116・公表しろとは言ったけど……
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今回は少々短め
【今日は、急な公布によってこうして集まって頂き、大変感謝しております。私、ルィンヘン・アリエル=アズラレス・ファノメレルから皆さんに、お伝えしなければならない事が有ります】
……俺達が逗留していた宿へと、ルィンヘン女王が早朝から突撃してきたあの日から更に数日経過した今日。
俺達は、この『妖精国アルフヘルム』の首都であるイルーヴァタールの王城から、広場に集まった民衆に向けて拡声の魔道具を使って演説を行っているルィンヘン女王の後ろにて待機していた。
何故にそんな事をしているのかと言えば、俺が黒紫毒堕龍を倒してくる依頼(正確に言えば『世界樹に起きた異変の調査』だが)を達成した報酬の一つとして、俺達が何を成してきたのかを公表する、と言うモノを入れていたから、と言うのが根本的な原因であり、それと同時に今回の依頼に於いての最大の失敗でもあったりする。
……あの日は結局、俺とリルが呆気に取られている間に一人でスタスタと宿へと入っていったルィンヘン女王が皆を起こして回り、今回の訪問の理由と、求められていた『報酬』の一つの扱いについて皆に説明を行っていった。
「ーーーと言う訳で、皆さんには数日後に予定しておりますパレードにて、私と同じ馬車に乗っていただき、国民全てにその∃をアピールして頂きます。そのパレードの前段階として、私の演説を入れる予定ですので、その際に求められていた報酬の一つである『事実の公表』をさせて頂く予定となっております。
また、簡易的ではありますが、その後のパレードに参加していただく事により、求められております報酬の一つである『アラネアの公的理解』についてもある程度は満たせる公算となっております。他の報酬に関しましては、『世界樹近辺への立ち入り許可、並びに素材採取の許可』は既に支払っているようなモノですし、『冒険者ランクの上昇』に関しましても、既に冒険者ギルドの方へと働きかけておりますので、そう遠く無い内に実行されるでしょう。
と言う訳ですので、折角のパレードに今回の『主役』が居なくては締まらなくなりますので、皆さんには参加して頂きますが、宜しいですよね?」
そう笑顔で言い切ったルィンヘン女王に対し、先手を取られて良い様に使われそうになっている俺達は、苦虫を噛み潰した様な顔で視線を交わして行く。
……元より、依頼を達成したとしても、その後に闇に葬られる事を懸念した俺達が、それを防止する為に事態を公表する様に迫った訳なのだけど、その見方を変えれば『事態を終息させるだけの力を持たなかった無能な王家』と取られる危険性を、あくまでも『勇敢な冒険者に依頼して、速やかな事態の終息を行った有能な王家』であると喧伝する為の材料に落とし込んだその手腕は恐るべきモノであると言わざるを得ないだろう。
だが、だからと言って客寄せパンダになってやるのを許容出来る訳ではないし、そんなこっ恥ずかしい事を強要されたとしても、それを受けなければならない理由はもう無い以上、俺達の方からも抗議の一つや二つは入れさせて貰う!と意気込み
「しかし、そこまでやる必要性は無いのでは?演説の時に直接紹介するだとか……」
言われている事はもっともな内容なので、我ながら少々弱気な姿勢ながらも、一応の反論を挟んでみると
「それですと、皆さんの狙いの中の『不特定多数に自身の存在を周知する』と言う事は達成出来ても、『不特定多数に皆さんの特徴を覚えさせる』と言う事を成すのは少々難しくなりますし、その程度であれば入れ替わりが起きたとしても、誰も分からないとは思いませんか……?」
との事を、見ているこちらの背筋が凍り付く様な、俗に言う『目が笑っていない』笑顔にて説明されてしまい、半ば圧される形で反射的に承諾してしまったのである。
そして、その後は雑談と言う名目でのあの後の処理についての諸々に対する報告が行われたのだが、その中でも最も俺が意外だったのが、例の高飛車エルフが結局秘密裏の内にとは言えども結果的には処刑されていた、と言う事だ。
俺としてはてっきり、アレでも次期妖精守護騎士の長候補(話を聞く限りだとどうやらそうらしい)である為に、俺達との軋轢を考慮したとしても、最低限の処罰で済ませました、といけしゃあしゃあと宣うのだろうな、何て考えていたのだが、当のルィンヘン女王曰く
「あくまでも彼は次期妖精守護騎士の長候補筆頭でしか有りませんし、それは彼の集団を率いる能力と家柄を加味した上での評価でしか有りません。今回の様に、私の名前に於いて下された命を妨害する様な所業を成し、その上で貴殿方との関係を拗らせ兼ねない様な行動まで取った者を、貴殿方と敵対する可能性を高めてまで生かしておく必要など有りはしませんので、当然の処置かと。
個人の武勇のみによる判断となりますが、彼よりも余程次代の妖精守護騎士を背負うに値する人材は既におりますので、心配なさらずとも大丈夫ですよ?
