161・取り敢えず、進みます
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「「「……めっちゃしんどい……」」」
疲労から独り言を溢したのだが、偶々タツとレオも同じタイミングにて言葉を溢していたらしく、偶然とは言え言葉が被る事となってしまった。
その事に、タイミングが良いのか悪いのか、と内心で呆れながら、周囲への警戒を続けつつ視線を向けると、そこには溢された言葉の通りに疲れの浮かんだ表情をしたタツとレオの顔が在り、二人の瞳に写り込んだ俺自身の顔にも、似た様なモノが浮かんでいる様に見えた。
そんな様子に、思わずため息を溢すが、こちらも何故かタイミングを同じくしてしまい、その偶然に俺達の顔に疲れた苦笑が浮かべられる。
……本来であれば、現在の様に物資には事欠かない状況であれば、丸三日程は戦い続けられるだけの体力が俺達には在るし、そうなる様に鍛練を積まされていた。故に、体力的な観点から見れば、まだまだ余裕が無い訳でも無いのだ。俺達は。
しかし、今回は俺達だけ、とは行かない故に、色々と『しなくてはならない苦労』と言うモノを背負い込む事になってしまっている。それ故に、身体的では無い『精神的な疲労』とでも言うべきモノが溜まってしまっている、と言うことなのだろう。
齢17にしてそんな事を気にせねばならなくなるとは、地球世界に居た時には考えられなかった事だが、ね。
そうやって、表には出さずに自嘲していると、鋭敏化させたままにしていた感覚網に反応が在り、そちらへと反射的に視線を向ける。
すると、同じく感知したらしい二人も、半ば死んだ魚の目になりながら、俺と同じ方向へと視線を向けていた。
それに遅れる事少し。
いつもよりも張りの無い、疲労の滲み出ている声にてネフリアさんが異常を知らせて来る。
「……ア~、休んでイル処ワルイんだけど、少々残念なお知らせダネ。また敵が近付いてキテイルみたい。数ハ少なくとも二十ハイルカナ?当然の如く、回避ハ不可能みたいダカラ、皆戦闘の用意をオネガイネ?でないと、死んじゃうヨ?」
その言葉を聞くよりも先に反応し、既に得物を携えて待ち構える俺達三人が休憩の為に落としていた『練気』の出力を上げていると、他の面子もノロノロとした動作ではあるものの、戦闘に備えて各自で得物を手にして俺達が向いているのと同じ方向へと構え始める。
……後どれだけ戦えば終わるのだろうか……?
そんな呟きが誰かの口から溢れたが、それに反応する暇も無く魔物が俺達へと目掛けて襲来し、『タイラント・ワーム』を倒してから実に十数度目の戦闘が幕を上げるのであった。
******
「……これで、最後!」
ズンッ!!
『ガッ……!?』
俺の手によって放たれた中段突きにより、今回襲撃してきた魔物の群れのボスである『漆黒呀狼』(討伐適正Sランク。群れを含めればSSランクに匹敵する)が心臓を貫かれて崩れ落ちる。
視認した訳では無いが、気配からして他の『漆黒狼』も無事に討ち取ったらしいと言う事が判断出来た。
……が、それでも尚暫しの間、警戒を解かずに周囲へと意識を張り巡らせ、互いの死角を潰し合いながら戦後処理(レオの『技能』によって魔物を収納)をして、出来る限り魔物の増援が来ない様に血の臭い等を誤魔化して行く。
そして、少しばかり離れた場所へとジリジリと移動して、手早く全員の負傷へと手当てを施しつつ数分程度警戒を続けていたが、その間に襲撃される事も無かったので、そこでようやく警戒のレベルを少し落とし、再度腰を下ろして休憩へと入る。
……タツとレオに関して言えば、先程確認もしたし、戦闘中の様子を見ている限りでは、まだまだ大丈夫だろう。体力的な面では。
ルィンヘン女王も、恐らくは戦闘に参加しつつも全力を出せない環境に対してフラストレーションが溜まりつつある以外は、俺達と同じくまだ大丈夫なハズだ。
しかし、その他の面子はそうとは言えないだろう。
アストさんとネフリアさんの二人は、あの『タイラント・ワーム』の様なデカブツに対しては無力だったが、そうでない相手であれば、十二分に戦い抜けるだけの身体能力を既に持っていたし、敵を倒した事によって更に能力自体は上昇しているので、物理的な戦闘力と言う点では、まだ大丈夫だろう。二人共に、然したる負傷もしていなかった様子であるのは、流石の一言に尽きると言うモノだ。
