163・ここは天国でしょうか……?
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圧倒的に俺達よりも強いハズの存在からの、唐突な協力の申し出に、俺達は互いの顔を見合わせる。
当然、何かしらの思惑と利益が在っての申し出なのだろうが、それらが欠片も見えて来なかった為に、その手の策謀が大好物であるハズのルィンヘン女王も、衝撃の余りに思考を停止させてその場で固まってしまっていた。
そして、皆で顔を見合わせた結果として、未だにリルとカーラにじゃれ付かれ、その結果として地面にて毛玉と化している俺へと視線を集中させられる。
……まぁ、言いたいことは、分からんでもないよ?
一応、俺がリーダーってことになっているっぽいし、タツやレオやルィンヘン女王を含めた全員の中で、唯一目の前の二頭に対して一切萎縮していないのが俺だけ、って事情が在るってことも理解はしているつもりだ。
……けど、だからって、この場に於いて最も威厳の無い状態に在る奴に、わざわざ交渉窓口になれって言わなくても良くないかね?まぁ、誰も直接は言ってはいないけどさ!
内心でそんな愚痴をブチブチと溢しつつ、じゃれ付いて来ていた従魔達を軽くポンポンと叩いて離れる様に促して行く。
……ほら、離れなさい?離れなさいってば!『もっと遊んでやる』って合図じゃないっての!!リンドヴルムは分かってやってるだろう!?だから、早く離れろって!!……もっと遊びたい?…………良いから早く離れるんだよぉ!!?(血涙)
半ば一人コントと化したやり取りの末、どうにか従魔達を引き剥がす事に成功するが、まだ何もしていないと言うのに疲労困憊の状態となってしまう。
……何故か、そうしてわちゃわちゃと絡み合っていた俺達(俺+従魔達)を、何処か微笑ましそうな生暖かい視線にてリルとカーラの関係者(推定)に眺められてしまったが、そこは余り気にしない様にしておいた方が良いだろう。多分。きっと。
多少精神的・肉体的な疲労から足元をふらつかせながら立ち上がり、服を叩いて土汚れと付着した毛を落とし、心持ち顔立ちをキリッ!とさせてから二頭を見上げて口を開く。
「…………いきなりで申し訳無いのですが、モフり倒しても良いですか?」
『『…………ふむん……?』』
「「そうじゃないだろうがこのアホタレが!!?」」
スッパーン!!!
思わず溢れ出た本音に、目の前の二頭は『はて?』とでも言い出しそうな表情(リルやカーラのソレと比較。恐らくは合ってる)を浮かべて首を傾げ、タツとレオは何処からか取り出したハリセンにて俺の後頭部へと突っ込みを入れている。他の面子は、目の前の二頭に気圧されている事もあって、無言のままに唖然とした表情を浮かべて固まるのみであった。
「……おっと、失敬失敬、間違えた。では、気を取り直して。
私、この集団のリーダーと言う事になっております小鳥遊と申します。気軽にタカナシないしタカとでもお呼びくださいな。
まず始めに確認しておきたいのですが、こうして話し合いの場を提供して頂けたと言う事は、俺達を害するつもりも騙すつもりも無い、と言う事でよろしいでしょうか?」
『……そこは別段構いはせんが、切り替えが早すぎはせぬか?少々、ワシの処の曾孫を預けておくのが心配になって来おったのよなぁ……』
『あら、あんたはんはそないなん?ウチとしては、これはこれで中々面白い旦那さんやなぁ、と思うとる処なんやけど?ウチの処の孫とも相性よろしゅう見えますさかい、ウチとしてはこのまま預かって貰えるんならお願いしたい処なんやけど?』
軽く咳払いをして、場の空気を切り替えてから再度発現すると、片方からは少々呆れた様な、もう片方からは何処か面白がっている様な声色にて呟きが漏れ聞こえて来る。
『……まぁ、そこの辺りは既に聞き及んでいる以上、今は置いておくのが賢明であろう。取り敢えず、名乗られた以上は名乗り返そう。ワシの名はカンタレラ。ソコにおる、お前さんがカーラと名付けたモノの曾祖父にして、この森にて暮らしておるカラドリウスの今代の長を勤めておる者よ』
『あんたはんが名乗られたんなら、ウチも名乗っとこうかなぁ?ウチはスコル。ソコにおる、大分昔に遊びに出て行ったっきりになっとった子の祖母で、この森のフェンリルの長をやっとる者よ。あんじょうよろしゅうえ?
