98・それっぽいのを見付けたので採掘しようとしたのですが……
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ツルハシを片手に坑道へと踏み入った俺達は、半ばピクニック気分にて鍛冶師のオッチャンに指定されているアダマンタイトが出土するポイントを目指し、奥へ奥へと進んで行く。
「しかし、坑道なんて言うからどんなモノかと思っていたけど、案外と普通な感じなんだな」
「……鉱夫は基本ドワーフ族と言う話だったから、もっと天井が低い印象が在ったが、意外とそうでもないのだな……」
「そうだねぇ~。僕も~、もうちょっと暗くて狭くてジメジメしていて~、って言うのを想像していたけど~、こうまで広くて明るくて乾燥している感じだと~、どうにも『坑道』だとか『地下』だとかに居るとは思えなくなってくるよねぇ~?」
まだ疲労の抜けきっていなかった俺達は、自分から『是非に!』と要望があった従魔達に丸投げし、彼らが魔物相手に無双しているのを横目に見ながら、俺達自身の興味は壁や床やら天井だとかに加え、一定間隔にて壁に吊るされているランプの様なモノに対して向かっていた為、時折流れ弾的な感じで俺達の方へと向かって来た魔物を反射で仕留める事以外は、基本的に壁やら何やらを眺めて観察していた。
俺達が今進んでいる坑道は、どちらかと言うと『坑道』と言うよりも、どちらかと言うと『地下通路』と言った趣が強くなっている。
そんな印象を受けた理由としては、思っていたよりも天井が高かったり光源が確保されていたりして、意外と明るい状態になっている事ももちろんそうなのだが、それを除いたとしても大きいのが、今も俺達が眺めている床やら壁やら天井やらの状態である。
基本的に『坑道』とは、良質な鉱脈を求めてより深く深くと堀進められて行くモノである。
そして、その性質上、掘り出した鉱石を運搬するために床面を整える事はあっても、鉱脈が見付けられていない、または新しく発見される可能性の有る壁面を整える様な『無駄』な労力を掛ける必要は無いし、天井に至っては言わずもがなである。
……なのに、この坑道は、下って行く関係上必ず付いている傾斜を除けば、ほぼ水平・垂直によって交わっている構造となっていたのだ。
おまけに、鉱脈を求めて堀続けられる関係上、岩盤を避けたりだとか思わぬ場所に鉱脈が見付かったのでそちらへと掘り進めたりと、割りと不規則かつ歪な構造となるのが普通なハズなのだが、この坑道は何故か真っ直ぐに延びており、たまに現れる分岐点も、俺達が進んでいる道とほぼ垂直に交わる様に分岐しており、もはや生真面目な性格の持ち主によって造られた、と言うには少々大掛かりかつ不自然な構造となっている様に思われる。
……そう、具体的に言えば、割りと最近まで潜っていたアレと酷似している様な気がするのである。
「……なぁ、さすがに『無い』よな?」
「……『無い』と思いたい処だが……」
「さすがに違うと思うけど~?アソコと違って~、ここで倒した魔物はちゃんと死体も残っているし~、壁自体が光っていたのと違ってここは灯りが付いてるでしょ~?それに~、多少不自然ではあるけど~、こうして時折鉱脈が露出しているポイントが在るって事は~、やっぱり『鉱山』って事で良いんじゃないのかなぁ~?」
