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おまけ②「ぬらり」


 おまけ②【ぬらり】














 「ぬらりひょん、お主、最近丸くなったのではないか?」

 「・・・ワシが、丸く?」

 「いや、ワシの気のせいならよいのじゃ」

 そうか、気のせいか、といって天狗は去って行った。

 しかし、天狗が口走ったこの言葉によって、ぬらりひょんは影の努力、というものを始めることになった。

 「おろち、最近ぬらりひょんを見かけぬが、知らぬか?」

 「知らん。俺様の出番をとんと少なくした罰じゃのう」

 「そんなこと根にもっておったのか。しょうがなかろう?主はキャラ的に扱い難いそうじゃから」

 「天狗に言われとうない」

 以前は閻魔界、そして人間界に行っていたぬらりひょんだが、ここ最近はそういった場所へ行っているわけではないようだ。

 だからといって、ぬらりひょんに何処へ行っているのか、何処へ出かけるのかを聞いても、全くもって答えてくれない。

 「変な奴じゃ」

 隠れて何かする性分ではないだろうにと、天狗はまあ良いかとリンゴを齧る。

 天狗はぬらりひょんのことを心配しているのかと思えば、そうでもないらしい。

 先代のぬらりひょんの時には、天狗は大いに敬意を表していたようにも見えたのだが、今のぬらりひょんにはそう言った行動は一切見られない。

 いや、時々はあるのかもしれないが、実際に目にしたことはほとんどない、といった方が正確かもしれない。

 だからといって、ぬらりひょんが嫌いだとか尊敬していないとか、そういうことではないらしい。

 「先代のぬらりひょんとタイプが違すぎるのじゃ。じゃがまあ、あいつは放っておいても大丈夫な奴じゃ」

 というのが、天狗の言い分だ。

 あまり出番のないオロチから言わせれば、ぬらりひょんにしても天狗にしても、自分よりも出番があるのだから良いではないか、といったところだろうか。

 煙桜との絡みがほとんどで、だからといって煙桜に呼ばれることもあまりなく、独りでやけ酒をする毎日。

 「座敷わらしは元気かのう」

 「元気な姿しか想像つかぬわ」

 先代が亡くなってからというもの、なぜかぬらりひょんに一番懐き、大泣きしたときはぬらりひょんにしか泣き止ませることが出来ない。

 鳳如にも抱っこしてもらうのは好きなようで、鳳如にもわりと懐いていると聞いたことがある。

 清蘭は姉のような存在で、鳳如は兄のような存在なのだろう。

 帝斗は抱っこをしようとしても、猫の臭いがするからといって座敷わらしは嫌がる。

 煙桜は抱っこしようともしないが、子供が嫌いなわけではなく、座敷わらしの耳に響くキンキンとした声が苦手なようだ。

 琉峯に至っては座敷わらしに遊ばれている。

 麗翔に関しては、以前抱っこをしようとしたのだが、座敷わらしに逃げられてしまった。

 天狗にも懐いてはいるが、ぬらりひょんほどではないし、オロチは論外だ。

 「きっと、先代に似た何かをもっておるのじゃろう」

 「何かってなんじゃ?顔か?シワか?」

 「おろち、ぬらりひょんに聞かれたら、主も一貫の終わりじゃな」

 そよそよと心地良い風が吹いている中、2人は眠りそうになっていた。

 その時ふと、ぬらりひょんの気配を感じた。

 しかし、気付いたときにはすでに気配も消えており、気のせいかとまた目を瞑る。

 「天狗、俺様の出番なんじゃが」

 「知らぬわ。大体、オロチのことなんぞ、きっとだれしもが忘れておったであろう。煙桜も覚えておるか甚だ疑問じゃ」

 「失礼な奴じゃ。忘れておるわけ・・・・なかろう?」

 「疑問形じゃのう。ならば、煙桜に聞いてみるかのう?」




 「は?」

 「じゃから、オロチのことじゃ。覚えておるか?」

 「急になんだよ。俺は鳳如から仕事終わりにしろって急かされて徹夜明けだってのに、そんなくだらねえことか」

 「なら、やはり覚えておるのか」

 「なんかそんな奴いたな、確かに。けどうっすらっていうか、ぼんやりっていうか、はっきりとはしねえな」

 「やはりそうか」

 「なんだ?それだけか?」

 「忙しいところすまなんだ」

