141・魔王国に帰って来ました
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ヴァイツァーシュバイン王国にて『シュロスベルグ』を陥落させてから約一月と半分程が経った頃。
俺達は、魔王国の首都『クラニアム』の一角に建てられた家にて、戦場にて蓄積した諸々の疲労を癒していた。
……何故、まだまだ王都を陥落させたり、目的だった魔方陣を発見したりしていなかったのに、こうして片道だけでも軽く半月以上(海路で確定半月。陸路でもう半月近く)は掛かる事が確定している魔王国まで戻って来ているのか、と言うと、理由は単純かつ思いがけないモノである。
何と、俺達が攻め落とした『シュロスベルグ』に、ヴァイツァーシュバイン王国の宮廷魔導師長であったケンドリックだけでなく、国王までもが入っており、ケンドリックが討ち取られた時点で敗北を悟っていたのか、俺達が攻め入ったタイミングで脱出しようとしていたらしいのだが、丁度その場面を『シュロスベルグ』在住だった現地民に捕らえられ、それまでの横暴な態度から民間人による私刑を受けながら、引き立てられる形で同盟軍の処まで連行されて来た、と言う阿呆みたいな形にて敵国の王が捕らえてしまった為に、ソレ以上の戦闘を続行する必要が無くなったので終戦宣言がなされたから、と言う何とも締まりの無い終わり方をしたからである。
……いや、言いたい事は、十二分に理解出来る。
俺も、同盟軍の本陣にて、その知らせを聞いた時は本当に『は???』ってなったし、その時俺と同時にソレを聞いていた指揮官級(『六魔将』や『十二獣将』の人達)も同じ様に頭の上に『?』を浮かべながら首を傾げている状態になったからね。
そして、その知らせによって半信半疑ながらも確認に行ってみた処、案内された先では非戦闘要員(ぶっちゃけてしまえば一般市民)にボコされている、矢鱈と豪華な服装に身を包んだハゲかけたデブのオッサンが居ただけ(実は近くに護衛だった騎士も転がっていたのだが、気が付いていなかった。当然生きてる)なので、更に『はい????』って状態になってしまったが、それも仕方無い事ではないだろう。
何せ、その場に居合わせた人間ではソレがヴァイツァーシュバインの国王だと判断する事が出来なかっただけでなく、そもそも碌に人相判定が出来る様な状態ではなかったのだから、正直仕方無かったんじゃないの?と言いたい処である。
まぁ、もっとも、取り敢えずで『回復薬』を投与され、一応人相判定が出来る程度に治された後で通信用魔道具を使用して魔王陛下と獣王陛下に確認を取って貰った事で、漸く本人である、との結論が出されたので、結果的には判定出来ていたみたいだけど。
もし、それでも判別出来なければ、俺達が魔王国で以前使った例の魔道具(使用者の名前や『技能』等を表示させるアレ)を使っての判定にまでもつれ込む予定だったらしい。
そして、そんな訳であれ敵対していた国家元首をこうして確保出来てしまった事により、実質的にヴァイツァーシュバイン王国は敗北したと言う事になった為、一応は王都である『ハオプシュタッド』も制圧する必要が有りはするが殆ど終戦したも同然、と言う状態になったのである。
そのお陰で、一応は『志願兵』と言う扱いにて参戦していた俺達を始めとした冒険者組は魔王国への帰国の許可が降り、現地にて徴兵されていた『人族』の人々にも、出身の街まで帰還する事が許される事となったのだ。
それを聞いた俺達は、自身が『練気』やら『龍の因子』やらを使用した反動にてほぼ戦力外になりかけていたと言う事と、突然戦場に連れ出された形となっている女性陣を避難させる為に一も二もなく帰国を決意し、俺が総指揮官に就任するまではその地位に居たアスモディアさんとネメアーさんにその手の事柄を丸投げすると、未だに状況を把握しきてれいなかった女性陣を馬車に詰め込み、動力であるリルを動かなくなって来ていた身体を無理矢理動かして何時もよりも多目にモフって機嫌を取った結果、通常掛かるハズの日程の半分以外の時間にて『ハーフェン』まで到着し、そこから魔王国へと出港しようとしていた船に飛び乗る事で、こうして現在の様に魔王国にて寛いでいる事が出来るのである。