……しかし、アストさんはその戦闘スタイルの関係上、強い敵を相手にするとどうしても魔法を使う機会が多くなり、魔力の消費が激しくなってしまっている。現に、今も魔力が底を突き掛けているからか、顔色が青ざめかけている様に見える。
ネフリアさんはネフリアさんで、彼女の戦闘スタイルに必須の蜘蛛糸を出すのに体力と栄養を体内から消費してしまう為、必然的に一回の戦闘での消耗が大きくなり、体力の減りも早くなってしまう。その証拠として、やはり彼女の顔には、疲労の色が濃く滲み出ているのが見てとれる。
恐らく、この二人は暫く休んでいれば、まだまだ戦えなくはないだろう。今のところ、あの『タイラント・ワーム』並みのデカブツには遭遇していないし、そうそう出会す様なモノでも無いだろうしね。
……しかし、残りの三人。地面へと倒れ込む様にして呼吸を荒げ、身体中のそこかしこを負傷して手当てをされ、各自の得物すら取り落としそうな程に疲弊している『獣人族』組の三人には、少々辛口の評価を下さざるを得ないだろう。
何故なら、俺達の気苦労も、アストさんの魔力不足も、ネフリアさんの栄養失調も、全てが、とまでは言わないが、その殆どの原因や切欠を作っていたのは彼女らであったのだから。
何せ、元より遠距離からの攻撃が出来ない彼女らは、どうしても戦闘に貢献するには近接戦闘を仕掛けるしか無い。
しかし、元より戦闘力的に見てもギリギリのラインに居た三人は、幾らこの大森林へと踏み込んだ時から魔物を狩続け、ソレにより身体能力が高まっているとは言えども、どうしても一対一にて魔物を確実に仕留める事が出来ず、魔物一体に対して三人で掛かる必要が在る。
当然、複数にて来られている時にそんな事をしてしまっていると、自分達が囲んでいるつもりが何時の間にか囲まれて、と言う事態が発生し易くなるし、実際に何度もそう言う場面が発生している。
そのお陰で、俺達は常に幾らかの集中をそちらへと割かなければならない状態に在り、実際に救援へと向かおうとして無茶な戦いを強いられる事になったのは数回では収まってはいないだろう。
当然、彼女らもソレは理解しているらしく、どうにかして手早く確実に倒せはしないだろうか、との工夫や、高まりつつ在る身体能力をどうにかして乗りこなせないだろうか、と努力しているのは見てとれるし、恐らくは後数回も戦闘をこなせば感覚も掴めはすふだろう。何だかんだ言って、彼女らの才覚は非常に高いと解っているからね。
……しかし、ソレを待ってはいられない程に、俺達全員が何かしら疲労していると言うのが現状だ。
もうアストさんやネフリアさんに無茶はさせられない。既に、一歩間違えば倒れかねない程に負担を強いている以上、もう頼る事は出来ないだろう。
かと言って、ルィンヘン女王を前線へと押し出す事も出来ない。それが出来れば、一気に解決するのだろうが、だからと言って一応は『護衛対象』と言う事になっている彼女を前に出すのはアウトだし、何より既に知っている俺達以外の面子に対し、ルィンヘン女王がどの様な処置に出るのか予想出来ないのが一番恐ろしい。
だからと言って、俺達で全てをフォローすると言うのも、あまり現実的では無いだろう。何せ、ここまで精神的に疲れているのも元々そうしてフォローしていたからだが、俺達以外の面子にもフォローして貰ってコレなので、流石に無茶が在る。
……こう言う時だけそう思うのは流石に卑怯だとは自覚しているが、こうまでして『人手』が足りない状況に在ると、彼女らを還してしまった事を後悔しそうになってくる。
実際、少し前の『タイラント・ワーム』戦だとしても、大火力要員として乾が居てくれたのならば、地表に頭を出していた時点で多少強引に片を付ける事が出来ただろう。
先程までの戦闘でも、硬い敵であれば問答無用で斬り裂ける久地縄さんや質量差で粉砕出来る阿谷さんが、素早い敵ならリーチが長くて自身で数を補える音澄さんが、数が多ければ一度で複数の敵を攻撃出来た佐藤先生や亜利砂さんがそれぞれ対処する手伝いをしてくれただろうし、フォローする手助けもしてくれたハズだ。
万が一負傷した場合でも、回復要員として桜木さんが居てくれたお陰で、ある程度無茶も出来ただろう。今アストさんが陥っている様な、魔力切れも起きなかったハズだ。
人数が多くなる事による物資面での負担も、俺達ならばレオの『技能』で解決出来たのだから、やはり戦力的にも彼女らは……!!
