101・とんでもない処からとんでもない依頼が来ました……
ブックマークにて応援して下さった方々に感謝ですm(_ _)m
「……んで?結局、俺達に何用で?あの阿呆を連れて来た事だけが目的じゃあ無いのだろう?」
そう、俺が問い掛けているのは、阿呆ことエウフェミナと共にやって来た、冒険者ギルドの職員と思わしきフェアリー族の男性である。
どうせ、脳ミソまで筋肉で出来ているのであろう阿呆に聞いた処で答えないだろうし、今現在聞ける状態ではない(どうやら詰めの段階で漏らしたらしく、女性陣に連れられる形で共に店の居住スペースへと引っ込んでいる)為、こうしてここに残っている唯一の関係者に話を聞くことにした、と言う理由も有るには有るのだけども。
そして、俺に声を掛けられたフェアリー族のギルド職員も、どうやら俺が何を考えて声を掛けたのかを理解しているらしく、口元に苦い笑みを浮かべながら口を開く。
「……いや~、済みませんねぇ。あの方が『どうしても同行させてくれ』と言って聞かなくて。一応、この国ではそれなりに栄誉な役職でもある『妖精守護騎士』ですので、流石の冒険者ギルドでも断りきれなくて。おまけに、あれでも一応はこの国の高官かつ『依頼人の関係者』ですので、あまり無下にも扱えなくって……」
「あぁ、なんとなく分かったわ。あんたも苦労しているんだな……」
「……えぇ、まぁ……」
思わず肩を叩いて労う俺。
成る程、確かに依頼人が直接連れて来た様な関係者であれば、あんな阿呆の言う事でも聞かざるを得ない、か……。
「……それで?あの阿呆がここに来た理由は、さっきのアレコレと合わせて大体理解出来たけど、わざわざここまで来た理由は?指名で依頼が入った、ってだけならば、こうやって探し出してまで直接持って来る事なんてしないんじゃないのか?」
「……えぇ、普通はここまではしませんし、依頼人の希望が有ったとしても、精々使いの者を送って来ていただく、と言った形になります。
……ですが、今回は依頼人が依頼人でして……」
そこで苦虫を纏めて数匹噛み潰したかの様な、とてつもなく苦い顔をしながら口を開くギルド職員。
「……今回は、何処からどうやって情報が伝わったのかは不明ですが、この国で『やんごとなきお立場』に在られる『さる高貴なお方』からのご依頼で、貴殿方への直々の依頼となっております。何でも、貴殿方でないと解決出来ないであろう事柄、とのお話だそうです。
……私はここまでしか聞いてはいませんし、具体的に『誰』とは言えませんが、ご本人が直接説明したい、とギルドまでお越しになって居られます。『あのお方』にそこまで言わせるとは、貴方は一体何処にどんな繋がりが有るのですか?」
……それは、是非ともこっちが聞きたいんだけど?
******
「……先程は申し訳有りませんでした……」
女性陣に手伝われ、オッチャンの店の内部にて着替えを終えた阿呆が、試合の開始時とはうって変わってへこんだ様な態度で口を開く。
その変わり様を訝しげに思ったおれが、少し前まで共にいた女性陣へと『どうしてこうなっているのか』を問い質してみた処、どうやら俺があれでも『全力』では無かったと言う事実を知らされて落ち込んでいるらしい、との証言が寄せられたのだ。
何でも、最初の方は、自身の粗相の後始末を手伝われる事に羞恥心を抱いて顔を赤らめたりしていたそうなのだが、少しずつ女性陣と打ち解けて来ると、先程の試合での講評に話の流れが進み、その中で
『今回は無様にも負けてしまったが、次に手合わせする機会が有れば、五分の勝負に持ち込んで見せる!』
と豪語した事により、世話に参加していなかった女性陣を含めて全員から失笑を貰い、それに対して『笑われる様な事は言っていないし、そこまでの力量差では無かったハズだ!』との発言が出てしまった事を切欠に、今までの俺達の戦歴を勝手に暴露。
その上、俺達の交遊関係(魔王が友達、獣王をモフり倒した等々)もこれまた勝手に暴露し、ソレだけの人物と交流を持つ俺達が戦歴を偽造する必要は無いし、ソレだけの事が出来るのならあの場でどれだけ手加減されていたのかは分かるよね?おまけに、まだ体調も万全と言う訳じゃないみたいだよ?とアストさん(魔王国高官)を証人とした乾による説得(と言う名の脅迫)により事実であると認識し、それまで辛うじて保っていた妖精守護騎士としての『矜持』まで粉砕され、その結果として心がポッキリと折れたのだろう、との事である。
……ぶっちゃけた話、そんな事を聞かされた所で、俺に一体どうしろと言うのだろうか?