 そして煙桜のもとを去って行った天狗だが、残された煙桜は、首を傾げながらも、とにかく眠る為にベッドにうつ伏せになった。

 帰ってきた天狗は、オロチにそのことを伝えた。

 オロチはどういうことか説明をしろと天狗に攻め寄るが、天狗は自分には説明しきれないと話した。

 「ぬらりひょんはまさか忘れてはおるまいな」

 「多分のう」

 「多分てなんじゃ。奴はどこへ行ったのじゃ」

 「それはさきほどから話しておろうが。ぬらりひょんは何処かへ行ってしまったのじゃ。何処へ行ったのかもわからぬのじゃ」

 「まったく。こんな一大事に何処へ行っておるのじゃ」

 「一大事ではないからのう」

 まったく納得出来ていないオロチだったが、天狗がほれ、と酒を進めれば、簡単に機嫌を治すのだった。

 ぬらりひょんと天狗とは別に、いつもオロチがなにをしているのかと言えば、特に何もしていない。

 大蛇の姿をしているオロチだが、人間に見つかってしまえば捕まることは予想出来る。

 だからなのか、オロチはこの辺一体をただウロウロと巡回しているのだ。

 木に巻きつくことも、地を這う事も、オロチにとっては容易なことだ。

 誰かはその姿を見て、神に見放された姿だと嘲笑う者もいるだろうが、決してそうではない。

 空を飛ぶ鳥でさえ、海を泳ぐ魚でさえ、大地を走る獣でさえ、神に選ばれたという証拠など何一つないのだから。

 いや、こんな話しをしても、きっとオロチは興味など持たないのだろう。

 「ぬらりひょんは、確かに先代と違って掴み難いところがあるのう」

 「なんじゃ急に。話しを戻しおって」

 オロチからぬらりひょんのことに話しを戻してきたため、天狗は首を少しだけオロチの方に向けた。

 オロチは酒を飲みながら、こんなことを話し出した。

 「先代はあまりに大きな存在じゃった。近づくときでさえ、後光がさしているようで、多少の距離感があったやもしれん」

 先代のぬらりひょんは、力も膨大で、その力で鬼や妖怪たちを統率していた。

 人間のことはあまりよく思っていなかったためか、交流は望まなかった。

 人間には極力近づくな、それが口癖でもあったのだが、座敷わらしが生まれてからというもの、多少なりとも考えが変わったようだ。

 なぜなら、座敷わらしは酷く人間に興味を持ってしまったからだ。

 「ねえ、どうして人間と遊んじゃいけないの?」

 「ねえ、人間と喧嘩してるの?」

 「ねえ、人間は悪い人たちなの?」

 そんな純粋な心を持った座敷わらしに、先代は真っ直ぐに目を見て、人間は悪い奴等だから絶対に接するな、と伝えることは出来なかった。

 座敷わらしは、主に和の国で姿を見せたと言われている。

 「とっても楽しかったの!同じくらいの女の子とね、遊んできたよ!」

 「人間て面白いね!!」

 ちなみに、座敷わらしもこの頃は若かったというか幼かったため、口調は今とは異なっている。

 そんな座敷わらしの姿に、先代も考えを変えたらしい。

 あまりに巨大なその力を良くは思わない連中も当然ながらいたのだが、その連中でさえ、ぬらりひょんは押さえてきた。

 圧力よりももっと巨大な力で。

 だからなのか、先代が亡くなったとき、自由になれる、人間界に行ける、といった声も沢山出てきたのだ。

 しかし、それを止めたのは、またしてもぬらりひょんだった。

 先代は大きな身体で強面であったが、新しくなったぬらりひょんはちょっと違った。

 背は高いが、人間のようなその姿に、先代とは程遠いような、とにかく、人間に近い姿形であった。

 そのため、鬼や妖怪の中には、今度のぬらりひょんを倒せば自分たちは自由になれると思っていた者達が多いようだ。

 だが、先代が亡くなって新しいぬらりひょんが決まった瞬間、ぬらりひょんの力はそのまま新しいぬらりひょんへと受け継がれた。

 それがどういう原理なのかは分からないが、とにかく、ぬらりひょんは見た目とは裏腹に、物凄い力を手にしたのだ。

 裏腹に、という表現はオーバーだったかもしれないが、力を手にした途端、ぬらりひょんは髪型も変わり、口調も変わった。

 「あの時は本当に驚いたものじゃ。見た目は違えども、纏っている空気や雰囲気はまるで先代と似たようなものじゃった」

