出会い
「文献にもいなくなったって記されていたんでしょう?それなのに今更『白き魔女』を探せだなんて」
「王命だ。仕方がないさ」
全く、弟の言う通りだ。文献に記されていたのが真実なら最終的には国が滅びかねないだろうに・・・。
「・・・でも少しは興味あるなぁ。王様を狂わせる程って事は物凄い美人だったとか!?」
「容姿はともかく結局国を滅ぼしたんだ。悪女だろ」
「悪女って・・・兄上は潔癖過ぎるよ(笑)」
「俺はお前と違うからな(笑)」
「って、それじゃ俺が節操なしって事ー!?」
思い返すだけでも腹が煮え立ってくる。
きっかけはとある文献の一文から始まった。
―――――『白き魔女』とは予知能力・治癒力を有し、手に入れた国は必ず勝利する――――
これにレイヴァーン国の現国王、アーバン様が興味を示した事からだった。
今のレイヴァーン国は600年前に滅びたナディア国と同じように隣国との長い戦によって滅びようとしている。
王からしてみれば藁にも縋りたいのだろう。
休戦協定を結んでいる今の内にどうにかしたいという気持ちも察する。
しかしだ!
『ヴィルヘルム、そなたに頼みたいことがある』
ヴィルヘルムとは俺の名だ。
俺はレイヴァーン国第一魔法騎士団長として日々国を守り、他国からは白い悪魔と呼ばれているらしい。
自国を守っているだけなのに悪魔と呼ばれるのは心外だが・・。
そんな俺に王はいるかもわからず、ましては魔女などという得体のしれない者を連れてこいと言ってきたのだ。確かに俺が敗れれば瞬く間に国は滅びるだろうが、この頼みは国の為に命を懸けてきた者に対して『保険として持っておきたい』と言ったも同然だ。
信頼されていないのか、とさすがにその日は落ち込んだ。
「兄上~、暗くなってきましたしそろそろ宿に戻りましょう~」
弟のアグナムに王命を伝えると『楽しそうだから俺も行く!』とついてきたは良いが女性に対する姿勢と同じですでに飽きはじめている。
「先に帰って良いぞ。俺はもう少し聞き込みをしてから戻る」
「真面目ちゃんだなぁ~、それじゃお先!」
手当たり次第文献を調べたところで、取り敢えず文献に記載されていた白き魔女の一族が殺されたとされる場に近い街で現地調査を始め早一週間。
600年前の手がかりがそうすんなりと入手できるとは思っていなかった反面、案外さくっと情報が手に入った。
――『白』は何色にも染まる。使い方を間違えると死神に魂を吸われ、正しく使えば幸せになれる――
話を聞いた何人もが言っていた。
古くから住まう住民の間では子どもに聞かせる民話として語り継がれてきているようだ。
そしてこの街は白き魔女の一族がいた村が焼き払われた後にできたということ、村の跡地が一族が殺された場でもあるということ、その為街の者は気味悪がって村の跡地には近づかないということ、ずいぶんと昔に一族の生き残りがいるらしい・・・という噂があった事が調査でわかった。
もし噂が本当なら今もどこかで子孫が暮らしているかもしれない・・・だが、一度は国の都合で殺されそうになったのだ。その事を思うと、また巻き込んでしまうのは避けたいとも考えてしまう。
もうそうなったら俺は任務を選ぶしかないのだろうか・・・。
考えると切りがない思考に、気付けば辺りは薄暗く街では街灯が灯り始めたので宿屋に帰ろうとした時だった。
「あの、白き魔女の事を聞いて回っているのですか?」
「ああ。何かあれば教えて欲しいのだが」
声をかけてきたのはフードを深く被った少女だった。
「やっぱり・・・」
「ん?」
「明日は絶対街から出ないで下さい!!」
「・・・明日は特に街から出る予定はないが、何故そんな事を?」
「出ないのですね!?・・・・・・良かった」
「兄上~?あんまり遅いもんだから迎えにきましたよ~って何かあったのですか?」
「いや、彼女が・・」
既に彼女の姿はなかった。
「彼女って、まさか兄上がナンパするなんて。やっぱり兄上も男ですね~」
「ナンパなどしておらん。向こうから声を掛けてきたのだ」
「逆ナンですかね?」
「いや、そんな風には・・・」