自分から突っ掛かって来た上に、関係無い他の面子を巻き込もうとした外道のアフターケアなんぞ何故にしてやらねばならぬのかね?
誰か説明してはくれぬかな?
そんな事を考えていると、どうやら表情に出ていたらしく、俺へと説明していた乾やアストさんを始めとした女性陣も微妙そうな顔になる。
恐らくは、女性の扱い的にどうなのだろうか?と言う思いと、それでも『ふり』とは言え自分達に危害を加えようとした相手なのだから、別に良いのでは?との思いが混じった結果、と言う処だろうか?
まぁ、多分それほど大きくは外れていないだろうけど。
そんな微妙になり掛けた雰囲気を意図的に無視し、半ば無理矢理に本来の依頼人が待っているとの話である冒険者ギルドへ向かう事を提案する。
それに対して、異世界出身である乾を始めとした女性陣や、元よりこの世界では『人間』としてまだ認知されていないアラネアであるネフリアさん、そもそも人ですらないリンドヴルム達は首を傾げながら、呼び出してきた相手の見当も付いていない様子だったが、元々魔王国の高官であったアストさんと、こう見えて実は良いところ出身のお嬢様であった『獣人族』の三人はなんとなく予想が付いているらしく、逆に何でそんな人物が?と首を傾げている。
……ぶっちゃけた話、俺もギルド職員の仰々しい物言いからなんとなくは予想出来ていなくはないが、だからと言って『何故に俺達に?』と言う疑問が解決した訳ではない。
なら、もう直接会って聞いてみるしかあるまい、と言う、半ばやけくそにも似た様な心理状況による判断だったりするが、そこはまぁ勘弁してもらうとしようか。
いきなり話を持ってこられたのだから、混乱しても仕方ないよね?
胸の内でそんな事を考えながらも、未だに状況をよく分かっていないらしい女性陣(異世界組+従魔組)を半ば強制的に馬車(二人が乗ってきたのとは別にもう二台程用意されていた)に乗せ、俺自身はリルの背中に乗り、サイズ的に乗れなかった『獣人族』の二人と共に並走しながらギルドへと向かう。
程無くしてギルドへと到着すると、ギルド職員と共に居たからか、もしくは依頼人の関係者である阿呆が一緒に居たからか、はたまた依頼人から俺達が来らすぐに通す様にと言い含められていたからかは差だかではないが、とにかく特に待たされる事も無いままに、恐ろしくスムーズに奥へと案内される。
……ここまで相手方を尊重する様な方向で、全力で下手に出ているって事は、もしかしなくてももしかする事になっちゃってる、かな?
