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ハザード


魔物の氾濫(ハザード)とは、曰く、百を軽く超える魔物が一斉に街にやってくることで、それはもう、一度町に入ったら地獄は必定と言われるほどのものだ。大半がゴブリンやオークと言った種で、幾度かマズい状態になった街もかなりある。


というのが大まかな説明だ。


「冒険者ギルドでも、新入りベテラン関わらず、この魔物の氾濫(ハザード)の警報がなったら冒険者ギルドに行かなければなりません。これは冒険者ギルドに登録している全ての人の義務です!」


「は!?じゃぁギルドに行かねえと!」


「はいっ!ですから行きましょう!」


そうして俺たちはすぐさま準備を整えてギルドに向かった。街の中の空気が一気に闇に包まれたような、重い空気になった街の中を、俺は不気味に思った。








ギルドに到着すると物凄い人で溢れかえっていた。

戦士、レンジャー、魔法使いなどのメジャーな職を持つ人もいれば中には肉屋、武器屋、大道芸人とかそう言った感じの服装の人もいた。本当に冒険者ギルドの人たちっていっぱいいるんだなぁ。

って、そうじゃなくて!!


「す、すごい人だな」


「はい。これが魔物の氾濫(ハザード)が起きた時の普通です。恐らくもうすぐにギルドマスターなどの方々から指示が出ると思われます」


そうルルが言うや否や、責任者らしき人がやって来た。

とてもグラマラスな体系の女性で、白銀の髪を靡かせながら、まるで姫騎士のような重装備でやってきた。

その顔には、これから起こるであろう惨劇にも屈さないという強い意志が現れていた。


「聞けええええええええええええ!!!」


…入ってきていきなり叫ぶのはどうかと思うけど、確かにこれくらいの叫び声じゃないと聞こえないだろうな。

現にこれで多くの冒険者たちが彼女に向いた。


「一応新入りが多くいるため、挨拶をしよう。私は“彗星騎士(コメットナイト)”の名を持つラバリス・ヴァン・パイルケインスである!」


すると俺を含めた多くの新人冒険者は騒めいた。


パイルケインス…?確かこの王都の名前だよな…!?

って事はマジの王族って事か!?王族で冒険者で二つ名持ち…!流石だぁ…。


「して、今回の魔物の氾濫(ハザード)だが、王都の北の山岳部と森林部からやってくると思われる。森林部が確実と言っていいだろう。故に、多くのゴブリン、オークは想定せよ!もし山岳部からやってくる場合、更にコボルドやゴーレムも頭に入れていてほしい!今、偵察部隊を送ったがその前に魔物たちがここに辿り着く可能性は高い!」


おいおい…二つのエリアからの氾濫かよ…。


俺たちの世界で言うエリアとは、森林、山岳などの地形的なエリアの事を言っている。他にも俺が知っている限りでは湿地帯、平原もエリアとしてカウントしている。それぞれのエリアには独特の生態があるため、これで大まかな魔物の生息地を予想出来るのだ。勿論、それぞれの地域に特別な魔物はいるけど、そこはまた別として。


とにかく、多くのエリアで魔物の氾濫(ハザード)が起きたとなると、それぞれに必要な対策が必要になってくる。


「まず、遠距離攻撃が出来る者はすぐさま北の城壁に向かってもらいたい!その後、城壁の上に向かい、合図が出る次第、攻撃を開始する!その他、戦闘系のスキルを持つものも城壁にて待機!もしも敵が昇って攻めてくる場合も考え、ある程度は城壁の上にて待機してもらう!それ以外の者は連絡要員、もしくは街中で異常な行動を見かけた際の警備として回って貰いたい!!」


となると、俺とルルはその他要因になるか…。ルルに街中で自爆とか怖すぎる…。


「もし、レンジャー系で罠を仕掛けるのが得意なものがいたら、私に知らせてほしい!その者には森の中などに罠を仕掛ける任務を与えたい!!」


ここでルルが俺にひそひそと耳打ちしてきた。


「ご主人様…これはいいのではないでしょうか?」


「どうしてだ?確かに罠仕掛けは出来るけど精々が野生動物だぞ?」


「そう言う意味ではありません。とにかく、締め切られる前に立候補してください。私に考えがあります」


ふむ…。まぁ、女神のルル様がそういえばそうするか。

そう思って俺は手を挙げた。


「野生動物くらい…なら自前の罠で何度か捉えたことがあります」


一応、頑張って声を張ろうとしたけど…ちょっと周りの視線が怖いです、はい。


「そうか。いや、それでも十分だ。他にいるか!!」


ほ…何とかなったみたいだな。

一応、他にも何人か罠仕掛けが得意な人たちがいるみたいだ。その人たちとも一緒に俺たちはギルドの別室に招かれた。勿論、ルルも一緒だ。…全体を覆う外装はしてるけどね。こういう時にしないとか馬鹿のやることだ。誰が俺の女神様を穢してたまるか。


「それでは、罠仕掛けの者は私と共にギルドの別室に向かおう。他にも情報が入り次第、即時耳に入れさせる!それでは、解散!!」


そう言うが否や、冒険者たちはすぐにそれぞれ持ち場に着いた。その光景を、素直に凄いと思った。







「では、皆それぞれスキルはどうであれ、罠仕掛けにそれなりに精通していると思っていいな?」


ギルドの別室に招かれた後、ラバリス様が最初に口にした言葉がこれだった。確かに、俺とルル、その他の俺みたいな新人冒険者以外はそう言った風貌というか…そんな雰囲気がある。みんな気配が薄く感じる。まるで…新人冒険者とラバリス様以外がいないように錯覚してしまう感じがする。でもラバリス様は全員を把握しているみたいだ。

