プロローグ〜ユーリ〜
隣を歩く少しだけ高い位置にある顔をそっと見上げる。
穏やかな表情でどこか遠くを見つめていた。
本当にトキ様は美しい。意思の強さを表すかのような深いグリーンの瞳、流れるようなブロンドの髪、そしてバランスの取れた手足、トキ様を美しいと言わずして誰を美しいと呼べるだろう。
こんなにも美しく、そして名家の跡取りでありながら決して驕ることはない。
付き人である僕を親友と呼び、なんでも命じて下さればいいのに、いつでも僕を気遣って下さる。
彼の隣に立って一年。あとどれくらいこうしていられるのだろうか。
もちろん、卒業するまではこの立ち位置が変わる可能性はないだろう。
だけど、最近ついにトキ様の婚約者が決まった。
トキ様に相応しい家柄そして美貌を兼ね備えた方だ。
喜ばなければならないのに、素直に祝福できない僕はなんて恩知らずなんだろう。
あんなに優しくしていただいたのに、その優しさが他の方に向けられることが、今まで当たり前のように過ごして来た時間が他の方のものとなることが、こんなにも悲しいなんて、切ないなんて思うことなど許されないのに。
こんなはずではなかった。
たった一つの夢のため、すべてを捨てたはずだったのに。