「兄上は堅物だなぁ」
結局、アグナムに詳しい内容を話す間もなく逆ナンと片付いた感じになり俺も深く考える事をやめた。
翌日も昨日と変わらず街で聞き込みをしていると新たな情報を入手することができた。
話しによると以前深夜に跡地の方に人が向かっていたという内容のものだった。
あまりのタイムリーな内容に違和感を覚えたが、やっと入手した最近の情報なので無駄にはできない。
さっそくアグナムに伝えると「今夜行きましょう」と珍しく乗り気だった。
・・・・・・きっと今夜の相手に振られたのだろう。
****
夜も更けた頃、二人で村の跡地へ向かった。
「ここからなら全体が見渡せるだろう」
「そうですね。でも今日が新月じゃなかったらもっと良く見えたでしょうに・・・」
「こればかりは仕方がないさ」
俺たちが身を潜めたのは跡地から少し離れたところにある大きな木の上。
本来ならかなりの範囲を見渡せるであろう高さだが、残念な事に今日は新月でより一層の暗闇に辺り一面染まっている。
魔法で夜目を補っても良いのだが、そうすると相手方に魔道士がいた場合こちらを察知されてしまう。
相手の事を知らない内はできるだけ生身でいる方が何かと都合が良い。
そんな風に裸眼でも跡地がギリギリ見える程度ですんでいるのは魔法騎士として鍛えている二人だからこそだ。
「こんな所に一体誰が来るんですかねー」
「ああ、しかもなぜ今になって有力な情報が出てきたのか・・・」
一週間ずっと聞き込みをしていたにも関わらず、突然の手がかりだなんて・・・。
出来すぎていると魔法騎士として培った本能が告げる。
「とにかく様子を見る」
「了解」
暗闇の中、静かに時間だけが過ぎてゆく。
『明日は絶対街から出ないで下さい!!』
今になって昨日の彼女の言葉を思い出した。
俺が街の外に出ると彼女にとって都合が悪い事でもあるのか・・・
あるいは今の情報と何かしら関係があるのか・・・?
いや、あの感じは自分の都合というより俺の身を案じているようだった。
なぜだ?
突然舞い込んだ情報、彼女の言葉、この二つが何を意味しているのだろうか。
・・・情報の違和感といい彼女といい何かがおかしい。
あと少しで謎が解けそうだが、今はまだ材料が少なすぎる。
「―――ぅぇ、兄上?」
「っ!すまない。考え事をしていた」
「不審な点があったのかと思えば、考え事なんて」
「・・・実は昨日の彼女に今日は街から出ないでくれと言われていたのだ」
「はぁ?何ですかそれ」
先ほど考えていた事をアグナムにも話す。
フードを被っていたため年齢は不明だが、女性には違いないのだから≪女の事なら任せろ!≫と常に豪語している我が弟の意見を待つ。
「俺も兄上の考えと同じです。おそらく彼女はこの情報に関しては関係ないでしょう。第一関係があるなら街を出るなと兄上に伝えるメリットがない」
「ああ。だが何故俺に伝えてきたのかが謎のままだ」
「・・・例えば今兄上がここに来る事を知っていた。もしくは兄上の身に何か起こるのを知っている?」
俺の中である答えが導き出されようとしていた。
まさか・・・いや、しかしだ。
「今の状態が仕組まれたものだとすると、偶然俺達がここへ来るように仕向けられるのを聞いた可能性はある。だが、それだけじゃ街を出るなと言うには理由が弱い。罠だとか狙われていると言えば済む話だろうに、彼女は『街を出るな』としか言わなかった」
「だとすると、彼女は別の何かを知っていると考えた方がしっくりきますね。でも何で知っているんでしょう?」
「・・・予知能力が本当にあると思うか?」
「ま、まさか・・」
俄かには信じられなかった。
だが、どう考えても行きつく先は予知能力により俺の身に何かが起きると知っているからだとしか考えられない。
そうでもなければ辻褄が合わない。
そして案の定俺は彼女が知っているであろう運命の如く街から出てしまっている。
「では、この先兄上の身に何かが起こっ!?」
どこからか跡地へ向かう足音が聞こえてきた為、アグナムの口元を慌てて抑える。
一人・・・いや、複数・・・・・・追いかけられているのか?
