103・条件詰めの交渉を纏めてしまいます
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「ーーーって感じで良いか?」
皆から出された『ルィンヘン女王に要求する報酬』の案の内、俺達の今後の活動に支障が出そうなモノや土台からして無茶なモノ(『王座を要求』とかバカじゃないの?)を除き、残った中で実際に要求した場合にすんなりと通りそうなモノを厳選し統合し調整した結果のモノを皆に対して発表する。
割りと、俺の中での常識に照らし合わせた上で、俺の独断と偏見に満ち満ちているチョイスなだけに、さすがに多少のクレームやらブーイングやらが発生する事を覚悟していたのだが、実際の処としては
「うん、良いと思うよ?」
「先生としてはもうちょっとイケたと思うけど、その辺が落とし処かな?」
「小鳥遊殿の仰るままに」
「オレの案を採用してくれたみたいだから、オレは満足かな!」
「あら?少しばかり手緩いのではなくって?」
「……ん、この程度で止めておくのも兵法の一つ」
「……そ、そうですよ!取り過ぎは、よ、良くないです!」
「某達にも利が有る様にして下さるとは、忝ない。……これは、やはり某が『夜のお供』をして返すべき恩であると心得ましたぞ!主様!」
「……ハイハイ、どうどう。タカ様の案に全面的に賛成、って点はボクも一緒だけど、こう言う真面目な場面でそうやって昂らないの!そんな事しているから、タカ様から冷たくされるんじゃないの?」
「そうよぉ。確かにぃ、自分の意見を採用して貰えた事が嬉しいのは分かるけどぉ、だからって毎回毎回そうやって暴走していてはぁ、今以上にタカ様から呆れられちゃうわよぉ?」
「……まぁ、確かに、私の提案も盛り込んで貰えたみたいですし、これ以上の要求では本格的に『消し』に来る可能性が高まりますので、この程度が落とし処として最適だと思いますね」
「フゥン?この程度でコロシニ掛かってくるナンテ、案外とキョウリョウナンだね、この国ッテ。まぁ、ワタシの案は却下されちゃったケド、その代わりの案がタテラレタから、別にドッチデモ良いケドね?」
『妾は元よりどうでも良いがのぅ。じゃが、この国の者共が短慮の類いをやらかさぬと良いのじゃが、そうも言ってはおれぬじゃろうのぅ……』
「……この手の事柄は、タカに任せるに限る……」
「そうだねぇ~。何時の間にか自然とタカに任せる様になっちゃってたけど~、そうする方がスムーズに事が運ぶから楽で良いんだよねぇ~。今回も~、僕らにも不満が出ない様に調節してくれたみたいだし~今後もタカが議会進行役で良いんじゃないのかなぁ~?」
……と言った具合に、何故か特に不満が出るわけでもないままに話し合いが終了する。
あっれ~?この手の条件決めって、ああでもないこうでもないと侃々諤々に口汚く議論し合いながら、どうにか互いが納得出来ないギリギリのラインを責めるモノだと思っていたけど、そうでもないのか?こんなにもアッサリ決まっちゃっても良いの?後から文句言われても、多分対応は出来ないとおもうけど?
