130・合流を提案してみます
ブックマークにて応募して下さった方々に感謝ですm(_ _)m
久方ぶりの再会にテンションが上がった俺達(俺とコボルトの人達両方)がある程度の落ち着きを取り戻し、俺にモフられてイってしまっていた人達が正気に戻ってから俺達が『何でここに居るのか』の説明をすると、何やらコボルトさん達で集まってゴニョゴニョ話始め(遠目には毛玉にしか見えない、大変可愛らしい光景だった)たのだが、いつぞやも見た事のある隊長っぽいハスキー系の見た目の人(真っ先にリルへと挨拶していた)が
「多分、タカさんなら大丈夫だろう」
との決断を下した為に、皆に案内される形で『獣人国軍』が展開していた今日の宿営地の中を進んで行く。
当然の様に、周囲に『獣人族』しか居ない環境故に、こうして連れ歩かれている俺の存在(見た目『人族』で魔物を連れている)は目立っている様であり、皆一様に俺達へと注目している様子であった。
だが、その注目の種類も、何を『人族』ごときが、と言う蔑みの類いや、あいつ弱そうだな、と言う侮りの類いの視線は感じられず、逆に『親しみ』や『尊敬』や『憧れ』と言った良い方向の類いのモノがほとんどを占めており、割合とウェルカムな状況にあった為に戸惑いが強く感じられた。
そんな俺の感情を察したのか、あの辺りへと偵察に来ていたコボルト部隊の隊長さん(ハスキー系の人)が、何故か嬉しそうにしながら教えてくれる。
「私達から貴方へと向けられている感情に戸惑っておられる様ですが、貴方程の方であればある意味『当然』のモノですよ?
何せ、あの闘技場にて民衆にしろ対して正義を示し、リブレントでは祖国に与えられていたかも知れない驚異を未然に防ぎ、そしてあのダンジョンをほぼ単独で踏破して力を示しました。
それだけでなく、他の種族からは下手をすれば『異形』とも取られる私達へとお仲間方と変わらぬ対応で、見知らぬ者にも分け隔て無く接せられる心の広さも持ち合わされておられます。
それだけの大人物、尊敬しない方が少なくなるのは当然と言うモノですよ?」
ちなみに私もその一人です、と言外に付け加えている隊長さん(尻尾による判定)に
「じゃあ、なんでソレが俺だと解るんですか?違うかも知れませんよ?」
と問い掛けて見たのだが、その言葉に対して少々呆れた様な表情(多分)を浮かべてから、肩から掛けていた鞄から一枚の板を取り出して俺へと差し出して来る。
それを半ば反射で受け取った俺が視線を向けると、その板には『黒髪』で『眼帯』を付け『槍を携えた男』が『子竜』と『鳥』と『巨狼』を連れている絵が描かれていた。
……そう、早い話が俺である。
描かれている顔立ちや、装備品の特徴からしても、多分俺で間違いは無いだろう。
その描かれた覚えの無い絵を指差し、声にならない声にて隣に居た隊長さんへと問い掛けようとしたのだが、折り悪く目指していた指揮官級の天幕へと到着してしまったらしく、入り口にて得物を構えている番兵へと声を掛ける。
「レオンハルト将軍閣下へとお取り次ぎを。閣下とも面識の有られるお客人をお招き致しました、と」
そう、番兵さん達(こっちはウェアウルフの人達だった)へと伝言を託し、内部から了承の声と共に入室の許可が出された為、私の役割はここまでです、と俺へと言い残し、軽く会釈をしてから立ち去ろうとした隊長さんだったが、思い出した様に引き返して来ると、俺に渡していた絵が描かれた板の裏に是非ともサインを!と何処か恥ずかしそうにしながらも、それでも『憧れの人』に出会えたファンみたいな反応をされてしまっては、こちらとしても断る事も出来ないで結局書く事となるのであった。
