139・対『シュロスベルグ』攻略戦 5
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ケンドリックが杖を振るったことにより、頭部の布が取り払われてソレの素顔が晒される。
そして、その素顔とは、かつて俺達が仕止め損ねた元クラスメイトの三人が無残にも一つに融合させられた様なモノであった。
「おやおやおやぁ?この程度では揺るぎもしませんかねぇ?流石に、コレくらいすれば動揺の一つもしてはくれるのでは?と期待したのですがぁ、流石にそう上手くは行きませんかねぇ?」
しかし、ソレを実際に目にしていても、軽く顔をしかめる程度で動揺の一つもした様子の無い俺達を目の当たりにし、まるで『期待外れだ』とでも言わんばかりの表情を浮かべながら肩を竦めるケンドリック。
「こちとら、生憎と『その程度』のブツを見せられた所で動揺する程、柔な鍛え方をされていない上に、そいつが手にぶら下げているモノには見覚えが有ったんでね。
……それで?結局ソレって何なんだ?こうして勿体ぶって明かしたのだから、説明位はするつもりなのだろう?」
そんなケンドリックに対し、半ば皮肉る様な口調にて返した俺は、如何にも自己顕示欲が強そうなこいつの事だから、何かしらのプレゼン染みた事をし出すだろう、と予測してわざと問い掛けたみる。
すると、まるでその言葉を待っていたかの様にその痩せぎすな顔の口角を引き上げ、自信に満ち溢れている様子で上機嫌そうに口を開く。
「ええ、まぁ、そうですねぇ。元より説明して差し上げても良いとは思っていましたがぁ、そこまで言われてしまっては説明して差し上げなくてはならないですねぇ?
まず、コレが何なのか?と言う事ですがぁ、詳しく説明しても理解は出来ないでしょうからザックリ言いますと、コレは『死霊術』と『錬金術』を併用して造り上げたぁ、一種のゴーレムですねぇ」
そこで一旦言葉を切ると、ソレの屍肉めいた肌色の肌を、見ているだけで鳥肌が立つ様な手つきで撫で回し始めるケンドリック。
調子に乗って話している最中にでも、強襲してぶち殺してやろうか、と思っていた俺としては、存外に隙が無くて手が出せず、その上アレまで近くに置いたままの状態では尚の事手出しが出来なさそうなので、仕方無く続きを促す。
「……『死霊術』って名前と、材料にされているっぽいそいつらの状態から見ても、死体をアレコレと弄る魔法なり技術なり何だろうとは思うが、そこに何故『錬金術』まで絡んで来るんだ?」
「おやおやおやぁ?そこに気が付くとは、貴方は中々に見所が有りそうですねぇ。私の弟子になるつもりは有りませんかぁ?……まぁ、その目を見れば、そのつもりが無さそうだと言う事は分かりきっていますけどねぇ。
さて、『錬金術』との関わりでしかぁ?そこは勿論、当たり前に有りますよぉ?
何せ、闇属性魔法の一種でしかない『死霊術』では精々が不完全な死者の蘇生であるゾンビの作成と使役程度しか出来ない上にぃ、死体を丸のまま用意する必要まで有るのに能力は著しく低下した状態でしか復活せず、動きもぎこちないのに加えて何をさせるのにも細かな指示が必要な役立たずした出来ないのですがぁ、そこに系統外魔法である『錬金術』のゴーレムを製造する際に使用する技術を組み込む事でぇ、ある程度の思考能力や滑らかな動きを再現した状態でこちらの制御下に置けるだけで無くぅ、パーツごとに異なる人物のモノを組み込みそれぞれが生前所持していた『技能』や戦闘技術を一つに纏め上げる事に成功したのですよぉ!
