01・ここは何処でしょう?
新作始めてみました
……見上げれば、突き抜ける様な蒼い空と白い雲。
……視線を正面へと下ろせば、鬱蒼と繁った森林と天へと突き上がる山麓。
……後ろへと振り向けば、白い砂浜と何処までも広がる大海原。
……そして、左右に目を向けてみれば、右手側には突然の事態にパニックを起こして泣きわめき、泣き叫び、わめき散らすクラスメイト約30名と、それをどうにか宥めようとして四苦八苦している新任の女性教師とクラスの中心人物でもあるイケメン君。
……そして、そんな地獄絵図を尻目に、俺の左手側で『我関せず』とばかりに鞄から装備品を取りだし、順に装備している幼馴染み二人。
そんな光景をボンヤリと眺めていると、俺と苦楽を共にし、幾度もの地獄(比喩に在らず)を一緒に潜り抜けてきた相棒でもある二人が、俺に声をかけてくる。
「タカ~?どうしたの~?」
「早くしろ。行くぞ」
俺を心配するような声を掛けた方が、その低身長と可愛らしいと表現出来る外見から、確実に年下に見られるが実際は同い年の神埼 礼於。通称レオ。
そして、俺の手が止まっている事を咎める様に声を掛けてきたのが、2mに迫ろうかと言う長身と、かなり厳つい外見から、殆どの場合で年上と判断されてしまうがこれまた同い年の藤井 辰郎。通称タツ。
「分かったから、タツもレオもちょっと待て」
そう返事をしながら、残りの装備品を装着して行くのが、こいつらの幼馴染みであり、外見的にはそのまま年相応で身長も平均的な俺こと小鳥遊 博雅。通称タカである。
そして、何故に俺達がこんな状況に有るのかと言うと、原因はおそらくアレだろうと推測出来る。
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この日……と言っても、感覚的にはまだ同じ日付なのだが、とにかく原因が発生したと思われる日。
俺達が通っていた私立衛藤高校では、俺達の学年である二年生は修学旅行が予定されており、その出発の日だった為、各自が荷物を抱えて登校しており、時間が来て行動を開始するまで各教室で待機する事になっていた。
その日は俺も、三泊四日の修学旅行の日程に合わせて荷物を詰め……更に、それまでの経験から、万が一の事態が発生した場合を想定して、緊急用の装備一式を、荷物の底の方に仕込んで登校し、少々早めに着いた教室にて、幼少の頃からの顔見知りであり、共に師匠であった祖父達によってもたらされる『稽古』と言う名の地獄を味わった仲間でもあり、そして、偶然にも同じクラスに割り振られた親友でもあるレオとタツの二人と、今回は無事に終わるかな?とか、行き先は山らしいから、海の対策はしなくて済んだな!とか、生き埋めと漂流ってどっちが面倒かな?だとかを駄弁っていたのだが、それがフラグとなったのかは不明だが、突然にソレは起こった。
集合時間として指定されていた時間の少し前に、このクラスの担任であり、今年からの新任でもある佐藤 寧子女史が、教室へと入って来る。
そして、修学旅行時の諸々の注意点を説明した上で、学校付属の駐車場に止まっていたハズのバスまで移動しようか、となった時である。
唐突に教室の床が光だし、その床へと視線を下げれると、何やら光の線によって描かれた、何かの紋様の様なモノ(魔法陣……か?)が浮き彫りになったのだ。
突然の事態にざわめき、驚き、固まるクラスメイトと担任。
そんな中で、半ば本能的に『コレは不味い!!』と判断した俺達三人は、ほとんど反射的に、それまで居た教室の中央部から一足で移動し、それぞれ窓(俺)と扉と扉上部の小窓に飛び付き、俺が飛び蹴りを、タツが正拳突きを、レオが机を足場にして飛び上がり、枠に手を掛けて膝蹴りを、それぞれの脱出口として使用できそうだった所に、それこそ物理的に粉砕する位の意気込みを込め、文字通りの全力で叩き込んで見たのだが、結果は全滅。
全部の箇所で、過去に修行でやらされた、金属塊を素手で殴り付けた時にそっくりな手応えと音が響くだけで、攻撃を加えた場所には、傷一つ付いてはいなかったのだ。
「クソッ!こっちは駄目か……!」
「ここも破れんか……」
「こっちも駄目みたい~」
