112・どうにか討伐出来そうです
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レオによって片目を潰され、ネフリアさんを始めとした従魔達の活躍によってニーズヘッグの体勢を崩し、地面へと倒れ込ませる事に成功した俺達は、予め立てておいた作戦に従ってニーズヘッグへと近接戦を挑みに掛かる。
当然、先程のそのまま咆哮によって少なくないダメージを負ってしまった面子や、元より魔法等の遠距離攻撃に特化しているタイプの人達にまで強要しはしていないが、それでも俺達の様に近接戦専門みたいなタイプの人間は、こう言うタイミングでしかまともに攻撃出来ない……と言う訳でもないが、それでも安全に削れるタイミングを逃す訳にも行かない為に、積極的に殴りに掛かって行く。
俺達以外の面子の得物も、準備期間の内におっちゃんに頼んでアダマンタイトコーティングを施して貰っている為に、あの大地竜並みとは行かずともかなりの強度を誇るニーズヘッグの鱗を貫き通し、確実にその下の肉体にダメージを与える事に成功する。
……もっとも、若干一名はその手の処置をしていなかった為に、斬りかかった後で半泣きになりながら得物を予備の物へと差し替えていたけれど。
しかし、その見た目から分かりきっていた事ではあるが、急所である首筋や頭部、心臓の在る胸部等が地面に近くなったとしても、如何せん俺達の得物ではニーズヘッグの身体に対して小さすぎる為に、あまり見た目的に効いているのかどうかの判断がつかずにいた。
もちろん、切り裂けば出血もするし、痛みも感じているらしく、攻撃する度に振り払おうと手足を振り回し、咆哮も周囲へと響かせてはいる。
だが、それは人に対して爪楊枝でチクチクと突き刺して嫌がらせをしているのに等しい規模のモノでしかなく、今一本当に効果が有るのかを信じる事が出来かねる。
おまけに、元々が龍であるだけの事はあり、かつての戦いにおいてリンドヴルムが見せ付けた回復力も同程度のレベルで保持しているらしく、それなりに深く鋭く斬り付けないと、次の瞬間には既に止血は済んでしまっており、そこから完全に傷口が塞がるまでそれほど時間を必要としない様子である。
更に悪い情報としては、そうやって傷付けた傷口から溢れる血液はどうやら例の毒液の原料らしく、アレを頭から被るよりは被害が少なくて済むとは言え、それなりに強力な毒素をタップリと含んでいるので、下手な攻撃をすると逆に自分が不味い状況に陥る羽目になると言う、何処のマゾゲーかと突っ込みを入れたくなる程の無茶振りを要求されてしまっているのが現状である。
「……クソッ!コレどうにかならないのか!?」
『流石にどうにも出来ぬのぅ!こやつの毒液の特性を考えれば、斬るのと同時に焼いてやれば少しはマシになるかも知れぬが、そんな事が出来れば妾とて最初からやっておるからのぅ!!』
思わず、今回の情報の出所であるリンドヴルムに対して、既にアダマンタイトによる加工がなされている事により、毒液の原液でもある血液に触れても未だに健全(アダマンタイトは『不変鉱』とも呼ばれる程に変化しない為、大地を溶かす程の毒液に触れても大丈夫。若干一名はそうでない武器を使って刃を溶かし、泣く泣く後衛に回っている)な相棒にて容易くは回復されないであろう規模での負傷を負わせ、そこから生じる血飛沫を飛び退いて回避しながら問い掛ける。
だが、リンドヴルムはリンドヴルムでその矮躯に似合わぬ剛力により、半ば抉り取る様な形でニーズヘッグへと攻撃を仕掛け、その度に吹き出す返り血を回避する為に複雑な軌道を描きながら空中で身を捩り、その途中で半ば自棄になっている様な声色で俺へと返事を返してくる。
「斬った直後に魔法でも当てろってか!?オレは魔法使えないんだけど!?」
「俺も使えないってこと、忘れてないか?」
「……俺も、それは無理だな……」
『そんな事妾に言われても知らぬし、そこまでの余裕は無いからのぅ!主殿らの方でどうにかして貰うしか、手立ては無いと見る他に無いのぅ!!』
それに対して、主に近接戦闘へと行動を振り切っている阿谷さん、俺、タツからの抗議の声が挙がるが、リンドヴルムの方からも『無理なモノは無理!』とコレまたバッサリと切り捨てる様な解答がもたらされる。
そんなやり取りを挟みつつも、それでも地面へと引き倒されているニーズヘッグに対しての追撃の手を緩める事はせず、体勢を立て直される前に出来るだけ削らねば、と更なる攻勢を仕掛けて行く。
