125・港は確保しましたが……
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俺達が突撃(?)を掛けた事により戦況が変化し、魔王国軍の軍艦団がハーフェンの桟橋や港内へと接岸して部隊が展開出来る様になってから早くも一時間。
元より地力に大きな差がある『魔族』と『人族』故に、数(少なくとも万単位で居たらしい)と地の理(港にての待ち構え等)にて対抗していたのだが、その均衡を俺達が崩してしまった事により、魔王国軍の優勢が強まった結果として、それなりに被害は出たものの戦死者自体はそこまで出すことも無く(それでも何人かは逝ったらしい)、こうしてハーフェンの港街を確保し、ヴァイツァーシュバイン王国に対する橋頭堡として確保する事に成功したのである。
……したのだが……。
「……さて、では、軍規を乱し、軍の備品たる船を破損させ、その上で身勝手な行動を取り、私達の作戦計画を台無しにしてくれた言い訳を聞きましょうか?」
……何故か、今回の戦闘の最大の功労者であるハズの俺達が、こうして詰問されていたりする。
何でそんな事態になっているのか?と聞かれても、むしろ当事者である俺の方が聞きたい事だし、理由も今一良く分からない。
それに、どちらかと言うと、俺達の行動は褒められる事ではあれども、こうして叱責される様な事柄ではなかったハズなのだけどなぁ?
そんな事を考えていたからか、俺達に対して鋭い視線を送って来ていた『六魔将』の一人であり、今回の遠征軍の上位指揮官の一人でもあるナベリアスがその眼光を更に強め、俺へとターゲットを絞って物理的にも詰め寄って来る。
「貴殿方は確かに実績を出しましたが、私達が組み立てていた作戦が結構出来ればソレを上回るだけの戦果が得られた事は間違いが有りません!
それなのに、貴殿方の無謀な突撃により戦線は混乱し、あくまでも拿捕するハズだった軍艦と施設は壊滅!
その上で、軍規によって律せられるべき他の部隊の規律まで乱し、貴殿方の無謀なる突撃に付き合わせ、少なくない数の負傷者と少数ながらも死者を出す始末!これでは、貴殿方の功績を打ち消して尚有り余る程の罰則を課して然るべき状況であり、どんなに軽くても軍法会議に掛けられる事は間違いなく、どんなに良くても監獄行きになるのは避けられないと言う事を理解しているのですか!!?」
そう言い切ってから、何故か自分が圧倒的優位に立っている、とでも言いたげな表情で、まるで俺達の事を見下している様な雰囲気を醸し出し始めるナベリアス。
……これは、アレか?
ここで余計な口出し、抵抗をせず、今後も自分の言いなりになるのならば、自分の口添えや権力の及ぶ範囲内で処理してやるから有り難く思え!って事か?
……今回の戦闘にて、最前線で他のどの部隊よりも長い時間、どの部隊よりも多くの敵を相手にしていた俺達に対して、言うに事欠いてソレを抜かす、だと……?
……これは、少しばかり『教育』してやる必要が有るみたい、だねぇ……。
視線と雰囲気に少しばかり(本人視点では)の怒気を混ぜ込んだ俺からの『処す?』と言う意味合いを込めた視線に対し、タツとレオからも少しばかり殺気やら何やらを溢しながら送られてきた『殺らいでか?』と言う視線に僅かに頷きを返す。
そして、今にもその綺麗な長髪が天を突かんとしているアストさんの肩を叩いて宥め、既に得物へと手を掛けているおっちゃんとレライエさんをどうにか押し留め、今すぐにでも目の前の阿呆を引き裂いてミンチにしてしまおうとアップしている従魔達を取り押さえて深呼吸し、俺自身の怒気を少しばかり抑えてから向き直る。
すると、流石に『六魔将』などと言う大層な役職に就いているだけはあり、俺達から漏れ出た殺気や怒気を明確に感じ取っているらしく、若干顔色を悪くしながらその場から後退る。
しかし、そんな高位に在る自分が、二桁も居ない様な少人数の集団に、あまつさえまだ子供と呼んでも間違いない様な連中(俺達)が混じった連中に気圧され、その場から後退ってしまっていた、などと言う事は受け入れられ無かったらしく、それまでよりも視線や雰囲気に込める『圧力』とでも表現すべきモノを強めて口を開く。
「あ、貴殿方は自分の立場と言うモノを「随分と高圧的に出られておりますが、貴女はご自分がどんな立場で私達に接しているのか、を正しく理解為されておられるのでしょうか?」……何ですって……?」
