108・対『屍骨人』戦線、乾side
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◇対『屍骨人』戦線・乾side
『私達は大丈夫だから』
確かに私はそう言いました。
弱い私達を、未だに人をこの手で殺めた事の無い私達を心配し、一歩間違えばすぐに命を落としてしまうかも知れない相手と戦おうとしていた彼が、自分の戦いに集中出来る様に、と。
確かに私は思っていました。
まだまだ他の皆、小鳥遊君達三人は当然としても、以前は七人掛かりでの試合でしか勝った事の無いアシュタルトさんや、三人しかいないのに、私達と互角に戦えるサーラさん達。不意を突けば小鳥遊君達ですらも拘束してしまえるネフリアさん。
そして、以前小鳥遊君を殺めかけたリンドヴルムさんを初めとした従魔の皆。
今挙げた誰よりも、私達七人はまだ弱い、と。
それでも、私達も強くなれている。
前は七人掛かりでしか試合にならなかったアシュタルトさんにも、最近は私と先生、みきちゃん、しぐちゃんの四人で組んだチームだったり、アリサさん、きょうちゃん、うるちゃん達三人で組んだチームだったら、人数を減らした状態でもアシュタルトさんと良い試合をする事が出来る様になれていたし、冒険者ギルドで高難易度に設定されていた魔物もそこまで苦労しないで倒せる様になってきました。
だから、私達もきっと強くなれている、と。
そう思い込んでいました。
「……クソッ!早すぎて当たらねぇ!!」
「フッ!……拙の抜き打ちにも対応されるとは、これは選ぶ相手を間違えたやも知れませんね……」
……いえ、私達も強く『なれた』と思いたかった、と言うのが一番正しいのかも知れませんね……。
「……ハッ!……駄目、ね。まさか、こっちを向いていないタイミングで無数に分裂させた矢を撃ち込んでいるのに、その全てを叩き落とされるなんて、流石に想定外、かな……?」
「『フレイムランス』!……やっぱり、元が『妖精族』なだけあって、魔法に対する耐性は高いみたいだね……」
だからこうして、彼らに見栄を張り、引き受けた相手の一体にすら碌に戦う事が出来ず、相手からもどうせ大した事は無い、と嘗めて掛かられてしまっているためか、私達へと積極的に攻撃を加えてくる事が無い為にまだ形だけは戦えていますが、相手が最初からその気になっていたら、とっくの昔にこうして足掻く事も出来なくなっていたとしても、私はおかしくは無いと思っています。
本来であればそんな事をしている余裕は欠片も有りませんが、相手が手抜きをしてくれている為に周囲を見渡せる程度には講堂の余地が有ったので、他のチームの現状を確認する為にチラリと視線を向けてみます。
アリサさんのチームも、時にきょうちゃんが分身を捨て駒として特攻させたり、時に死角からアリサさんの『技能』で強襲を仕掛けたり、桜木さんが要所要所で魔法を放って相手の意識を引き付けると共に、時折死角から魔法を放ったりしていましたが、感覚としてはやっぱりあの丸盾と長剣を差した個体によって『遊ばれている』と言う感じが強く写ります。
サーラさんのチームでも、その力強くも小鳥遊君を誘惑する無駄に大きな馬尻を擁する下半身から繰り出される槍突撃やシンシアさんのほぼゼロ距離まで相手の懐に潜り込んでの連続攻撃、サーフェスさんの不規則的かつ変幻的な体術と言ったモノ達による連携を意識した攻撃も、サーラさん達が相手にしている槍を手にした相手によってその悉くを回避され、受け流され、そしてスレ違い様に攻撃される、と言った事を繰り返している様にも見えてしまいます。
それからしてみれば、遠目に見た限りでは互角に近い打ち合いをしているエウフェミナさんや、こうして少し見ているだけでも翻弄しているのが解るカーラちゃんとリルちゃん。ほぼ完全に圧倒しているアシュタルトさんとネフリアさんに、だるそうに相手をしているリンドヴルムちゃん達は、多分問題なく勝てるのでしょう。戦っている姿に、ある種の『余裕』の様なモノまで感じられますからね。