ほんで、さっきの質問やけど、取り敢えずはその通り、って言うてもえぇんちゃうかな?少なくとも、今の処は、やけども、ね?』
「……つまり、俺達が敵対する意思を見せず、そちらからの要求を呑めば手出しはしない、と言う事で?」
『そこまで上から言うつもりは無いが、まぁ、状況的にはそうなるよなぁ。もっとも、お前さんらに『じゃあ良いです』と断られると困るのは、こちらも同じなのだがね』
『ウチらとしても、旦那はん達の手助けが欲しいんよぉ。少し前から森の様子がおかしゅうなりよったんやけど、その原因っぽいモノにはウチらでは近付けないんよ。それでどないしよか、と思っとった時にその子らとそのお方がこっちに来られはってねぇ?ほんで、話を聞いてみると、その原因を解決する為に旦那はん達が来てくれはったんやってな?だったら、ウチらとしては、その原因をどうにかしはってくれるんなら、多少寝床や手ぇ貸す位は喜んでさせて貰いますさかい、お願い出来ひんかなぁ?
ちなみに、この辺り一帯は特別な術式使うて結界を張ってありますさかい、さっき旦那さん達が入って来た所以外はもう一ヶ所以外は入って来れん様になっとるんよぉ。だから、外からは魔物が入って来れん様になっとりますので、安心して寝られる様になっとるんやけど、どないしはります?』
『原因になっとるアレの場所も、もう一ヶ所の出口からそう遠くない所に在るから、ここを拠点に出来るのは大きいと思うのだがね?そちらにとっても、さして悪い話ではないと思うが?』
……ふむ?つまりはアレか?
自分達では処理出来ない問題を俺達だけで解決させる代わりに、問題の場所までの案内と寝食の場所を提供する、と言う取引を持ち掛けられているって事で良いのかな?
こちらのメリットは、道中での護衛戦力並びに魔境で夜営を行う危険を犯さなくても済む、と言う点。
デメリットとして挙げるとすれば、互いの目的が同一だと言う事がバレてしまっている為に、報酬の吊り上げや条件の向上等の駆け引きが出来ない状態となっている事、かね?
……恐らく、こう言う緊急事態でもなければ、こいつらを連れていたとしても門前払いを受けていた可能性が高い故に、こうして安全な寝床を確保出来る可能性が在る状態に持っていってくれたのは有難いのだが、だからと言ってこちらの目的まで全部ゲロってくれなくても良かったんじゃないだろうか……?
そんな思いから、恐らくは全部ゲロった張本人であろうリンドヴルムへとジットリとした視線を向ける。
すると、本人もこのやり取りを見ていてやらかした自覚が出たのか、ソッと視線を反らせて俺と合わせようとしてこない。
……この野郎、やっぱりお前の仕業じゃねぇか!後でアイアンクローの刑決定だな!
内心でリンドヴルムの処刑を決定し、ソレを察知したらしいリンドヴルムがブルリと身体を震わせている様を眺めていると、先程よりも俺に向けられている視線が強くなっている様に感じられる。
何事か?と思ってそちらを振り向いてみると、予想通りにリルとカーラの関係者であったらしいカンタレラとスコルが、それまでの何処か面白がっている様な視線を、何故か畏れる様な色合いを込めた様なモノへと変化させながらこちらを眺めていたのであった。
「……あの、なにか?」
その視線の意味を図りかねて、目の前の二頭へと直接問い掛けてみると、二頭は若干慌てた様な様子にて『他意は無い』とした上で口を開く。
『いや、なに。返事を急いている訳でないのだが、良くもまぁ、そのお方とその様に触れ合えるモノだ、となぁ』
『えぇ、ウチかて、そないに急いとる訳やないんやけど、どうしても気になってしまってさかい。そのお方、今は随分と可愛らしいお姿になられはっておるみたいやけど、気配から察するにさぞや名の在る龍であらはるんでしょう?でも、旦那はんとのやり取り見る限り、なんか旦那はんの方が立場上そうに見えはるからビックリしてもうてなぁ……。そこの処、正直な話どうなっとるのか聞いてもえぇかなぁ?』
俺とリンドヴルムはその言葉を受け、互いの顔を見合わせてから首を捻る。
……俺とリンドヴルムとの関係性?
