121・取り敢えず合流します
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今回から第五章に入ります。一応、この章で一つの区切りを予定しておりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m
「……まぁ、あの国が頭おかしいのは今に始まった事じゃない、ってのは、話を聞いているだけでも何となく解るけど、そこまで阿呆な事に踏み切ったってことは、それなりに勝算有りきで算盤弾いているんだろうけど何か心当たりとか有ったりするのか?」
現状を聞くだけでも呆れて物が言えなくなる程であるが、それでも曲がりなりにもかつては大国だった国が、こうして宣戦布告を交えた(正確には一方的に突き付けて)上で戦争を吹っ掛けて来ている以上、何も無いのに行動に出た、と言うのは有り得ない為、何か知っているんじゃないのか?と言う意味合いも込めて質問してみる。
「……余もそう思って調べさせてみたのだが、今一ハッキリせんのだよ。
最初は、カーパルスへと攻め込んで来た軍艦が最新型で、それの機能を頼りにしていたのか?と思い、滷獲した軍艦を調べさせてみたのだが、特にこれと言った機能がつけられていた感じでも無い様子なのだ。それは、実際に上陸してきたあの国の部隊の連中にも言える事で、特にこれと言った変わった事、新しい事はして来なかったのだそうだ」
が、魔王の方でも、本当に掴みきれていないらしく、苦虫を噛み潰した様な表情にて苦々しく答えてくる。
「そも、奴等がこの時期に攻めてくる、と言う事自体が不自然なのだ。
今の時期の海流では、あの国からこちらへと向かって来ている訳でなく、むしろこちらからあちらの方へと向いて流れている。それ故に、船でこちらまで来るには主流な海流を避けながら人力で漕ぐか魔導船を使うか、もしくは大回りしてこちらへと向かってくる海流に乗るかしなければならぬのだ。
しかし、もう数月程すれば海流の向きも変わるし風向きも変わるから、今来るのはあらゆる面で『無駄』に過ぎぬのだよ。
それ故に、何かしらが無ければこんな時期に攻め始める事は無いハズなのだが……」
そう呟く魔王に対して、俺は追加で質問して行く。
「だったら、今回は投入して来なかったけど、何かしらの『決戦戦力』的な何かがあって、それを当てにしているんじゃないのか?
そう言う奴に、何か心当たりは?」
「それも有り得ぬ。カーパルスが襲撃されたとの報を受けた際に、その当時に『人族』で『ミスリル級』以上の者があの国の冒険者ギルドに所属して居るか、もしくはそれに匹敵するだけの者が直接あの国に所属しているか、をギルドへと問い合わせてみたのだが、現在は両方ともに『把握している限りでは存在しない』との回答が返ってきている。
当然、あの国の保有戦力の中にも、それに匹敵するだけの者は所属しておらぬ事は無くもないが、あの国周辺に潜伏させてある我が国の諜報員からの報告によれば、今回の侵攻には出てきていないのが確認出来ておる。
……まぁ、もっとも?少し前まではそれに当たりそうな輩が居たみたいだが?何処ぞの誰かが『獣人国』にて撃破した、と言う報告を受けておる故に、それも有り得ぬのだろうがな?」
最後の部分はスルーしておくとしても、確かあの国と冒険者ギルドの方はあまり仲がよろしくないらしいから、ガセネタを掴まされた、ってことは無いだろうから多分本当の事なのだろう。
……と、すると、ますます何がしたいのかがサッパリ解らん。
まぁ、そんなモノはあまり考えた処でどうなると言うモノでもないのだろうけど。
「んで?これから、どうするんだ?このまま攻められっぱなし、って訳じゃないんだろう?何か、考えでも有るのか?」