 「やる気の無いところは相変わらずじゃが、先代とは違って、奴は人間と俺様たちとの垣根を壊してくれる存在になるやもしれん」

 力で圧倒してきた先代とは違い、今のぬらりひょんは力と言葉と態度で、何かを変えようとしているのかもしれない。

 何を考えているのかは、やはり分からないが。

 「それにしても、本当に何処ぞに行ったんかのう。閻魔のもとから戻ってきて、それほど日も経っておらぬから、しばしここでのんびりすると思っておったんじゃがのう」

 ぬらりひょんは暇だ。

 しかし、鬼や妖怪、人間に見つかってはいけない存在たちをまとめあげるのは、そう容易いことではない。

 毎日何処かで乱闘や争いが起こっており、ぬらりひょんはそれを止めに行く。

 全員まとめてどこかに閉じ込めておくことも出来るのだが、それをしないのは、そういう方法では何も変わらないと分かっているからだろう。

 「不器用な男じゃ」

 「ぬらりひょんは器用な男じゃ」

 「そういう意味ではない」




 そんな話をしていた頃、ぬらりひょんは四神たちのもとに来ていた。

 珍しく帝斗らの稽古をつけているようで、それには帝斗だけでなく、煙桜も琉峯も麗翔も喜び、次々に相手をしてもらっている。

 時間が経って一休みしているとき、ぬらりひょんのもとへ鳳如がやってきた。

 「急に来て稽古なんて、どういう心境の変化だ?稽古つけるなんてお前らしくないな」

 「・・・なんでも良かろう」

 「ま、俺もあいつらが静かに稽古してくるなら、有り難い話なんだけどな」

 そう言いながら、鳳如はぬらりひょんに酒を持ってきた。

 腰にさげてあった酒はもうほとんど残っていなかったため、ぬらりひょんはそれに手を伸ばしたのだが、その途中、何を思ったのか手を止めた。

 「どうした?この酒好きじゃないのか?」

 「いや、そういうわけでは」

 「ならなんだよ。俺にも話せないことか?」

 「・・・・・・」

 ぬらりひょんの表情はいつもと違い、何か悩んでいる様子だった。

 それに気付いた鳳如がどうかしたのかと聞いてみるが、何も言わない。

 鳳如は、持ってきた酒を飲もうと、コルクで栓がしてあるそれを簡単に取ってみせる。

 「まあ、無理に話せとは言わねえよ。お前にも色々あるんだろうしな」

 「・・・笑わぬか」

 「話すのかよ。笑わねえと思う。内容によるけどな」

 「実はのう・・・」

 「実は?」

 意を決したのか、ぬらりひょんは鳳如に話した。

 「天狗に、最近丸くなってきたと言われてのう・・・」

 「・・・は?」

 「丸くなったということは、太ったということじゃろう?稽古でもつけていれば、多少は丸みから逃れられるかと思うたのじゃ」

 「・・・・・・」

 鳳如の横で、珍しく、というよりも初めて見るぬらりひょんの愕然とした姿に、鳳如は笑わずにいられなかった。

 大笑いをしていると、ぬらりひょんに睨まれてしまったが、それでも笑いは止まらない。

 「何をそんなに笑っておる。ワシが気にするのがおかしいか」

 「いや、そうじゃなくてよ、ププ・・・。ぬらりひょん、お前、多分、勘違いしてる・・!!!」

 「勘違い、じゃと?」

 ヒ―ヒ―とお腹を押さえながら、鳳如は涙目になってぬらりひょんに言った。

 「あのな、丸くなったっていうのは、身体が丸いとか太ったとかそういうことじゃなくてな、なんていうか、性格上角がとれたっていうか、まあ、簡単に言うと良い奴になったってことだよ。ププ・・・それにしても・・お前がそんな間違いするなんてな・・・」

 「・・・・・・」

 ぬらりひょんは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐにいつものような飄々とした表情に戻った。

 そしてすくっと立ち上がると、「なんじゃ」と言って、颯爽と帰っていった。

 ぬらりひょんが帰ってしまったことによって、鳳如が代わりに稽古をつける羽目になったのは、言うまでもない。




 「ぬらりひょん、煎餅喰って酒飲んで寝てたら、そのうち豚になってしまうぞ」

 「構わぬ」


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