「……平和だなぁ……」
「……あぁ、平和だ……」
「まだ向こうだと続いているみたいだけど~、それでもこっちは平和だよねぇ~」
思わず、三人でだらけながらそんな声が出る位には周囲は平穏であり、それを満喫出来る程度には俺達も回復していた。
ちなみに、今俺達が居る家と言うのは、実はそれまでの定宿であった『踊る一角獣亭』ではなく、歴とした一軒家だ。
これを贈ってくれた魔王曰く、預かっていた女性陣をむざむざ拐われた事への賠償と、ヴァイツァーシュバイン王国で上げた戦果に対する正当な報酬の一つなので、遠慮しないで受け取って欲しい、との事である。
まぁ、俺達としても、そろそろ宿屋暮らしに飽きていたので丁度良かったし、家自体もそこまで手狭でもなく広過ぎもせず、と言った絶妙な具合の間取りにて建てられていた為に、こちらとしても否は無かったのでこうして住んでいる、と言う訳なのだ。
もっとも、この家に居住しているのは、俺達三人とアストさん、そして従魔であるリンドヴルムとカーラとリル、それとネフリアさんだけだったりするのだけど。
乾達女性陣や、サーラさん達『獣人族』組が住んでいないのは単純に、本人達がそれを望まなかったからだ。
乾達は、半ば仕方無かった側面が在った事は本人達も俺達も認めているが、それでも俺達へと敵意と共に刃を向け、実際に傷付けた(俺は無傷で済んだが、タツは片目を取られ、レオも指と肋骨を何本か持っていかれたらしい)以上は一緒に暮らす事は罪悪感が半端ないらしく、一部の女性陣は血の涙を流しながらも同居を辞退していた。
サーラさん達はサーラさん達で、自分達が一緒に居ながらああも簡単に誘拐されてしまった事に対する罪悪感と、自分達の力量に対する不甲斐なさでへこんでおり、誘い自体は嬉しそうにしてはいたのだが、やはり今のままでは受けられない、とこちらも辞退する流れとなった訳なのである。
こちらとしては、部屋は余っていたのだし、既に起きてしまった事は仕方無いし、もう終わったのだから気にしてはいない(もっとも、今後同じ事が在った場合は助けようとはしないで斬り捨てる、とも同時に伝えたが)ので、どうせだったら一緒に住むか?と勧めた程度だったので、そこまで深く考えての決断であれば説得する必要も無いか、とそのままにしている。
もっとも、各自で『お気に入りの部屋』を確保していたり、既に私物を持ち込んだり、依頼で遠出しない限りは一日に一回は顔を出して夕食を食べてから帰るので、ほぼ住んでいる様なモノだろうけど。
まぁ、俺達男の子としては、普段の賑やかな雰囲気や、女性率多目な空間にもう馴れてしまってはいるものの、それでもやっぱり野郎だけの時間と空間と言うモノも欲しい訳なので、正直いつぞやみたいなアピール合戦状態よりは今の落ち着きつつ在る空気の方が余程好ましかったりするので、割りと今の環境は気に入っていたりする。
そんな感じで、ここ最近は完全に休暇としている俺達(俺、タツ、レオの三人と、アストさんと従魔達とネフリアさん)は、各自で思い思いに買い物に出掛けたり、採取に出掛けたり、リルの散歩に出掛けたり、料理の研究に勤しんだり、怪しげな毒物を調合したり、リルをモフモフにブラッシングしたり、そんな俺達の事を面白そうに眺めたりしながら過ごしていたのだが、そんな折りに急な来客が訪れる。
丁度、その時はアストさんはギルドの方から連絡が来て席を外しており、ネフリアさんも『アラネアの郷』の方へとこれまでの報告書(本人曰く『日記とそうカワラナイ』らしい)を提出しに行っており、完全に俺達しかいなかったタイミングでの訪問であっただけでなく、俺達三人共に約束の覚えが無い来客であったので一時顔を見合わせたりしたのだが、取り敢えず出てみるか、で出迎えてみて再度驚かされる事となる。
何故ならば……
「……ふむ、帰路についていた時の要望に沿っての様式だったが、些か手狭ではないか?やはり、我が魔王城ゲーティア並みの豪邸を建てるべきではないだろうか?少なくとも、余としてはその程度の報奨でも足りるかどうか、と思っておるのだがな?