そんな、外れていると良いなぁ……と言う思いが満載の予想をぼんやりとしながら、阿呆と一緒に迎えに来ていたフェアリー族のギルド職員の背中に着いて行くと、大分奥の方に進んでからあるまい扉の前で止まり、阿呆と俺達に対して一礼してから来た道を戻って行く。
半ば放置される様な形となった俺達だったが、さすがにここまで来る間に持ち直したらしき阿呆が扉へと近付くと、その横顔を僅かに緊張で強張らせながらノックをする。
『……どちら様でしょうか……?』
「エウフェミナです。『名無し』の皆様、並びに『名無し』とレイドを組んでらっしゃる方々をお連れ致しました」
内部から掛けられた女性の声に、エウフェミナが俺達を連れて来た事を説明する。
『まぁ!でしたら……』
『お待ち下さい、ここは私が』
すると、内部でエウフェミナが話し掛けたと思われる女性の声と、扉の方へと歩み寄ろうとする足音が聞こえたが、それを遮る様に男性の声が聞こえ、足音が止まると同時にそれまでとは別人の足音が発生し扉へと近寄ってくる。
そして、こちらを覗き込む様に少しだけ開けられた扉の隙間から、俺達とエウフェミナの姿を確認すると、扉を開いてエウフェミナへと一言二言声を掛けると、俺達に向かって
「……『名無し』のリーダーだけ入室を許可する。他の者は外で待っていろ」
と、そのエルフ特有の整った顔立ちを動かす事なく、それでいて視線にはありありと『侮辱』やら『蔑み』やらの感情が見てとれる状態のままに、俺達へと吐き捨てる様に声を掛ける。
そして、自分はやるべき事はもう済ませた、とでも言いたげな空気を醸し出すと、俺達の事は無視して自分はさっさと部屋の中へと戻っていってしまう。
さすがにそのこちらを見下げ果てた態度に一同唖然とし、異世界組は呆然と、『獣人族』組は冷ややかに、アストさんは『表情は』普段の通りに穏やかな笑顔ながらも、明らかに周囲に怒りの感情を漏らしていた。
ついでに言えば、従魔組は既に『処す?処す??』と言わんばかりの視線を、殺気を駄々漏れにしながら俺へと向けてきており、冗談でもここで一つ頷けば直ぐ様さっきのエルフの首をもぎ取って来そうな雰囲気となっていたりする。……やらないよ?
そんな、殺伐とした雰囲気になりつつあった女性陣を宥め、招かれたのにまだ入ってこない俺達を不思議そうに見詰めていた依頼人と思わしき女性に一礼してから俺だけ入室し、タツとレオに後を任せて扉を閉める。
既に部屋の奥へと引っ込んで、手振りで俺にも席に着くように、と依頼人(推定)に促されていることもあり、取り敢えず向かい側の席の隣に立ったままで挨拶をしておく。
「……この度はご指名頂き誠に有難うございます。私が、『名無し』のリーダーを務めておりますタカと申します。以後お見知りおきを。
……それで?私は今回、『誰』から『何』を依頼されているのでしょうか?」
挨拶がてらの先制攻撃を、何となく嫌な予感がしていた為に席に座らずに放ってみる。
もし、これで何の反応も無ければ、依頼人は『自分の事は知っていて当然。何をさせたいのかは察して当然』と言うタイプの人間である確率が高くなる。
万が一にもそうなってしまうと、無茶な事でも平気で押し付けて来るだろうから、最悪この国からトンズラする必要が出てくる事になるかも知れない。
もし仮にそうでなくても、さっき対応してきたエルフが先程から凄い目でこちらを睨んでくれているので、ワンチャン『無礼者が!』とか言いながら、その腰の段平を抜いて斬りかかってくる、と言う事に下手をしなくてもなりかねない。
そんな俺の思惑が含まれた言葉を聞いた、不思議と顔を認識出来ない女性が、まるで何か不思議な事を聞いた、とでも言いたげな仕草で首を傾げる。
「……失礼ながら、貴方は私が誰なのかを知り、どんな依頼なのかを聞いた上でここに来られたのですよね?」
「……いいえ?むしろ、事前の説明や先触れも無しに突然そこの阿呆に襲撃され、その後こうして連れて来られた訳ですから、てっきりここで何かしらの説明を頂けるとばかり思っていたのですが?
……それとも、貴殿方も『冒険者ならば金さえ出せばどんな無理難題でもやらせる事は簡単だ!』とでも思っていた口でしょうか?
