129・意外な人達と遭遇しました
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タツとアストさんの協力により城門が破壊され、内部へと躍り込んだリル達によって掻き回されていた最中に俺達が突撃を仕掛けた事により、主戦場が城門前の平原から城塞内部へと切り替わった事により、シュルフト側の指揮官はそれ以上の戦闘続行が不可能だと判断。
それにより、少なくは無い数の重傷者と、俺達の手が回らなかった場所で出てしまった僅ながら戦死者と言う、最初の想定よりも遥かに少ない被害にて城塞都市の攻略に成功した俺達は、その時ばかりは皆で揃って歓声を挙げて勝利を祝った。
そして、以前ベルクでやった様なプロセスを経て領主をすげ替え、俺達から見て比較的まともそうな人にケルネリンさんと同じ様に丸投げし、今度はシュルフトから追加で軍勢を徴収(と言う名目での募集)をして、元々生き残っていた人員と合流させる事で勢力を大幅に拡大した俺達は、元々想定していた山間のルートに沿って首都を目指して進軍を開始する。
その進路の途中に在った川沿いの都市である『フルス』や、豊富な岩石によって分厚い城壁を築いていた『フェルゼン』。ヴァイツァーシュバイン王国の工業力の大元であり、実質的に国内で流通していた金物のほぼ全てを手掛けていた『ベルヴェルク』等へも同様に進軍し、時に矛を交えて軍門に下し、時に相手側からの判断にて投降されたりして攻略していった結果、俺達が引き連れている軍勢はその数を一万近くまで膨らませていた。
当然の様に、都市を攻略して軍勢が膨らむ度に魔王による演説(俺達はコレを『洗脳演説』と呼んでいる)がブチ上げられ、その度にそれまで荒々しかったり反抗的だったりした新入りの連中が従順になり、それまでの態度から一変させて行く様は何度見てもある種の『気持ち悪さ』が付きまとっていた。
まぁ、あくまでも俺の主観としては、だけどね。
そんな感じで士気や規律の類いをある程度保ちつつ、後で魔王から経費として支払われるとの約束を貰っているため、手持ちの資産から物資の類いを征服した都市から買い上げる等して進軍を続けていたのだが、『ベルヴェルク』を通り抜けてから暫く進んだ辺りにてそれまで無かった痕跡が斥候部隊にて発見された。
「……軍が居た、らしい?」
「はい。恐らくは、と付きますが」
「……規模は?」
「不明ですが、少なくとも我々と同程度は居ると見た方が良さそう、との事です」
そう、何故かこの軍勢の総指揮官であるアストさんの処ではなく、その下に居ると言う事になっている俺の処へと報告を持ってきたのは、あの『ベルク』から連れてきた最古参であり、あそこ(ベルク)では騎士団で副団長を務めていたと言う、おっちゃんと兄ちゃんの中間位の年齢の人だ。名前?知らん。
ちなみに、この元副団長さんと同じ様に、ベルクから一緒の人達の大半は既に指揮官クラスに収まっているし、そうでない人達のほとんどは「向いてないから」と前線で戦う事を望んだ為に、やっぱり前線指揮官みたいなポジションに居たりする。
……もっとも、もうまともに戦える人は、最初の半数近くになってしまっているけど。
まぁ、残りの八割近くが配布した『強回復薬』での治療だけでは完治しなかったので、後方にて治療中と言うだけであり、実際の処の戦死者としては、全体の一割以下となっているのだけどね?(一割『も』、と言うべきかも知れないが)
そんな彼から斥候部隊が挙げてきた報告を纏めたと思われる書類を受け取り、その場で捲って内容を大雑把にでも把握するために斜め読みして行く。