が、ソレに牽制する形で俺が言葉を被せ、半ば無理矢理に発言を中断させつつ雰囲気によって『最後まで聞け!』とアピールしておく。
すると、流石に俺からの直接的な気当りまで気合いで無視出来る程の強者では無かった(魔王ならまだ耐える)らしく、それまでの勢いを若干ながらも弱め、こちらからの発言を待つ体勢へと移行する。
そんな彼女に対して俺は、内心の怒りや殺意を『取り敢えずは味方だから』と言う理由からどうにか押し殺し、出来るだけ冷静かつ理性的に見える様に取り繕い、極力感情が表に出ない様に心掛けては居たものの、後でその時に居た皆に確認してみた処、外から見れば『無表情で抑揚乏しく淡々と語る、殺気駄々漏れな男』の図となっていたらしいのだが、それはそれとして言葉を紡ぐ。
「そもそもの認識として一つ問いたいのですが、貴女は先程『軍規の乱れ』がどうこう、と言っておられましたよね?」
「……そ、それは、当然の事でしょう!?貴殿方は一般の冒険者のつもりなのでしょうが、こうして従軍している以上は貴殿方にも軍規が適応され「まずその時点で貴女の認識は間違っています」……え?」
「確かに、私達はこうして従軍している以上、自身の所属する部署に於いて、上位者の定めた軍規を遵守する必要が在ります。ですが、私達の場合あくまでもそれは『魔王陛下』であり、間違っても貴女やアスモディア総指揮官ではありません。
私達が所属する『独立遊撃隊』は、あくまでも直上に陛下を抱く独立した系統の部隊ですからね。
それと理由を同じくして、如何な作戦が在ったとしても、それに従うかどうかを判断するのはあくまでも『私達』であり、貴女方にはソレを私達に『強要』する事は出来ませんよ?
何せ、陛下直々に、大局に差し障りさえ無ければ自由に行動しても良い、と言う許可と、あくまでも私達『独立遊撃隊』に対して軍が出せるのは『要請』であって、強制的な力を持つ『命令』は聞く必要性は存在しない、と言う陛下からのお言葉を賜っておりますので、貴女方からの『命令』は聞かなくても罪にはならないと言う訳です。
ご理解頂けましたかな?」
俺から発せられた、極大の皮肉と苛立ちを込められたセリフに暫し呆然とするナベリアスは、その言葉の意味が脳に浸透するに従って顔色を赤くしたり青くしたりとクルクルと変化させていたのだが、その攻撃的な光を未だに宿している瞳と吊り上がった目尻から、反論してくるつもりである事は容易に想像する事が出来た。
大方、俺達が踏み抜いた魔王国軍の軍艦の甲板だとか、先程も言っていた『拿捕出来たハズの船を沈めた』とか、その手の被害を上げつらい、修理費だとか補填料金だとかで俺達を自身へと縛り付け、良いように使ってやろう、とでも考えているのだろうか?
……だとしたら、それも見当違いも甚だしい、と言わざるを得ないだろう、ね。
「だ、だったとしても!貴殿方は今後も私達が利用する軍艦を破損させ、その上で拿捕して流用する予定であった敵艦を全て沈め、更に港の施設まで破壊してしまった!!それにより、私達魔王国軍は大幅な日程の遅れを出さざるを得ない状況に在るのですよ!!?
貴殿方『個人参戦』の有象無象によって、私達『魔王国軍全体』が迷惑を課して被っているのには間違いは無いハズだ!それに対しての賠償の義務が、貴殿方には在ると言う事を理解しているのですか!!?」
……ふーん、成る程そう来たか。
あくまでも俺達が自分達の配下でない、魔王国軍の軍規の内側に居ない、とするのであれば、確かにある意味に於いては『個人参戦』と見れなくも無いだろう。
何せ、義勇兵として参戦している冒険者達であれ、一応扱いとしては既に『魔王国軍の兵士』となっており、その行動は軍規にて縛られ、同時に軍規によって護られているのだからね。
だが、あくまでも俺達がその範疇に居ないとするのであれば、向こうも軍規によって制限されている様な無茶な要求を俺達へと突き付ける事が出来るし、俺達としてもソレを定めた魔王国軍から護っては貰えない、と言う事になる。
……どうせ、こうして提示してきた『無茶な賠償』を取り下げて欲しければ、今後の戦闘は自分の手足となって戦え、当然の様に上げた戦果は自分のモノとして献上しろ!だとかを言いたいのだろうけど、その企みが顔に出てしまっている以上はもう意味がない手だと分からないのだろうか?
