155・表層から中層域へ
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今回は少し短めになっております
「……ふむ。こうなってくると、やっぱり魔王の勘違いの類いでは無い、か……」
あれから暫く進んで行き、結局手を出す事も無いままに表層と中層域との境目に到達した俺達は、特に疲労が溜まっていた訳でも無いが一応予定していた通りに一時の休憩を取る事にした。
自主的に俺達の護衛の様な事をしてくれていただけでなく、サンプルとして形を綺麗な状態で残してくれたり、定期的に持ってきてたりしてくれていた従魔達を、撫でたりブラッシングしたりして労った俺は、森に入る前に予め用意していた軽食(タツが作ってレオの『空間収納』にinしていたモノ)を口にしながら、二種類の地図を眺めていた。
片方は、過去のデータとして予め受け取っていた分布図。表層であれば全体的に網羅しており、中層域も欠けている部分は在れども、基本的に情報を把握する程度であれば問題なく使用出来るであろう精度で書き込まれている逸品である。
もう片方は、俺達が今回現地で書き起こしている分布図。俺達が通ってきた部分しかデータが書き込まれてはいないものの、手前味噌ながらかなり細かく情報が書き込まれており、分かりやすくもなっていると思われる。
そんな二つを見比べてみると、奇妙な事が浮かび上がって来る。
それは、この二つの分布図に於ける魔物の生息場所が、まるで深層部分から『何か』に押し出される形で表層側へと動いて来た様になっている、と言う事だ。
古い方の分布図を見る限りだと、元々は各魔物の種類によってある程度の大きさのコロニーを作り、固まって生息していたらしい事が見てとれるのだが、そのコロニー自体は他のソレとは互いに距離を置いて作られる傾向に在るらしく、間に緩衝地帯を挟み込む様な立地になっており、元々隣接はしてはいなかった様なのだ。
だが、俺達が通ってきた場所では、ある種類の魔物を蹴散らしながら一定の距離を進むと、とあるラインを越えた途端に別の種類の魔物に襲われ始める、と言った状態となっていたのだ。これは、別種の魔物のコロニーが、間に緩衝地帯を挟まず隣接した状態となっている事を示していると言う証拠の一つと言っても良いだろう。
他の地域のソレや、過去のデータ全てを把握している訳でないので、俺には確たる事は断言出来はしないのだが、それでも現在の傾向として判断する限りであれば、確かに今までに無い事態となっている事は間違いないみたいである。
「……ええ、まだ情報が出揃ってはいないですが、まず間違いは無いでしょう。恐らくは、そうして緩衝地帯を設けられない程に密集しているせいで、魔物間の争いが激化し、その結果として普段よりも多くの魔物が森の外ないしより浅い層へと追いやられる事となった、と言うのが、今回の件の仕組みでしょうね。
今朝、と言うよりは昨夜の魔物に関しては、まだ情報が足りませんので何とも言えませんが、新しく中層域から追い出された個体が表層に留まる事無く外部を目指した、との程度の見立てが精一杯でしょう。死体を詳しく調べられれば、もう少し解る事も多かったかも知れませんが、今言っても仕方の無い事では在りますのでお忘れ下さいませ」
そして、それは今回学者枠として同行しているルィンヘン女王としても同じ様な認識であったらしく、俺の溢した呟きを聞き付けてか、何故か俺の隣に腰掛けながら、俺の疑問に応える様に言葉を向けてくる。
その手には俺達に支給された資料と同じモノが握られており、道中にて特に意見交換する機会が無かった事を鑑みると、どうやら周囲の状況から俺と同じ結論に至ったのだろう事が窺えた。
「考えられる可能性としましては幾つか在りますが、最奥にて強大な魔物が発生し、それから逃げる為に表層部分を目指して進んで来ている、と言うのが、現時点で最も可能性が高いと同時に最も厄介なモノであるかと思われます」
「……純粋に、魔物の大量発生、と言う事は考えられませんか?」
「フフフッ、タカ様も分かっていて仰られているでしょう?純粋に大量発生しただけでしたら、とっくの昔に生息域なんて関係無く、大量の魔物が森の外へと溢れ出ていたハズだ、と言う事は。
ですが、今は互いの緩衝地帯が無くなる程に生息域が密集しているだけで、その生息数自体は正常な値の範疇に在る事は既に確認出来ております。
また、あくまでも『現段階では』と頭に付ける事になりますが、まだ時折現れる中層域の魔物としか遭遇していない事を鑑みれば、私達が最も警戒しなくてはならない深層の魔物はまだ深層に留まったままか、もしくは中層域までしか進出していない事になります。
しかし、それも『有り得なくは無い』と言うだけで、現実的に考えれば不自然と言うモノでしょう。
よって、何かしらの結界でも張られていて、深層の魔物が出てくる事が出来ない、と言うのでも無ければ、基本的に魔物の大量発生と言う線は考えなくても良いかと。答え合わせはコレで大丈夫でしたか?」
最後に付け足された一言に、思わず言葉が喉に詰まって出てこなくなる。
どうせ解っていて言ってるんだろうなぁ、とは思っていたが、ここまで見抜かれているとはちょいと想定外と言っても良いかな?