一層の事、新しく建ててそちらは別荘として下賜する方が良いかな?」
「これこれ、魔王よ。あまり無理強いは良くないぞ?人には人の好みが有る故な、押し付けは嫌われるだけじゃぞ?少なくとも、儂はこの位の広さの方が落ち着くのう。それと、庭が広いのも好評価じゃな。
それとタカよ。もう少しそこは長く、そしてそっちは強めに頼むぞ?
……あっ、そこ!そこじゃあ~♪」
「……くっ、まさか、かの獣王に嫉妬する事になるとは思っていませんでした。
しかし、もう身体の方はよろしいのでしょうか?負傷はそこまでではなかったとは聞いておりますが、疲労の方はかなりのモノだったとも聞いておりましたが?
……それと、あくまで私が羨ましいのは、貴殿の膝にて撫で回される、と言う事であって、決して獣王陛下を撫でたかった訳でないので渡されても困るのですが……」
……そう、何故ならば、本来であればここに居るハズの無い人物達。
『魔王国』、『獣人国』、『妖精国』の王にして、この世界でも最強クラスの戦闘力を保持している三人の王が、何故か俺達の家に突然同時に訪問すると言うだけでもビックリなのに、あまつさえ歓待を要求された為こうして居間にてもてなしている、と言う現状に在るのだ。
……正直、魔王に関しては『どうせその内来るんだろうなぁ』程度には考えていたので、一応心の準備的なモノは出来ていたと言えば出来ていたのだ。何せ、この家を建てる、とこちらに伝えて来た時に矢鱈とはしゃいでいたから、何かしらの理由を付けて顔を出すのだろう事は容易に予想は出来ていたからね。
まぁ、驚いた事には代わり無いけれど。
だが、ハッキリ言って獣王と妖精女王の来訪は完全に想定外だ。どうやって知ったのかも不明だし、そもそもここまでフットワークが軽いとは微塵も思っていなかった故に、二人に対しては碌に持て成しをするだけの用意が出来ていないのだ。
ぶっちゃけた話をしてしまえば、それこそ欠片も出来ていない。
そんな事で怒り出す二人ではないとは思うが、だからと言って何も無しでは些か問題が在るだろうし、ここはどうするべきか……。
そんな感じの事を内心で悩みつつ、タツが作り置きで作っていたクッキー(女性陣やご近所さんからも好評な逸品)をお茶請けとして出してみたり、何故か『調薬』の技能判定に引っ掛かるらしく矢鱈と上手く淹れられる紅茶やコーヒー(魔王はコーヒー派で他二人は紅茶派だった)を出してみたりしながら、この家の住み心地だとか、女性陣との関係だとか(ルィンヘン女王が引く程食い気味だった)、ここ最近の体調だとかをつらつらと話しあって行く。
そうして行く内に場の雰囲気が和んで来たので、単刀直入に今回の訪問理由を問い質して見る。
「……それで?こうして訪ねて来た、って事は、何かしらの進展でも在ったって事で良いのか?」
そう魔王に聞いてみると、その時手に持っていたクッキー(チョコチップバージョン)を口に放り込み、コーヒーを一口飲んでクッキーの食べ滓を軽く叩いて落としてから咳払いを一つすると、若干真面目な表情を作ってからその口を開く。
「うむ、そうだな。取り敢えずは、幾つかは進展らしきモノは在った、と言って良いだろう。
まず一つ目を上げるとすれば、とうとう『ハオプシュタッド』を陥落せしめた事だろう。つい先程アスモディアから入った連絡にてその報がもたらされた故に、まだ確認は済んではいないが、奴が余を謀りでもしていない限りはまず間違いは在るまい」
そこで魔王が一旦言葉を切った為に、確認の意も込めて同じく同盟として軍を送り込んでいる獣王へと視線を向けるが、特に慌てる様子も隠そうとする様子も無かった為に、恐らくは本当に陥落させたのだろう、と判断する。
「そして、そなたにとっては大本命となる『例の魔方陣』なのだが、アスモディアによるとまだ見付かってはいないそうだ。