俺達が脱出を試みて、攻撃を加えていたのはほんの僅かな時間だったのだが、そんな少しの時間の間に、確実に放つ光を強める床の紋様。
そして、そんな状態に、より一層『嫌な予感』を募らせる俺達だったが、脱出口を作り出せた訳でも無く、また、この状況をどうにか出来るとはとても言えない様な状態に、手を出しあぐねていた。
しかし、そんな状態に苛立ったのか、おもむろにタツが床の紋様の中心部へと立ち、端から見ればただ単に叉割りをしながら腰を捻っている様にしか見えない様な動作をし出したのだが、タツをよく知る……正確に言えば、タツの流派をよく知る俺とレオから見れば、こんな所でそれをするなんてとんでもない!と突っ込みを入れざるを得ない構えを取り始めた。
「ちょっ!おま!何を!!」
「タツ~!こんな所で『地崩し』は不味いって~!!」
タツの奴が取っている構えは、あいつが習得させられ、既に血肉の一部と成り果てている、戦国の世に端を発し、戦場にて矢尽き刀折れた状態であっても、素手で相手を殴り殺して戦い抜く為に磨かれた武術の一つである『古流甲冑式組手術』の流派の一つ、『蛟流』の奥義である『地崩し』だ。
本来『地崩し』は、建物内部等の限られた空間や、比較的硬い人工的な地面(石畳等)等の場所にて床や地面を打ち壊し、周囲の敵の足元を急変させる、又は足場の急失による落下等にて、自分以外の敵全員へとダメージを負わせる事を目的とした、一対多に特化した技である。
よって、床に対して行う攻撃の選択としては、間違ってはいない選択であると言えるだろう。
ただ、問題としては、その威力と効果の範囲である。
人体改造染みた訓練を祖父達から受けていた影響か、タツがこの奥義を使った場合はほぼ確実に床が抜ける。それが、木造ではなくコンクリ仕立ての近代建築であったとしても。
そして、その効果範囲は、教室一つ分ならば軽くカバーしてしまう程度には広い。
更に、タツがこの技を使う場合は、半ば無意識的に『勁』と呼ばれる、体捌きによって産み出される衝撃の一種も併用するため、使われた時に足を地面に着けていた場合、例外無くダメージを受けることになる。
なので、何も対策や準備の類いをしていない、又はさせていない状態で使うと、同じ部屋(現在は教室)にいる連中が間違いなく大怪我をするだけでなく、下の教室にいる生徒達にも被害が出る事間違い無いのだ。
俺達(俺とレオ)は鍛えているし、何度か貰った経験が有るので多分大丈夫だと思われるし、使う本人が無傷であろう事は間違い無いのだろうが、その他の人間に被害が出過ぎる事になるのは明白だった為、飛び付いてでも静止しようと跳躍する。
「『勁』は流さん!それに、こちらの方がまだましだ!!」
そう本人は言っているが、ぶっちゃけ破壊力特化のお前さんの言葉なんぞ信用出来んわ!と構わず距離を詰めるが、それでも拳を降り下ろされる方が早く、俺達の静止虚しく教室が破壊される……
……寸前で、それまでよりも紋様が放つ光が一際強くなり、俺達は光に呑み込まれる事となったのである。
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……そして、目を焼く光が治まって見れば、教室に置きっぱなしにしてあった荷物等と共に、現在居るこの砂浜へと移動?させられていた、と言う事態なのである。
最初は、何が起きたのか理解出来ていない様子でポカーンとしていた連中も、遅れて炸裂したタツの『地崩し』が原因で発生した砂柱や、クラスの中に居た、どちらかと言えばオタ寄りの連中が興奮して騒ぎ出した事により、連鎖的にパニックを起こしている。
……まぁ、各言う俺達も、周囲の状況が教室から、大自然溢れる何処かに劇的ビフォーアフターしたのが分かった時は流石に動揺したし、俺達の間でも
「結局不発に終わったから良かったモノの、何やらかしそうになってやがんだよ、この阿呆が!!」
「お前が止めていなければ、こうは成っていなかったかも知れんのだぞ!!」
と、少々口論染みた言い合いに発展仕掛けたが、二人共ほぼ同時に
『まっ、成っちまったモノは仕方がないか』
と結論を出した事も有り、取り敢えずでも状況を把握する為に動いておくか、と意見の統一が成されたのである。
