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第六夢「強者」


「なかなかやるじゃなーい、お姉さん」

「……その首、もぎ取ってやろうか」

「とか余裕ぶっちゃって、本当は逃げたくて逃げたくて仕方ないんでしょー?」

「言っておけ」



 運は、俺の“嫌な”期待に、見事に答えてくれていた。

 俺が嫌いなものは、一つある。

 俺より強い脅威。

 味方ならまだいい。しかし、敵の場合は話が別だ。


 ――要約すると、俺は、俺より強い『敵』と当たってしまった――、ということだ。


 目の前の小柄な少年は、武器を手にしてすらいない。つまり、俺は武器など出す価値もない、と高をくくられているのだ。

 勝ちたい。

 その欲求は、留まることを知らない。


 場は、膠着こうちゃく状態で威嚇しあっていた。

 俺はヘリオドールで、少年は自らの拳で。

 両者とも動かない。平坦な白を背景に、俺たちは睨み合う。


 ――俺が動いた。

 少年の頭上に、ヘリオドールを振りかぶる。しかし、少年の姿が鈍くぶれた。

 俺の心臓に向かって放たれた拳撃は、虚しく空を切る。

 ぽかんとした表情はつかの間。少年はすぐに好戦的な表情に戻り、俺がヘリオドールを少年の腕に落とす直前、もう片方の拳で俺の頬を殴った。

 何メートルか先に吹き飛ばされるも、俺は立ち上がり少年に物申す。


「鬱陶しい、いい加減に消えろ」

「そう? 僕はとっても楽しいよ! まさかここまで闘える人がいたなんて、思いもしなくて――ねっ!」


 少年は掻き消える。俺は迫る気配を察知し、ひょいっと飛び上がる。

 俺が元々いたはずの場所には、ぐにゃりと穴が開いていた。……ここまで強いのか。

 ならば、なおさら負けていられない。


 少年と撃ちあう。

 拳と剣が交じり合い、赤い火花が飛び散る。


 ――そう、事の始まりは、悪魔バクの登場からだった。

 偶然、戦士の少年と出会った。

 そして、そこに突然現れた悪魔バクを、戦士の少年と共闘して倒した。

 次に少年が取った行動は、俺に拳を向けることだ。

 それからだ、何時間にも渡る死闘を繰り広げているのは。


 俺は、この世界にきて、初めて思った。

 こいつは強い、と。


「うーん、そろそろ飽きてきちゃったな……。

 お姉さんが強いのは分かるんだけどさー。単調な戦いじゃ、つまらないよ?」


 少年の気配が変わる。

 ――おどろおどろしいまでの、狂気。


(なんだ、これは……!)