それと、辰郎君と礼於君はここから離れた処で戦っているけれど、あの二人が負ける姿は連想出来ないし、何となくだけど多分二人の方が勝つ様な『確信』に近いモノも感じています。
そして、それはつまり、私達以外の処では、私達側の勝利がほぼ揺るがない状況になっているにも関わらず、私達の様に複数人で対応しているチームだけが、劣勢を強いられていると言う状況を如実に示していると言う事になるのです。
その事実に一人で密かに歯噛みしながら、改めて前衛のみきちゃんとしぐちゃんが戦っている相手を観察して見ます。
鎧の意匠こそは、エウフェミナさんや他の個体と似た様なモノではありますが、他の個体が着けている全身鎧に相当するであろうモノと比べると、どちらかと言うと防御力よりも機動性を重視している作りをしているみたいで、他のソレよりも鎧としての装甲の面積が少ない様に感じられます。
それに、使っている武器も、素早く相手を斬り付けたり、急所を一撃で貫く事に特化している形状をしていて、詳しく無い私にはよく分からないですがアリサさんが使っている刺突剣と、以前小鳥遊君に見せてもらった西洋剣を足した様な見た目をしていました。
そうした、どちらかと言えば軽量なタイプの装備で身軽に動き、みきちゃんの攻撃は元々受けられるとは思っていないのか余裕を持たせて回避して、しぐちゃんの攻撃も直接の防御はしないで受け流したり回避したりを中心に行っている様子でした。
そして、その合間合間で二人が攻撃を空振りした時に姿勢を崩させる様に体術で一撃入れたり、その手に持った剣で斬り付けたりする、と言う戦法を取っている様子です。
一応、私と先生も、二人が体勢を崩されたりした時や、私達に向けて背中を向けていたり視線を切っていたりした時に、魔法や矢によって二人を援護してはいたのですが、先生の矢はどれだけ死角を突いても切り払われるか回避されるかしてしまい、私の魔法も元が『妖精族』だけあって魔力が強いらしく、当たった瞬間に相手の魔力で防御されてしまい、当たりはしてもダメージを与える事が出来ないでいます。
……ですが、それらは少し見方を変えてみれば、私達の攻撃が『効いていない』のではなく『当たると不味いから回避されている』と取ることも出来るのではないでしょうか?
そう思い立った私は、魔力の消費が激しくて、近くにうるちゃんが居て『技能』で魔力を供給してくれないと、あまり長時間の戦闘が出来なくなってしまう為に使っていなかった『術式改変』を併用しての魔法戦闘へと踏み切る事を決意しました。
今の今まで見せていなかったこの『特殊技能』の効果である、『自身の意思による魔法を構築する術式の改変』を使用すれば、初級魔法や下級魔法に魔力を追加して擬似的に上級魔法並みの破壊力を持たせたり、放った魔法の属性を当たる直前で別の属性へと書き換えたり、本来は持ち得ていないハズの追尾性や着弾と同時に爆裂する、と言った条件を付与する事も容易くなりますが、それなりに魔力を消費する『技能』であるだけに、うるちゃんの様に途中で魔力を補給してくれる人か、もしくは魔力を回復させる様な道具が必要になってしまいます。
魔王国に行ってから受けた検査により、うるちゃんは魔力の量がとても高い事が分かっていたので、自分の持っている『技能』との相性が良い、と喜んでいたのですが、今はこうして別の相手と戦っている以上は頼る事は出来ないでしょう。
一応、小鳥遊君から魔力を回復させる魔力回復薬をいくつか受け取ってはいますが、その大半はまだ礼於君の『空間収納』の中に納められている為に、今手元に有る一本しか使って回復する事は出来ないでしょう。
つまり、これから仕掛ける攻撃を外してしまうと、相手に警戒を強められるだけでなく、その後は今のように様子を見ながらではなく集中して私から排除しようとしてくる様になる事は、まず間違いが無いと言えるでしょう。
そして、もし仮にそうなったとしたら、私の接近戦の能力では抗い様が無い為に、あっと言う間に殺されてしまうでしょう。
だから、これから仕掛ける攻撃を、避けられる訳には行かないのです。