そんな訳で、回想前に状況が繋がり、各員が持ち込んだ装備を装着し終えた俺達は、周囲の地形だけでも把握するために、眼前の森林へと足を踏み入れる……前に、一応、担任でもあり、この場で唯一の大人でもある佐藤先生に一言掛けてから行く事にしますかね。
「……てな訳で、俺達三人で『軽く』周囲の状況を確認して来ますんで、なるべくこの辺りに居てくださいね?後、残していく荷物見ていて貰っても良いですか?」
「……その前に、何で君達三人は、そんなに落ち着いて居るのかな?それに、そんな装備、一体何処から持って来たのかな?……後、何だかこの状況でも平然とし過ぎている様にも見えるのだけど、気のせいなのかな?」
俺達が声を掛けると、主に女子達を宥めていた佐藤先生が呆れた色を声に滲ませながらも、何処か『大物』を見るような目で俺達を見ながら問い掛けてくる。
それに対して俺達は、互いに視線で『そんなに変な事言ったっけか?』と確認してみたが、特には言っていないよね?って事で決着し、先生の問い掛けに答えることにする。
「……落ち着いて居る様に見えているみたいですけど、これでもそれなりに不安何ですよ?何せ、『未知の場所』には、危険しか無いですし」
「……装備に関して言えば~、経験から来る『いざと言う時』の備え?かな~?」
「……それと、平然としている様にも見えている様だが、理由としては、2つだろう。
1つは、あいつらみたいに、騒いだ所で意味が無い。むしろ危険なだけだ。故に騒がない。
それと、2つ目だが……」
そこで、図らずとも俺達三人の発言と、その直後の行動が被さる事になった。
「「「……俺達、この手の事には慣れてるから……」」」
……おそらくでは有るが、その時俺達は、一様に笑顔だったと思われる。
……まぁ、三人共に、死んだ魚の目をしながら、血涙を流すか喀血するかをしている様子を見て、それでも楽しくて笑っていると思える者が居たのなら、って話になるのだけど。
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◇?????
小鳥遊達が謎の光を放つ紋様の効果……かどうかは未定だが、とにかく、あの不振な紋様が放つ光と共に移動させられたのと同じ時、とある『世界』のとある『王国』では、少しばかり騒ぎになっていた。
そこは、極々平凡な、『人族至上主義』を国標として掲げ、最近になって平和的に成長し、近々大国の仲間入りをしようかと言う域に来ている『魔族』の国を敵外視し、そろそろ戦争でも吹っ掛けようかと考えている、周囲の国からは呆れられ見放されかけていると言うだけの、何処にでも有る平和的な王国である。
そんな王国のとある『極秘魔法研究所』では、先程まで光によって床に描かれていた、何処かで見たことの有る様な魔法陣が放っていた光が薄れて消失したが、その陣の有った所には、本来そこに『呼び出されて』いなければならないモノが存在しておらず、それを指示していた者からすれば、失敗以外の何者でも無い状況になっていた。
「……それで?此度の召喚に失敗した罪、何か申し開きは有るか?宮廷魔導師長ケンドリックよ」
そう、重々しく問い掛ける声に対して、飄々とした態度を崩さずに返答する、ケンドリックと呼ばれた人物。
「『失敗』?一体何を仰られているのですかな?召喚自体は成功しておりますよ?」
その答えに不機嫌さと不快さを露にしている指示者に対して、まるで不出来な生徒にするかのように、順番立てて説明を開始するケンドリック。
「良いですか?まず、『国王』である貴方様が、王家秘伝の物である彼の『召喚用魔法陣』を使って、異世界から戦力として使い潰せる者達を呼び出せ、と仰いましたよね?」
それに対して、不機嫌そうにしながらも、頷くことで肯定して見せた、指示者こと国王様。
「そして、その魔法陣をそのまま私が使い、召喚を実行しました。そして、対象とした『一定以上の戦闘能力を得ている、もしくはこちらの世界で得る事になる、30名以上、40名以下の集団』は、無事にこの世界の何処かに召喚する事に成功しております!よって、私は失敗などしてはいない、むしろ成功しているのです!