すると、確かにそこには夜営跡や焚き火の痕跡と言った、一定以上の人数が集まっていたと言う証拠と、その集団が比較的広範囲に広がりながら行動していると言う証拠として、その近辺にて行われた狩りの痕跡等の情報までもが記されていた。
そして、それらの痕跡は連続する形で残されており、日が経っていた方から察すると……
「……コレって、俺の勘違いでなければ、俺達が行こうとしている方向に向かって進軍している軍勢がもう一つ在るって事にならないかね?」
「……やはり、そう思われますか?」
「そりゃぁ、ねぇ?こんなにもあからさまで、特に痕跡を隠そうとしていない様な状態のモノを見れば、誰だってそう思うんじゃないのかね?」
「それで、これは敵だと思われますか?」
「ん~、微妙。まだ何とも言えない、かな?もし敵さんでこっちに気が付いていたら、俺達を包囲しようとするなり何なりとするハズだけど、そう言う感じの動きをしている様には見えないしなぁ。逆に俺達には気付いてなくて、単純にヤバそうだと判断して要請された援軍としてこの次の街に、って言うのも、まだ俺達が数で下回る状態である上に、まだ直接的に攻撃していない以上は無いだろう。
大穴で俺達への援軍、て事も無くはないんだろうけど、それはそれで今一しっくり来ない。
……まだ誰も、直接この軍勢と遭遇してないんだったよね?」
「ええ、幸いな事に。……如何なさいますか?」
「……なら、こいつらが来そうな方面への斥候は最低限の範囲に留めて、そこから出過ぎない様に徹底して周知を。ここまで来て、陛下が約束してくれた夢を目前にして消される、なんて事は流石につまらないでしょう?有り得ない、とは言えないんだから、ね」
「……しかし、それですと万が一戦闘になった場合、こちら側が情報面で圧倒的に不利になってしまいますが……」
「まぁ、一応これから俺達で見てくるから、その間はそれで良いんじゃない?その後の事は、俺達が集めた情報を持ってきてから決めましょうか。ね?」
そう言われた元副団長さんは、俺達の能力ならば間違いは無いだろう、と理解しつつも、それでも指揮官のする事ではない、と言う感情を僅かに滲ませながら、表面上は納得してくれた様子で了承し、俺の出した指示を伝えるために移動するのであった。
******
『……まぁ、理由は理解出来たが、流石に主殿が直々にする事でも無いと思うのだがのぅ?』
「……まぁ、それは否定しないけど、たまには良いだろう?」
『ワッフワフ~♪』
「~♪」
あの元副団長さんに指示を出し、アストさんへと報告を上げてから各所での調整を済ませた俺は、久方ぶり(むしろ初めて?)に俺と従魔達だけで例の痕跡を調査する為に行動していた。
実際の処としては、タツやらレオやらネフリアさんやら(当然の様にアストさんも)が同行を申し出ていたが、俺が調整した結果として予定していた時間帯には誰も余暇を作る事が出来ず、結果的に俺達だけでの行動となった、と言う訳ではあるのだけど。
とは言っても、あの『シュルフト』以降の戦闘に於いては、基本的に『ベルク』からの兵士達が中心となって戦闘が進む様になり、結果的には俺達は勿論リル達従魔組も前線へと出ていって直接戦う、と言う事をする必要が無くなりつつあった。
おまけに、俺達にも普通に指揮官としてのアレコレが回される様になってきた為に、ここ最近では従魔達へと碌に構ってやる事すら出来ていなかったと言うのが現状である。
故に、こうしてこの面子だけでの行動となれば、これまで構ってやれなかった分まで触れ合ったり、運動不足の不満を解消する為に少々遊んだりしても、誰から咎められる事は特に無い、と言う思わぬご褒美が出来てしまっているのである。
まぁ、取り敢えずは例の軍勢についての調査を終えてから、になるけどね?