一応、兵士達にはその手の研究室や儀式場らしきモノを発見しても触らない様に通達してあるし、『ハオプシュタッド』側に対しても正式に戦勝の要求の一つとして飲ませているそうだから安心しても良いだろう。
場所についても、どうせヴァイツァーシュバイン国王が何かしらは知っているハズ故に、昨夜から『おはなし』を聞かせてもらっているともアスモディアから聞いている。恐らくは、そこまでしない内に何かしらは見付かるハズだ」
「……そうか……。なら、やっと帰してやれるのかな……?」
魔王からもたらされた情報により、思わず呟きが溢れてしまったが、よくよく考えてみれば俺達の事情を知らない人間がこの場に居るんだったよな?と思い出し、半ば反射で自分で自分の口を手で覆いながら二人を伺う。
しかし、カニス獣王もルィンヘン女王も訝しげな視線を向けてくる事は無く、むしろ事情を全て把握した上で、その苦境から抜け出しつつある者へと向ける『慈しみ』すら感じられる様な視線を向けて来ていた。
思わず魔王に対して『どう言う事?』と言う意味合いで、タツとレオと共に視線を向けるが、特に悪びれる事も無いままに肩を竦めた魔王がなんて事は無いとでも言いたげに言い放つ。
「まぁ、この二人には既に話したからな。そなたらの事情をまるごと全部」
「「「…………え、えぇ~!?」」」
思わず二人と声をハモらせてしまう。
一瞬『この魔王何してくれちゃってんのかね……?』とも思いかけたが、よくよく考えてみればこの二人ならば信頼出来るだろう(ルィンヘン女王に関しては『多分』が付くけど)し、両者共に国のトップに居る人物である以上は色々と便宜を図って貰える可能性も在る事を鑑みると、伝えておいても損は無い……かな?
そこまで思考を回した俺が二人へと視線を向けると、タツとレオも似た様な結論に至ったらしく、女性陣やアストさんにも教えていない俺達独自のハンドシグナル(小指だけ曲げる等の動作が入るので結構難しい)にて、俺達の今後を考えればその方が良いだろう、と送って来た。
それを受けた俺は、ため息を一つ突きながら右手で頭を掻き回すと、来客が有ったから、と急いで着けていた左腕全てを覆う手袋と左顔面を覆う眼帯をその場で取り去ってしまう。
「……乾達と違って全部知っているって言うのなら、こっちで過ごさせて貰うが構わないよな?もちろん、『不快だ』って言うならまた着けるけど?」
そんな、見方によっては挑発している様な言葉に対しても、やはり目の前にいる三人の王は柔らかな笑みを浮かべたままで、各々口を開くのであった。
「当然よ。そなたがそなたである以上、何を隠す必要が在ると言うのか?」
「それは、お主の『誉れ』でこそあれど、醜く隠す必要の在る『汚点』では在るまい。誇るが良いさ。それは、彼の名高き『帝龍』の一角を、条件付きであれ打破した証に他ならぬのだから」
「フフッ、おかしな事を。私は『今の貴殿』しか知りません。故に、『今』の貴殿が全てですし、私は貴殿だからこそこうして好意を抱いているのですから、ソレ以外の貴殿は知った事ではないですし、知りたいとも思いませんよ?」
そんな、三人の王達の言葉を貰い、何故か胸の奥から熱いモノが込み上げて来そうになったのを堪えていると、タツは呆れ顔で鼻を鳴らし、レオは半ば笑いながら俺の肩に手を置く。
しかし、その二人の表情は、何処か俺の現状に安心した様な『温かみ』とも『柔らかさ』とも表現できそうな、そんな表情であった。
実験的に目次の作者名から作者ページに飛べる様にしてみました。
……ちゃんと出来てる……よね?
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