そう言いながらレオが指差したその先には、亀裂の入った壁が在り、その亀裂の奥からは通路の灯りに当てられて、金属特有の鈍い光沢をギラリとこちらに照らし返して来ているのであった。
「……まぁ、これもおかしな点と言えば、おかしな点なんだけどな?」
「……幾ら『鉱山』とは言え、何故鉱脈が露出しているんだ……?しかも、既に精製され、後は鋳融かすだけで使用出来る状態で埋まっているなんて、有り得ないだろう……?」
『……そうかのぅ?割りと普通な気もするが、主殿の世界では違ったのかのぅ?』
……確かに、こうして目の前に存在されているし、鍛冶師のオッチャンからも、そんな感じで露出しているしている鉱脈から採ってきてくれ!と言われてはいたので、この世界では普通の事なのだろうが、前の世界での常識が俺達の内側で暴れまわっている為に、何だが苦いものでも飲み下したかの様な感じになってしまう。
「……じゃあ、ここの床だとか壁だとかが『こう』なっているのも、この世界の鉱山だと普通の事なのか?」
『まぁ、そうじゃのぅ。もっとも、そうは言っても誰かがこうして整えておる訳でも無いらしくてのぅ?ここの様に鉱脈の集まる山やら谷やらじゃと、自然とこうなっておって、そこに魔物も自然と住み着く様になっておるみたいなのじゃがのぅ?おまけに、聞いた話によれば、その露出しておる鉱脈じゃが、掘ってから一定の時間を空ければまた掘れる様になっておるらしいからのぅ、もしかすると、ある種の『迷宮』であるのかも知れぬのぅ』
「……それって大丈夫なのか?」
『はて?こうして妾達は無事であるし、リルも罠の匂いは無いと言っておるから、多分大丈夫なのであろう?』
「リル、それって本当かい?」
『ウゥ、ウォン!』
「ワタシの方でもシラベテみたけど、タブン罠ダトカは無いと思うカナ?まぁ、ワタシもこんなところはハジメテダカラ、気付いてないダケカモ知れないケド」
「一応僕の方でも警戒していたけど~、今の処はそんなモノは引っ掛かって無いから~、多分大丈夫何じゃないの~?それに~、もし仮にここが『迷宮』の一種だったとしても~、アソコみたいに魔物が強力だとか言う事は無いみたいだから~、僕達が現状『全力』を出せないとしてもどうにかなるんじゃないのかなぁ~?」
そう言うモノかねぇ?と、何処と無く納得しかねる様な気分になりながらも、途中で見付けた鉱脈にてギルドの依頼の鉱石を採取したり、何故か奥の方からしか襲って来ない魔物共を蹴散らしたりしながら、オッチャンに貰った地図を頼りに奥へ奥へと進んで行くのであった。
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採取の依頼に在った鉱石も一通り回収し終わり、同じく討伐の依頼が出ていた魔物も一通り倒して回収(もちろんレオの『空間収納』にてまるごと回収済み)し終えた俺達は、オッチャンに持たされた地図を頼りに奥へ奥へと進んで行き、地図に記された周囲の特徴や、恐らくはオッチャンが指定していたと思われる、周辺に薄く黒緑色の光を反射させている亀裂も発見する事が出来ている。
……ガリン、ゴリン……!
……出来ているのだが、未だに俺達は、本来の目的である『アダマンタイトの回収』を達成する事が出来ずにいた。
別段、俺達の誰かが魔物の攻撃を受けてダウンしているだとか、地形的に見えてはいるけど手が届かない、とか言う状況でもない。
……ベキベキ、バキキン……!!