「まぁ、当然?貴殿方程度には払い得ない金額になりますが?私としましても、この場でこれ以上揉めるのは宜しくないですからね。今回の遠征中は私の命令に絶対服従すると言うのであれば?私の権限に於いて支払いを待って差し上げなくも「それってお幾らで?」……何ですって?」
「だから、その賠償額とはお幾らなのか、と聞いているんですが?聞こえませんでしたか?」
その俺からの一言に、何故そんな事を?と思っているであろう事がアリアリと解る表情を見せるナベリアスだったが、どうせ払える訳もない、と勝手に見切りを付け、勝ち誇った様な表情と視線にて口を開く。
「……そうですね。貴殿方が沈めた軍艦十数隻は、建造しようと思えば少なくとも白金貨一枚近くは掛かったハズです。それに、港の基本機能はまだ生きているとは言え、貨物の集積用の倉庫や、それらを管理する為の建物等も破壊され、地面の状態もとても良いとは言え無い様な状態です。
これらを、私達の作戦が決行されていた場合に想定していた被害から差し引いたとしても、損害は軽く白金貨二十枚に届くでしょう。ソレだけの莫大な被害額を、貴殿方は支払えると言うのですかね?」
ナベリアスから告げられた金額により、おっちゃんとレライエさんは顔を青く染め、アストさんは表情を苦々しいモノへと変えて行く。
おそらく、多少の上乗せは在れども、基本的にはそこまで膨らませられた暴利な金額ではなく、適正範囲内のモノであったが為に、そんな表情をしているのだろうと思われる。
そんな三人の表情を見て、それまで以上に勝ち誇った様な顔を見せるナベリアスだったが、特に興味が在る訳でもなかったので普通にシカトしてレオへと視線を向ける。
「白金貨二十枚だとさ。頼めるか?」
「まぁ~、その程度で良いんだったら~、割りと余裕だしね~」
はいどうぞ~、と軽い感じで小袋を投げ渡して来たレオに一言礼を言い、閉じられていた袋の口を緩めて中身を確認する。
そして、目的のモノが入っていた事を確認すると、こちらを訝しそうに見詰めていたナベリアスへと近付きつつ、手にしていた小袋を差し出して口を開く。
「……では、これをどうぞ」
「…………これは?」
「おや?貴女が正式に請求された白金貨二十枚ですが、何か?魔王陛下の直属部隊たる私達に対して請求された、ね」
その言葉に対しても、何処か訝しむ様な表情を浮かべながらも、自身で請求した事もあり、その上でもし本当に白金貨二十枚が入って入れば、総指揮官たるアスモディアに知られる事無く莫大な資産を手に出来る、との欲望も手伝って、俺が手にしている小袋を受け取ろうと手を伸ばしてくる。
そんなナベリアスの様子に、内心で既に嘲嗤いが止まらなくなっていた俺は、おそらくは同様な状態になっているのであろうタツとレオの二人と共に、以前に決めておいたハンドシグナルにてアストさんへと指示を飛ばし、それを受けたアストさんも、何故今それを?と言う顔をしながらも、俺からの指示を完遂するべく持ち運んでいたソレを起動させる準備に掛かる。
そして、アストさんが持っていた魔道具の起動準備が終わり、ナベリアスが小袋へと手を掛けた事で、内心の愉悦が最高潮へと達しようとしていた丁度その時。
「ナベリアス!!自刃するか、もしくは私の手で殺されるかしたくなければ、今すぐその袋から手を引っ込めろ!!!」
と、今この状況ではあまり聞きたくなかった声が、かなり逼迫した様な声色にて発せられる。
……ちっ、邪魔が入ったか……。
内心で舌打ちを溢しながらそちらへと首を巡らすと、必死の形相にてこちらへと向かってくるアスモディア総指揮官の姿が在った。
突然の上官の登場と、その必死の形相に驚きを隠せなかったのか、愕然とした表情を浮かべながらも半ば反射的な行動として、命令に従って手を引っ込めてしまう。
その行動に対し、今度は堪える事無く鋭い舌打ちが零れ、良いところで邪魔しに入ってくれたアスモディア総指揮官の方へと、半ば自覚しながら殺気混じりの視線を向ける。
「……おやおや。これはこれは、アスモディア総指揮官殿ではありませんか。今回は、一体どんなご用件で?」