……それとも、タカ殿が本当に王配としてこの国に入って頂けますか?そうすれば、戦力的な観点からも、今後暫くは心配しないで済みそうなのですけれども?」
……との事であった。
その、最後の下り以外はもっともな言い分に納得せざるを得なかった俺達へと、私の部下が掛けた迷惑料です、と言外に含めながら差し出された小袋の中には、この世界に於ける最大単価である白金貨がひー、ふー、みー、と数える途中で頭痛がしてきて数えるのを辞めてしまう程に入っており、その見た目以上過ぎる重量からしても、少なくとも最初に俺達への報酬として提示された金額を軽く上回っているのであろう事は、容易に想像する事が出来た。
……高々あの程度の事柄に対する賠償で、ここまで金額を積むか普通?
そんな、以前受けた『暴走』の時の報酬よりも、下手をすると上回っているかも知れない程の大金を軽く持ち出され、それに対して喜べば良いのか、それとも畏まらなければならない場面なのか判断が付かずに困っていると、それを見通してなのか、それともそう言う趣味なのかは不明だが、とても良い笑顔を浮かべて説明してくるルィンヘン女王。
「……えぇ、予想の通り、今回の依頼の報酬兼、あの者がやらかした事への賠償、と言うだけでは、そこまで報酬額が上がる事は有り得ません。ですが、何かをやらせたいが為に、そうして金額を上乗せしたと言う事でもないので、そう怖い顔をしなくても良いですよ?
ただ単に、私達とも今後仲良くして頂きたい、と言うだけですからね。彼の魔王陛下と獣王陛下と同じ様に、ねぇ?」
……これはつまりアレですか?
二人が俺達から行動で得た信頼を、彼女は金でどうにか買おうとしている、と?何処からどう見ても賄賂の類いですね解ります。
まぁ、ここで突っぱねるのは不可能では無いだろう。
何せ、こうしていけしゃあしゃあと説明しに来てはいるけど、俺達は今回の件では彼女にハメられた様なモノなのだから、ここで強気に『NO』を突き付ければ、多分引き下がるハズだ。彼処まで自身の戦闘力をひた隠しにしているのだから、この場で襲われる事は無いだろうしね。
それに、いざと言う時は外側に居る魔王と獣王を経由して厳重に抗議する、と言う手も無くはないから、深追いはして来ないだろう、とも考えられる。
……だが、それらの可能性を考慮した上で、それでも俺達との関係性を切らずに繋げておきたい、と言う意思表示なのだろうとも考えられる以上、繋がりが有るに越したことは無いからにはやはり無下にも出来ない、か……。
【ーーーそうして、数々の困難を踏破し、我らが世界樹を蝕んでいた驚異を見事に打倒した勇者が彼ら、冒険者パーティー『名無し』率いる皆さんです!彼らが居てくれたお陰で、我々は辛くも聖地を喪う事を防げた事を、ここに我が名の元に宣言致します!】
そんな打算的な考えも有った為に、結局その小袋を受け取ってしまい、その後のパレードの件についても断る事が出来ずに、こうして全員で半ば晒し者に近い状態にされている、と言う訳なのである。
ちなみに、こうしてルィンヘン女王の後ろに控えて突っ立っている訳なのだが、別段演説をぶち上げたり、何かしらの曲芸を披露したりさせられる予定は特に無く、ただ単にルィンヘン女王が指し示した『事態を解決へと導いた存在』として居るだけで良いとの事であり、彼女から指示が有った時に少し前に出て存在をアピールしたり、パレードの時に手を振ったりするだけで良いのだとか。
……まぁ、世間様からすれば、俺達もロハの粗暴な冒険者なのだから、その手の事柄を期待するだけ無駄、って事なのだろうけど。
また、それに関連して服装の方も全員が『ソレっぽい』格好へとルィンヘン女王監修兼支援の元に変換されており、見た目的にはソレなりに見れたモノになってはいるハズだ。
俺とタツは何やら高級そうな軽鎧に加えて、俺が眼帯と相棒。タツが『龍鱗』と例の『試練の迷宮』産の脚鎧を装備している。
もちろん、俺の相棒には鞘が付けられているし、タツの『龍鱗』も固定用のベルト等は適当に外しているので殴り付けるとスッポ抜ける様になっている。まぁ、いざとなれば速攻で絞め直せるのだろうけど。
レオも『試練の迷宮』産のあのローブと籠手を装備しながら、生地からして高級そうな、パッと見は野外での活動に適していそうな服を着せられている。