そんな思いと共に、これで良いのだろか?と言った感じのモヤモヤを胸に抱えながら、取り敢えずは報酬とそれに伴った条件等を確定させる為に、ルィンヘン女王が居た部屋へと向かって歩いて行く。
今まで皆で居た部屋からの道順を逆走して辿り着いた扉をノックしてみると、幸運な事にまだ同じ部屋に居たらしく、中から聞いた覚えの有る声が返事をしてくる。
「陛下、仲間達との話し合いが終わりましたので、依頼の件に関してのお返事を持って参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
『……分かりました。どうぞ、お入り下さい』
中から返事を貰えたので、入り際に「失礼します」と声を掛けてから部屋の中へと、扉を開けて入って行く。
「ようこそいらっしゃいました、『竜殺し』殿。……それで?お仲間とのお話は、どうなりましたか?是非とも今お聞かせ願いたいのですが?」
その言葉を受け、ルィンヘン女王の両サイドに待機していた阿呆と、何故か最初に会った時から(と言っても一回しか会ってないけど)矢鱈とマウントを取ろうとしてくる、変にプライドの高い妖精守護騎士のお偉いさんと思われるエルフからの別種の視線(エウフェミナからは『期待』が込められたモノを、そうでない方からは害意が込められたモノを)がそれぞれ送られて来ているが、一々相手にしてはいられない為に無視してルィンヘン女王へと口を開く。
「……一応、私達の中では、依頼を受けても良いとの意見の統一を図る事が出来ました」
「おぉ!では、受けて下さると言う事ですね!?ならば、こちらの契約書にサインをーーー」
「……お待ち下さい」
俺の言葉を受けて、やや食い気味に事を進めようと契約書とやらを持ち出そうとするルィンヘン女王に対して、その言葉を遮る形で発言を被せる。
それに対して不機嫌そうな気配を飛ばしてくる高飛車エルフを無視し、最初に比べて若干目付きの鋭くなったルィンヘン女王へと向き直る。
「……『待て』とは一体どう言う事でしょうか?てっきり、私は受けて下さるとばかり思っていたのですが?先程の発言は『嘘』だった、と言う事でしょうか?」
「いいえ?私達としましては、この依頼を受ける方向での意思統一が既に出来ております」
「ならば!」
「ですが!ルィンヘン女王陛下にあらせられましては、一つ重大な事柄をお忘れの様子ですが?」
「……『重大な事柄』……?それは一体……?」
「私達はあくまでも冒険者です。そして、冒険者は国が黙っていても養ってくれて、『誇り』なんて言う糞の役にも立たないモノを有り難がる変態共とは違い、危険性と報酬による実利とを冷徹に比較するリアリストです。そんな俺達を動かすに足る報酬を、貴女はまだ提示出来ていないですよね?なので、現時点ではその『書かれた内容を署名した者に強制的に実行させる契約書』にはサイン出来ませんよ?」
「……なっ!!?」
俺の放った言葉により、思わず、と言った様相で呟きを漏らす高飛車エルフと、俄に、それまでの上辺は柔らかな微笑みを浮かべ、穏やかなソレへと見せ掛けていた視線を些か過ぎる程に鋭くさせるルィンヘン女王。
……しかし、アストさんからそう言うモノが有るので注意して下さい、と言われていた上に、アレを手に取った時に緊張が高まったみたいだったから鎌を掛けてみたけど、この反応だと大当たりだったみたいだね?
「……どうして、その様な事を仰られるのでしょうか?私達を信頼はして頂けない、と言う事でしょうか?」
「まぁ、そうですね」
その鋭い視線のままに、俺へと確認するかの様な言葉を掛けてくるが、今回も交渉の為にバッサリと切り捨てさせてもらう。
「そもそも、その世界樹の異変と調査、と言う事でしたが、それらに関する様々な情報、例えば距離、例えば地形、例えば生息する魔物の種類!それらの、調査には当然必要なモノであり、生存する上ではもはや必要不可欠である、と言っても過言ではないモノを少しも開示する素振りすら見せず、その上で俺達に『調べてこい』と仰いましたよね?そんな貴女方をどうやって信頼すれば良いのですか?
その上、貴女方は俺達に討伐してこいと言っていた敵についての情報も隠匿していました。そちらの方が、より俺達の生命に直結する情報であるにも関わらず、だ!そんな、取り敢えず行って死んでこい、と言っている貴女方の何処を信頼すれば良いのか、是非とも教えて頂きたいのですが?」
あからさまに、こちらは不信感マシマシで持ってますよ!と言っている俺の言葉に対し、凄まじく苦い表情を浮かべるルィンヘン女王。
その一方で、もはや視線を向けるまでもなく、今にも俺へと斬りかかってくるであろう気配が濃厚に漂わせてくれている高飛車エルフに対して、俺からもある程度の殺気をぶつけ、半ば強制的に大人しくさせておく。
「……確かに、私達が信頼出来ないと言う事は解りました。しかし、それらの情報は、私達にとって『聖地』と化している世界樹周辺の情報と直結致しますので、気軽に話す事が出来なかったのです。それに、我が国の切り札でもあった先代の長は、その武名を広く轟かせておりましたので、説明は不要かと思っていただけで、私達としましても隠匿するつもりは有りませんでした!これだけは信じて頂きたいのです!」
「しかし、貴女方が情報を隠匿していたのは事実でしょう?おまけに、そちらのエルフの方は、最初から今に至るまで俺達に対して敵意の類いしか向けて来ておりません。それに、もう一人のエウフェミナさんにも、顔を合わせた途端に試合を無理やり吹っ掛けられた事実が有ります。
……この国の『作法』として、そう言う習慣が在るのでしたら『妖精族』は基本的に蛮族の類いである、との認識の元に接しますので話は別ですが、そうでないと仰られるのであれば、それらの対応は些か『礼儀』に欠けた行いだと思うのですが、この国では違うのでしょうか?違うのでしょうね?当然」
あからさまに『貴女方を見下していますよ』オーラ満々で、嫌味ったらしい台詞をバシバシ叩き付けているが、別段ルィンヘン女王を虐めたいからやっているんじゃないからね?