……うむ、良く分からん。
一番近いのは恐らく『互いに殺し合った仲』と言うモノだろうが、それはあくまでもスタート時のモノであり、今現在の関係性を指しているとは言い難いだろう。多分。
しかし、だからと言って他に形容する言葉を思い付かない以上、このまま告げてしまう他に無い、か……?
だが、その通りの関係性なのか?と言われるとほぼ間違いなく違う事は違う訳なのだし、それ以外となると…………。
同じ様な事を考えているのか、似た様な体勢にて首を傾げる俺達。
そんな俺達の姿を見て何かを感じ取ったのか、僅かに見せていた身体の緊張を解くカンタレラとスコル。
『……まぁ、その様子であれば、何かしらの外法にて従えている、と言う訳でもあるまい。なら、警戒するだけ無駄よなぁ』
『ほんになぁ。同じ手つこうてあの子ら従えとるのかも知れへんと思いはったけど、そう言う訳でも無いみたいやさかい、多分大丈夫なんやろなぁ』
「……何だか釈然とはしないですが、取り敢えず懸念は解消された、と言う事で良いですか?良いのなら、こちらとしては提案を受けさせて貰いたいのですが……?」
『うむ、そう考えて貰って間違いは在るまい。そして、協力の受諾、感謝しよう。ワシらも困っておったから、丁度良かったのよなぁ』
『……協力してくれはるって事なら、早速で悪いんやけど、一つ頼まれてはくれへんかなぁ?そんな難しい事やあらへんさかい、お願い出来ひんかなぁ?』
俺からの受諾の返答に、厄介事の荷が下りた、とカンタレラの方は純粋に嬉しそうにしているのだが、スコルの方は『言った以上は今すぐやって貰おうか?』と、半ば有無を言わせぬ雰囲気にて顔を近付けて来ながら言い募る。
「……それは、今すぐでないと駄目ですか?俺も含めて、皆疲れているのですが、明日とかもう少し後では駄目なのでしょうか?」
咄嗟に『疲れているから』と断ろうとするが、流石に相手も海千山千の長命種であるらしく、言葉巧みに受諾を迫ってくる。
『いやいや、ほんの少~しでえぇんよ?ほんの少~しだけ、これからウチが連れてくる子達と付き合うてくれるだけでえぇんよ?そうしてくれれば、ウチらとしても、他の皆に旦那はん達を『お客さん』として紹介出来るよって、旦那はん達も損はしいひんと思いますえ?他の方々がお疲れ言うんなら、一人だけでも手伝ってくれたらえぇねんけど、如何します?』
……それって、実質的に断ったら他のフェンリルだとかカラドリウスだとかには、俺達が『客』だと紹介はしない、って言っている様なモノじゃないですかやだー!?
そんな状態になったら、ほぼ外で夜営するのと変わらない様な状態になるのは間違いないって言うのに、そうホイホイと気軽に脅しとして使って良い条件じゃないと思うんですけど!?実質『はい』or『イエス』の選択肢しか無いぢゃん!?