本人曰く、かなり動き辛いそうだけど。
女性陣も、転移組は阿谷さんのドレスアーマーっぽい見た目の鎧風なドレスと、桜木さんの神官服に似た雰囲気のドレスを除けば、基本的に全員がスタンダードでありながら、背中や胸元を下品にならない程度にアピールしているデザインのドレスを装着し、思い思いに装飾品(あくまでも『宝飾品』であり『装備』ではない)にて飾り立てており、互いに互いの姿を誉めあったり、鏡にその姿を映してキャイキャイと騒いでいる姿は、やはり年頃の女の子なんだな、と再確認させられた。
当然、彼女らは武装無しだけど。
『獣人族』組の三人は、それぞれで正装として持参していた伝統的な衣装を着る事となった。
サーラさんが阿谷さんよりも鎧分多目なドレスアーマーっぽいドレス(多分まだドレスの範疇に在る……ハズ。背中はほぼ剥き出しだったし)で、儀礼用と思われる長剣を装備。
サーフェスさんは踊り子の様な薄布を幾重にも重ねた様な外見でありながら、それでいて直接的に見える肌は最小限に抑えられている設計をされており、どちらかと言うと異国情緒を強く感じさせるデザインとなっていた。
シンシアさんは『獣人国』の闘技場で着ていたのと似たようなデザインのドレスを身に纏い、普段の振る舞いからは掛け離れた様なお淑やかな雰囲気で佇んでおり、思わずレオと共に二度見してしまった程である。
最後にアストさんとネフリアさんだが、この二人は俺達の様に用意して貰った訳でもなく、かと言って『獣人族』組の三人の様に予め持ち込んでいたと言う訳でもなく、自分達で一から作り上げてしまっていた。
まぁ、とは言っても、ネフリアさんが出した糸を織り込んで作った生地で、アストさんが二人分のドレス(胸元やら背中やらが大胆に開けられ、腰の部分のスリットも挑発的に開けられた大人の色気ムンムンな仕上がりとなっていたけど)を仕立て上げてしまったと言うだけなのだけど。
……改めて考えると、これはこれで凄まじい事をしている様な……?
本人曰く、嫁入り修行の一環です♪とのことであったが、普通はそこまでしないと思うが……。
とにかく、そんな感じで着飾らせられた俺達は、最初に危惧していた様な事をさせられる訳でもなく、こうして安全安心の元に手を振っているだけでよいのだけどね。
……まぁ、一部の女性陣が、積極的に俺達の感想を求めて来たりした事で、少々精神的に疲弊したりしはしたけれど。
特にアストさんやネフリアさんは、元々大きいのにそんなに大胆に開いているせいで、そんなに近付かれると目のやり場に困る上に、溢れそうで心配になって来るんだけど?大丈夫なの??
そうして着飾った女性陣が多く居るお陰か、それとも寸前でのルィンヘン女王が行った演説による影響からか、俺達に対しては好意的な視線や表情を向けてくれる人が多く、女性陣は当然としてもまだ『人間』として認定された訳ではないネフリアさんや、俺達が乗って移動している馬車と並走しているリルやカーラにも好意的に接してくれている様に見受けられた。
……まぁ、何故かルィンヘン女王が固定で俺の隣に居たりだとか、その距離が妙に近かったりだとかで一部の人達(同馬車内部を含む)から殺気にも似た様な感情を向けられはしたけれど。
そして、パレードとしてイルーヴァタール内をグルリと一周してきてから、ルィンヘン女王の要請に従い、王城前の広場に黒紫毒堕龍の死体(首無し、毒の元になる血液は処理済み)をレオの『空間収納』から取り出して公開し、俺達の実績を大々的に再度アピールしてから『夜会』へと突入した。
俺達としては、一切聞いていなかった事であった為に難色を示したかったが、ここまで綺麗にお仕着せされてしまっていた理由としても、最初からそうするつもりだったのだろうと思われる上に、一応は俺達よりも上の立場に在る人間による事なので、断りきれずに結局出席する事となってしまったのであった。
……確かに、公表しろとは言ったけど、これはちとやり過ぎではないでしょうか、女王様……?
次回は『夜会』回。当然、女王様からの紹介とは言え冒険者に対して誰もが丁寧な対応をする訳も無く……。
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