ゴッ……!!
そこまで最低な事を考えて、物理的に思考を中断させようと左手にて自らの頭を殴り付け、半ば無理矢理初期化を図る。
殴り付けられたのが半ば鱗に覆われつつある左顔面ではあったが、殴り付けたのも同じく龍のソレへと変わりつつある左手であった為に、思っていたよりも鈍い音が周囲へと響く事になったが、狙い通りに思考の筋道を変える事は出来た様だ。
……そもそもが、本人達が望んでいた事を実現させた結果だとは言え、半ば騙し討ちする様な形にて強制送還したのは俺自身なのに、いざ必要な場面になれば『やはり還してしまったのは間違いだったか?』等と考えるなんて、彼女らに対しても失礼この上無い行為だし、何より自身が人間であると、彼の国のクソッタレな誘拐犯共とは違うのだと定義する場合、最もしてはならない恥ずべき思考であると同時に、即座に唾棄すべき忌まわしき思考でもあると言う事は、殊更説明の必要なモノでも無いだろう。
それに、幾ら彼女らが強く、それでいて俺からの指示を素直に聞き入れてくれていたとは言え、便利な戦力扱いするのは失礼甚だしいと言う話だろう。
……まぁ、それに?そもそも彼女らが今ここに居たと仮定として、状況が好転したか?と言われると、実は少々微妙と言わざるを得ないのだけどもね?何せ、彼女らって強さ的には『獣人族』組の三人よりも少し上、って程度(個人個人での戦力比較にて)だったハズなので、この大森林に入ってからの成長を加味したとしても、割りと微妙な感じになっていた可能性は否定出来ないしね?
そうやって、半ばふざけながら思考を紡いで行くが、それでも現状では戦力が決定的に足りないと言うのは、紛れも無い事実である。
せめて後一人。広範囲攻撃の出来る大火力要員か、もしくは『獣人族』組の三人をカバー出来る様な人材のどちらか片方だけでも居てくれれば、大分楽が出来るのだけど。両方ならば、文句無しにかなり楽になる。間違いなく。
……と、そこまで考えた処で、俺はとある事実に思い当たる。
…………あれ?そう言えば、あいつら何処行った?
と。
そう、何時もであれば、こうして俺が休憩したりしている時何かは、割りと『構ってくれ』と近寄って来たり、一頭がそうやって来ると釣られて群がって来たりするのだが、今回は何故かそれが無い。
そもそも、不思議に思って周囲を見回しても、その姿が見付からない。
……はて?俺と半ば強制的に繋がっているリンドヴルムは置いておくとしても、あの二頭はどうしたんだ?野生にでも還ったのたろうか?