アグナムも気が付いたようでもう少し様子を見ようと視線を伝えた時だった。
「捕まえたぞ!」
「きゃあ!」
「コソコソとここで何してやがった!」
「放して下さい!私はただある人がここに来てしまわないか見にきただけです!」
「信じられるか!さてはお前、あいつ等の仲間だな!?」
「違います!離して下さい!!」
「顔を隠してますます怪しい奴!面を出せ!」
捕まっている人物が彼女だと感づいた時には身体が勝手に動いていた。
木から飛び降り、虚をつかれた男達を次々に倒す。
「伏せろ!」
「きゃっ」
「ぐふぁっ」
「・・・・・・兄上、俺の出番も残しておいて欲しかったな」
気が付けば皆倒していた。
武術だけで済んだ事からして騎士や魔道士の類はいなかったようだ。
とりあえず意識が戻る前に拘束しておくことにする。
「詳しいことはこいつらが意識を取り戻してから聞くとして・・・しばらくは目覚めないでしょうから街の警備に事情を説明してコイツらを運びに来させますかね」
「すまない」
アグナムの去り際の視線が痛い・・。
いつもなら一人は意識を持たせたまま捕まえるのだが今日に限っては身勝手にも動いてしまい挙句の果てには手加減できずこの有り様。
きっと「兄上らしくないのは彼女のせい?」とニヤニヤしながら街へ戻っているに違いない。
「もう大丈夫だ」
跡地の隅に避難しているであろう彼女に声をかけるとおずおずと側にやってきた。
「ど・・・」
「ど?」
「どうして来たのですか!!!」
「っ!?す、すまない」
感謝の言葉でもなければ恐怖で声が出ないわけでもなく、彼女から発せられた俺を咎める言葉におもわず謝ってしまっていた。
「魔法騎士様というのにお二人は軽率過ぎます!ご自身達が街でどれだけ目立っていたかご存知ですか!?街では王都から来た紅白の二人組みの話題で持ちきりなのです!!」
「こ、紅白の二人組み・・・」
紅色の髪を持つアグナムは目立つ上に毎夜毎夜出会いを求めに行っていたので話題になってもおかしくないだろうが、紅白の二人組みとなると俺も含まれている事になる。
「ご自身達の外見をちゃんとわかってますか!?」
「分かっている。ちなみに俺の髪は白ではなく白銀色だ」
「知ってます!!って、そういう事ではなくてですね!!!」
「わ、わかった。すまない」
本日二度目の理由のよくわからない謝罪をする。
「その事はもう良いです!それよりも!!私があの時どんな気持ちで伝えたと!!」
「しかし理由もなく初対面であんな事を言われても・・・」
「っそうですね!貴方様にとっては初対面でも私にとっては違うのです!!!」
「視えているから?」
「ええ、・・!?な、ぜ・・そのことを?・・・」
「今日の出来事とそなたの言葉から導き出した」
「っ!」
「生き残っていたのだな。・・・願わくば出会いたくなかった」
俺がこの任に就いた事といい、彼女が俺を視ていたということはいずれ出逢う運命だったのかもしれないがこんなにも早く、しかも彼女の方からやって来るなんて考えもしていなかった。
これも全て決まっている事なのだろうか?
「・・・迷惑、でしたか?」
先ほどの勢いはなく、深くフードを被っているため表情は分からないが声が震えているのが分かる。
「予知能力でわかっているだろう?俺が何故そなたを捜していたのか」
「・・・・・・」
俺が白き魔女を探す命を受けた事をしる物は命を下した国王と同行しているアグナムのみ。
こくり、と頷くのを見て予知能力が本当にあるのだと実感する。
それと同時に国の運命をも左右にできるであろう力を恐ろしくも思う。
「そなたはそれで良いのか?俺の前に姿を現したという事は国の為に尽くさねばならぬのだぞ」
「・・・・・・」
彼女・・・いや、白き魔女が口を開きかけた時だった。どこからか不気味な声が聞こえ始める。
辺りを見渡すと意識を失っていたはずの野党達が何かに操られるかの如くユラリ、ユラリと立ち上がり始めていた。
『我ら一族をまた苦しめる者、許さぬ・・・』
『我らは許さぬ・・・』
絞り出すようなしゃがれた声、そして発せられる言葉に驚愕する。
場所が場所だ、俺たちの会話が彼らの眠りを妨げてしまったのだろうか・・・。
彼らにとって白き魔女を苦しめた側の人間に俺は含まれるだろう。
事実、過去と同じ事をしようとしているのには変わりないので600年経とうが国が違うと言っても通じなさそうだ。そうこうしている間に実体の無い状態の者もゾロゾロと湧いて出てきている。
実体の無い者が刃物を出し始め本格的に危険な状況かもしれない。
「逃げろ!」
「お逃げ下さい!」
二人の声が重なる。
「何を言っている!彼らはそなたの一族だろう!?そなたを守る為に出てきたのだ!」
「いいえ!彼らの狙いは私です!白き魔女が選んだ事により一族は滅んでしまった・・彼らの恨みは私が引き受けます!!!」