そんな訳故にじゃれついてくるリルとカーラを全力で構い倒したいのを辛うじて堪え、渾身の精神力にて軽く撫でるだけに留めた俺は、報告書に添付されていた地図を頼りに進んで行き、割合とアッサリと例の夜営跡と思わしき場所へと到着する。
「……成る程、確かにこれは、それなりの規模での集団が夜営した跡っぽいな」
『ふむ。その集団には、特段心当たりは無いのであったかのぅ?』
「まぁ、そうだね。それと、確かに、夜営跡は新しいし、その後の進路も俺達が次の攻略地点として定めている『ウーファー』の街の方向を向いている、のかな?」
『む?その『のかな?』と言うのはどう言う事かのぅ?方角的には、間違ってはいないのであろう?』
「まぁ、方角だけは確かにそうだけど、それでもその方角に『ウーファー』以外が無い、って訳でもないみたいだし、そう思い込むのは早計だし少々危険だ。全てが自分と同じ方向を向いている、と思い込まない方が良いぞ?最悪、全部ただの偶然だった、ってオチも有り得るんだからね?」
『ふむ?そんなモノかのぅ?』
俺の頭にしがみつきながら首を傾げたらしいリンドヴルムがそんな返事をしてくるが、経験から鑑みると割合と馬鹿にならない程度には確率が高い為に、一応は念頭に入れておく方が良いだろう。
そんなやり取りを挟みつつ、やはり連れていた(着いてきたとも言う)からには働いて貰おうかな?と言う事で、リルには夜営跡から匂いにて、カーラには上空からそれっぽい集団を目当てに捜索してもらう事にした。
本当は、夜営跡から続いているであろう痕跡を、どうやったらそんなに正確に辿れるんだ?と突っ込みを入れたくなる程の変態じみた正確さにて追尾出来るレオだとか、残されているであろう痕跡を『看破』するだけである程度の情報を得られるであろうタツだとかが居てくれれば大分楽が出来たのだろうが、今回は仕方無い事と割り切るしか無いだろう。
まぁ、たまにはこう言う手間の掛かる事も悪く無いさね。
そう割り切った上で、リル達が手掛かりを掴むまでの間に、俺は俺で周囲を調べて何か無いかを探ってみる事にする。
流石に、この広場と化している木立の中が夜営場として使われていたのであれば、それだけの人数が居たと言う証拠であり、それと同時にどれだけ消そうとしても消しきれないであろうだけの証拠品ないし痕跡の類いが残されているハズだからね。
そうやって漁って行くと、どうやらここで夜営していた連中は火は使ってもテント等の寝具は使わなかったらしい。固定用の杭の類いが打ち込まれた形跡が地面に残ってないし、草の倒れ方から見ても直接ごろ寝していた様に見られる。
……まだ冬と言う程の季節では無いにしても、もう言う程暖かい訳でもないのに、ここまで無造作に就寝するとはどんな連中なんだ?
そんな疑問を抱きつつ、更に周辺を漁って行くと、どうにも不可解な点が続出してくる。
焚き火の跡にて調理した形跡はあるのだが、残っているのは精々が焚き火で狩ってきた獲物を炙った程度のモノであり、鍋等の調理器具を使用した所謂『煮炊きの跡』が見られない。
それだけでなく、残飯として残されていたのであろう残骸の類いも発見したが、どうやら肉が生に近い状態のまま骨ごと囓り付いたらしく、火の通されていない肉片の付いた骨(噛み砕かれた形跡有り)が混じっていた。
その他にも、周辺にて色々な形跡が発見できたのだが、どうもそれらは『人族』が付けたモノであるには、不自然に思えるモノばかりであった。
そう、具体的に言えば、『人族』のモノにしては身長がやけに小さく体重が軽かったり、逆に身長が妙に大きくて体重も変に重かったり、と言った感じであった。
……更に言うならば、それらの痕跡の足跡の多くが、何故か靴跡ではなく『他のモノ』になっていたりした、と言う事もあるけれど。
それらの情報を総合的に判断した場合、ある一つの答えが浮かんでは来たものの、何故にこんな場所(ヴァイツァーシュバイン王国の中央部)にまで来ているのだろうか?と言う新たな疑問が発生する。
それに、そうなる場合には、おそらく俺の方にも何かしらの連絡が来るハズなんだけどなぁ……?