 理解不能。

 強い、どころの話じゃない。


「この程度、薙ぎ払ってくれる」


 だが、こんな状況であっても、俺の口は頼もしい言葉しか発しない。

 それが俺を励ましているようにも思えて。

 勝ちたい。負けるなんてありえない。


「……ふぅん? 以外と強気みたいだね。

 だけど、これで『ラッカ最強伝説』も終わりだ。

 そして、その鐘を鳴らすのは、間違いない。僕だ」


 少年は、拳を構える。気の密度が、濃い。

 少年は、消える。


「……だが」


 ――その程度の攻撃、織り込み済みだ。


 少年の拳と、ヘリオドールがぶつかった。

 少年の拳に刃が食い込む。だが、俺も少年も引けをとらない。

 狂気が、心の底を揺れ動かしている。

 ――違う。俺は怖いだなんて、思っていない。

 一気に押し返す。


「ぐっ……やる、ね」


 少年は後ずさる。その手は、俺の手によって切り刻まれていた。

 この好機を逃す戦士が、どこにいるか。


「死に晒せ」


 俺は今度こそ、少年の身体を半分から斬り落とした。

 俺の心を揺さぶっていた圧力は、あっという間に拡散した。



 ――☆――



「神様、戦士の一人が『ドリームワールドを抜けたい』などと抜かして付きまとってきます」


 開扉かいひ一番、彼が口にした言葉がそれだ。

 いつもの事務室で、俺と神様が大量の書類を相手取っていた時の事だ。

 部下の戦士が、冷めた表情で俺たちに進言してきた。


「俺がとてもとても迷惑なので、神様にどうにかしてほしいと願う所存です」

「そう気を立たせるな。今すぐ私を案内しろ」


 神様は部下の戦士の後ろにつき、トテトテと着いて行く。

 って、ちょっと待て。


「待て」


 俺は神様を呼び止める。不機嫌な様子を隠さない神様。


「なんだ? 生憎、部下を待たせる趣味はない」


 それならば、俺の理屈だって通じる。


「……同じ部下である私も待たせるのか」

「言うようになったじゃないか。要件は何だ?」


 神様は、横目でニヒルに笑いかける。

 俺は、単刀直入に聞いた。


「ドリームワールドから抜け出す事は、可能か」


 しばらく間を置き、神様が答える。


「ああ、可能だよ」


 それだけを言うと、視線を部下の戦士のもとに戻し、また歩き始めた。


「お前にも、家族はいるか?」


 事務室奥の廊下から、神様が質問を投げかけてきた。

 俺は、しばらく考え込んだあと、呟くように言う。


「妹がいる」


 返事は、帰ってこなかった。



 ――☆――



「どうもこんにちは。アンモラと申しま……って、お前はあの時の!」


 メイド服を着た美少女が、俺を見たまま硬直していた。

 俺、何かしましたっけ。ちっとも覚えがない。


「こいつがドリームワールドを抜けたがっていたらしい。訳あって事務室の書類処理係に任命される事となった」

「あの時の恨み、忘れてはいませんよ?」


 この世界がもし夢小説であったなら、台詞の最後に「(黒笑)」が付いていたところだ。

 いや、ガチで覚えてない。


「なんですか、その顔は……! まるで覚えていないとでも言うような……」

「覚えていない」

「くっ……! お前のせいで、私たち四人は仲違いを起こして、結果として解散することになってしまったんですよ!? それを『覚えていない』で済ませるおつもりですか!」


 四人……? 四人、ねぇ……。


「ラッカは記憶力はあまり良くないんだ。精々覚えているのは強いやつの顔と名前ぐらいだろうな。

 ほら……。最初、この世界に来た時に、お前を蹴っていた四人の一人だよ。覚えていないか?」


 神様にそう思われているのは心外だが、確かに思い出した。

 あいつらか。うん、いたいた。そういえばいたよ。


「思い出したようだな。

 では、彼女がここに勤務するようになった経緯を説明しよう」

「いえ、ここは私が。この女に、ようく私の現状を知ってもらう必要があるので。

 では、説明しましょうか。

 まず、私たちが解散してからの事です。私は悪夢バクを一人で倒せるだけの実力もありません。ので、まずは仲間を探そうとしました。

 ……が、私は悪名高い『新人イジメ』の一人。誰ひとりとして受け入れてくれるグループはありませんでした。

 そして悟ります。全て、こうなったのも私のせいなのだと」


 ……ここまで聞くと、完全に自業自得にしか聞こえない。しかし、彼女の言葉からは、懺悔の思いが滲み出ていた。


「だから、私はドリームワールドを捨てて、現実に戻ろうと覚悟したんです。

 そこに神様が現れて、『まだやり直せる』なんて抜かすんです。でも、なんだかおかしくなって。

 吹っ切れました。そして、やり直す事に決めました。

 ですから、まさかお前がここにいるだなんて、思いもしなかったんです!」

「落ち着け、アンモラ。私は有能な人材を逃したくないのだ。きっとラッカは、お前が手を出さない限り、何もしてこないぞ」


 それは暗に、アンモラが弱いから俺が手を出さないのだと言っているようなものだろう。何度も言います、俺は戦闘狂じゃないです。


「……と、私はそろそろおいとましよう。二人で親睦を深めるといい。

 ああー、時間がまずいぞー、会議が始まっちゃうぞー」


 神様は露骨に、俺たち二人を残して去っていった。

 アンモラは、神様がいなくなるなり、いきなり態度を悪くする。


「全く……。まさかお前がここで働いているだなんて、ちっとも考えてませんでした。

 それにしても……かわいそうに。こんな沢山の書類を処理するような、一般社員に落ちぶれているだなんて、ああ惨め」

「そういうアンモラも、ここの書類処理担当だろう」

「……」


 はっはっは、負け惜しみはこの俺に効かないのだよ。弱い負け犬が吠えた所で、狼が怖がるわけがないんだからな。

 しばらく無言が続く。

 アンモラは、ピリピリした空気を更に震わせた。


「私と勝負してください」


 え、何故に?

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