……でもないのだが、こうして俺達が物陰から目的地を観察するに留まっているのには、それ相応の理由と言うモノがある。
その理由と言うのが、先程から周囲に響き渡る快音の発生源にして、物陰から様子を伺っている俺達の視界の大半を塞いでいる存在であり、尚且つ、これから採取に励む予定であったアダマンタイト鉱脈の在る亀裂に対し、頭を突っ込んで文字の通りにバリバリと音を立てながらアダマンタイトを喰っている、うっすらと黒緑色を帯びている、鈍い金属光沢を放つ鱗を持った巨大なトカゲの様な魔物がいたからである。
その体躯は、それなりに距離を於いて観察しているにも関わらず、本能的に『巨体である』と理解出来るだけのサイズを誇っており、その背中に翼さえ生えていたのなら、既にリンドヴルムと言う実物を目にしている俺達であったとしても、ほぼ間違いなくアレを『竜』だと認識していたと見て間違いなくは無いだろうと思われる。
そんな予想外のモノが存在し、その上で『特殊な技術にて加工する以外の干渉を基本受け付けない』と聞いていたブツを、無造作に咀嚼している光景を見せられれば、さすがにどうして良いのか分からなくなったとしても、そうそう責められる事では無いだろう。
そう思いたい。……そうだと、良いなぁ……。
取り敢えず、異音と気配とリルからの匂いの察知によって先行しての偵察に来ていた俺達は、無言のままにその場を離れると、待機場所として指定しておいた処へと気付かれない様に移動して行く。
「……なぁ、『アレ』何だと思う?」
「……知らん。試しに『看破』してみたが、よく分からなかったから、な……」
「まぁ~、戦うにしても逃げるにしても~、どのみち『アレ』について詳しそうなのって言えば一人?しかいないんだから~、聞いてみるしか無いんじゃないかなぁ~?」
まぁ、それもそうか。
そんな結論に至った俺達は、急いで集合地点に移動すると、今しがた見てきたばかりの光景をリンドヴルム達へと説明する。
「ーーーって感じで、多分アダマンタイトの鉱脈だと思う処に頭を突っ込んでバリバリ噛み砕いていたんだけど、アレって何だが分かるか?」
『……ふむ?そやつは、それなりに大きくて?金属っぽい見た目の鱗を全身に纏っていて?アダマンタイトを喰っていた、と?なれば、そやつは『大地竜』じゃろうのぅ』
「……竜なのか?翼とか無かったけど?」
『翼の無いモノも当然居るのでのぅ。それで?奴の鱗の色味はどの程度であったかのぅ?』
「『どの程度』と言うと?」
『あやつらは、食した金属にて自身の鱗を造る能力が在るのじゃが、新しく摂取した金属によって置換する場合は、ある程度の時間が掛かるんじゃよ。それの見極めとして、そやつの鱗の色味を見る、と言う方法があるのじゃよ。まぁ、そうやって見極めたとしても、あまり放っておくと置換が進んで全身の鱗がアダマンタイトになってしまうかも知れぬがのぅ?』
……マジですか……。
「……俺達が見たときは、まだうっすらと黒緑色が着いてきた、って感じだったけど?」
『であれば、まだ大丈夫であろうのぅ。多少なりとも頑丈になってはおろうが、まだまだ置換が済んではおらぬのじゃろうから、叩くのであれば今であろうのぅ。
……しかし、こうして直に遭遇してみる事で理解出来たのじゃが、今回魔物が奥から襲ってきていたのは、恐らくはその『大地竜』が出おったからじゃろうのぅ』
「……なら、ギルドに依頼が残っていたのって、もしかしてソレが原因だったりするのか?」
『かも知れぬのぅ。まぁ、実際に『そう』であったのなら、さすがにギルドの方で何かしらの提言があったじゃろうし、本当の処は妾達には理解出来ぬであろうよ。
……まぁ、考えても分からぬ事を考えるだけ時間の無駄じゃし、そうこうしておる隙に置換が進んでは目も当てられぬからのぅ。そうそう起きる事でも無いが、急いだ方が良いかも知れぬのぅ』
「……それもそうか」
と、言った感じの会話を経て、満場一致で『大地竜』を狩る事に決定し、その勢いのままに強襲する事になったのだが……
「フッ!!」
既に『練気』を発動させた状態にて、裂帛の気合いと共に比較的黒緑色の薄い鱗を狙って繰り出した俺の一撃が轟音と共に着弾するが、その鱗を貫く事が叶わずに『大地竜』の巨体を揺らす程度で終わってしまう。
「……ちっ、ここでもダメ、か」