交渉を優位に進める為ですからね?
そんな事を考えながら、俺の言葉で更なる侮辱を受けたと認識しており、もはや女王陛下が止めても止まらずに俺の首を取りに来ようとしている高飛車エルフに対し、殺気だけで『動けば諸ともに殺すよ?』とアピールして牽制していると、唐突にルィンヘン女王が俺に向かって頭を下げてきた。
「……分かりました。先刻までのマンノールとエウフェミナの無礼と非礼をお詫びし、お望みであれば私手ずからこの二人の首を落とす事をここに誓いましょう。また、まだ未定である報酬も、私が揃える事が可能な限り、確実にお支払いする事も宣誓致します。聖地である世界樹周辺の諸々の情報も提供致しますので、どうか受けては貰えないでしょうか……?
……正直に申しますと、私達の手持ちの戦力の中には、今回の件を成し遂げられるだけの力を持っている者がいないのです。それ故に、既に『竜殺し』殿のお力にすがるしか手がありません。なので、どうか、受けては頂けないでしょうか?」
その光景と言葉に、突然に女王陛下が頭を下げた事で既に驚きが天元突破していた高飛車エルフ(多分こいつが『マンノール』なんだろうと思われる。呼ばないけど)が、自分の首を差し出すと言う女王陛下の言葉によってそれまで一度もしたことが無いであろう程に目を見開き、唖然とした表情のお手本の様な顔を晒している。
一方、試合を通して俺の実力の一端を知っていた阿呆の方は、まぁ、それが妥当でしょうね……とでも言いたげな、ある種の悟りを開いた様な顔で直立したままその姿勢を崩さない。
そんな彼らを無言で観察していた俺だったが、内心では少々戸惑いが強くなっていた。
……いや、確かに?こちらの要求を通す為に強気な交渉に出はしたよ?どのみち、俺達を使わないとどうにもならないのだろう、と言う事は察していたからね?だから、俺達の『値』を吊り上げる為に、相手方の隅をつつく様な事を、今の今までやって来た訳なのだから。
だが、核心を突かれたからと言って、これまで上から接してきていた相手が、ここまで下手に出てくる理由が今一良く分からない。
……まだ、俺達が知らない『何か』でも隠しているのだろうか……?
そんな事を考えていたからかは不明だが、その時思っていた事がポロリと口から出てしまう。
「……突然、随分と下手に出るのですね。今俺に『玉座を渡せ』と言われたら、即座に明け渡してしまいそうに見えますよ……?」
「そう思われてしまうかも知れませんし、国家元首としては絶対にしてはいけない事なのでしょうけど、この件だけは仕方の無い事なのです。私達『妖精族』にとって、世界樹とは心の拠り所、ある種の宗教的なシンボルとしての存在でもあります。それ故に、世界樹に何かが有るかも知れない、既に何かあってしまったかも知れないとなりますと、どんな手を使ってでも解消しなければならない事案になるのです。
……そして、それを為せる者が私の手の内に無く、為せる貴殿方からは半ば敵視に近い認識をされているとなれば、どうにかして了承を得ようとする事がそこまで不可解な事でしょうか?