「……皆!賭けになるけど、多分決まれば勝てるから!だから、少し動きを止めて貰える?」
そんな事情を加味した上での提案に、私と同じチームの三人は快く協力を承諾してくれて、全力で足止めに動いてくれています。
みきちゃんが大振りな攻撃をわざと回避させ、しぐちゃんが細かく『技能』も織り混ぜた攻撃を仕掛ける事によって動きを制限させながら、先生が足を狙って矢を射掛けます。
すると、それまでの動きとは目的が変わった事に戸惑ったのか、それとも役割から判断して最後の決めの一押しを担当するのが私だ、と判断したからかは分かりませんが、それまでとは打って変わってアッサリとこちらの望みの通りに動き、先生の矢によって足を射抜かれその場に釘付けとなってしまいます。
「……そこだ!食らえ!!」
予想外にピッタリ過ぎるタイミングに、思わず興奮や緊張から来る叫び声を挙げてしまいましたが、ここでミスをしてしまえば私だけでなくチームの皆までも死に直面させかねない為に、それまで魔力を練って準備していた魔法を解き放ち、踞る『屍骨人』へ向かって撃ち出しました。
「『フレイムランス』[術式変換]!『ヴォルテックバースト』!!」
『術式改変』の能力の中でも特に威力を引き上げるタイプの改変を行う際に、ある種の自己暗示として使用している[術式変換]により、元々中級魔法であった『フレイムランス』がその術式を書き換えられ、二段階上の最上級魔法相当である『ヴォルテックバースト』へと着弾の直前に変化を起こし、その術式に従って着弾と共に高温を焔を周囲にバラ撒きながら大爆発を発生させる!
それなりに離れていたハズの私の処まで普通に熱風が吹き荒れ、爆発の際に発生した衝撃波によってビリビリ閉じた振動を真っ正面から受ける事となってしまいました。
私の隣で弓を射っていた先生は突然の出来事に唖然としていたし、思ったよりも近くで大きな爆発が発生した為に二人が何かを言っている様子でしたが、一気に魔力を消耗した反動と、爆発の際の轟音で耳鳴りがしていた為に良く聞き取れず、その場で『聞こえない』とジェスチャーして見せていると、何となく心の底の方から『勝てた』と言う実感の様なモノが沸いて来て、思わず口元に笑みが浮かび上がりました。
……だからだったのでしょうか。
私が、一番反応に遅れたのは。
私が、一番何が起きたのか見えているハズだったのに、気が付いた時には既に、みきちゃんとしぐちゃんとが着けていた鎧の隙間から突き通されて倒れてしまっていて、先生も蹴り飛ばされてその場でまともに動けそうなのが私しか残っていなかったのは。
思わず呆然としながらそちらに視線を向ければ、流石に無傷とはいかず、頭骨の半分と左肩から先、そして、左側の胸の半分近くと胴体部分までもが抉り取られた形となっていた『屍骨人』が、まだ滴る程に新しい血液で濡れた得物を携え、私に対して眼球も無いのに、滴る様な憎悪と焦げる様な憤怒の感情を込めた視線を向けて来ていました。
それを見た私は、思わず『あぁ、失敗したんだ……』と何処かで納得してしまった様子で、元々入っていなかった足腰の力がストンと抜け落ちてしまい、その場から動く事が出来なくなってしまいました。
……でも、それも仕方の無い事なのかも知れません。
元々、あまり活発的な性格をしておらず、どちらかと言えば普段の私は猫を被っている状態に近かった私は、大神君が仕掛けてきていた嫌がらせに抗う事も出来ずにいました。
……そんな私が、こうして命のやり取りをする場に居る事が、そもそもの間違いだったのではないか、と思わずにはいられませんでした。
そして、そんな事を考えながら私の目の前で掲げられた切っ先を諦念の混じった視線で見詰めていると、徐にそれが振り上げられた後、私目掛けて振り下ろされて来ます。
……せめて、私の命を奪うその一撃は、確りとこの目に焼き付けて逝こう。
そんな、後ろ向き過ぎる覚悟を胸に、その一点だけに集中し過ぎているが為に時間がゆっくりと流れている様にも感じられたその時でした。
……ゥオン!!