その、何度目か分からない試みの失敗を吐き捨てると同時に、穂先が潰れて使えなくなってしまった手元の槍を投げ捨てると、自身の『技能』によって新たに手元に槍を造り出す。
すると、鱗を貫けなかったとは言えその衝撃は伝わっていたらしく、苛立ちも怒りを込めた視線を俺へと向けると、まだ近くにいた俺目掛けてその前足を振るってくる。
だが、その攻撃は、巨体から来る重量によって、十二分な破壊力を持っているのだろうが、お世辞にも『早い』とは言えない速度で振るわれているために、見てからの回避が容易に出来てしまう程度でしかなかった。
故に俺は、その攻撃を背中を反らせる事だけで回避すると、必然的に目の前へとやって来る前足の関節部分に下から抉り込む様な形で槍を突き立てる。
体重移動は少ないながらも、全身の筋力を集約しての一撃には確かな手応えを感じるが、その結果としては、手元の槍が砕け散った事と、辛うじて鱗の一枚に皹が入った程度であった。
しかし、その皹が入った鱗も、俺の目の前でみるみる内に修復されて行き、あっと言う間に皹割れが無くなったかと思うと、下手な場所の鱗よりも濃い黒緑色を帯びている様な色味になってしまう。
それを見届けた俺が至近距離から離脱するのと、俺とは反対側にて暴れていたタツが、装備していた籠手が砕ける程の攻撃にて『大地竜』の体勢を崩させて離脱し、同じ様な位置まで下がってくるの、レオが首筋の鱗の隙間から刃を捩じ込むも、少し身動ぎされただけで中途半端な場所から刃が折れてしまい、半ば呆れた様な顔をしながら下がってくるのが殆ど同じタイミングで発生したので、取り敢えず合流しておく。
「……なぁ、コレ、倒せるのか?」
「……一応、俺の打撃と『頸』は効いているみたいだが……」
「僕も~、もうちょっと頑丈な得物が在るか~、少しで良いから動かないでいてくれれば~、多分有効打は与えられそうだけど~、さすがにそれはちょっと無理っぽいかなぁ~?」
俺達が下がるのと同時に、リンドヴルムを始めとした従魔達が前へと出て戦闘を肩代わりしてくれているが、戦況はあまり芳しくない様子だ。
何せ、こちらに『大地竜』の攻撃は当たらないし、当たる程鈍臭い奴はいないのだが、こちらの攻撃も同時に奴の鱗に阻まれて有効打となり得ないし、辛うじて鱗を突破出来たとしても、竜種特有の回復力によって修復されてしまうし、そのための材料としてどうやら喰ったばかりのアダマンタイトを使っているらしく、修復される前よりも遥かに頑丈になってしまうのだから手に負えないのだ。
圧倒的な火力にて、まだ置換が進んでいない場所をぶち抜こうにも、俺の『天穿ち』は相棒以外で撃とうとすると、加速の途中で得物が砕けるから使えないし、タツの『瀑布』にしてもあれは『龍鱗』有りきでの技なので、無いままに使うと腕が壊れるので却下。
基本的にレオは対人特化なので、この手の大型種に対しては決め手に欠けてしまう。もちろん、本来の得物である『虎爪・狼牙』さえ在れば、一撃で急所を切り裂ける以上あまり敵のサイズは関係無いのだけども。
……まぁ、あの防御をぶち抜く手立てが思い付かないでもないのだが、果たしてソレで良いのかどうかの自信が無い。
アレを自力で発動させられるのかも不明だが、最大の欠点としては恐らくあの時と同じ様に、戦いが終わればまたぶっ倒れる事になるだろう。
上手く行ってもそうでなくでも、それなりに大変になるであろう状況で一人だけ倒れているのは出来るだけ避けたい処だが……、と頭を悩ませていると、それを察知したのか、それとも別の理由からか、タツとレオが声を掛けてくる。
「……一応、足止めに心当たりが無いでもないが、そうすると攻め手に回れなくなる。頼めるか……?」
「僕も~、ダメージを蓄積させるだけなら出来ると思うけど~、多分トドメまでは行けないと思うから~、タカにお願いできるかなぁ~?」
その言葉に、思い悩む事を辞めた俺は、二人へと向き直って口を開く。
「……作戦が有る。乗るか?」
そんな俺の言葉に対し、何も聞く前から首肯して見せた二人へと、あのデカブツを使っている倒す為の作戦を説明して行くのであった。
果たして、主人公の作戦とは?
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