内心にて半ばヤケクソで叫ぶが、状況を引っくり返す手札を持たない俺は、その要求に対して首を縦に振らざるを得ないのであった。
******
『はな、連れて来ますさかい、あんじょうよろしゅうな?』
そう言って俺に背を向け、何処かへと移動して行くスコル。
その背中を見送るのは、この場に居る俺ただ一人のみ。
手には何も持ってはおらず、身体にも防具や仕込み、暗器の類いは帯びてはいない、本当の意味での『無防備』な状態だと言っても良いだろう。
何故そんな状況になっているのかと言えば理由はただ一つ。
先程のスコルからの『協力要請』を受ける際、俺が二つ程条件を付けたからだ。
一つ。要請は受諾するが、ソレを実行するのは俺が引き受けるので、他の仲間は先に安全を保障した上で休ませる事。
二つ。実行する前に、可能な限りの内容とソレに付随する情報を開示し、準備を整える時間を作る事。
それらの条件を付けた為に、他の面子は既にこれから俺達が過ごす事になる場所へと案内されているので、今この場には俺しか居ない。
そして、俺がこうまでも無防備な状態にて待っているのも、二つ目の条件によって明かされた情報により、どうやら身の危険が在る様な事ではなく、どちらかと言うと素早さや体力の維持の方こそを優先すべき事柄であるらしい、と判断した故だ。
……まぁ、実際に何をして、誰と会わせられるのか、と言った肝心の情報は、結局教えられていないのだけどね?
実際
『命の危険は有らへんけど、大分走り回る事になると思いますさかい、なるたけ身軽にしてらした方がよろしおすえ?』
としか言われていないのだから、ぶっちゃけコレでどうしろと?と言うのが正直な処だ。無茶振りにも程があるぞ……?
そんな事を内心で呟いていると、スコルが向かって行った方向から、無数の気配が接近してくるのが感じられる。
…………いや、確かに?別段最初から言われてはいた気もするよ?これから連れてくる子達、って。
でも、それにしても、数多過ぎじゃないですかね?軽く見積もっても、三桁近く接近しつつあるっぽいんだけど……?
やっぱり罠の類いで、俺達を一人ずつ確実に消す為の分断策だったりするのかね……?
しかし、そんな俺の疑心暗鬼は、到着したスコルの言葉によって視線を向けた先に広がる光景にて、粉微塵に砕き散らされる事となる。
『ごめんなぁ、お待たせして。さ、この子達と付き合うて貰おうかぇ?』
ワフワフワフワフキュンキュンアウアウヘッヘッヘッ!
チュンチュンチュンチュンピーピーチチチッ!
……そう。俺が数多の気配を感じ取り、促されるままに視線を向けた先に在ったのは、地面を転がりながらこちらへと好奇心に輝く瞳を向け、蒼白色の毛皮に包まれた丸まっこいながらも大人の大型犬程のサイズは有ろうかと言う毛玉達と、付近の枝や木々に鈴なりとなり、身を寄せ合いながらも同じく俺へと目掛けて好奇心の表れている視線を向けている中型犬サイズ程の大きさの羽毛の塊達であった。
「…………なん…………だと……?」
辛うじてそう溢すのが精一杯で、あまりの光景にショックで固まる俺へと、面白そうだと思っている事を全力で尻尾にて表しているスコルが、上機嫌そうに再度口を開く。
『いやぁ、助かるわぁ。流石にウチだけだと、この子達の相手をするのも大変なんよぉ。こうして手伝って貰えるんなら、有難いばかりやわぁ。
そないな訳で、これからあの旦那はんが遊んでくれはるから、えぇ子にしてはるんよぉ?カンタレラはんの処の子達も、えぇ子にしてはるんよぉ?ほな、しばらくしたら迎えに来ますよってに、それまでこの子達をお願いしますえ?ほな、あんじょうよろしゅう』
そして、言いたい事を言うだけ言ったらしいスコルは、未だに機嫌良さそうに振っている尻尾を俺へと向けて、何処かへと行ってしまう。
それと同時に、それまでは好奇心に目を輝かせ、しきりに鼻をひくつかせたり羽をパタパタと羽ばたかせたりしていた毛玉達が、その剥き出しの好奇心の赴くままに、俺へと襲来し始めたのであった。
…………おかしいな。何時の間に死んだんだ?俺は。
こんなの、天国にでも行かないと有り得ないだろう?俺は詳しいんだ!(あまりのモフモフ天国に錯乱中)
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