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第四夢「本気です」

 悪魔バクの大量発生から一週間目、俺がドリームワールドに来て二週間目。もうすっかり慣れてきた。勘違いされる事にも、悪夢バクを倒す事にも。

 実際、慣れたくはないし、勘違いもされたくないのだが、この見た目だ。仕方ない。

 半ば諦めの境地に入ってきた気分を無理やり引き上げる。

 今の俺は書類を処理する一枚の社畜なのだ。美女でも女帝でも何でもない。


 え? 女帝? なんか俺に付いたニックネームらしい。


 はー……。どうしてこんなことになったんだろう。自分でも分からない。


 延々と書類に印鑑を押し続ける俺に、神様が声をかけてきた。


「おかしいと思わないか?」


 唐突になんですか。


「悪魔バクは大勢になって現れる。お前は何度も何度も奴らを殺したはずなのに、何度も何度も出てきた。

 私はお前に、沢山働いてもらうつもりだとは言ったな。

 そして、以前戦士たちを集めた時に、私は啖呵を切った。『この事件を解決する者だ』と。

 あとは……言わずとも分かるだろう?」


 うん。大体わかったよ。

 つまり、俺が悪魔バクの大量発生の原因を潰せ、って事だな。

 俺は浅く頷いた。

 

「察しが良くて助かる。解決してくれたらこちらから報酬を出そう」


 報酬だと!?

 これは頼み込むしかない!


「休暇を頼」

悪夢バクが沢山出現する場所があるんだ」


 神様、笑顔が怖いです……。


 ――☆――


 神様に任務を言い渡されて、事務室を追い出された。

 簡単に言うけど、急に解決しろだなんて言われても……。正直困る。

 白い空間を、適当に歩きまわる。


 悪夢バクに愛されている俺だが、今日は珍しく絡んでこない。

 何かあったんだろうか。……いや別に、悪夢バクは嫌いでも好きでもないけど。ほ、本当なんだからねっ!


 と思ったら、白い空間から徐々に色が見えた。

 ドリームワールドが色づくのは、悪夢バクが現れた時に、気持ち悪い色合いがベタベタと付けられているのみだ。

 どういう事だ? 普通、悪夢バクが出現する時はいきなり、こう、なんか、ベリっと、ほらほら、まあそんなかんじなのに。


 小走りでそこに向かう。

 まず、大きな文字で書かれた看板が目に入った。

 そして、白い地面に、急に敷かれたブラウンのタイル。

 奥の方には、建物が立ち並んでいた。


(現在都市開発中! 開放中です……か)


 もう一度看板に目を移す。

 そういえば。前、そういう書類を見た気がする。

 と、急に看板の横から二人の少女の顔が覗いた。

 ウサギみたいでかわいい。


「お姉さん、この街になにか用……?」

「用がないなら帰って……」


 二人の少女はぴょん、と看板から飛び出す。看板が、少女たちの握力か何かで、ベキベキとはじけた。

 地面に、看板だったものの破片が散らばった。

 ……おい。


「ここは何だ」


 とりあえず質問した。


「ここは未完成の都市……」

「……それで、用があるの? ないの?」


 二人の少女は、顔から身体までそっくりだ。

 でも、片方の少女からやけに拒否されている。今回に限っては、俺何にもしてないよね。


「気になっただけだ」


 俺は、少女たちを怖がらせないように、笑顔で言った。


「……ようこそ」

「……できるなら、早く帰ってほしい」


 なんか逆に怖がられた気がする。……気のせいだよね、気のせい。

 少女たちを通り抜けて、街へと歩みを進める。空は真っ白で、微妙に殺風景な街並みだ。

 人通りは多い。だが……。俺、チラチラ見られてる。そうだよな、美女だもんな。

 あと、避けられている。これはいつも通り、想定内だ。


 建物は、お店だった。酒場や情報屋、八百屋など。現実ではありえないものもいくつかあった。

 それらの群れを越し、俺は巨大な建物を発見する。

 東京ドーム一個分くらい(そのまんまだが)の、大きな建築物。ここは……?


「よぅお嬢さん。今日もいい天気だなァ」


 それは皮肉か。少なくとも、ここに天気の概念は存在しない。

 俺はドン、と背中を押された。どうやら叩かれたらしい。

 振り向く。そこには、ガタイのいい戦士然とした男が豪快に笑っていた。


「お前の身体は鉄かなにかか? まるで人だとは思えなかったぜ、がはは」


 何だコイツ。俺をナンパしてるのか?

 いいや、俺からしたら喧嘩を売っているようにしか見えない。


「ついてこいよ」


 男は俺の手を取り、ガツガツと歩き始めた。

 くそぅ、これが押し売り商売か。強引な駆け引きで、俺は男に連れて行かれた。

 男に引かれて入ったのは、東京ドームのような大きな建物。俺が見ていた建物だ。


「ほら、ついた」


 男は俺から手を離した。


「入れよ」


 男が急に俺を押した。

 叩かれた時よりも強い力で、俺の身体はそこに立ち入った。

 男の前に、鉄格子が下される。

 男と俺は、完全に遮断された。


「…………これは……」

 

 俺は本能でそれを察知した。

 闘技場。

 観客たちが湧き立つ。

 丸く、全方位に広がっている観客席の中の溝。その中に、俺がいた。


『今回の哀れな子羊ちゃんはこちら! クールビューティな美女ちゃんでーす!