流石二つ名持ち…こういうのもちゃんと分かるんだ。


ベテランの装備を見てみると、大半は革で出来た防具を着こんでいる。魔物との戦いの結果なのか、一部一部がほつれているようにも見える。他にも黒いローブを着ている人もいる。ベテランと言っても装備は様々なんだな…。


そしてラバリス様が部屋を見回すと、口を開いた。


「さて、そなたたちには先ほど申した通り、森の中に罠を仕掛けて欲しい。錯乱、討伐…結果的に街の防衛線をやりやすいように、可能な限り罠を仕掛けてきてほしい。もしも必要な物があればギルドの方から提供しよう。この会議の後からでも構わないが、なるべく早く頼む」


まぁ、確かに罠にも色々材料とかあるからな。


「私からは以上だ。他に何か聞きたいことはあるか?」


そう言って彼女は部屋を見渡して―――


「おう。ありありだ。なんでんなガキどもと一緒にやらなきゃなんねぇんだよ。仕掛けは俺たちで十分だ」


「彼らは立候補してくれたのだ。それを無碍には「うるせぇ!」」


…あれは聞きたい事って言うか、ただ文句を言いたいってだけだよな。なんでそんなことを言うんだ?

っていうか今のはちょっと怖かったんだが…。


まぁ隣にルルがいたからその恐怖も一瞬で飛んだけどね!

マジで女神ルル様だわ。俺は今からルルーナ教を発足しようと思う。


「とにかく、ガキは引っ込んでればいいんだよ!」


そう言って罠仕掛けの内の一人が出て行った。それに続いて他のベテランたちも去っていった。

ベテランが去ったって事はもうこれ以上要は無いようなもんだな。そう思って俺も席を立とうとしたが…。


「失礼」


……立つ前にラバリス様に引き留められてしまった…。え、なに?俺ナニカした?何もしてないよね?ねぇ!?っていうかいつの間に俺の前に移動してたの!?


「ええっと……なんでしょうか?」


俺は恐る恐るラバリス様に聞いてみた。

俺はチラっと部屋全体を見てみたけど、どうも俺とルルだけみたいだった。くぅ、なんでだよぅ。早すぎる…。


「君は新人ギルドメンバー…だよね?」


「は、はい」


っていうか新人そのものですけど!本登録してまだ三日も経ってないです!


「ふむ……念のためギルド証を見せてもらえないだろうか」


「は、はいっ」


そう言って俺は俺の持っているギルド証を見せ……ようとした。

勿論、ギルド証にはこうある。


==========

名前:レイルズ

発行:冒険者ギルド、パイルケインス支部

ランク:F

持ち受け奴隷:ルルーナ

==========



…Fなのに奴隷を持っていること自体が色々おかしい。けど、もう返事してしまったため、仕方なく見せた。いや、見せちまったって言った方がいいかな?


「………」


案の定、厳しい目でラバリス様が見返してきた。


「Fランクなのにもう奴隷持ち…?あなた……この子を攫ってきたんじゃないでしょうね…?」


ひ…ひいいいいいいいいい!!!

怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!いくら隣にルル様がいるからって怖いいいいいいい!!


「さ、攫ってません!天地を司る大地母神の名に誓って、攫ってません!!!」


本当だよおおおおお!!俺は、無実ううううう!!!


「ならその奴隷のくび………ん?」


え?なに!?今度は何に対して追及するのおおおお!?


「ふむ……もしかして、君のルルーナという奴隷は君の隣にいる者の事か?」


「は、はいっ!そうですっ!」


声が裏返ってた気がするけど気にするか!!今の俺は裸でオークの前どころかドラゴンの前に突き出されてる状態だよおおおおお!!


「……………なるほど。それがある状態なら別に大丈夫だ」


………………え?


「ふふ、驚かせてしまってすまない。もしもお互いにこの魔物の氾濫(ハザード)を生き残れたら、何か奢ろうではないか。そのルルーナと一緒に。では、罠仕掛けだが、そなたたちの好きなようにやれ。ああいった喧嘩などは日常茶飯事で、協力的なのは稀なのだ。気にするな」


な、なるほど。

何とかぎりぎり理性を繋いで良かったぁ!にしても、あれが日常なんだな…。なんか、俺が思ってた冒険者とちょっと違ったな。


……あれ?なんか奢るって聞こえた気がするけど…気のせいだろう、うん。こんな冒険者のトップランカーに入るであろう人が超絶新人の俺に構うものか。


「ええっと……好きなように…とは?」


「こういった場ではお互いが協力しづらい場合は、お互いにお互いの場所を廻って罠を仕掛けるか…とにかく、こういった事は自由なのだ。彼らの元のパーティーに入るのも良し、それぞれの行動したいようにするのだ。冒険者というのは、どうしても我が強い者が多いからな。それ故に、それぞれの理念に従って行動していた方がむしろ被害が少なくなることが多い」


へ、へぇ。確かに、お互いにあまり協力的じゃないならそうした方が最終的に被害が少なくなりそうだな。


「といっても、絶対ではない。今はあのように行動させているが、実際、この後どうなるかでまた交渉せねばならないがな」


げ…本当かよ…。嫌だなぁ。


「ふむ…長くなってしまったな。新人とは言え、冒険者であるレイルズも己に理念に従って動け!」


「は、はい!!」


なんか立って返事しちゃったけど…ま、いいか。



今は、魔物の氾濫(ハザード)に集中しよう。



そしてルル様だけは絶対に守る。俺のヌルヌル地獄で絶対に寄らせて堪るか。


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