145・女性陣と観光してみます 1
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二三話ほど、ほのぼの日常回が続く予定です
俺達が三王から手合わせと言う名目での拷問を受けさせられ、依頼を終えて立ち寄った女性陣や、用事を終えて帰宅したアストさん、ネフリアさんに驚かれるやらショックで泣かれるやらしてから更に半月程経過し、俺達も冒険者としての活動を再開した頃。
昨日魔王経由にて、例の魔方陣の発見に成功し、その解析が進められている、と言う連絡を貰い、テンションが爆上げ状態になった俺達は、柄にもなく皆で大はしゃぎして宴会に突入。
酒が入って皆のテンションが変な方向に暴走して女性陣が突然脱ぎ出したり、その状態のまま好意的に接している相手に抱き着いてきたり、それを俺達が必死に抑えたり布でくるんだり(普通は逆だと思うのだけど?)して宥めながら一夜を過ごし、死屍累々な状態のままで朝を迎えた現在。
半裸の状態のまま、完全に俺の腕をロックしていたので、仕方無くそのままにしていた(せざるを得なかった)乾が目を覚まして起き上がると同時に
「……皆!思い出作りに行かない!?」
と、言い出したのだ。
ほぼ一晩中、酔っ払った大人勢(アストさん、ネフリアさん、先生)の世話(アストさんは脱いで抱き着いてくる。ネフリアさんは無言で文字通り絡んでくる。先生はキス魔になった)をしたり、実際に間違えてアルコールでも口にしたのか、それとも雰囲気に当てられるかしたのかしたアピール勢(乾、久地縄さん、阿谷さん、サーラさん)からの攻勢をあしらったりしていた俺達(タツはサーフェスさんから、レオはシンシアさんからそれぞれ)は、まだ睡眠の足りない頭にて半ばボーっとしながら返答する。
「……思い出なら、散々作っただろう?あと、ちゃんと服着なさい。嫁入り前の娘さんが、胸さらけ出す何てはしたない」
「……言う程、見るような所在ったか?それと、そろそろ解いてくれ。あと、服も着てくれ……」
「タカはともかくとしても~、僕らは別に要らないんじゃないの~?あとシンシアさん~?そろそろ解放してくれないかなぁ~?色々と当たってるんだけど~?」
男子高校生の朝特有のアレコレが無い訳でもないが、昨晩から殆ど寝ていない事と、昨晩の方がちょっと口には出来ない様な『凄い事』(注※肉体関係までは行っていません)をされていた関係上、ある種の『賢者タイム』の様な状態になっており、割合とあられもない姿になっていた女性陣でも比較的冷静に対処出来ていた。
……まぁ、後で思い出した場合はどうなるか保証出来ないから、早めに服装を整えて欲しいのが正直な処だけど。
そして、タツやレオの言う通りに、この世界は王都や首都を除けば基本的にそこまで治安が良い訳では無く、その上で魔物まで跋扈する程危険性が高い為、そもそも観光して楽しむ様な文化自体がそこまで無いので『観光行』自体もそこまで発達している訳でない。
強いて上げるなら、交易等にて発達している都市へと足を運ぶか、もしくは史跡巡りをする位だろうが、双方ともにそれなりに危険性が伴うのは間違いない。
……だが、恐らくはそう遠くない未来に、もと居た世界へと帰還出来るのだろう実感が手に入れられた事により、この世界での『楽しかった思い出』が欲しくなった、と言った処なのだろう。
もちろん、俺としても乾達との『思い出』の一つや二つは作っておきたいと言うのが正直な処では在るが、だからと言って女性陣を連れて危険な処に出て行くのも、あまり気分の乗る様な事でも無い。
それ故に、やはり再度釘を刺しておく方が良いだろう、との判断から口を開こうとしたのだが、いつの間にか復活または覚醒を果たしていた女性陣が一ヶ所に集まり、額を突き合わせながらキャイキャイと何処に行こうか?だとか、何が在るのか?だとかを話合っていた。
その光景に固まっていると、俺の背後からタツとレオの二人が肩に手を置いてくる。
「……済まん、俺達では止められなかった……」
「出来るだけ安全な処になってくれると有難いんだけど~、どうなるかは解らないからねぇ~」
……それが解っていたのなら、是が非でも止めて欲しかったんだけどなぁ……。
******
結局、ネフリアさんやアストさんと言った保護者的な立場に在る二人を含めた女性陣が結託したり、魔王やルィンヘン女王と言った庇護者が許可を出してしまったりした結果として観光旅行が決行される事が決まり、準備やら予定の調整やらを含めてもう半月程経った頃。
俺達は、最終的に行き先として候補に残り続けていたある種の『思い出の地』でもある『カーパルス』へとやって来ていた。
俺達として正直な話、ほんの数ヶ月前に遠征軍として出兵する時に来た場所であり、更に言うなら一月程前の帰還時にまた来た場所であるだけに、そこまで来訪を望んでいた訳でない。
また、女性陣にしても俺達と同じタイミングにて訪れてはいた為に、『どうしてもここに来たかった!』と言う事では無いだろう。丁度季節も冬に当たるから、海風で超冷えるしね。
