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勇者の逃走あるいはプレイヤーの退屈

作者: 天理妙我

 勇者は剣を抜いた。ひたすら業務的に。目の前にいるのは先程から代わり映えのしない、一太刀でファンファーレの実に詰まらぬモンスターである。何故か奴らは一様に小額の金銭を持っている。買い物でもするのだろうか。いや、そんなことより、これって辻強盗じゃないのか。


 そんなことを考えてしまうほど余裕たっぷりの勇者は、もちろん勇者であるからには世界を救う為の旅をしているのである。そしてどうにも世界を救うことになるだろう。勇者だからである。他の大勢の英雄的な勇者たちと同様に。ひたすら業務的に。


 彼は図らずも旅立ちに誂え向きの、世界で最も貧弱なモンスターが割拠する辺り、もはや二度とは用事のないであろう小さな村に生まれ、それからのことは彼自身よく分からないのだが、とにかく旅立ちの日を迎えた。確かなことは、彼がきっと世界を救う為に旅立つであろうことを予期して生活していたということである。万事は滞りなく進んでいた。だからこそ勇者は悩んでいたのである。


 勇者として旅に出て、仲間を引き連れ世界を救って英雄となる。誰もが憧れる人生である。不満などあってよいはずがない。しかし彼には、予め誰かが敷いたレールの上を、何か巨大な意思に支配されて進んでいるような、空虚で不自由な人生にも思えていた。


 そんな勇者にはおよそ相応しくないニヒリズムも、見知らぬ旅先にあっては有り勝ちだ。判を押したように現れる、モンスターの呑気で気侭な生活が羨ましく思えることもある。


 待てよ、と勇者は考える。自由とは何だ。それは開かれた未来だ。その無限に広がる可能性のことだろう。所詮モンスターには現在とまるで変わらぬ未来しか待ってはいないのだ。この場所で馬鹿みたいに生きて、馬鹿みたいに勇者の前に現れて、馬鹿みたいに勇者に襲い掛かるのだ。そうプログラムされているかのように。それは鎖で繋がれていないだけで、決して自由などではない。未来の閉ざされた現在。檻の中の安住だ。


 それに引き換え、俺の、この自由ときたら。信じられるか。俺は逃げているのだ。突然猛烈に臆病な気分になって、あんな貧弱なモンスターに背中を向けて全速力で逃げている。こんなこと、一体誰が想像出来ただろう。これだよ。想像さえも及ばない、開かれた未知なる未来。無限の可能性。


 俺は自由だ!

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