「それは、当然よ。攻め込まれてそれを放置するなぞ、盗人に自ら蔵の鍵をくれてやる様なモノよ。奴等にそこまでやらせるつもりは毛頭無い。
それに、ここで余らが反撃に出ねば、周辺国にも『弱気になっている』との印象を抱かれかねぬからな。そうなると、取り敢えず攻めるだけ攻めておくか、と言ったノリで吹っ掛けて来る国が出ないともかぎらぬからな」
「じゃあ、次はこっちから逆侵攻ってことで良いのか?」
「うむ。既にカーパルスにて船の用意を進めさせているし、『六魔将』旗下の者達からの選抜も始めておる。それと、有志の冒険者達へと参戦を呼び掛ける依頼書を発注しておいたから、冒険者達もある程度は参戦してくれるだろう」
アラネアの里との交易路の整備やら、取引の際のレート制定やらで忙しいと言うのに、と最後に溢す様に呟く魔王は、聞いていた歳よりも老け込んで見え、何だが煤けている様な印象を受けた。
「……そうか、そっちも苦労してるんだな……」
「……それは、当然であろう?何せ、近々大々的に発表する予定であったのだが、あの国と隣接している国、又は当方の様に他国を通らずに直接来られる様な国々の連盟にて、あの国を叩き潰そうと計画しておったのだからな。
……もっとも、こうして先に攻め込まれてしまった以上は、当事者であるこの『魔王国』と『獣人国』のみで攻め込むハメになってしまったがな」
直接的に政治に関わっていた経験の有るアストさんは、元々上司でもある魔王のゲッソリとした現状に涙を流しているが、元よりその手の事柄にはタッチしていなかった俺と、そもそも小規模な里での暮らししか知らないネフリアさんには縁遠い話であったので、手持ち無沙汰になった俺達は取り敢えず出されていた紅茶を啜る。
すると、そこで名案が浮かんだので、取り敢えず先に許可だけでも取っておこうかと魔王へと視線を向けると、何故か呆れた様な視線にて返されてしまう。
「……まだ、何も言ってないんだけど?」
「……そなたの顔を見れば、何を言おうとしておったのかは容易に想像出来るのだが?ちなみに、余からの返事は『ダメ』だぞ?」
「私でもすらも、今タカナシ殿が何を考えてらっしゃるのかは判断出来ますよ?そして、私としても反対です」
「……想像しているのとは違うかもシレナイヨ?」
「では、言ってみるが良いぞ?」
「……俺達を王命で軍に捩じ込「「それはダメだ(です)!!」」……でも、それが一番手っ取り早いんじゃないか?」
俺の言葉を途中で遮った二人へと、抗議の意味合いも込めて反論しておく。
すると、二人が視線にて会話して、順番と内容を決めたらしく、まずは魔王から口を開く。
「……余はそなたと約束したハズだ。そなた達を戦争の道具として使うつもりは無い、と。
そもそも、この世界の戦いに、そなたの様な異世界の住人を無理矢理に参戦させる事自体が間違っておるだろう?この世界の事は、この世界の者で片を付ける。それが、最低限果たすべき『モラル』と言うモノであろうよ?」
「幾らタカナシ殿達の武術が『対戦場用』として開発・最適化されて来たモノだと言う事は、これまでの戦闘を見ていれば嫌でも理解出来ますし、常々そう聞いています。
ですが、それでも何が起こるのか分からないのが戦場で、今回の様な『相手が何を考えているのか分からないから、取り敢えず攻撃しておこう』と言った事例では、それがより顕著に現れると言っても良いでしょう。
……それはつまり、タカナシ殿にも『万が一』が有り得る、と言う事に他なりません。そんな処に、想いを寄せている方を送り込む何て、私には出来かねます……」
そんな二人からの真剣な物言いに、取り敢えず両手を上げて降参の意を表してこの場は逃げの一手を打ってお茶を濁しておく。
そんな俺の態度に不振そうな視線を向けながらも、それ以上追及してくる事を止めた二人に適当な話題を振りつつ暫く雑談に興じていると、フルカスのじい様がとても申し訳無さそうに魔王へと、そろそろ仕事が……、と耳打ちするのを見た俺達は、退席する旨を告げてからその場を後にするのであった。