……まぁ、書いて渡してあげたら瞳をキラキラさせつつ、尻尾をブンブンと振り回していたから、喜ばれてはいたのだろうけど。
******
「お久し振りです、レオンハルトさん」
「ええ、久し振りですね、タカ殿。しかし、何故今このタイミングでここに?」
俺を置いてきぼりにしてさっさと行ってしまった隊長さんに半ば呆然としながらも、取り敢えず入室の許可が出ていたので天幕へと入り、案の定中に居た獣人国に於ける将軍職かつ最高戦力の一つでもある『十二獣将』の一人、シンシアさんの父親にあたるネメアー・レオンハルトさんと挨拶を交わす。
案の定、俺がどうしてここに居るのか、と言う点を気にしているネメアーさんと、同じ様に気にしながらも万が一俺が敵勢力に属していた場合に備え、腰の得物に手を掛けている他数名に対して俺の現状を説明して行く。
「……成る程。では、タカ殿は現在魔王国軍に所属している人間としてここに居る、と」
「ええ、形の上ではそうなりますね」
「……正直、意外ですね。貴方は、権力に加担するのを良しとしないタイプだと思っていたのですが?」
「それも場合によります。まぁ、今回は魔王国が侵略を受けたから、と言うのと、魔王陛下と直接的に面識があったから、と言うのが最大の理由ですけどね?」
「ほう……?では、獣王陛下とも面識が有る以上、何か在った時に助力して頂く事は可能、と考えても良いのですかな?少なくとも、条件は同じだと思いますが?」
「まぁ、そこは内容次第、と言う事ですかね?少なくとも、魔王国と妖精国とに攻め込むから手を貸せ、と言う事でしたら断らせて頂きますし、場合によっては相手方に付きますけどね?」
「ハハハ、それは手厳しい。流石に貴方方を敵に回すのは割には合いませんので、遠慮させて頂きましょう。
……さて、少々話がずれましたが、根本的な部分へと戻るとしましょうか。
タカ殿、貴方はこうして私達の陣営へと足を運ばれましたが、正直な処としましては一体何が目的でしょうか?私達に何をお望みで?」
「……実の処、先程も説明した通りにここに来たのは偶然です。ですが、俺と貴方の目的はほぼ同じなのではないですか?最終的にどうなるかは置いておくとしても、その一歩手前までは協力出来るのであれば、しておく方が互いにとっても有益だと思いますがどうでしょうか?」
「……確かに、タカ殿の所属する魔王国軍の行動目的が『ヴァイツァーシュバイン王国の侵略に対する報復行動』であり、私達獣人国軍の行動目的が『防衛目的での逆侵攻』であると言うのならば、確かに落とし処は有るでしょう。
……ですが、流石にそれを成すにはタカ殿の権限の範疇を越えているでしょうし、この軍勢を預かっている私でさえも即決は控えたい程の案件です。少々お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「ええ、もちろん。俺としましても、ほぼ今思い付いた様なモノですし、現在の立場としては魔王陛下直轄の部隊に属している扱いになりますので、一応はお伺いを立てておかないと不味いですからね。ちなみに、俺はここで待たせて頂いても構いませんか?それと、後で何人かこっちに来る事になるかも知れませんけど、大丈夫でしょうか?」
「?ええ、それはもちろん大丈夫ですが、どうなさるおつもりですか?私達の様に、何かしらの通信用魔道具を持っておられる様には見えませんが……?」
不思議そうな顔をするネメアーさんに対して、俺の肩に最初から止まり、我関せずとばかりにずっと寝こけていたカーラのモフモフな胸毛?(胸羽毛?)に指をポフリと突っ込みながら、笑顔で告げる。
