からグイグイ来てもらって半ば押し倒される様に『あ~れ~』って感じがベストだったけど、別段私から行くのが嫌だって訳でも無かったのだし、他の二人は気付いているみたいだから、少しお願いすれば二人きりになれたかも知れなかったのだから、いっその事夜這いを……」
……うん、これは聞かなかった事にした方が良いよね……?
……とにかく、光の消えた虚ろな瞳で、年頃の女の子がしてはいけないような事を延々と呟いている乾を含めて、俺が救助する担当になってしまっている三人へと接近する事に成功したので、半ば自棄になっている彼女達に発破を掛ける意味合いも込めて、一言掛けておく。
「……あーっと、どうする?助けようと思えば多分助けられるけど、見捨てた方が良ければ放っておくがね?」
「「「是が非でも助けてください!お願いします!!」」」
俺の声かけに、半ば反射でそう答えていた三人だったが、その表情はモノの見事にバラバラであった。
俺が来たことで、生存の目が出てきた事に喜びを感じ、さも『助かった』と言わんばかりに目を輝かせる久地縄さん。
半ば無意識的に口走っていた様子だが、それでも何を言っていたのかは覚えているらしく、助かって嬉しいような、それでいて聞かれたくなかった事を聞かれて恥ずかしいような……と言った感じで、大変微妙そうな顔をしている先生。
そして、大変物騒な事を口走っており、その内容を聞かれて恥ずかしさから顔面を赤く染めて……はおらず、むしろ獲物を見付けた肉食獣の様な目をしながら、こちらへとギラギラとした眼光を向けてくる乾さん。
……乾さんや。あんさん、そんなにギラついたキャラだったっけ?
もうちょっとふわふわした感じじゃあ無かったかのぅ?
そんなことを考えながらも、身体は半ば勝手に動いて三人を救助するために確保する。
と言っても、この後助かるために片腕は使わないといけないので、一人は抱えられてもその他二人は自力でしがみついてもらうことになるのだけど。
まぁ、戦闘要員が二人なので、言わずもがなで乾を抱えて、久地縄さんと先生には、自力でしがみついて貰うことになったのだけど。
……しかし、アレだね。
こんな状況にアレだけど……いや、むしろこんな状況だからこそなのだろうけど、前からしがみついて来る久地縄の、外見からは予想出来なかった意外な柔らかさ(案外と着痩せするタイプか?)とか、背中側からしがみついている先生の、中々に豊かな実りが押し付けられる感触だとかが意識されて、なんだかいけない気分になってくる様な気がするのである。
まぁ、現在絶賛命の危機の真っ最中なので、本能的に思考が『子孫を残す』って方向に向いている可能性が無きにしもあらずだが、今そんなことをしていたら、確実に俺も相手も真っ赤なケチャップになって混じり合う事になるだけなんだがなぁ……。
なお、俺の頭の中がピンク色になりかけている原因の一人であり、敢えて先程出さなかった乾だが、俺が抱えるために腰へと回している腕を、自らグイグイ押し下げて、わざと女性の象徴に触らせようとしたり、身体自体を押し上げて、俺の顔に直接そのたわわなそれを『当ててんのよ』状態にしようとしてきたりと、大変下半身によろしくない事ばかりしてくるのだ。
……時と場合を考えてはいただけないだろうか……。
俺とて、健全な『男の子』なのだから、暴走して襲い掛かる可能性は、結構な割合で有るんですよ……?
さっきの呟きから察するに、誰か意中の異性が居るのだろから、こんなことは俺にやらずに、その人にやってあげれば喜ぶんじゃないかねぇ?
そんなことを考えながらも、身体は生き残るために行動を起こし、取り敢えず止まるために壁面へと相棒である『濡烏』を突き立てる。
流石の『濡烏』でも、いきなり四人分の体重が掛かると負担が大きいらしく、突き立てた瞬間は大きく撓りを見せたが、こちらから重心を壁側に移しつつ、槍自体の負担を減らす様に操作してやると、撓りも収まり、穂先が壁面を削る事で速度も徐々に落ちて行く。
相棒を突き立てたながら首を巡らし、タツとレオの様子を伺うが、タツの方は阿谷さんに渡した『竜殺し』をタツ本人が俺と同じ様に壁面へと突き立ててブレーキを掛けており、減速具合から見て、おそらく止まるのは俺達と同じ位だろう。
レオの方は、投擲用の棒杭に持ち込んでいたワイヤーを繋げたモノを壁面に投擲し、そのワイヤーを握りっぱなしにして、強制的に止まるつもりらしい。
……その止め方だと、物理的に肩が抜けそうだが、まぁ、レオならば大丈夫だろう。
そんな風にブレーキを掛けていると、穴の底が見え出したのだが、その時点でレオがワイヤーを握り締めて強制停止。
それに続く形で俺とタツも速度が落ち、レオの数m下位で停止する。
そして、完全に停止したことにより、生き残れた事に気付いた女性陣が、歓喜の叫びを挙げるなか、俺達はほとんど同時に同じ様な事を考えていた。
(((止まったのは良いけど、どうやって下に降りようか)))
なお、彼らはこの後『そのまま飛び降りる』と言う選択を選び、それに巻き込まれた女性陣の絶叫が再度響く事になるのだが、それを彼女達はまだ知らない。
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……小鳥遊達がギリギリの処で命を繋いでいただいのと同じ刻。
目的は同じであれど、その後の考えは真逆に位置している二つの勢力が、奇しくも同じ時・同じ行動に出ようとしていた。
片や人族の男は呟く
「さて、どのくらい残っているでしょうねぇ……?まぁ、死んでいたら死んでいたで使い途は有りますから、死体だけでも残っていてくれると助かるのですけどねぇ……」
片や魔族の女は呟く
「……全員は助けられないかもしれない……だが、一人でも多く助ける!それが、私達の贖罪なのだから……」
そう呟いて両者は船へと乗り込み、ほとんど同時に海へと乗り出す。
目指すは無人諸島の一つ。
小鳥遊達が召喚された、名も無き島である。
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