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女神の彼氏は死霊使い?  作者: き・そ・あ
本編 鮮血の姫君
55/63

2 窓の向こう側 ①

 カランコロンカラン・・・。


 心地よい鈴の音がドアを開けると店内に響いた。


「いらっしゃいませっ!どうぞこちらへ!!」


 店内には穏やかな雰囲気が漂っている。ここは冒険者ギルドからほど近い場所にある喫茶店。

 いつもは屋台を適当にみるのだが、今日はあの3人とあのような別れ方をしてしまったせいであまり遭遇したくはない。

 ここは賑やかな人間が来るところではないはずだ。あの3人とは会うことはないだろう。そう思ってこの店を選んだ。


「今日は、お一人なんですか?」


 席に着くと、女がグラスに水を入れて運んできた。

 人間の世界では、ウエイトレスと呼ぶらしい。メイドのような、黒を基調とした服装で選ばれた女しか着ることの許されないものらしい。勇者が身に付ける伝説級の武具みたいなものか?


「今日は?」


 俺は女の声を聴き、質問の意図が汲めずに聞き返した。

 この店、来たのは初めてのはずだが?。


「あ、すいません。ここから見えるんですよ。お客様と、他にも可愛い3人の女の子が歩いているところ。

 それで、いつも楽しそうだなぁ。と思って窓から見てたんです。」


「そうだったのか」


 ここから、俺たちが歩いているのを見ているだけとは。何が面白いんだ?そんなの。


「話には入れなくても、ここで楽しそうな姿を見ているだけでとっても嬉しいというか、楽しいというか・・・。心があったかくなるんです。私も、一緒に話してみたいなぁって」


「話せばいいではないか。そんなもの」


 俺は出された水を飲むと、適当に返事をした。

 話したいなら、話せばいい。あいつらは別に拒むことはないだろう。むしろ、あいつらも楽しいのではないだろうか。


「いえ・・・。そんな、だって。何を話せばいいのかわからなくて・・・。」


 カラン・・・


 グラスの氷が傾き、俺の顔が反射して見えた。

 まただ。また、体の真ん中が痛い。この痛みはなんだ。




『ヴァネット様』


 俺は呼ばれた方を振り向くと、そこには魔界にいた頃通った料亭の女将がいた。


『今日は、何にしますか?』


 いつの間にか、人間界の喫茶店にいたはずが魔界の料亭にいる。それも、ここはいつもの俺専用の個室。四方から話し声が聞こえるおかげで、一人でも地獄鍋が美味しくつつけるおひとり様専用ルームだ。


「あ・・お、おれは」


 視線を落とすと、そこには見慣れた鍋が置かれていた。

 いつも戦の後に食べていた地獄鍋。

 そして、周囲の部屋からは賑わう声。

 魔界のものが利用するこの料亭。当然、自分の部下も足を運んでいる。

 しかし、それは俺とではない。俺は、死霊軍を率いる軍団長でありながら、部下とはうまくやっていなかった。


『ヴァネット様?』


 俺は頭に響く声が煩わしく感じた。

 何かが、頭の中にいるような、頭の中で何かがはじけそうな・・。


『お客様!!』



 目を開くと、そこには水滴のついたグラスに入った水、心配そうに隣で俺をみつめるウエイトレスの姿があった。

 ほかに居合わせた客も、俺の方を向いている。


(また・・夢か?夢なのか?)