……あと、俺が何も言わないのを良いことに、ニコニコと笑みを浮かべながらくっ付いて来ないで貰えませんか?腕を絡ませたり、太腿を擦ったりしてきてますけど、耳まで真っ赤に染まっているのも見えてますからね?そろそろ、アストさんから発せられてる殺気が凄い事になりつつある事にも気付いては貰えませんかねぇ!?
そんな俺の内心での祈りが通じたのか、案外とルィンヘン女王がアッサリと引いてくれたお陰で、この休憩が終わるまでアストさんに抱き着かれる程度で済み(?)、俺達は無事に中層域へと足を踏み入れる事となるのであった。
******
「タツはサーラさん、レオはシンシアさんの処に援護に回れ。カーラとリンドヴルムはそのまま遊撃、リルは俺と一緒にあのデカ物を叩くから、他の皆はそのまま戦線を維持で」
「……了解した」
「次は僕の番だからね~?」
『…………!』
『やれやれ、そろそろ飽きてきたのじゃがのぅ……』
『ウォフ!!』
「了解しました。ご武運を!」
そんな恋人の声に背中を押されながら、リルと共にネフリアさんを除いた他の面子が構築していた戦線を脱し、見上げんばかりのデカ物へと特に緊張する事も無く、相棒をその手に握り締めながら歩んで行く。
すると、当然の様に、ルィンヘン女王への護衛として共に下がっているネフリアさん以外の面子が相手にしていた、この森でも中層域の奥の方に生息していたらしい『深緑鹿』なる鹿(極めて狂暴で肉食性。適正討伐ランク『A』)が俺達目掛けて角を突き立てんと襲い掛かって来るが、俺は動きを見切って最低限の動作にて回避しながら急所を一突きにし、リルは特に気にする事も無しに無造作に薙ぎ払って行く。
そして、その『深緑鹿』の包囲を突破し、奥に控えていた『深緑鹿』のボスであるらしい『深碧鹿』(『深緑鹿』の変異種。『深緑鹿』を統率して群れを作る。適正討伐ランク『S』)とか言うお化け鹿の前へと進み出る。
流石に一つの群れを統べるボスだけあり、俺とリルが只の獲物ではなく、自らの命を脅かす可能性を持つ敵である、と認識したらしく、頭部を下げそこに生え茂っている角にて首筋や胴体をガードしながら、後ろ足を蹴り立てて急加速し、俺達目掛けて一直線に飛び込んで来た。
その速度は鬱蒼と生い茂った森の中では有り得ない程のモノであるらしく、文字通りに『目にも止まらぬ速度』の域にまで達している様子だ。うっかり目線を切ってしまえばその体毛の色も相まって、何処に居るのか把握する事が出来なくなるであろう事が予測される。
……が、その程度では俺とリルに対して生命の危機を感じさせる程のモノでは無く、リルは軽くステップを踏むだけで、俺には完全に動きを見切られて紙一重の距離にてその渾身の突撃を回避されてしまう。
余裕たっぷりに回避したリルの方はともかく、本当にギリギリの処でわざと回避した俺の事は倒したと勘違いしたのか、頻りに角を確認する様な仕草をしているが、当然の様にそんな処には俺が刺さっている訳も無く、完全に隙だらけな背中を俺達へと晒している格好となっていた。
当然、こちらを襲ってきた獲物に遠慮してやる義理は無く、油断している間に片を付けるべく一歩踏み出す。
リルへと向けて。
「悪いけど、ちょっと背中借りるよ!」
『ウォン!』
一応声を掛けて了承を貰うと、踏み出した勢いのままにリルの背中へと飛び上がり、その勢いのままにリルの背中を踏み台にして再度跳躍する。
すると、それまではそれなりの角度にて見上げないとならなかった『深碧鹿』の体高よりも高い位置へと跳躍する事に成功する。
それにより、まだこちらの行動に気付いていない『深碧鹿』の急所である首筋へと攻撃するチャンスを得た俺は、空中にて身体を捻ると、普段はあまりやらない超が着く程の大振りにて『深碧鹿』の首の中程に、相棒たる『朱烏』の長大な刃を叩き込む!
ズッッッッッッパン!!!