 どうですか? たまには陵辱しちゃうのもご一考でしょう?

 男との血生臭い戦いなんてつまらないYO! どーよどーよ、彼女!』


 上から声が降ってくる。

 それは、先程俺を招いた男の声に違いなかった。

 観客はそれを聞き、更に歓声を上げる。


 ……嵌められたか。


 俺の頭は、案外冷静に働いていた。

 俺と対になる場所に立っているのは、ギラギラ輝く防具を身に着けた、醜い男。

 汚らわしい、ただそう思った。


『しっかし、まさかこんなかわいこちゃんを手に入れられるとは思っても見なかったぜぇ!

 しっかりと目に入れておけよ。何故なら、貴重な女だからな!』


 ……。


『んん? どうしたんだい? まさか絶望しちゃったー? アハハ、残念。ここからは逃げ出せないんだぜェ!』


 …………。


『反応なし、だな。おいミツキ、早くヤってくれヨ! 観客に飽きられちゃうからな!』


 ………………。

 

 ミツキと呼ばれた醜い男が、動いた。

 その巨体を振り回して、俺に向かって瞬発力を発揮した。


「生理的に無理だ」


 醜い男の防具が、剥がれ落ちた。

 言うまでもない。俺の仕業だ。


『おおっとぅ? ここでかわいこちゃんの反撃だァ――ッ!

 一体どうなる、絶体絶命のミツキくぅ~ん!!』


 実況がうるさい。

 俺は醜い男の首を、一瞬で締めあげた。

 顔を真っ赤にして、醜い男は倒れる。虫のようにポトリと、あっさり。

 ヘリオドールを使うまでもない。


 俺の感覚は、きっと麻痺していたのだろう。誰も死ぬ事のないこの世界では、死の存在は軽すぎる。

 

 だけれども、俺は別に間違ったことはしていない。

 相手が俺を下卑た目で見ているのはわかっていた。


『あれれ? あれれれれれ? 負けちゃったぞ、ミツキくん!

 彼は後で処分するとして……』


 でも、こいつだけは気に食わない。

 のうのうと、呑気に実況をしている男を、目で探した。


 観客の声が止む。


 ――見つけた。


「お前が気に食わない」


 今回ばかりは、俺の意思を伝達できたようだ。

 俺の身体は、一瞬で男の目の前に飛び上がっていた。

 男は目をぎょっと見開く。


「だから殺す」


 はたから見れば、俺はただの悪魔であろう。

 でも、この判断は、後になっても、きっと正しいと思える。


 男の首を跳ねた。


『は、ははははは? どうしてオレが殺されなきゃ……』


 言葉は中断され、首が闘技場の溝に落ちた。

 俺は、ふっと安堵する。


 男の体の一部だったものは光に呑まれ、消え失せた。

 代わりに、男の体から、先程と寸分違わない首が生える。


 もう一度言おう。

 俺は、気に食わない。

 そして、最高に気分が悪かった。

 理由など決まっている。 

 美女でスペックの高い、まさにチート極まれりな肉体を――


「馬鹿にされたからだ」


 言っておくが、俺のプライドは高い。それこそエベレスト並に。

 男の恐怖の染み込ませた笑いが、闘技場に響き渡った。


 その日、そこでは幾度もの悲鳴が上がったという。



 ――☆――


「しかし……まさかあのような輩もいたとは」


 闘技場らしきものは、今はその姿を見せない。神様が自らの手で葬ったのだ。

 あのようなモノは、治安維持の邪魔になる。彼女自身が下した判断だった。


 あれが終わってから、俺はすぐに神様を呼んだ。

 神様は難しい顔でここに飛んできて、俺とこの街の『治安維持』に勤しんだ、という訳だ。


「今度からは気をつけて書類に目を通さねば……。

 どうした? ラッカ」

「……あそこに」

 

 二人の少女を指さす。俺がこの街に来て、最初に出会ったふたりだ。

 怯えた様子で俺たちを覗いている。……やっぱり怖いのかなぁ。


「ああ、お前は私が派遣して、ここで働くように命令した部下じゃないか。

 一体どうしたんだ? こんな所で」


 まじですか。じゃああの子達も、俺と同じ社畜だった……?

 仲間はいた。ちょっと嬉しい。

 少女たちは、ゆっくりと、だが震えながら、俺に向かって頭を下げた。

 え、何かしたっけ。

 

「…………ありがとう。実はわたしたち、あの男にこの街を荒らされていたの……」

「感謝なんてしてないけど、ありがとう……」


 そうか。じゃあ、さしづめ俺は、街を支配していた男を追い払った救世主って所だな。

 

「褒め称えよ」


 そう、これは冗談なのだ、冗談なのに。


 ちょっ、えっ、なんで俺に跪いてるんですか! ガチでやめてー!


 ネタをネタとして受け取って貰えない、ボケ殺しどころか俺はボケ無しだった。

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