……しかし、前述の状況によって思ったようには手数が伸びず、その為に中々思ったようにはダメージを蓄積出来ないでいた。
ニーズヘッグの方も、初手で眼を潰された以外は大したダメージにはなっていない事に気が付いたのか、それまで怒りに任せて手足を振り回すだけだった動きに理性の様なモノが感じられ始め、それと同時に俺達からの攻撃を特定の急所に対するモノ以外は無視し、まずは体勢を立て直そうとするかの様な動きすらも始めている様にも見える。
……これは、ちと不味いかも知れんな……。
そんな思いからタツとレオへと視線を向けると、どうやら二人も似た様な結論に至ったらしく、俺の方へと視線を送ってきていた。
「……どうする?ちょいとばかり状況が悪すぎるとは思うが、どうにかして逆転する手は何か無いかね?」
現状が不味い、と言う共通認識により、何処か殺気だっている空気を誤魔化すべく、半ば茶化す様に発言して二人の意見を募ってみる。当然、声が届く程度には近付いてはいるが、攻撃する手を止てはいないし、返り血を回避する事にも余念は無い。
「……手は無くはないが、それはお前も承知の上だろう……?」
「僕達がわざと使わずに温存していた『技能』を使えば~、高確率でどうにかは出来ると思うから~、それで良いんじゃないかなぁ~?その後が面倒な事になるのが確定しちゃうかも知れないけど~、今こいつを倒せないよりかは遥かにマシなんじゃないの~?」
「……まぁ、確かにその為に温存しておいた訳なんだけど、それをしてしまうと後がめんどうになり過ぎる事は、分かっているだろう?それに、俺達が反動でぶっ倒れている間、女性陣だけでどうにかなると思うか?」
「……だが、だったらどうする……?」
「タカの心配も分かるけど~、それでも『今』こいつをどうにか出来ないと~、どのみち『この後』の心配をしても意味がないんだから~、やっぱり使うしか無いんじゃないの~?」
「……だが、使うにしても、攻撃した後に浴びせられるであろう毒液の方はどうするんだ?真っ正面から浴びてしまうと、流石に『神の水』でも治しきれるかどうか分からんぞ?」
「「……そこなんだよな(ねぇ~)……」」
そう、多分ではあるが、俺達があの『屍骨人』との戦闘の際に使わなかった、各自の所持する『特殊技能』を使用すれば、倒すだけならば倒せるであろうと思われる。
実際、敢えてあの時に使用せず、今の今までとっておいた理由のも、こうしてあいつらが『屍骨人』になる原因となったモノと相対した時に使う為の切り札として温存していたから、と言う理由からであったのだから。
何せ、俺の『龍の因子』は一度使用すれば全身がガタガタになるし、タツの『金剛体』も使用中はダメージを受けないが、発動が切れた途端にそれまで受けたダメージの二倍に相当する悼みが全身へと襲い掛かる。レオの『殺戮技巧』も、極度に大量を消耗するだけでなく、極端に精神力まで持っていかれるらしく、使えば一発でぶっ倒れる事間違いなしである。
そんな反動も有るお陰で、あの時は手札の一枚として手元に持っておきながら、結局最後まで切ることが出来なかったし、今もこうして『切った後』の対応も含めて踏ん切りが着いていない状況となってしまっているのである。
……もちろん、使っての戦闘に突入した場合、今のままでは十中八九頭からニーズヘッグの返り血を浴びる事が確定してしまう為に、それに対抗する為の策の一つも用意しないと、例え倒したとしてもその直後に死亡、と言うオチになりかねないので使えないと言うのが正直な処なのだけど。
そんな感じで頭を悩ませながらも、攻撃する手自体は休める事なくチマチマと攻め続けていた俺達の耳に、少し前から後衛としての仕事を放棄し、ああでもないこうでもない、と何やらやっている雰囲気であった乾がその手を止めると、突然ガッツポーズを決めながら歓声を挙げ始める。
「やった!成功した!これで勝てる!!小鳥遊君、ちょっとこっちに来てもらっても良い!?」
とうとう起き上がる事に成功し、一番厄介な存在は俺達三人である、と狙いを付けたニーズヘッグにより、その巨体と超筋力から繰り出される質量攻撃を時に回避し、時に受け流しながらカウンター的に斬り付けたり突き掛かったりしている最中の声掛けにより、多少なりとも相棒の操作が狂ってしまい、受け流し損ねた衝撃が俺の身体へと負担となって降り掛かったが、それは無視して乾に対して口を開く。