「それならば心配無用です。こいつに手紙でも届けさせますから」
何でしたら、中身でも改められますか?と言外に訪ねると、その必要は無いでしょう、とネメアーさんも軽く首を横に振る事で合意を示して来る。
そんなやり取りを見ていたからか、それとも俺が出していた単語(『魔王陛下』やら『獣王陛下』やら)によって、それなりの立場の者であると勘違いしたからかは不明だが、それまで軽く敵意や戦意を見せていた人達も得物から手を離し、幾分か表情を和らげている様に見える。
そんな彼らに見送られる形で天幕を辞した俺は、リル達が待機していた場所まで移動してから、カーラに運んで貰う事になる手紙を書き始めるのであった。
******
カーラに手紙を託してから早くも数時間。
俺達がここに来るまでにそこまで時間は掛からなかったとは言えど、それはあくまでもリルの足に頼っての速度であった為に、実際にはそれなりに距離が在ったらしいのだ。
故に、カーラに行ってきて貰うのと同時に、最低限アストさんは連れてきて貰わねばならない為に、無理を言ってリルにも同行して貰っている。
……あの子は、俺以外を背中に乗せるのを極端に嫌がるから、説得するのには骨が折れたよ。まぁ、全身撫で回しの上で、リルが満足するまでブラッシングする事で、どうにか了承してもらったけれど。
そうやって派遣した二頭が帰って来るまでの間、俺は天幕から退出した事で戻ってきた隊長さんを強制モフモフの刑に処したり(『見せられないよ!』な顔になってた)、偵察部隊にはいなかったあの国境の街のケットシーの皆さんと再会したり(こちらも、半ば反射でモフっていた)、俺を俺だと認識した上で手合わせを挑んで来た人達を『可愛がって』あげたり(少し揉んであげたら挑戦者が居なくなってしまった。解せぬ)しながら待っていると、コボルトの人達に先導される形でリルが俺の居る処まで戻って来た。
……来たのだが、その背中にはカーラが止まっているだけでアストさんの姿は無く、リルの口元には襟首を咥えられてぶら下げられている、煤けた雰囲気の女性が居た。
「…………あの、アストさん……?」
俯いている以上、顔が見えていないので確たる事は言えないが、俺達が向こうの陣地を出立する際に見たアストさんの服装と同じだったし、スタイルから鑑みても多分アストさんで間違いは無いだろう。
しかし、俺はリルにキチンと『乗せてきてね?』とお願いしたハズなのだが、何故にこんな形で運んで来たのかね?と、視線でリルへと問い掛ける。
すると、リルはリルで『『連れてきて』としか言われて無いもん』とでも言いたげな態度で、辛うじて放り投げずにアストさんを地面へと下ろすと、自分はさっさと座り込み、走った事で乱れた毛並みを整える為に毛繕いを始めてしまう。
そんなリルにお仕置きとして拳骨を一発落っことすと、その痛みから前足で頭を抱えて涙目で鼻を鳴らしているリルを尻目にアストさんへと駆け寄り、憔悴した様子の彼女をそっと抱き起こす。
「……アストさん、大丈夫ですか?もう、目的地に着きましたからね?」
そうして抱き起こしながら声を掛け、腰にぶら下げたままにしていた水筒を口元へと差し出す。
すると、それまで虚空にさ迷わせていた視線を俺へと向けると、それまで灯されていなかった理性の光が徐々に戻り始め、俺が差し出した水筒を俺の手ごと弱々しく掴んでその豊かな胸元へと掻き抱いてしまう。
「…………あぁ、タカ殿。タカ殿のお姿が見えます……。これは、夢でしょうか……?それとも、とうとう私は召されてしまったのでしょうか……?