もしそうなのでしたら、依頼は別のパーティーに出される事をお薦めしますよ?少なくとも、私は何の説明も無しに死地に送られるのは御免被りますので、今回は断らせて頂きますが別段かまいませんよね?」
そう、バッサリと斬り捨てる様な口調で、はっきりと『断る!』と言い出した俺に、俺の実力の一端をその身をもって体感しているエウフェミナは慌てて取り成そうとし、先程からこちらを見下す様な言動を取ってくれていたエルフは、その米噛みに青筋を浮かべ今にも抜刀して来そうな雰囲気で腰の長剣の柄頭に手を置いている。
そして、俺から直接『NO』を突き付けられた依頼人と思われる、何故か顔が認識出来ない女性は不思議そうに
「……説明を受けていない……?エウフェミナが襲い掛かる事までは予想出来ていましたが、何故誰も……?何処かで誰かが止めていた……?」
と、一人で溢す様に呟くのみであった。
……これは、下手をしなくてもこの国の『お偉いさん』に目を付けられる羽目になりそうだけど、このままトンズラするのが良さそうだ、ね……。
そんな事を考えていると、寸前まで俺へと敵意にまみれた視線を送ってきていたエルフの男性が、依頼人と思われる女性に対して膝をつくと、まるで主に奏上する騎士であるかの様な恭しい態度で口を開く。
「『陛下』。やはり、下卑にして名誉では動かず、実力すらも不確かな冒険者、しかも、『人族』であるあやつらになど依頼しようと言うのが間違いだったのです。
どうか、この誇り高きアルフヘイムの守護者たる我々『妖精守護騎士』にお任せ下さいませ!必ずや、あのならず者共ではなく、この国最強の存在である我々がかの難敵を討ち果たして見せましょう!何卒、我等に出撃の命を!!」
その光景を、『妖精守護騎士』ってそんなに『強い奴』って称号だったのか~ソレにしては弱かったなぁ~、だとか、そもそもそんな駒手元に在るんならこっちに依頼すんじゃねぇよ!だとか、このままこっそり帰っちゃダメかなぁ……だとかを考えていたのだが、依頼人と思われる女性が首を横に振った事で実現が難しくなる。
「……な、何故ですか!?」
「……それは、単純に『力不足』だからです。
エウフェミナ、彼とは既に一戦交えたのでしょう?どうでしたか?」
「……ハッ!随分と手加減をして頂いた様子でしたが、自分ではその事実に気付く事も出来ないままに、手も足も出ずに敗北致しました!自分達では不可能でしたが、彼らであれば問題なく対処出来るかと思われます!」
「なっ!?何を馬鹿な事を!お前がこんな輩に破れただと!?我等が栄光の妖精守護騎士の中でも、戦闘力で言えば上位に位置するお前がか!?」
「少なくとも、彼女をそこまで簡単にあしらえるのであれば、実力的には十二分でしょう。そして、彼らに依頼しようとしている理由も、貴方は既に理解しているハズですよ?何せ、直接出陣して破れてきたのは貴方なのですから」
「……ぐっ……!?……しかし……」
「ここで『面子』ばかり気にしていては、無くさなくても良いモノを無くさねばならなくなる可能性が高いのですから、出来る方にお願いするのは当然と言うモノでしょう?
そして、その『出来る方』に求められている以上、私は『私』として相対するべきでしょう」
そう言いながら、その手に嵌められていた指輪へと手を掛ける女性。
それを見て、半ば反射で止めようとするエルフの男性とエウフェミナの制止の声を振り切って、その指から指輪をスルリと抜いてしまう。
すると、今の今までまともに見ていたハズなのに、何故か顔を認識する事が出来なかった上に、その事について『違和感』を覚えないでいた不思議な感覚が消失し、その輝かんばかりの相貌が目に飛び込んで来る。
……まぁ、割りとアストさんだとか乾達だとかで美人さんには見慣れているから、特にどうこうなりはしないのだけど。
そして、その、恐らくは魔道具の類いであり、装着した者の認識を曖昧にする、とか言う効果が有ったのだろう指輪をコトリとテーブルに置くと、何かの覚悟を決めた様な視線をこちらに向けてきながら口を開く。
「……では改めまして、この度、噂の『竜殺し』殿が率いるパーティーに依頼を発注した、この国の女王である『ルィンヘン・アリエル=アズラレス・ファノメレル』と申します。
私達が依頼したいのは、この国の奥地に佇む世界樹の『異変』に対する調査と、その異変を調査しに赴き、そして、彼の地にて私達の調査の手を阻んでいる先代妖精守護騎士の長、並びに共に調査に向かっていた彼の部下であった妖精守護騎士達の『屍骨人』を討伐して頂く事です。
……どうか、お受けしては頂けませんでしょうか……?」
……わぉ。これは、思っていたよりも厄い処から厄い依頼が来たモンだ事……。どうしよう?
何やら凄いことになってきた様な……?
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価、感想等にて応援して頂けると大変有難いですm(_ _)m