お分かり頂けましたか?」
「……では、その召喚した者達はどこに居ると言うのか?我に見えぬほど『小さき者』とでも言うつもりか?」
その、国王から発せられた至極もっともな質問に対して、ケンドリックは溜め息を1つついてから、さも面倒そうにこう答える。
「先程も言いましたよね?『この世界の何処か』、と。
そもそもの話、貴方様から渡された魔法陣には、『こちらが指定した対象を召喚する』事に関しては、事細かに刻まれていましたが、『何処に召喚するのか』については、特に指定しておりませんでしたので、何処に出たのかは不明ですよ?
後、一応言っておきますが、私が再三『このままで良いのですか?』と聞いていたのに、全て無視していたのが最大の原因だと思われますけど、何か間違った事を言いましたかね?」
そう、ニタニタとした嘲笑を顔に浮かべながら言い放ったケンドリックを、その場で切り捨てたい衝動に駆られる国王だったが、今こ奴を切り捨ててしまえば、後が面倒になると考え、辛うじて踏みとどまり、怒気を抑えて問い質す。
「……出た先は解るのだろうな?」
「ハイハイ、少々お待ちを……。
あの反応から考えると……この辺り……かな?
それで、可能性が高いとすれば……ここかな?
……うん、ここだろう。
おそらく、では有りますが、この辺りの島々の内のどれか、と言った感じでしょうね」
そう言いながら、取り出した地図の上で何かをしていたケンドリックが指差したのは、この王国の領地の外であり、しかも似たような『無人島群』が犇めく海域であった。
「……場所が分かっているのであれば、さっさと回収してくるが良い」
「ハイハイ、承りました。……しかし、場所が場所だけに準備で半月、更に行くだけでもう半月。計一月の間生き残っていれば、の話になりますけどね?
おまけに、ここは奴らの領域にも近い。衝突の可能性は十分に有りますが……?って、もう居ないし……」
国王からの指示に返事をしたケンドリックだったが、既にその指示を出した本人はその場に居らず、部屋から退出した後だった。
そんな状況にヤレヤレ、と首を振りながら、言われた通りに準備を進めるケンドリックであった。
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◇?????
小鳥遊達が紋様によって移動させられ、それを行ったどこぞの阿呆達が彼らの居場所を大雑把に把握した頃、とある国からの嫌がらせに頭を悩ませていた国の片隅で、『王国』と似たような、しかし確実にこちらの方は、何処か対象の者達を心配している様な雰囲気で会話が繰り広げられていた。
「……以上のデータから、おそらくこの群島の何処かかと思われます」
「そうか……。して、最速で救出隊を編成し、派遣するまでどれ程掛かる?」
「召喚されたのが、一人や二人であれば、十日もあれば行けますが、反応から見て、おそらく30~40程かと思われます。故に、それなりの規模での編成を行う必要が有りますので、どんなに急いでも、到着まで一月程は掛かるかと……」
「……そうか……。……しかし、それ以外に手は有るまい。急ぎ救出隊を編成せよ!出来るだけ、多くの者を救出するのだ!そなたには悪いが、そのまま救出隊を率いて直接、救出に向かって貰えるか?」
「お任せ下さい『魔王陛下』。彼の国が召喚した人々であれば、おそらくこの世界での人族と同じ見た目をしているでしょう。なれば、私の様な肌の色をしている者が居た方が、受け入れやすいでしょう」
「……済まんな、そなたばかりに此のような。……それに、そなたはその肌故に、苦労が絶えぬと言うのに……」
「いいえ、私の、この『忌むべき』肌が、陛下のお役に立てるのであれば、本望でございます。
……では、私はこれにて失礼します」
「……うむ、頼んだぞ」
そう言い残して部屋から退出した部下へと視線を向ける、『魔王』と呼ばれた人物は、己のみとなった部屋でポツリと呟く。
「……あの阿呆共め。己の世界の事柄を、他の世界の住人に頼って何とするのか……」
その呟きは、誰の耳にも届く事無く空気に溶けた。
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