「今は!見ての通りに、取り込み中だ!行こうと思えば行けるが、そこまで余裕って訳でもない!せめて!何をしたいのか程度の説明はしてくれ、よ!!」
乾からの声掛けに対して返答しながらも、その間にも絶えず向けられる攻撃を避け、流し、ついでに反撃を繰り出して後退りつつ更なる反撃を叩き込む、と言った精神力の磨り減る様な攻防を続けている為に、動作に合わせて言葉の強さが少々歪になってしまったが、乾の方には正しく伝わったらしく、俺が下がる為の隙を作るべく魔力を練り上げて魔法を構築して行く。
「じゃあ、これに合わせて下がって来てね!『フレイムトーレント』!!」
そして、そんな乾の掛け声と共に、俺の頭上を通り過ぎる様な形で乾の放った魔法がニーズヘッグへと殺到し、それに気を取られている間に俺は乾のいた処へと一旦下がる。
一応は龍の類いなんだし、流石に火属性は効かないんじゃあるまいか?とも思ったが、良く見てみると体表に残っていた血液や、戦闘中も垂れ流し続けられていた毒液等が引火し、全身を炎に包まれ始める岳でなく、ニーズヘッグ本人(?)も必死になってその炎を消そうと暴れまわっている。
その光景に驚愕を抱きながらも、取り敢えずは呼ばれているのだから、と乾の元へと移動して真意を問い掛ける。
「……随分と派手な焚き火になってるけど、アレが俺を呼び戻した理由か?だとしたら、まだ知らされていなかった近接班からの苦情は自分でどうにかしてくれよ?見るからに怒ってるっぽいからな?」
突然攻撃していたニーズヘッグが火だるまになった事により、絶賛ぶん殴り中だったタツや、関節部をどうにか出来ないかと得物を振り上げていた阿谷さん等の近接攻撃組が慌てて退避する羽目になり、あからさまに怒りの表情を浮かべてこちらへと視線を送ってきているのを示唆してやる。
すると、そちらの方へと乾がチラリと視線を向けるが、直ぐ様俺の方へと視線を戻し、まるで何事も無かったかのように口を開こうとする。……成る程、見なかった事にする訳ですね?
「……まあ、あの火災は置いておくとして、ちょっと小鳥遊君の槍を貸してもらって良い?思い付いた事が出来るかどうか試していたんだけど、狙い通りに出来るみたいだから先ずは小鳥遊君からしておこうかと思って!
見ている感じ、返り血を気にして攻めきれていないみたいだったけど、これを掛ければそれも気にしなくて済むから、大分戦い易くなるハズだよ!」
そう言って俺へと手を伸ばしてくる乾に対し、武人としての俺は戦場で得物を手離す事に抵抗を覚えたが、どのみち乾が何を企んでいたとしても、アレをどうにかしない事にはどう仕様もないし、乾の『戦い易くなる』と言う言葉に惹かれた事もあり、渋々ながらも相棒を差し出してみる。
「……分かってるとは思うけど、万が一にも壊してはくれるなよ?その場合は、生き地獄なんて言葉が天国の福音に思える様な目に遇ってもらうからな?」
「……さ、流石にそれは無いと思うけど……。(……でも、小鳥遊君にされるなら、それはそれで……ポッ♥️)」
俺からの念押しに、若干怯えた様子を見せていた乾だったが、何故か途中から頬を赤らめ始めたりした為に、やっぱり止めた方が良いか?との思いから相棒を回収しようとしたが、その前に乾に捕まってしまい、結局『戦い易くなる』ハズのモノを受ける事となった。
「……じゃあ、行くね?『フレイムエンチャント』!」
俺の相棒へと手を翳した乾がそう呟くと、一瞬だけ相棒の表面を炎が覆った様に見えたが、その次の瞬間には何時ものソレと変わらない様子になっていた。
しかし、その乾によって掛けられた魔法?(詳細不明につき)の効果は半端なく高く、そこまでする必要があるのかね?と問い詰めたくなる程のモノであった。
何せ、試しに、と言う薦めに従って、其処ら辺の巨木に対して軽く振るってみた処、そのまま何の抵抗を感じる事も無くその巨木を両断した上に、その断面からは炎が発生して斬り捨てた巨木をまるごと消し炭へと変貌させてしまったのだから。
それでいて、相棒を握っている俺の手は焦げる処か暑さすらも碌に感じる事は無いので、コレならば俺達の間で達成するべき課題となっていた返り血問題を、ものの見事に完遂してくれるであろう予感がビンビンにしていた。
思わずテンションが上がり