あぁ、ちなみに、コレは昔居た『オリハルコン級』の冒険者の墓を暴いて手に入れた身体をベースにぃ、貴方達のお仲間を組み合わせた私の最高傑作なのですよぉ。
貴方達異世界人特有の成長性の高さと特異な『技能』をぉ、この世界でかつて最高峰の高みに居た人物の身体能力と技量を持って振るった場合ぃ、どうなるのかは先程見た通りですよぉ?」
「…………成る程、それなら、道理でそんなに速い訳だ。でも、何で俺達が『異世界人』だと思うんだ?そもそも、異世界人って何よ?」
内心で冷や汗を滴らせながら、少しでも長く時間を稼ぐ為におちょくる様な声色にて、わざとふざけた様子で言葉を返す。
そんな俺に対してケンドリックは、端から見ていても内心で『ヤレヤレ』とか思っているのであろう様子でありながら、こちらを煙に巻く様な事はせずに何故かキチンと応えて来る。
「何でも何も、分からない訳が無いじゃないですかぁ。何せ、貴方達をこの世界に喚び出したのは私なのですから」
しかし、それを問い掛け、時間を稼ごうとしていた俺達は、その返答を最後まで聞き終えるよりも先に、それまでの時間稼ぎにて精製していた『気』を全身に回して身体能力を格段に向上させると、まだ口上の途中なのか何かを得意そうに話し続けているケンドリックに対して、殺意の類いを隠そうともせずに得物を手に取って突っ込んで行く。
すると、さもそれが当然の行動である、と言わんばかりの反応速度にて仮称ゴーレムゾンビ(大神共が素材として使われているアレ)が割り込んで来るが、『練気』によって身体能力だけでなく動体視力や反射神経の反応速度も向上している俺達にとっては、既に『目でどうにか追える速度』と言う訳では無くなっており、特に驚く事も無く攻撃へと移行する。
元世界最高峰の肉体と技量を持っていた者だったとは言え、今身体の支配権を握っているのは大神であるらしく、流石に右手に握っていた長剣だけでは俺達三人を防ぎきる事は出来ない、と判断したのか、左手にも何時か見た覚えの在る杖を何処からともなく握ると、こちらも何時か見た覚えの在る鎧を全身へとまとって行く。
しかし、そんな事は知った事ではない!とばかり、こんな殺伐とした世界とは文字の通りに無関係だった乾達を、無理矢理この修羅の巷へと喚び出した張本人を目の前にした怒りや殺意と言った衝動が身体を突き動かすままに、まずは目の前に立ち塞がる輩を排除すべく相棒を振るう。
特に打ち合わせていた訳でないのだが、脳裏を占める感情が似たようなモノであったのか、ほぼ三人同時にゴーレムゾンビへと攻撃を仕掛ける形となる。
俺は、槍術に於ける基本にして最強の一つである中段の突きを、タツは鎧の内部への『剄』を乗せた正拳による直接攻撃を、レオは兜とネックガードとの間へと目掛けた『虎爪・狼牙』による差し込みを狙ってそれぞれで攻撃を繰り出すが、俺の中段突きは右手の長剣の腹にて受け止められて火花を辺りに散らせるだけで止まってしまい、タツは胴体へと鎧がめり込む程の勢いで拳を叩き込み、その上で『剄』まで流し込む事に成功した様子だったのだが効果が今一つだったらしく、左手に展開された杖による凪ぎ払いをガードの上から叩き込まれてしまい、その威力を殺す為に自ら後方へと飛ぶ事で距離を開けられてしまう。
レオはレオで、隙間へと刃を差し込もうとしたのだが、僅差にて展開を終えられてしまった鎧と兜の間に刃を挟み込まれて固定されてしまい、結局そのまま破壊されそうな雰囲気を感じ取ったレオが後頭部へと膝蹴りを入れて得物を回収するのが精一杯と言った様子であった。
半ば自分で飛んだタツと、距離を取るための跳躍から着地したレオが、再度距離を詰めるべく前方へと踏み込もうとしたのだが、そこへ『練気』状態の俺と刃を交わしながら左手の杖から魔法攻撃を放つゴーレムゾンビと、自分が手を出さない理由は無いですよねぇ?とでも言いたげな表情を浮かべながら杖を向けてきたケンドリックが放った魔法にて二人共に回避を選択せざるを得なくなり、回避の為にその場を飛び退く事で二人共に事なきを得る。
そんな二人に対して更なる追い討ちを掛けようとするケンドリックに対し、一瞬の拮抗状態を利用して短剣を投擲しながら二人に向かって言葉を紡ぐ。
「こいつは俺が片付けるから、お前らはあっちの方を頼む!こいつも俺をご指名の様子だからな!!」
その俺からの言葉を、俺からの突然の投擲をケンドリックが咄嗟にガードした事によって産まれた僅かな時間の間に吟味し、今置かれている状況まで加味して熟孝した二人が答えを返してくる。
「……そっちは任せた……!」
「そう言う事なら任せるけど~、あんまりグズグズしているとこっちはこっちで片付けちゃうからね~?参加するなら早めに終わらせなよ~?」
「ハッ!是非も無い!!そっちこそ、俺が終わらせるまでに片付かなかったら、問答無用で横からかっ浚うからな!!」
そうやって軽口を叩き合いながらも、俺の手が止まることは無く、依然としてゴーレムゾンビとの闘いは続いたままであり、今も袈裟掛けに振り下ろされた刃を受け流して地面へと誘導しながら、振り上げた相棒の石突き部分にて顔面への打撃を狙って攻撃を仕掛ける。
しかし、その歪な身体に合わせる様な形で造られた鎧のバイザーを下ろして視界が遮られているにも関わらず、確りと視認出来ていたらしく首を傾けるだけでこちらの攻撃を回避すると、お返しとばかりに地面へと向かいつつあった刃を強引に反転させて跳ね上げ、今度は逆袈裟に俺の胴体を両断しようと長剣を振るってくる。