と、何かが高速で空中を飛んで行く様な音が聞こえてきたと思った次の瞬間には、なぜか私の前で得物を振り上げていた『屍骨人』の頭部が砕け散り、私へと迫って来ていた切っ先もその勢いを失って地面へと突き立っていました。
「…………え?」
思わず溢したその一言が、私の心情をどんなに多くの言葉を尽くすよりも的確に表現出来ていたと思いますが、取り敢えずは何が起きたのかを把握するために、視線を周囲へとさ迷わせました。
そして、ソレ自体には見覚えは無いけれど、それでも誰が助けてくれたのか、どうやって助けてくれたのかが一目瞭然なソレが、私の視線の先に突き刺さっていました。
それは、日本特有の鋭い穂先を付けられた、古風な造りの槍が白い破片と朱い彩りを纏ったままに、地面へと突き立っていたのでした。
そう、恐らくは、私達のチームが危ない、と言う現状を察した小鳥遊君が、私を助ける為にと放ってくれたその槍を見て、私の中に様々な感情が吹き荒れます。
想い人に助けられた感激と、助けられてしまったと言う悔恨。
私達にも気を配ってくれていたと言う感動と、気を使わせてしまったと言う後悔。
そして
私を助ける為に、小鳥遊君が手傷を負ってしまったのであろう、と言う事に対する慚愧の念が、胸の内側からヒシヒシと沸き上がって来ました。
何故ならば、この戦場において、私の目の前に在る槍へと『血濡れの朱』を加える事が出来るのは、この場に生者として存在している私達だけなのですから。
そして、こうして目の前に突き立っている槍が、小鳥遊君がメインウエポンとして使用している『朱烏』でない以上は、普段の小鳥遊君の行動から鑑みると私を助ける為に投擲した際に『技能』で造り出したモノであるハズです。
そして、そうである以上、ソレは投擲される直前に造り出されたモノであり、そうしたモノにソレが着いていると言う事は、投擲するために敵に隙を見せ、それを突かれて負傷した、と言う最悪の結論を引き出すには十分過ぎる状況証拠でした。
そんな結論を勝手に出してしまった私の頭は、どうにか予め配布されていた回復薬の類いで回復した三人が声を掛けてきても、分断していた相手を倒してきた辰郎君と礼於君が合流して、他の二つのチームを相手を倒してくれても、アシュタルトさん達が自分の相手を無事に倒して合流して来てくれた時ですら周囲に対して碌な反応を返そうとはしてくれず、ただただ小鳥遊君に対する罪悪感だけを無限に胸の内へと溜め込んで行くだけなのでした……。
能力解説
乾・術式改変……自身が認識した魔法を構築する『術式』を意のままに改変する事が出来る。本来であれば、魔法に対しては絶対的な『支配権』すらも持ちうる能力だが、乾は元より魔法を扱えていた訳ではない為にある程度能力で出来ることをわざと狭めて使い易い様にしている。それなりに魔力を消耗する為、決め時かもしくは桜木と同行している時にしか乱発はしない。
具体例として挙げると
魔力の消費が少ない下級魔法や初級魔法を中級魔法や上級魔法へと書き換える(魔法は下から順に初級魔法、下級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法の順で強力になるが、それと同時に制御の難易度と魔力の消費が指数関数的に跳ね上がる)
本来は持ち合わせていない特性を持たせる(追尾性や着弾時に爆裂する様にする等々)
既に放った魔法の属性を変更する(通常は『放つ前であれば一握りの魔法使いであれば不可能ではない』程度の難易度)
相手の魔法を改変して威力を落とすor無効化する
等が挙げられる。
次回から主人公視点に戻る予定です。
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