ぶっちゃけた話をすれば、あの『試練の迷宮』にて俺と結び付けられたらしいリンドヴルムを除いたリルとカーラに関しては、特に何かで縛り付けている、と言う訳でない。
カーラにしてもリルにしても、俺が誘ったらホイホイ着いてきたので、そのまま一緒に行動している、と言うのが正直な状態だ。
……まぁ、リルに関しては、あのダンジョンから救出した事に恩義を感じて、と言う線が濃厚なので、本当に本人(?)が好き好んで同行していると言えるのは、カーラだけかも知れないけど。
そんな、周囲への立場上俺の従魔と言う立ち位置に甘んじている三頭が、何故か辺りを見回しても見えて来ない。
確か、あの『タイラント・ワーム』戦の後、彼ら(?)が引き付けてくれていた魔物を蹴散らした時には確実に一緒に居たし、その後何戦かする間も一緒に居たのは間違いないのだが、その後から見た記憶があまり無い。
タツとレオとにハンドシグナルと視線にて問い掛けてみても、二人共に『そう言えばいつの魔にか居なくなってた?』と改めて周囲を見回す始末である。
……ぶっちゃけた話、少し前に半分茶化して言いはしたが、彼らが勝手に野生へと還った、と言う事であれば、まぁ、諦めも付くのだ。
何せ、ひょんな事から俺と同行する事になっていたとは言え、何かで縛り付けていた訳でないし、向こうにしても半分ノリで同行していたのだろうが、元々彼らは野生の魔物だ。
それが、本人の意思にて同行を取り止め、自らの道を歩むと決めたのならば、それはそれで構いはしない。……まぁ、その場合、場所と時間位は選んで欲しかったし、事前に顔見せする位はしてくれると思っていたけどね?
しかし、そうではない場合、例えば魔物との戦闘で負傷して動けなくなってしまっている、とかだったら、流石に我関せずとは行きたく無い。
少なくとも、手当てくらいはしてやりたいし、助けにも行ってやりたいと思う位の愛着は持っているつもりだからね。
なので、こうして何の知らせも無く行方を眩まされると、流石に心配になってくるのだけど……、と思っていたその時。
聞き慣れた、確かにそこにあって羽ばたいているのは分かるのだが何故か聞き取れない、と言う変な羽ばたき音が耳に届くのとほぼ同時に、俺の右肩へと何時もの通りの見た目よりは格段に軽い重量が掛かり、耳の辺りにモフモフとした柔らかな羽毛の感触が襲い掛かって来た。
そちらへと視線を向けて見れば、そこには件の従魔の内の一頭であるカーラが、何時もの如くイタズラする様に翼の内側の羽毛にて俺の顔をモフモフとしてきている姿が在った。
思わず、心配していた事も忘れて、何時もの通りにモフって愛でようとしてしまうが、鋼の如き意思の力にて無理矢理煩悩を捩じ伏せ、軽くデコピンしながら叱りつける。
「……コラ!居なくなるなら、予め何か知らせておきないって言ってたでしょうが!姿が見えなくて、心配したんだからな……?」
すると、まるで『ごめんなさい……』とでも言う様に、若干しょんぼりとした様子を見せながら、俺の肩から膝へと降りて行き、そこで頭をペコリと下げて見せるカーラ。
……本来なら、もっと確りと反省させるべきなのだろうけど……。
でも、キチンと反省しているみたいだし、まぁ良いか。多分、もうしないだろうしね。
そう結論を出した俺が、もうするなよ?と言いながら頭を撫でてやると、とても心地好さそうに円らな目を細めながら、甘える様にすり寄って来る。
……うん、愛い。
しばらくそうやって撫でていたのだが、そう言えば他の二頭は何処に?と思い至ったのでカーラへと問い掛けてみると、カーラも『そう言えば!』みたいな顔をして俺の膝から降りると、俺の周囲を飛び回って注意を引こうとしてきた。
その行動に首を傾げていると、俺の前にて羽ばたきながら滞空して、とある方向を視線にて示しながら、全身で『こっちに行こう!』とアピールしてくる。
「……そっちに、他の二頭が居る、のか……?」
念のためにそう問い掛けると、その場で上下にホバリングして見せて肯定の意を表明すると、その方向に少し行っては戻ってきて、と言った行動を何度か繰り返して見せた。
……そこまでして誘導したがるとなると、何かしら在るのは確定としても、一体何が?少なくとも、俺達が目指す方向から外れている訳でも無いし、カーラがわざわざ危険が在る様な処に誘導するとも思えないが……。
結局、カーラに着いて行くと結論を出した俺は、皆に号令を掛けて休憩を適当な処で切り上げ、先導するカーラの後を追い掛けて行くのであった。
……その先で、何に遭遇するとも知らずに。
果たして主人公一向を待ち受けるのは何か?リルとリンドヴルムの運命や如何に!
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