……だが、俺達がアストさんに救助されて初めて踏んだ魔王国の土地であり、初めてこの世界の『文化』に触れた土地でもあるので、この世界の思い出、と言う括りからすれば、ここ以外に挙げられるべき候補地は無かったのだろう。
まぁ、サーラさん達『獣人族』組は来た事が無かったらしいから、丁度良かったと言えば良かったのだけど。
それに、何だかんだ言って、俺達もあの時は何処ぞの誰かに邪魔をされて、まともに観光する事も出来ていなかったのだから、この機会にちゃんと見て回る、と言うのも悪くないのかも知れない。
そんな思いと共に、爆走する馬車(動力はリル)に揺られ、魔王国の首都である『クラニアム』から目的地の『カーパルス』へと通常では四日程掛かるハズの日程を、僅か二時間程に圧縮して到着した俺達がまず初めに向かったのは、最初の時には行けなかった港付近の市場でも、交易品を扱う大店の商店でもなく、俺達にとってはある種の『因縁』が在る相手の処であった。
「……よう、アバズレ。久し振りだな、邪魔するぞ?」
そう声を掛けながら、扉を蹴破る様にして少々乱暴に入室(カチコミを掛けるとも言う)する。
外に乾達を待たせた状態で雑に入室したのは、この『カーパルス』を直接的に管理・運用している領主的な立ち位置に居る人物の執務室である。
その中に居るのは当然『カーパルス』の領主(の様な人物)であり、そんな相手に対してそんな乱暴な行動と口の聞き方をすれば、如何に俺達が魔王の知り合いとは言えども普通は即座に首を飛ばされる事になるだろう。
……だが、俺達にはそうならない自信が在ったし、むしろ俺達にはそうするだけの『権利が在る』と言っても良い様な相手なのだから、わざわざ丁重に下手に出てやる必要は無いよなぁ……?
何せ、以前俺達に色々と仕掛けてくれちゃった相手なんだから、ねぇ?
その執務室にて机に向かい、一応は真面目に仕事をしていたらしいその人物へと、そんな内心と共に睨め付ける様にしながら応接用のソファーセットにドカリと腰掛け、その前に置かれたテーブルへと足を投げ出す。
そして、顎の動きだけで『さっさと席に着け』と促すと、さも『不機嫌です!』と言わんばかりの感じでコツコツと指で音を鳴らす。
そんな俺の様子に、完全にビビった様子の『アバズレ』が、ビクビクしながら俺の向かいの席へと座り、完全に脅しに来ている体の俺に向かって口を開く。
「……ほ、本日はご来訪ありがとうございますわ、英雄『黒槍』様。
そ、それで……本日はどの様なご用件なのでございましょうか……?こ、このベレト、『黒槍』様のご指示でありましたら、如何なるモノでも成功させて見せますわ!
……で、ですので……その、以前の事は……流していただけると、有難い……のですが…………」
そう、恐々とした様子で言葉を放ってきたのは、最初にこの『カーパルス』へと来た際にアストさんへと様々な暴言を吐き、俺達の予定を大幅に狂わせてくれたら『アバズレ』もといベレトであった。
現状を少し説明しておくと、俺達が魔王に接触した際に『カーパルス』でのいざこざを魔王へと直接的に説明。
その後、魔王の逆鱗に触れてしまった(魔王からの指示を無視してアレコレやらかした為)ので、それまで持っていた公的な役職を剥奪されたのだが、元々やっていた『カーパルス』の運営自体のノウハウは際立ったモノを持っていた為に、そこに付いてはそのまま続行する形となる。
そして、最近になって俺達が魔王国で英雄視される(『小鬼』の暴走の解決、同盟軍総指揮官への就任、歴史的勝利への貢献等々が原因……らしい)事となり、過去に色々と俺達に対してやらかしており、俺達としても心証は最悪に近い上、何かしたとしても魔王が揉み消しを図ってくれる可能性が高い為に、自分が何かされるのではないか!?と勝手に疑ってビビっている、と言う訳らしいのだ。
俺達としては、アストさんにアレコレやらかしてくれた事に関しては、当日に女性陣がやったアレコレにて相殺、と言う訳ではないが、取り敢えず『手打ち』にはなっていたと思っていた以上、特に思う処は無いのだが、こうして超が着く程に下手に出られているのだから、別段利用しない手は無いよねぇ?(黒い笑み)
そんな内心を隠す様に、高圧的に見える様に演技しながら口を開く。
「流すかどうかは、俺達じゃない。それを乞うべき女性が他に居るだろうがよ、おぉん?」
「……そもそも、今回は別件だ。そちらの事情は酌んでやるつもりは無い……」
「精々~、こっちの言う事を素直に聞いておく事だね~。でないと~、今度はここの運営まで失う事になるかもよ~?そうすると~、行き着く先は何処になるだろうねぇ~?」
「……ひ、ひぃぃぃいいい!!?」
その言葉により、本心からの恐怖によって顔をひきつらせ、悲鳴を挙げるベレト。
……ほんの少しの悪戯心からの言動だったが、予想以上に良い反応をしてくれるので、少々愉しくなって来て加虐心が抑えきれなくなってしまっているのだが、もう少し弄っても良いだろうか?良いよね?
