表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第二夢「悪夢」


 面白い人間だった。

 普通、ここに来たばっかりの人間は、混乱する。

 でも、その人間はしなかった。その時点で『普通』ではない。

 それだけではない。人間は、神である私の威圧感にも応じず、あくまでも冷静に行動していた。

 その人間の表情筋は、全くと言っていいほど動かない。


 そして、美しかった。


 ――『新人イジメ』で有名な四人衆を、剣の一振りで一掃した。

 人間を殺したにも関わらず、ちっとも動揺していない。

 私にはその人間が、四人を殺した瞬間、笑っているように見えた。

 『まるで人間じゃない』。それが、私の彼女への第一印象だ。


 まあ、鏡を見て髪を整える、という人間的行動を為していたのを見て、彼女は“まだ”人間なのだろう、と思う。


 ――☆――


「さあ、今から悪夢バクの紹介をしよう。ラッカ、目に焼き付けておけ」


 神様は、指をパチンと鳴らす。

 ベリベリ、と紙を剥がすように、事務室が消える。

 そこには、見るからにグロテスクな光景が広がっていた。

 ……気持ち悪っ。


「ほら、これが悪夢だ。魔法少女が絶望し、魔女になって作り出す結界だと言えば分かるかな?

 あれだあれあれ。魔法少女まど……」

「それ以上はいい」

「そうか?」


 色々とアウトな気がする。つーかネタバレすんなし。

 神様って、そっち方面の知識もあるのね……。予想外だった。


悪夢バクの本体は、その夢の中で一番大きな怪物だ。

 ラッカ、お前が倒してみろ」


 ……えっ?

 俺が?

 無理無理! 無理だって! マジ無理!

 でも、神様は俺を見てニヤリとするだけで、手助けする気ゼロだ。

 絶望した。


 しばらくすると、気持ち悪い空間に、馬鹿でかい爬虫類が現れた。


「あのカメレオンっぽいの、あれが悪夢バクの本体だ。

 ほら、その剣があるだろう。力を振るうだけでいい」


 ……ああもう、仕方ないなぁ。

 本当は嫌だけど、マジで嫌だけど、ガチで嫌なんだけど。

 心臓がバクバク言っている。俺は爬虫類に向かって、飛んだ。


 えぇぇぇ! 飛んじゃったんですけど!

 まるで鳥になった気分だった。この体のスペック高すぎだろ。


 そして、着地。俺に気がついた爬虫類は、地を鳴らして突進してきた。

 俺はすぐさま回避すると、爬虫類に剣を投げつけた。


 爬虫類は、一瞬で姿を消した。

 気味の悪い空間も、元の事務室に戻っていた。

 事務室の机には、俺の投げた剣が突き刺さり、いくつかの書類が散乱していた。

 そして、さっき神様が見せてくれたような『石』が、地面に転がっていた。

 爬虫類は、あっさり死んだ。


 俺は心の中で、ハァハァと息を切らした。

 身体はちっとも動じない。

 俺の七不思議に加えよう。


「よくやった。

 まさか投げるだけで倒れるとはな……。一応、悪夢バクの中では強い奴を選んだのだが。

 しかし……その剣はヘリオドールか」 

「ヘリオドール?」


 未だに興奮の収まらない内心を抑え付けつつ、神様に聞き返した。


「ドリームワールドに現れる人間は、必ず武器を持っている。

 ヘリオドールは、『死』を操る剣だ。

 剣を振るだけで、相手は死ぬ。ドリームワールド版エターナルフォースブリザードだな」

「……」


 神様のネタは置いといて、禍々しい剣すぎる。

 なんで俺、こんなに不幸に愛されているんだろう……。


 神様は転がる石を拾い、ヘリオドールの柄の部分にはめ込んだ。すると、茶色い石は眩い光を発し、青い宝石のように姿を変えた。


「良かったな。今回討伐した悪夢バクは悪魔バクと呼ばれる、高位のヤツだ。

 最低でも、あと一ヶ月はこの世界にいられるぞ」


 ……は?

 あと一ヶ月間も、ここにいろ、と?