「よっしゃ!これで勝てる!乾、愛してるぜ!!ヒャッハーーー!!!」
と歓声を挙げながらニーズヘッグへと突撃をかましに飛び出して行く。
しかし、その後ろで俺からの突然な言葉に乾が腰を抜かし、その相貌をデレデレと崩していたとの事を知ったのは、大分後での事であったりするが、それはまた別のお話。
******
乾の魔法?により、それまでの懸念であった返り血をどうにか出来る算段のついた俺は、それまで俺が抜けた穴を埋めていたタツとレオとにハンドシグナルにて『乾の所まで退避』と指示を送ると、それまで温存していた『龍の因子』を発動し、金色で龍と人との中間に在る様な姿のオーラを纏うと、ようやく全身に伝播していた炎を消し止め、俺達に向かって本格的に殺意を抱いている視線を向けて来ていたニーズヘッグの、振り上げられようとしている右前足へと狙いを定めて突撃を仕掛ける。
すると、俺の様子が変わった事を理解したのか、それとも生意気に突っ掛かって来る蟻を踏み潰そうとしているのかは不明だが、振り上げようとしていた右前足の挙動を変化させ、その鋭くも毒々しい色合いの爪で俺を切り裂かんと凪ぎ払いを仕掛けてくる。
しかし、俺もそれを素直に受けるハズが無く、殆ど紙一重の距離の中ですれ違う様に回避しながら、もののついでに指の一本でも切り落とせないか?との思いと共に相棒を振るって斬りつけてみる。
すると、乾に掛けられた魔法?の効果なのか、それとも俺が発動させている『龍の因子』のお陰なのかは不明だが、指を切り落とす程度では勢いが止まらなかったらしく、相棒の刃の延長線上にあった肘関節の部分から、まるで『ズルリ』と言う効果音が聞こえて来そうな程の滑らかさにて両断された右前足が地面へと落ちて行く。
最初は何が起きたのか理解出来ない様子のニーズヘッグであったが、次の瞬間には前足を切断された事による激痛と、文字の通りに傷口から体内を焼かれて行く激痛の、二種類の痛みのカクテルによって瞬時に発狂しかけるが、本能的にそうしてしまうと自身が死ぬ、と理解したのか、どうにか踏ん張って俺目掛けてその長大な尻尾を振るってくる。
しかし、その攻撃も俺に当たる寸前に、既に『金剛体』を発動させた状態のタツが割り込んで来て、恐らくは乾によって魔法を掛けられているのであろう籠手の指先を突き入れられ、尻尾の内部からも炎で炙られ始めながらも、タツによって固定されてしまっている尻尾を回収する事も出来ず、再度痛みから来る絶叫を挙げている。
そして、これまたタツと同じ様に乾からの援護を受けたらしいレオと共に残り少ない距離を詰めようとするが、それまで絶叫を挙げるだけであったニーズヘッグの口元が閉じられ、その喉元が異様に膨らみ始める。
『いかん!?息吹を使う気じゃ!!まさか、己が執着しておった世界樹を巻き込みかねん距離で使いよるとは思いもしなかったのぅ!!』
そう、驚きの声を挙げるリンドヴルムを横目に、それを吐かせまいとして急いで距離を詰めようとするが、それよりも先にニーズヘッグの方が発射体勢を整えたらしく、大きく口を開いてから喉の膨らみを口の方へと移動させつつ、俺達の居る方向へと向けてくる。
流石に喰らうと不味そうなので、最悪このまま相棒を『風切り』で投擲するしかないか!と覚悟を決め始め、ニーズヘッグの口元からも毒々しい色合いのオーラが漏れ始めたその時、突然俺達の頭上を赤を通り越して白に近い色合いとなっている火球が通り過ぎ、大きく開かれたニーズヘッグの口の中へと飛び込んで行く。
そして、発射直前となっていたニーズヘッグの息吹へと引火し、柔らかな口腔の内部よりの急激な加圧により、ニーズヘッグの頭部が大爆発と共に四散し、周囲へと弾け飛ぶ!
……その、あまりと言えばあんまりな光景に、相棒を投擲する直前の体勢であった俺や、未だに尻尾を抱えたままのタツを含めたほぼ全員が呆気に取られた表情のままに固まるが、その状態を解除し、戦闘が終わった事を実感的させたのは
「……うわぁ、もしかしたら引火するかな?程度でやったら、本当に吹っ飛んじゃったよ。コレ、どうしたら良いと思う?小鳥遊君?」
と言う、ニーズヘッグの頭を吹き飛ばした張本人である乾が発した、何処か途方に暮れた様な声であった。
まさかの止めは乾さんでした!予想していた人は居たりするのかな?
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