 俺は辺りを見回すと、そこはさっきと変わらない人間界の喫茶店だった。

 窓の外に見える景色も、普段と何も変わらない。いつもの町並みだ。


「す、すまない。ボーッとしていたようだ。な、なんだ?」


「あの、ご注文をいただきたいのですが」


「ちゅ、注文・・・そ、そうだな。お前に任せる。なにかうまい飲み物を頼む。」


「へっ?は、・・・はい。かしこまりました」


 驚いた顔をした女は一礼するとカウンターの奥へ下がっていった。

 どうやら、俺に話しかけていたのは地獄料亭の女将ではなく、人間の女だったようだ。

 今日は、どうしたというのだ?2回も夢を見るとは・・・。

 しかし、嫌な夢だった。


(あの女は、俺そのものかもしれんな。)


 ほかのテーブルに料理を運ぶ女の姿を見ながら、ルナたちに出会う前のことを思い出していた。

 人と関わりを持ちたい。

 しかし、関わりが持てない、持ち方がわからない。

 そして、話しかけていくことが怖くなり、遠くでそれを見ている。

 まったく俺と変わらないではないか。


「はいっ、お待たせいたしました!私がオススメするコーヒーパフェです!甘くて、ほろ苦くて、とっても

 美味しいんですよ!」

 俺の目の前には男が一人で頼むには少し勇気の必要なものが運ばれてきた。

 パフェ?

 これは、あれか?あっちの席に座っている若い女が二人で楽しそうに食べているあれか?

 これを、俺が一人でここで食せと?辱めにも程があるぞ。

 そもそも、そのまえに・・・


「俺は、飲み物を頼んだのだが・・・」


「あぁー!!ご、ごめんんさいぃ!!わ、私ったらつい・・・すいません!交換します!!」


 女が急いで目の前のパフェに手を伸ばすのを見て、俺はその手を掴んだ。


「いや、今日はこれにしよう。俺にも非がある。その・・・なんだ。代わりに、お前の名前を教えてくれないか」


「な、なまえですか?」


 名前を教えろ!と言ったことに明らかに警戒した顔をする女。人間で言うところの、ナンパってヤツにも似ているかもしれんな。しかし、別に俺はやましい気持ちがあるわけではない。俺には、ルナという心に決めた女がいるのだ。


「あぁ、呼ぶときに、おい。とか、お前、では悪いだろ」


 俺が手を離すと、女は一瞬『あぁっ』と、言いたげな顔をし、すぐに少し困ったような顔をした。それでも少ししてゆっくりと口を開いた。


「サシャです。見ての通り、喫茶店で働いています。自己紹介苦手で・・。」


 恥ずかしいのか、照れながら答えるその姿に好意が持てた。彼女なりに、一生懸命なのだ。俺はそれだけで満足だ。部下が一生懸命に戦う姿を応援する。それが指揮官の勤めだからだ。指揮官たるもの、過ちは認め謝罪をしなければいけない。


「俺はヴァレット。知ってると思うが、冒険者だ。では、サシャ、先程は悪かった」


「さきほど?なんのことですか?」


「お前が、ルナたちと話したいとおもっていると悩みを聞いたのに、俺はまともに答えてやれなかった。すまない。」


 最初はなんのことだろう?と困り顔のサシャだったが、理由が分かると彼女は満面の笑みになり嬉しそうに話しだした。


「ぜんっぜん気にしないでください!私の方こそ、お客様に変なこと言ってしまってすいませんでした!ルナさんって言うんですねー・・・、月の女神様と同じ名前だなんてすごいなぁ。綺麗だし、可愛いし、憧れます」


 目を閉じて妄想するサシャを見て思うことは、つくづく俺に似てるなぁ。と思うことだった。

 魔界にいる頃、人の話を聞きながら鍋をつついて、会話した気になっている俺と差がないではないか。

 少しトロいところはあるようだが、真面目でいいやつではないか。


「ちゅうもーん!!お願いしまーす!!」


「あ、はーいっ!!ただいまぁ!!ごめんなさい、お仕事に行きますね!ごゆっくりどうぞ!」


 別の客に呼ばれ俺に手を振って走っていく。俺は黙って軽く手を振り彼女を見送った。

 さて、目の前のパフェとやら。どうすればいいものか。

 やたら長いスプーンを持って、初めて遭遇したパフェとの戦闘が始まった。

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