それと、玉座の件ですが……」
ある種の覚悟を瞳に宿し、それまでの隠す様な素振りを止めたルィンヘン女王が、気高くも真摯に言葉を紡いでいたのだが、俺が半ば溢し、半ば冗談として言っていた事に対して言及する時だけは、何故か頬を赤らめそのエルフ特有の長耳をヘニョリと下げながら、それまでに見た事の無い『女』を感じさせる様な顔で、何故かモジモジとしながらこう続けた。
「……それと、玉座の件に関してですが、報酬として望まれるのでしたらお渡しするのも吝かではないのですが、慣習としてこの国では長命なエルフ族が治める事となっております。なので、望まれる場合は私と結婚して頂いて、王配となっていただく事となりますがよろしいでしょうか?もちろん、私の一族に伝わる秘薬にて、エルフ族と同等の寿命を得て頂く事も可能ですし、私としても『竜殺し』殿程の力の有る殿方に抱かれるのは吝かでは無いのですが「あっ、その件は冗談ですので結構です!」……そう、ですか……」
何やら、行ってはいけない方向に話が飛んで行きそうだった為に、途中で被せる様に言葉を挟んだのだが、何故か残念そうな言葉と雰囲気を醸し出されてしまい、若干戸惑いが強くなる。
何となく、これ以上この話題を続けるのは不味そうだと判断した俺は、これ以上面倒臭くなる前に話を終わらせてしまおうと、事前に決めてきた報酬をそのまま列挙して行く事にした。
「……取り敢えず、私達としましては、報酬として世界樹調査の際に採取した素材の譲渡、並びに私達が望んだ場合、それが何時であろうとも世界樹周辺へと立ち入る許可を頂きたい。それと、私達の仲間でもある『アラネア』と言う種族の者達を、この妖精国では『人間』として扱う事を約束して頂きたいのです。あとは、今回の件が無事に終わった暁には今回の件を公表し、私達がそれの解決に当たった事も公表して頂きます。ついでに、私達を含めた仲間全員のギルドランクを昇格させ、B級以下の者には昇格試験の受験資格を、私を含めたB級の者にはA級へ昇格する事の推薦状を頂きたい。
……以上の報酬を約束して頂けるのであれば、私達『名無し』は死力を尽くして今回の件に当たらせて頂きます。よろしいですか?」
一応、本命としてはネフリアさんの種族である『アラネア』の認知と、俺達の暗殺を防止する為の情報公表なのだが、果たしてどの程度まで飲んでくれるだろうか「分かりました」……はい?
「それらの条件を私が飲めば、この依頼は受けて頂けるのですよね?でしたら、全て飲ませて頂きます。……ですが、その『アラネア』と言う方達がどの様な方々なのかは、私達では把握しておりませんので、後日聞き取りを行う事になりますし、この件を公表するとなれば、実際に事を成した『竜殺し』殿に一言頂く事となりますが、そこは大丈夫でしょうか?
もちろん、それらの報酬とは別に、依頼で必要になるであろう諸々の道具や情報は提供させて頂きますのでご安心を」
そんな事を一気呵成に詰め込まれた俺は、半ば呆然としながらルィンヘン女王と共に、俺は『必ず世界樹の異変の原因を特定する』と書かれた契約書にサインをし、ルィンヘン女王は『必ず報酬を全て支払う』と書かれた契約書にサインをする事で、互いに必ず実行する事が契約として結ばれる事となったのであった。
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「……陛下、先程の言葉は本心なのですか?」
「先程、と言うのはどれのことでしょうか?」
「……彼と婚姻を結ぶのは吝かではない、と言うモノです。確かに、陛下はまだ独身ですが、彼の様な身元も知れない冒険者等と……」
「ですが、彼は強いでしょう?」
「……それは、そうですが……」
「であれば、強い『雄』に惹かれても、それは『雌』としては至極当然な話ではないですか?それに、私達の血統に、彼程の強い種を入れられるならば出自はあまり関係ないのではないですか?」
「……本心では?」
「彼の強気責めな処に少々ドキリと。彼ならば私の地位も気にせずアレやコレやとしてくれそうな……って、何を言わせるのですか、エウフェミナ!?昔馴染みとは言え、少々踏み込み過ぎではないですか!?」
「……いえいえ、陛下のその清楚ぶってて実はムッツリな処とか、意外と年下好みな処とかをもっとアピールすれば、もしかするかも知れないんじゃないかなぁ~?と思いまして、ね……?」
「なにそれ詳しく!」
次回で準備を終えて突入する……予定です。
付き添いは誰になるんでしょう?
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