一瞬だった。彼女に向かって振り下ろされる刀が見える・・・今、白き魔女が死ぬば国が亡びるかもしれない、とか助けても過去の様に国が滅びの道を辿るかもしれない、とか国王を惑わす悪女だ、とかそんな事を考えるより気がつけば自分の身を盾にしていた。
魔法を使って防御する事も可能だったはずなのにこれでは日頃、一体何のために訓練していたのか分からないなと思う。
「きゃぁああああぁぁっ!」
「っ、だい・・じょうぶ、だ」
背中に冷やりと何かが掠めた後、焼けるように熱く感じたのは地面の冷たさが顔に伝わったと同時だった。
「すぐに、すぐに癒しますから死なないでっ」
傷が広範囲なのだろう。背中の熱さとは対照に体からはあっという間に熱が失われているのがわかった。
きっと彼女が阻止したかったのはこの事だったのだろうな、と今になって気づく。
軽率と怒られるのも無理は無い。
「一族の恨み、私が引き受ける!来なさい!!!!」
彼らに立ち向かう彼女の声が辛うじて耳に届く。
―――――だめだ、君が死んでしまう・・・。
そう言いたいのに声がでない。
擦れたように視界が狭くなる中、フードをとった彼女の横顔が見える。
――――――・・・守りたい・・・。
そう思いながら俺は意識を手放した。
****
あれからどれだけ経ったのだろう。
感覚が麻痺していてわからないが髪をすかれているのだろう、心地良く感じる。
「もう、大丈夫ですから」
彼女の声が聞こえてきたので何か伝えようと重たい瞼を持ち上げる。
朦朧とした意識の中、視界に飛び込んできたのは朝日に照らされ白銀に輝く雪の色だった。
己の髪をそんな風に思った事がなかったのに今視界に広がる色に安堵が広がる。
「綺麗、だな」
「!?」
聞きたい事、言いたい事が沢山あるはずなのに出てきた言葉がそれだった。
白銀色の世界のどこからか降ってきた雫が頬に当たる感触を最後に俺の意識は深く沈み込んでいった。
****
身体が暖かい。覚えている最後の記憶では背中の熱さと末端から冷えていく感覚だった。
そうか、俺は死んだのだな・・・。そうなのだな・・・。
それにしても霊体とはこうも身体がいう事をきかないものなのか?
なにやら少しばかり全身に倦怠感もある。
起き上がろうにも上手くできない。
「兄上!あーにーうーえー!!」
アグナムの奴が俺を呼んでいるようだが、きっと俺が死んで悲しんでいるのだろう。
切れ者だが女と情に弱い弟を残して逝くのは忍びないが許せ。
兄は国の為になる者を守って死んだのだ。
・・・正確には庇っただけでその後守れたのかはわからないがな!
おっと、どうやら死んだせいでテンションがおかしい様だ。
「いい加減目覚めれば良いのにっ。チェインさんが心配してますよー」
・・・・・・・目覚める?チェインとは誰の事だ?
「チェインさん、兄上なんて放っておいて俺と遊びましょうよ」
「えっあ、ちょっとアグナム様っ」
この声は・・・・・・・・・・・・
「白き魔女!?っうっ・・・・・」
「あ、やっと起きましたね~。ほらほら、チェインさんのお蔭で傷は癒えてますが血を大量に失ったのです。急に起き上がると貧血になりますよ」
アグナムの言う通り背中にあるはずの傷は無く、かわりにあるのは倦怠感と多少の頭痛だった。
「・・・そなたが助けてくれたのか」
「・・・・はい」
「ちょっと!俺の事は無視ですか?俺も心配してたんですからね!」
「す、すまない。心配かけたな」
アグナムの話しによると戻って来た時、既に事は終えていたらしく彼女に何があったのか聞いても『自分のせい』としか言わないらしい。・・・・つまり一族の怨霊に襲われた事を話していないようだ。
それと俺達を襲おうとした奴らは、この街で悪質な商売をしており王都から来ている俺達が街にいたせいでいつも通りの商売ができず偽りの情報を流しひっそりと始末する思惑だったと取り調べで話したそうだ。
とまぁ、大まかな経過を把握した後、アグナムに席を外すように伝え二人だけにしてもらった。
「どうやって彼らを鎮めたんだ?」
「それは・・・教える事はできませんが、それ以外でしたら何でもお話しします」
逸らす事なく真っ直ぐこちらを見つめる瞳は朝日に照らされて輝く雪のような白銀色だった。
そういえば意識を失う前に見た景色もそうだった事を思い出す。
俺も真っ直ぐ彼女を見据えた。
彼女の瞳からは固い決意の様なものが見え、今は何を聞いても教えてはくれないだろうと感じた。
「わかった。・・・・何故、俺を助けた。俺は本来ならば死ぬ運命だったのだろう?」
「はい、本来ならば亡くなる運命でした」
あっさり死ぬ運命だったと言われショックすら受けない。
「では何故だ」
「死んでほしくなかったのです」
「それだけの理由で運命を変えれるのか?」
白き魔女とは人の運命までも変えれるのか・・・。
俺はそれだけ必要とされる人物という事なのだろうか?