そんな事を考えつつ、新たに発生した疑問に首を傾げていると、どうやら匂いをキャッチしたらしいリルが褒めて欲しそうに尻尾を振りながら近付いて来た為に思考を中断し、求めに応じて撫で回しながら案内を頼むのであった。
******
匂いによる追跡を開始したリルに跨がって移動を開始した俺達。
暫く進んでいると、どうやらカーラの方も目標を発見したらしく、俺達の処へと帰還して肩に止まると褒めて欲しそうに俺の耳朶を嘴にてアムアムと甘噛みし、翼の内側の柔らかい羽毛にて俺の顔を包む様にポフポフとしてくる。
そんなカーラの後頭部(カーラの好きな場所)をカリカリしてやってから目標の方向を聞いてみると、片方の翼にてリルが向かっているのとほぼ同じ方向を指し示す。
コレにより、ほぼ間違いなく目標へと向かって進めているのであろう事が確定したのだが、気掛かりな点が一つ。
……それは、リルにしろカーラにしろ、表情が穏やか過ぎる点だ。
普段俺と一緒にいる時は、それこそ穏やかその物と言った表情にてリラックスしていたりするこの二頭(リンドヴルムは誰が居ても普段からあまり変わらない)なのだが、いざ戦闘と言う時や、知らない誰かが居る時なんかはその表情が引き締まり、最初に出会った時と同じ様に『野性』が全面へと押し出される様になる。
そしてそれは、今の様に相手の姿が確認出来ず、それでいて遭遇すれば戦闘へと発展する可能性が在る、と言う盤面に於いても同じであったハズなのだ。少なくとも、今まではそうだった。
なのに今は、比較的慣れている相手、それこそ乾達女性陣と同程度には慣れ親しんだ(触らせないが警戒もしない程度、かな?)相手の元へと向かっている、と言う程度には気を弛めている様子であった。
……これは、もしかして本格的に『そう』なのだろうか……?
そんな事をつらつらと考えていると、どうやら目標が現在留まっている場所の近くへと到着したらしく、リルがその足を止める。
が、どうやらいきなり接近し過ぎたからか、もしくはリルがあまり隠すつもりが無さそうに動いていたからか、足を止めた俺達を取り囲む様にして気配が周囲を動き回り、それなりに高い下草が連動してカサカサと音を立てている。
……そう、それなりに高いながらも、人の背丈程も繁っている訳では無い下草から、姿を見せる事も無いままに移動して、である。
一瞬、持ち込んでいた相棒へと手を掛けかけたが、それらの気配に知っているモノが幾つか混じっていた為にそのまま手離し、ついでに鎧の籠手も外しておく。
まぁ、俺が察知した気配の持ち主達であれば、恐らくは問題にはならないだろう。
そして、半ば寛ぎモードへと移行しつつあったリルの背中から降りると、肩幅に足を広げて腰を落とし、両手を広げて待ち構える体勢を作り上げる。
それを待っていたのか、それとも偶然そうなったのかは定かではないが、それと時を同じくしてそれまで周囲を囲っていた連中が、一斉に茂みやら下草の中から飛び出して、俺目掛けて飛び掛かって来た!
「「「「「「わ~い!久し振り~!!」」」」」」
そうやって歓声を挙げながら、俺が広げた両手の中に飛び込んで来る人、背後から飛び掛かって来る人、首筋やら尻やら股間やらを真っ直ぐに目指してくる人、そんな俺を眺めながら伏せているリルへと近寄って挨拶している人、と言った具合に、俺達の周辺へとモフモフした人影が群がり出す。
「久し振り~!」「会いたかったよ~!」「また撫で撫でしてよ!」「三ヶ月振りくらいかなぁ~?」「きゃ~♪捕まっちゃった~♪」「あー!ずる~い!次!次僕ね!!」
……そう、ここまで至れば解るとは思うが、どうやら俺達が見付けた痕跡は『獣人国』の軍勢のモノであり、こうして遭遇したのはあの国境付近の街にて警備兵をしていたコボルトさん達であったのだった。
…………しかし、何でまたこんな処にいるのだろうか?
そんな事を考えながらも俺の手は止まること無く、半ば自動でコボルトさん達をモフり倒し、この場でタレコボルトを量産して行くのであった。
まぁ、今は良いか。可愛いし。
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