しかし、心のままに暴走しかけた俺の肩に手を置いて、そこまで、とでも言いたげに首を振る二人を見ると、それまで膨れ上がりつつ在った加虐心が音を立てて萎んで行き、心に平静が戻ってくる。
……いかんいかん、危ない処だった。
何処かから、精神支配の魔法でも飛ばされて来たんだろうか?
心の迷いを首を振る事で完全に振り払い、こちらを怯えた様子にて窺っているベレトに対し、それまでよりも表情を和らげながら、出来るだけ威圧感の無い様に言葉を選んで行く。
「……何、俺達が『お願い』したいのはそんなに難しい事じゃあ無い。ただ、この『カーパルス』で一番良い宿を二泊分程押さえて欲しいのと、ここに居る間に俺達に対してちょっかいを掛けない、って約束して欲しいだけさ。
当然、宿は押さえるだけで良いから代金はこっちで出すし、ちょっかいを掛けられなければ、俺達から暴れだす事も無いと約束しよう。駄目かね?」
「……見て回るのに、良さそうな場所の候補も頼む……」
「こっちで勝手に見て回るから~、ガイドとかは手配しなくて大丈夫だから~、心配しなくても良いよ~?」
「……は、はぁ……?それで宜しければ、そう手配致しますが……本当にその程度で宜しいのでしょうか……?」
そんな俺達からの言葉を信じられない様な様子にて受け、まだ何か在るんじゃないのか?と窺う様な視線を向けて来るベレト。
しかし、それ以上俺達が何を言う訳でも無く、また刃を向けて来る訳でもない事から本気だと判断したのか、慌てて席を立つと伝文用魔道具(簡単な文章をやり取りする魔道具。普通はそれなりに大きな魔核が必要な通信用魔道具ではなく、小粒の魔核で使用出来るこちらを使う)にて文章を送りながら、手元のメモ帳に幾つかの名前を書き連ねて行く。
その過程で部屋に設置されていた時計へと視線を向けたのだが、何かに気付いたらしく、それまで書いていたのとは別口のメモ帳に何かを書き連ねて行く。
それらの作業が終わるまでの時間や、作業の際の手際等から見るに、その手腕のお陰で『カーパルス』を失わずに済んだ、と言う話はそう本当だったのだろうと納得出来る。
俺が一人でそれらの結論に頷いていると、どうやら一通りの作業が終わったらしく、ベレトがこちらへと戻ってくる。
「……取り敢えず、宿の方は『アムドゥスキアスの調べ』と言う、この『カーパルス』でもトップクラスの場所を押さえられましたわ。
部屋に関しては、皆様の正確な人数を知りませんでしたので、取り敢えず十人以上、と伝えましたので、すみませんが現地にて手続きの方をお願い致します。
それと、私が思い付く限りで『カーパルス』に来た以上、ここだけは見ておいた方が良い、と思われる場所をピックアップさせて頂きましたわ。二泊する予定とのお話でしたので、恐らくは全て回ろうかと思えば回りきれる程度にはなっているハズですわ」
そう言われて、渡されたメモ帳へと目を向けると、そこには現在地から『アムドゥスキアスの調べ』へと向かう際の移動経路や、『カーパルス』の見処の位置と簡単な概要が、とでも見易く纏められていた。
……確かに、これは失い難い資質って事なんだろうなぁ……。
そんな思いと共にメモ帳へと目を通していると、今度はやけにオドオドとしながら別のメモをこちらへと差し出してくる。
「……その、時間が時間ですから、そろそろ昼食をお取りになるのだろうと思いまして、店の方をリストアップさせて頂いたのですが……」
言外に、余計な事をしましたか……?と聞いてきている様な姿に、流石に怒気を向けるほど人間の屑になった覚えは無いし、今回の昼食には使わなくてもその内役に立つだろう、とメモを受け取って席を立つ。
そして、手を煩わせた礼に金貨を何枚か机に乗せ、ベレトへと向かって軽く手を振ってから部屋を辞し、外にて待ってくれていた女性陣と合流して、俺達の思い出の店である『ハルペウス』へと向かって行くのであった。
一連の日常回が終わり次第、数話かけて締めに掛かるのでそこまでお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m
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