******
魔王城を後にした俺達は、取り敢えずの集合場所として定めていた冒険者ギルドへと足を向ける。
そんな俺の背中へと、ややジットリとした抗議の視線を向けるアストさんと、そんなアストさんへと半ば呆れた様な視線を向けるネフリアさん。
そして、今一状況が良く分かっていないからか、もしくは理解するつもりが無いのかは知らないが、特に気にする様子も無いままに俺へとじゃれついてくる従魔達。
頭にしがみつくだけのリンドヴルムはまだしも、最近翼の内側の羽毛にて俺の顔をポフポフする事にハマっているカーラや、何時もの通りに俺の股間へと頭を突っ込もうとして来るリルによる行動阻害により、思ったようには進めてはいなかったが、それでもそんなに時間は掛からずにギルドへと到着する。
そして、その気になれば懐にすっぽりと収まってしまう程度の大きさであるリンドヴルムと、それなりに大きいがそこまででもないカーラはともかくとして、そこらの馬(の様な四足のモフモフ)よりも大きなリルは流石に連れて入ると他の人の迷惑にもなるし、実際にギルドの方からも入場規制を掛けられてしまっているので、凄く悲しそうと言うか寂しそうと言うか、とにかくその手の感情を並々と湛えた瞳で見詰められてしまい、一瞬俺も外で待っていようかな?とも思ったが、そうすると話が進まないし二度手間になりかねない上に、予定よりも到着時間が遅くなってしまっている為に、泣く泣くリルは外に置いてお留守番をお願いして、俺達だけでギルドの中へと入って行く。
……まぁ、正直に言えば、俺が名残惜しくなってリルをモフり回したり、リルに対して敵意を持った視線を向けながら武器に手を掛けようとしていた冒険者共に、警告も兼ねて殺気を飛ばしていたりしたせいで、余計な時間を使ってしまったのが原因の一つではあるのだけど、これは仕方無いヨネ?
そんな感じで、誰にも聞かせる予定の無い言い訳を心の中で垂れ流しながらギルドの入り口を潜って視線をさ迷わせると、数ヶ月前まではほぼ固定で使っていた席に、宿とギルドとに割り振った面子と、『懐かしい』と形容するには些か早い顔が三つ並んで既に座っていた。
「おっ!ようやく来やがったか!」
「はぁい、お久し振りね?」
「こうして無事に再会出来ると、やっぱり嬉しいモノだね」
「ベリスのおっちゃんに、ウェパルさんとレライエさん?何でこんな時間にこんな場所に?」
今から数ヶ月前に在った対『小鬼』戦線にて共闘し、その直後に入った依頼でここクラニアムを離れていた冒険者パーティー、『破られぬ楯』(おっちゃん命名)の三人の内の一人であるベリスのおっちゃんとその妻でもあり同じくメンバーでもあるウェパルさん、そして俺達の知る限りでは唯一の存在でもある『ダークエルフ』(俺達命名)であるレライエさんの姿が在った。
そんな三人が、ここ冒険者ギルドに居る事自体は何の問題も無い事なのだが、現在は太陽が中天に差し掛かろうかと言う頃合いで、俗に言う昼頃の時間帯である。
まともな冒険者であれば、早朝に依頼を受けて出立し、夕方頃には採取なり討伐なりを終えて帰還する、と言うのが通常のスケジュールとなっている。
故に、今の様な時間帯には基本的に仕事(依頼)で外に出ているハズだし、それ以上にこうしてギルドにて駄弁っている何てもっての他である。
……そして、それはつまり……
「……おっちゃん、とうとうギルド馘になったのか……。
どうすんだよ?まだこんなに若くて(?)綺麗な奥さん居るって言うのに……」
「……もうその下りはあいつらとやったわ!ただ単に、今日は依頼を受けて無いってだけだってんだよ!
良いからさっさと席に着きやがれ!」
まぁ、そんな処だろうとは思っていたけどね?