「……彼女の無礼は私が詫びる。賠償も必要ない。こちらから、必要以上に君達『独立遊撃隊』に対して要請や指示を出さないし、出す場合にはそれ相応の対価を支払う事をここに誓約する。
……だから、彼女の事は見逃してはくれまいか?ただ単に、君達に一番槍での大手柄を盗られた事を妬んでいるだけに過ぎないんだ。頼むよ……」
この通りだから、と皆の前で深々と頭を下げ、どうにか助命を乞うアスモディア総指揮官。
その姿に胸を打たれた、と言う訳でないが、それまでの様な過激な感情やら思考やらを保つ事が若干バカらしくなり、割りとどうでも良くなった来た為に、手振りで『もう良いよ』と示しておく。
そして、結局使われる事の無かった小袋をレオへと投げ渡し、総指揮官から今後の大まかな日程を確認した俺達は、海上に居た間中ずっと船酔いに苦しみ、結局ハーフェン奪取戦には参戦出来ていなかったネフリアさんを回収すると、適当な馬車を一台接収してから、ハーフェンから入ってヴァイツァーシュバイン王国の首都まで行く際に取るべきルートの内、魔王国軍が通る予定のルートではない方を目指して進んで行くのであった。
******
「……ふぅ、どうにかなった、か……」
「総指揮官!何故、あんな事をしたのですか!?
皆の見ている前で指揮官が頭を下げるなんて、軍全体の士気に関わります!
それに、あそこで止められなければ、私達は莫大な軍資金を得られたのですよ!!?」
「……そうだろうね。そして、その結果として、私達は今以上に皆の士気と信頼を喪う上に、命まで落としていただろうね」
「…………は?」
「……おやおや、まさか気付いていなかったのかい?君が彼らに難癖付けていた時点で、彼らが口火を切ってくれたお陰で戦闘を終始優位に進められた事を理解していた下士官や、彼らに直接的に危ない場面をフォローされた兵士達。それと、彼らと共に仕事をこなして来た経験が在るのであろう義勇兵の皆が、君に対して向けていたのは、信頼や忠誠の視線ではなく、自分達の英雄やそれに準ずる存在を侮辱している者に対するソレだった、ってことに」
「そんな、訳が……」
「彼らに対しての賠償請求にしたって、確かに彼らの独断専行が原因ではあったけど、私達で同じ事をしようとしていたらまだ戦闘は続いていたハズだし、もっとこちら側の被害も大きくなっていた事は間違いない。その点だけでも、彼らに請求するのはお門違いだし、むしろこっちから『褒賞金』扱いで支給して然るべきだろう?」
「……ですが、彼らは自分達は軍規の範疇には無い、との一点張りで……」
「それは当然だろう?彼らの直上は陛下のみ。それはつまり、指揮系統に於いては彼らは私達の上に居るのだから、私達の敷く軍規にて縛れるハズがないだろう?君にも分かりやすく言えば、君の部下の下士官が、自身の指揮する部隊に於けるルールの類いを、なんの脈絡も無しに君へと押し付けて来る様なモノだ。それは、到底受け入れられはしないだろう?」
「……それは……」
「そして、あそこであの小袋を受け取っていたら、おそらくアシュタルト君が預かっていると聞いている通信用魔道具にて陛下へと一直線に連絡が飛び、君は『六魔将』解任の上に降格。下手をすれば私の手で処刑せよ、と言う命令が下された可能性すらも有ったのだから、そこのところの自覚はして貰えないかね?
何せ、私は陛下直々に『彼らを頼む』と言われてしまっている。そう言われている以上は、君達同僚よりも、彼らを優先せざるを得ないと言う事は、これ以上言わなくても解るよね?」
そこまで言われてしまえば、さすがのナベリアスも否応無く理解した様子で、今更ながらに滝のような汗を滴らせながら、顔を青ざめさせるのであった。
少々遅れて済まぬ、済まぬ……。
冬木を駆け巡るのに忙しかったのでござる。
……征服王は三人で対戦マッチしておるのに、剣ディルも孔明も殺ミヤも来ないでござる……。
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