「・・・この国の未来のために」
「国・・・・・・そうか、そうだな」
俺がこの国の戦においては必要不可欠な存在であるというのは自負しているが何故か胸にチクリと痛みが走る。
きっと俺も彼女と同じ立場であったなら国の為に必要な人を死なせるわけにはいかないと思うのは当然の事のはずだ。
俺は彼女に国のためではなく自分の為に死んで欲しくなかったとでも言って欲しかったのだろうか?
・・・・いやいや、知り合って間もない間柄で何を考えているのだろう。
彼女に会ってから俺はどこかおかしい気がする。
己の思考に気まずい気分になり咳払いをして話題を変えた。
「コホン・・・と言う事は、国に尽くしてくれると取って良いのだな?」
「はい。私にできる事であれば全力を尽くそうと思っています」
「理由は何だ、尽くす意味がわからない」
「それは・・・」
彼女は諦めたようで、しぶしぶ理由を話してくれた。
「私は貴方様をよく視ていました。そうしている内に貴方様の国に対する考えや国民に対する姿勢に共感していったのです。ですので、貴方様が大切にしているこの国の為に私が何やお役に立てる事が嬉しい」
「つまり俺の為、と言う事か?」
「!あ、いえ、その・・・変な気持ちとかはないのです!尊敬している方の役に立ちたいというか・・何というか・・・」
「変な気持ちとは?」
「そ、その・・・」
「はははは、冗談だ」
「!」
彼女の慌てふためく姿が可笑しくてからかってしまう。
先ほど走った胸の痛みはどことやらで、どんな気持ちだろうが彼女に尊敬されている事が嬉しい。
「ところで、もう隠さないで良いのか?」
「?」
彼女の瞳の色は見たことがなく、きっと白き魔女のみが所有する証なのだろう。
深くフードを被っていたのは何かしらの不都合があったからに違いない。
己の目を指差すと何を言いたいのか理解したようだ。
「はい、もう身を隠す必要もなくなりましたから」
確かにそうだ。今後は国の大切な者になるだから護衛もされるだろう。
「それに・・・」
「それに?」
「いえ、ただ良い事があったので」
そう言って彼女は頬を赤めている。
可愛い・・・あ、いや別に変な意味はない!
女性に対してそう思う事はあるだろう?今のもそれだ。
女性に対して不得手な俺が思うこと事態特別だという事とは思ってもみない。
「それは良かったな。これから堂々とすれば良い・・・が」
「?」
「綺麗だからな、皆に見せるのが勿体ないな」
彼女はぽかん、と綺麗な瞳をパチクリさせる。
可笑しなことを言ったのだろうかと内心焦っていたところ、彼女が俺を見ながら微笑んだ。
――――この笑みを絶やさない為に俺は何ができるだろうか・・・。
俺にできる事なら何でもやろう。
任務など関係なく心からそう思った。
「ところで、自己紹介がまだだったな。俺はレイヴァーン国の第一魔法騎士団長ヴィルヘルムだ」
「存じております。私は白き魔女のチェインと申します」
順序が色々と逆だったが、やっとお互いの名を伝えあう。
「これから宜しく頼む」
「こちらこそお願い致します」
そう言ってお互いに笑った。
序章に含めていた部分を、こちらに移し後半部分は新たに書き足しました。
最初からこうすれば良かった・・今後も試行錯誤しながらの投稿になる可能性があるので広い心で読んでいただけたらと思います。