そう思いつつも口には出さず、そのまま素直に席に着く。
すると、先程の俺の発言(『若くて綺麗な奥さん~』の部分)を聞き、ハイライトをオフにしていた女性陣が再起動して誰が俺の隣に座るのか、でちょっとした争いが起きたが、結果的にはアストさんと先生の『大人の女性』コンビが勝ち残り、微妙に近い距離感で俺の両隣に腰を下ろして来る。
それを、結果的には負けて権利を失った他の女性陣が歯を食い縛り、まるで血涙でも流さんばかりに恨めしそうに見詰める光景に、俺を除いた男性陣が俺へと向けて呆れとからかいを混ぜた様な視線を向けつつ、口々に
「モテモテだな!」
だとか
「両手だけじゃなくて、足下まで華畑なんじゃないのか?」
だとかの軽口を向けてくる。
それに対して俺は、半ば本気での殺気をお返しとして飛ばしてやりながら、じゃあここ代わってみるか?と視線にて訴えかけると、全員から謝罪と慰めの意思を込めた視線を送られる事となってしまった。
……半ばこうなるって事は解っていたし、ほぼ自分で招いた事態ではあるのだけれど、少し位は誰かが代わってくれても良くないかねぇ……?
そんな、半ば悟りにも等しい感情を抱きながら、わざわざこうして席に着く様に促した理由を聞き出す。
「……んで?何用で?どうせ、顔を見て挨拶しに来ただけ、って訳じゃあ無いんだろ?」
どうやら、顔色やら態度やるから察するに、既に着いていた面子はもう話を聞いた後みたいだし、その話自体もそこまで軽いモノでもない様子だ。
そんな事を考えながら、何やら覚悟を決めた様な目をしているベリスのおっちゃんへと視線を向けていると、おっちゃんがおもむろに口を開く。
「……お前の事だ。どうせ俺が言わなくても、あの嬢ちゃん達とは違ってもう知っているんだろう?この国が戦争状態に突入している、って事は」
「まぁ、当然な?」
……かく言う俺も、ほんの一時間前位に知ったばかりだけど、ここは黙っておくのが吉だろう。
「なら、話は早い。つい先日、ギルドを通して『義勇兵』の応募が掛かった。参加資格は特に無いが、それでも国内の依頼が滞る事を危惧してるのが、『金級』以上は出来るだけ参加しないで欲しい、とも言われている。
……ぶっちゃけ、危険はそれなり以上になるだろうし、ランク的にも良い顔はされないだろうが、報酬金は『アダマンタイト級』が受けられる依頼のソレを軽く上回るだけのモノが提示されている。
……だから、俺は敢えてこれを受けようと思っている。早急な依頼の類いはもう片付けたし、使命の依頼は断る方針で調整したからら、断られる事も無いだろうし、な」
「……金欲しさに戦争に参加する、って言っている様に聞こえるけど?」
「……あぁ、そうだ。その為に志願する」
「…………ふーん?まぁ、良いんじゃないの?理由なんて人それぞれだろうし。
……だけど、そうするとこうしている理由が今一よく分からないんだけど?」
そう俺が返すと、僅かにベリスのおっちゃんとウェパルさんが視線を交わし、ウェパルさんがソッと下腹部を撫でているのが目に飛び込んで来た。
…………あれ?これって、もしかするともしかしちゃったのか?
そんな結論に至っていた俺に対して、目の前の机に両手を突きながら深々と頭を下げたおっちゃんは真剣味を増した声色にて告げる。
「……俺は、絶対に死ねないんだ!死ねない理由が出来ちまった!金が必要なのも、その為なんだ!
……だから、だから!だからどうか、俺達と一緒に来てくれないか?これは俺の勘でしか無いが、お前達さえ一緒に居てくれれば、どうにかなりそうなんだ!だから、頼む!!」
そんな、自分の都合でまだ子供と呼んでも間違いは無いであろう相手を戦場に引きずり込み、挙げ句に自分の『お守り』をさせようとしている事に、今すぐに自刃してしまいたく成る程に自分自身が情けなくなってくるベリスだったが、それに対してタカが出した返答は、ごくごくシンプルなモノであった。
「……ん?別に良いけど?」
サラッと受諾する主人公。その真意や如何に!?
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