あぁ、だとしたら、例え夢であったとしても、例え末期の幻だったとしても、せめてもう一度タカ殿と熱い抱擁を……!」
そんな事を呟きながら、まるで夢現の様な状態で俺へと手を伸ばしてくるアストさんを逆に軽く抱き締め、本人の望みを叶えると同時に軽くショックを与えて気付けとしてから水筒を口元へと運び、半ば強引に飲ませて現実だと認識させて意識を無理矢理覚醒させてしまう。
現実だったと認識して一回、俺の水筒から飲まされたと気付いて一回、俺に抱き締められたと思い出して更に一回真っ赤になってバタバタしていたが、最後には何かを諦めたかの様な遠い目をしながら起き上がり、死人の様な顔色と足取りで移動しようとし始めたので、再度捕まえて耳元で
「……恥ずかしがっていたアストさんも素敵でしたから、嫌う何て事はあり得ませんよ……?」
と囁いてみると、どうやら予想が的中したらしく、これまでで一番顔を真っ赤に染めながらも、それでもその表情は生気に満ち溢れ、とても嬉しそうなモノとなっていた。
……正直、割りと山勘に任せていた上に、自分でも『どうなんだろう?』と思わなくも無い様な発言の内容だっただけに、外さなくて良かった、と言う安堵と、本当にコレでよかったのだろうか?と言う困惑が胸の内側を支配する。
が、それでもアストさんにとっては望んでいた言葉(もしくは欲しかった言葉?)であったらしく、ここ最近でもあまり見ない程の上機嫌な様子で、足取りも軽く進んで行く。
そして、そんなにしない内にネメアーさんの居る天幕へと到着し、アストさんとネメアーさんとの間での話し合いが開始される。
「……では、以前より結ばれている同盟に基づき、現時点をもって『獣人国軍』と『魔王国軍独立遊撃隊』は行動を共にする、と言う事で宜しいですね?」
「えぇ、こちらとしても、それに異議は有りません。しかし、そうなるとどちらから総指揮官を出すのか、が問題になりますね……」
「こちらとしましては、暫定的にレオンハルト閣下に務めて頂いても構わないのですが、後程こちら側の本隊と合流した際に揉める可能性も有りますね……」
一応、魔王国と獣人国とは以前から同盟関係に在ったこともあり、一緒に行動して攻略に当たる事はスムーズに決まったのだが、その後の『合同軍の総指揮官を誰にするのか』と言う問題で行き詰まりを見せていた。
確かに、今の様な状態の場合、歴戦の指揮官であるネメアーさん(さっき隊長さんに聞いた)にお願いする方が、指揮経験の浅いアストさんが取るよりも確実だろう。
互いの軍勢の多可も、大体が同じ様なモノであるだけに、数の多い方が云々、と言う事も出ないだろうしね。
が、だからこそ、同じ様な立場に在る者同士の内、片方がもう片方の風下に立つ様な事があっては、外的にも内的にもそれが『両国間の関係の現れである』と取る輩が出てしまいかねないし、もしそうなってしまった場合は確実に歴史に残される様な事柄である故に、国家の威信としても安易に決める訳には行かないのだろう。
これが、今回に限って予め両国間で話し合われた結果として総指揮官に◯◯、副官として××、と言うのであれば、両方の面子も保てる上に、指揮系統も一応は一本化が出来るので混乱も避けられるのだが、流石にそれを今言うのは違うだろう。
この場合、最も良いのは両国に関係の薄い人物か、もしくは両国に関係の強い第三者を総指揮官として上に立て、その下で両国からの実質的な指揮官が現地で兵を動かす、と言う具合にするのが『国の面子』を第一に考えた場合、角を立てる事無く済ませられるのだろうけど……。
「……一層の事、我ら以外の者に任せますか?」
「こちらとしましても、どうしても本人に対して事後承諾になりますので、どちらかと言えばその方が好ましいのですが……」
「しかし、一体誰に?我ら『獣人族』の性質上、少なくとも強者である事を示せる者であり、尚且つ偉業を成し遂げた様な人物でないと納得は出来ないと思われますが?
まぁ、国を救った様な人物であれば異論は出ないでしょうが…………」
「……そうですね。こちらとしましても、仮にも神輿としても担ぐ以上は国を救う並みの功績の持ち主でないと…………」
そこで言葉を切った二人は、何故かほぼ同時に同じ様な事を思い至ったらしく、少々気味が悪い程に不自然な動きで同時に俺の方へと振り返り、コレまた同時に俺の方を指差して言葉を口にした。
「「……そう言えば居たよ、救国の英雄。なら、タカ殿で総指揮官決定って事で」」
……思えばこの時、二人がふざけている、とばかり思っていた俺は、特に二人を止める事はしなかったのだが、どうやら二人は本気だったらしく、この少し後に両国王から正式に『同盟軍総指揮官』として任命される事となってしまったのであった。
…………解せぬ…………。
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