 絶望した。


 ――☆――


「……またこの夢」


 毎日夢日記を付けて、夢と現実の区別が付くようになった。いわゆる、明晰夢というやつだ。

 私は、いつもいつも、同じ夢を見ていた。


 そこには、いつものように人が死んでいた。


 あるところには白骨化した死体、あるところには一向に腐らない、きれいな死体。

 特別怖いということもなく、私はその夢の中を彷徨う。

 ここに生者は存在しない。

 生命の鼓動を刻んでいるのは、私一人。

 孤独だ。


 でも、その中で、私は彼女を見つけることができた。


「あなた、生きてるの?」


 彼女は、まるで動く気配はなく。

 傾国と形容してもいいような美しさが、私には「生きている」のだと、直感的に分かった。


「……」


 朽ち果てた塔に寄りかかり、金色の剣を支えにして、目を閉じている彼女。

 まるで彼女自身も風化したかのようだった。


「ねぇねぇ、お話しようよ。

 せっかくの夢なんだからさ」


 私は、彼女に話しかけた。

 何度も何度も話しかけた。

 でも、彼女は動かない。


 それから毎日、私は彼女に会いに行った。



 ――☆――



 「くそ……僕だって、僕だって!」


 美女に殺されて、しばらく経った。結局、僕たち「新人イジメ」のグループは解散に追い込まれ、行く宛もなくなった。

 僕には主体性がない、とよく言われる。でも仕方ないんだ。全部、そういうふうに育てたお母さんのせいなんだから。


 僕は弱い。ドリームワールドに放り出されて与えられた武器も、ひ弱い拳銃一丁のみ。

 だから、精一杯媚を売って、あのグループに入れてもらったのだ。


 ――でも、そんな僕も、あと少しで現実に還る。

 

「……僕だって」


 足掻いた。沢山足掻いた。

 悪足掻きでもなんでもした。

 でも、ダメだった。


 そこに、足音が響いた。

 美女がいた。

 僕を破滅の道に追い込んだ、美女が。


「くっ、来るなぁ!」


 僕は情けなく、ズボンの下で漏らしていた。

 それでも、僕は足掻いた。美女に、拳銃で弾丸を放ったのだ。


 予想外だったらしい。美女の腹部には、小さな穴が開いていた。


(や、やったッ!)


 僕は歓喜した。美女に、一撃でも攻撃を入れられたのだ。

 だから、油断していた。


「ぐっ!?」


 美女は、僕の頭を足で蹴った。

 拳銃が、美女の元へ転がる。

 美女は、拳銃を手にとった。


(もう、終わりだ……)


 そう思うのもつかの間。


 美女は、石を拳銃にはめた。


「……え?」


 そして、拳銃を僕に投げて、去っていった。


 ――数日間。


 彼女の行動を、僕は考えた。

 何故僕を延命するような真似をしたのか。


 そして、考えついた。


 彼女は、『僕に利用価値がある』と判断したのだろう。

 肉壁でもなんでもいい。でも、それしか思いつかない。

 だって、僕が生きているぐらいで、彼女が嬉しがるとは思えないのだから。


 僕は、彼女に利用される恐怖に怯えながら、再度寄生する『仲間』を探しに、ドリームワールドを走り回った。


 ――☆――


「ふぅ、良いことしたな」


 ――とは言えないので、心の中で呟くに留まったが。

 俺は、一人の戦士――夢の中で戦う人間――を救った。

 なんだか見覚えのある顔のような気がしたけど、多分考え過ぎだろう。

 戦士の残り期間が少なくなると、存在が希薄になる。神様が言っていたことだ。


 と、歩いていると、黒く空間が反転し、悪夢バクが出てきた。


 またかよ!


 俺はどうやら、こいつらに好かれているようだ。被害を被る(勘違い的な意味で)のはこっちの方なのに、はた迷惑な話である。


 俺は一撃で悪夢バクを倒して、また歩き出した。


 え、俺が何でドリームワールドを観光してるのかって? 暇だからだよ、悪い!?


 ――☆――



 この頃、ドリームワールドでは、ある美女(悪魔)の話が噂になっていた。


 曰く、『強者を探して歩き回っている』。


 曰く、『抑えきれない闘争本能を、バクで解消している』。

 

 曰く、『幾人もの戦士を虐殺し、心をへし折った』。



 ――真実に気付ける者は、誰一人として存在せず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