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「婚約破棄‥!?」
「そうだ。純子とは最近碌に会えもしない、話しする時間すらない。でも純子は会いたいとも言ってこないだろう。そんな時に乗子は慰めてくれた。俺は俺の気持ちを分かってくれる乗子と結婚したい。俺に相応しいのは乗子だ。」
彼の隣にいる女性。同じ職場に今年の4月から派遣で来た子。配属は課長してる彼の部署だったなそういえば。
「‥それに俺たちの子どももできたんだ」
「‥!?婚約破棄して筋通す前に寝たのね」
「睨むなよ!乗子が怖がるだろう!」
「ノリが悪いの!秀明さんが好きだったから抱いてってお願いしたの!」
「あらそう‥。分かったわ。もう顔も見たくない。」
じゃ、と言いながら呼び出されたカフェを出る。秀明に、初めて仕事が終わるまで待ってると言われ、すごく嬉しかったのに。久しぶりに本当に久しぶりに2人の時間がとれたことと、あと彼もそれを望んでくれてたんだと。仕事終わりだったけどちゃんとメイクも直して年柄もなくウキウキして向かったカフェだった。
9月になり夜も過ごしやすくなったはずだが、血の気が引いてむしろ寒気が止まらない。唇を噛み締めながら歩いていたがもう耐えられなかった。
「‥‥」
涙が溢れる。
1年前、会社で同じプロジェクトを担当することになり出会い、交際を始めた。一生懸命なところに惹かれた。プロポーズされて嬉しかったし、彼と一緒になるためなら残業と結婚式の準備で寝不足になろうとへっちゃらだった。彼のご両親とも上手くいっていた。「純子ちゃんみたいな娘が欲しかったのよ〜」って挨拶に行った時に言われ、式のことで電話相談もよくさせてもらっていたのに。それが。一瞬で崩れ去るとは。
「ははっ」
結局私は何をみていたんやろう。何をしていたんやろう。あんなに好きだった彼のこと、何も知らなかったのか。あっさりと他の女に彼を取られて泣いている。
その日、どうやって家にたどり着いたのか覚えていない。家に着き思う存分泣きながら、缶ビールを開けまくり、メイクも落とさず服も着替えないまま、9月になり出したばかりの毛布にくるまった。そして現実逃避するように眠った。