すると、一応は意図的に狙ってやった事とは言え、どうやら上手い事骨と骨との隙間に刃が入ったらしく、俺が振り抜いた勢いのままに斬り落とされた首が、鮮血を周囲に撒き散らしながら飛んで行き、近くに在った大木の幹へとその角が突き刺さり、勝手に不気味なモニュメントへと変貌を遂げたのであった。
しかし、その首の断面から間欠泉の如く鮮血を噴き出させてはいるものの、身体の方はまだ倒れ伏す様な事はせずにその四足にて立ったままになっている為、無いとは思うが生きていた場合に備えて気を抜かずに注意し続ける。
同じく警戒しているらしいリルと共に注視する事暫し。
他の面子が、ボスが倒された(?)事により群れが混乱した事を利用して、手早く片を付けて来た事を確認してからゆっくりと接近し、体構造上比較的攻撃される可能性の少ない側面方向から近付き、近くに落ちていた枝で足や腹部等をつ突いたり叩いたりして反応を探ってみる。
その結果、やはり首を撥ね飛ばされて生きていられる生物はいなかった、と言う事らしく、無事に死亡している事が確認された。
周辺にはもう魔物は居ない事を気配で確認した俺は、こうして中層域に足を踏み入れてから早くも一時間程度で、三度目の魔物による襲撃を撃退出来た事に胸を撫で下ろしながら、皆の様子を伺って見る。
「……ふむ?毛皮と違って、肉質は大して変わりは無い、か……」
「じゃあ~、食料として枝肉程度に解体してから~、僕の『空間収納』にしまっておこうか~?」
「それがよろしいかと。この『深緑鹿』の緑色をした毛皮は、その入手何度と色合いから高価で取引されますが、その肉と角は高級食材としても有名ですので、確保しておいても間違いは無いかと思われますね」
「ほう?某は初めて聞きましたが、この魔物はそんなに人気があるのですかな?」
「確かぁ、毛皮の完品一枚で金貨十数枚からだったハズだからぁ、結構なお値段になるハズよぉ?」
「……そう言えば、ボクの実家にもこんなの在った様な気がするなぁ。お父様も、手に入れるのに苦労した、って自慢していたっけ?」
「……イヤ、なんで皆ツノがタベラレルって処にツッコマナイのか、誰か説明してはクレナイカナ?
エ?不思議に思っているノッテ、ワタシだけだったりするノ?」
まだまだ中層域の表層近くと言う事もあり、皆の表情にはまだ疲労の色が見られないが、だからと言ってあまり油断し過ぎるのもよろしく無い。
それに、表層を進んでいた時とは違い、襲ってきた魔物を鎧袖一触に蹴散らせる訳でも無く、魔物に襲撃される度に足を止めて戦闘を行う必要が在る為に、予定していた行程を、大幅に、と言う程でもないが、それなりに超過しつつあるのも間違いない事実では在る。
しかし、かと言って行程を繰り上げて移動速度を上げると言うのも、あまりよろしく無いだろう。
何せ、魔物の強さ自体が上がってきているので、俺達はまだまだ余裕で相手に出来る程度でしか無いし、アストさんも余裕綽々な様子を見せてはいるが、ネフリアさんは少々本気を出して掛からなければ手早く倒せなくなっているし、サーラさん達『獣人族』組は既に割合と本気で掛かっている様に見受けられる。
全体的に余裕が在るのなら話は別だが、そうでないのに強行軍を強いるのは些か負担が大きすぎると言うモノだろう。下手をすれば、死人が出かねない。
幸いにして、特に時間的な制約の在る依頼では無い故に急ぐ必要性はあまり無いし、食料や飲料水の類いもレオの『空間収納』に余裕で半年近くはサバイバル出来る程蓄えて在るので、物資的な心配もしなくて良い。
唯一の心配としては、俺達がこうして調査を続けている間に、魔物の大量発生等が起きる事だが、どうせそうなってしまったら真っ先に巻き込まれるのは俺達なのだから、ある程度の間引きや撃退をする事も出来るだろう。最悪、ルィンヘン女王に協力してもらい、広範囲をまとめて吹き飛ばして貰うことも不可能では無いだろうしね。
どうせあの魔王の事だから、本格的に軍も自身も動かせないとは言っても、何かしらの備えとして戦力を控えさせているのだろうから、万が一そうなってしまったとしてもどうにかなるんじゃ無かろうか?多分。きっと。……恐らくは、そうに違いない、ハズ……!
それに、木々が生い茂っている関係上、良く見てみないと分かりにくいが、既に日も傾きかけている様子なので、どの道今日はこれ以上行程を消化するのは無理が在る。
ならば、いっその事、既に安全を確保してあるこの近辺にて、今日は夜営してしまった方が良いだろう。
それらの判断から、少々早いながらも夜営の設営へと移る決断をした俺は、皆に指示を出してもう少し分け入った地点にて初日の調査を終えるのであった。
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