それに対して半ば反射の行動として、相棒を旋回させて受け止めようとするが、先程のナベリアスの最期を見る限りだと受け止め切れるか分からない状態である為に、敢えてそこまで力を込めて受け止めず、掛けられた力を流す方向へと調整する。
本来、卓越した技量を持つ達人の類いには有効な手段ではないのだが、このゴーレムゾンビの元々の身体の持ち主が相手であるのならばまだしも、今の身体の操作権の大本は大神の方に在る上に、ほぼ近接戦は素人に近いケンドリックによって操作への口出しもされているらしく、体捌きも剣の振り方も何処か『甘さ』が見られる以上、恐らくは有効な手段足り得るのではないか?と言う推測からの行動である。
そして、その予想の通りに鋭利な刃を筋力のみで振るって来たので、軽く柔らかくわざと受け止めてから刃で切り裂かれる前にゴーレムゾンビの懐へと背中から飛び込む形で回転しながら受け流すと、手の中に生成した小太刀を左手にて握り締め、その受け流した際の勢いを利用してゴーレムゾンビの脇腹中腹の辺り、丁度脾臓が在る辺りに刃を深々と突き立てる。
更に、最期におまけとばかりにその小太刀の柄頭に膝蹴りを叩き込んで完全に刃を体内へと押し込んでやる。
だが、それでも死体が大元であるゴーレムゾンビに対しては大した痛痒ではなかったらしく、即座に左手の杖を振り下ろしながら二人に放ったのと同じ魔法も追加で放って来る。
その攻撃に対して俺は、杖の振り下ろしには腕に『気』を多目に回す事で腕力を強化し、真っ向から相棒にて弾き飛ばす事を選択し、放たれた魔法に関しては同じ数だけ短剣を造り出し、左目に見えている魔法の『核』を撃ち抜いて無効化してしまう。
俺にとっては最早、俺がそう言う手段にて魔法を無効化出来るのはある種の『常識』であるし、タツとレオにとっても既に『何時もの事』と言う認識になっていた為に、特に注意を引く事は無かったのだが、ゴーレムゾンビを操作する都合上俺の事も視界の片隅に置いていた全くの初見であるケンドリックにとってはそうそう流せる事では無かったらしく、展開していた防御魔法やら攻撃魔法やらの手順に乱れが生じ、タツとレオに付け入る隙を生み出す結果となっただけでなく、俺と相対していたゴーレムゾンビの操作にも支障をきたすだけの衝撃を受けたらしく、俺を追撃しようとしていたゴーレムゾンビが不自然にその動きを止める。
兜のバイザーから覗いていた大神の瞳からも驚愕の感情が読み取れたので、恐らくは『そう言う仕様』と言う訳でも無いのだろうし、大神の意思による行動でもまたないと言う事なのだろう。
……もっとも、こっちにとってはそんな事は極限までどうでも良い事だけどね?
そんな、まるで如何様にもして下さい、と言わんばかりな隙を見せられて、それが駆け引きによるモノでないのならば『突かない事は有り得ない』と考える俺達には見逃せない場面であった為に、一切の遠慮の類いを廃して攻撃へと移る。
流石に、その段に至ってはケンドリックも茫然自失から復活した様子だったが、既に十二分にタツとレオが距離を詰めてしまっており、迎撃の為の魔法を展開される直前にほぼゼロ距離まで間合いを詰め、タツが正拳を肋骨の周辺に叩き込み、レオはレオで咄嗟に反撃しようとしたケンドリックの左腕を自信の得物にて切断してしまう。
それと時を同じくして、再度動き始めたゴーレムゾンビに対して俺は、『飛鷹流』の技の一つであり、こう言う刺したり折ったりしても効果が今一つな相手に対して有効である『羽落とし』を使用し、ゴーレムゾンビの四肢の腱と筋肉の筋をほぼ同時に両断して見せる。
流石に、不死身のアンデッドであったとしても、脇腹に蹴り埋め込んだ状態から治癒する様子を見せてはいなかった為、恐らくは回復力は乏しいタイプなのだろうと判断しての技選択だったが、想像以上に効果が高かったらしく、地面に倒れ込んだ状態から殺気を溢れさせているそのゴーレムゾンビを止め!とばかりに蹴り飛ばす。
すると、その先には偶然レオによって左腕を断ち斬られ、タツによって肋骨を砕かれたケンドリックが二人を振り払って腰のポーチから薬瓶を取り出し、それを一息で飲み干していた姿が在った。
その薬瓶の中身の効果によって(多分)、レオによって切断された左腕を修復していたケンドリックは、自慢の作品であったハズのゴーレムゾンビの俺の手によって意図も簡単に倒されてしまった様に驚きつつも、それでも特に激昂したりする事無く、本当に必要な事だから、と言う理由からやっていた手当てを中止すると、おもむろに右手を掲げてフィンガースナップにて音を一つ出すと、ケンドリックからは少し離れた場所に魔方陣が複数展開し、強烈な光をこちらへと放って来る。
そして、その光が晴れた時には、絶対にここにはいないハズの七人がケンドリックに寄り添う様にして立っていたのであった。
……そう、絶対にここには居ないハズの、乾を始めとした女性陣七人が、何処か意志が感じられない表情と、何処か虚ろな瞳をしながら唐突に現れたのであった。
……そして、その光景を目の当たりにすると同時に
…………ブツッ…………!!
と、まるで何か『大切なモノ』や『越えてはならない一線』が引き千切られた様な音を聞いた様な気がしたのであった。
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